インペリウム『皇国物語』

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episode2 『ユーロピア共栄圏』

17話 日常の中で(挿絵アリ)

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 その日、政庁にて議会が開かれ、アズランドとの問題解消後の対外政策に関する報告。それから今後の方針についての取り決めであった。王位継承の一件に関してはアズランドとの問題解決に一役買ったラインズに支持が傾きつつあり、アズランド側の人間を取り込んだことによりその発言権も大きくなった。
 現状でラインズはあくまでロゼットの即位までの取り仕切る代表、いわば繋ぎのような存在。それぞれの代表と高官による議会制という形に留めた。しかしながら、長老派からはラインズの実質摂政という形で思われている。彼らの活躍で国難を乗り切ったが、国王派と長老派との間にある溝は深まる一方であった。他の王位継承者達との関係も良好とは言えない。再び内乱が起こることだけはどうしても避けたかったため、ラインズは彼らの発信力を削ぐような真似は避け、むしろ発言の余地を残すことで関係性の均衡維持に注力したのだった。
 そして、議会ではドラストニアと諸外国との関係について話題が移る。現在、ドラストニアに隣接する『グレトン公国』とは停戦協定、そして『フローゼル王国』とは同盟国という関係にある。グレトン公国の主産業は鉱物資源からなる鉱業とそれらを加工する産業。兵器開発にも近年、力を入れており驚異的な成長を遂げている。
同盟国であるフローゼル王国は畜産業を生業としている緑も豊かな国家。新たな事業開拓のためにインフラ整備がなされているようだが資金難が続き、工事は難航しているようであった。ドラストニアの内戦によって関係にも陰りが見え始めていた。
 さらに西側には海を越えた先に『レイティス共和国』が存在している。この国は領土がドラストニアに匹敵するほど広大で水資源も豊富。多くの港町からなる大規模な市場はドラストニアの農産、畜産物の流通にも利用されている。海洋国家ということもあって海軍は脅威的な戦力を誇っている。技術力も非常に高く新技術の開発も進められているようだが、近年は「海賊」と不法移民という問題を抱えているようだ。
この三国とのバランスを保つことが今後のドラストニアの課題として議会で取り上げられたが、そんな中でグレトンの動きに変化があったようだ。   

「グレトン公国は近年、鉱物資源の採掘量減少がより顕著になっているせいか、こちらへの流通が問題となっております」

 高官の一人の報告から怪訝そうな顔つきになるラインズ。

「鉱山は増加傾向にあるんだよな? なんで採掘量が減るんだ?」

ラインズの疑問に対して「金塊でも掘り当てたいのではございませんか?」と茶化すように横槍を入れる高官の一人。それを皮切りに苦笑が蔓延る。

「戯れ言を抜かしたいのであれば、劇場にでも行けば?」

 どよめく議会の場で高官の言葉に釘を刺したのはシャーナル皇女。同じ長老派の高官相手であっても、自身が『下らない』と感じれば一切の躊躇なく切り捨てる。彼女の発言に高官は言葉を詰まらせ、長老派達も静まり返った。国王派としては今後の方針としてグレトン公国との直接の交渉を行なうという意見を述べる。長老派の代表でもある、シャーナル皇女、ポスト公爵、ロブトン大公も同じ見解を示して意見の一致が認められた。
 そして同盟国でありながらドラストニアの内戦以降、交流が途絶えていたフローゼル王国との関係改善のため、直接外交官を送る方針で決議となった。
 随分あっさりと決まったことに対してラインズは眉を顰める。「誰が適任だと思うかだが……」というラインズの言葉に長老派の高官からセルバンデスが適任ではないかと推薦が上がる。

「意外ですね。そちらから推挙していただけるとは」

「外交官としてのキャリアと比較的、異種族相手にも好感があるからですよ」

 異種族という言葉に長老派からクスクスと笑い声が漏れる。この場にセルバンデス本人がいないことを良いことに好き勝手話す長老派の高官達。その様子を見ていた国王派からは糾弾の声が上がり、議会は混乱に包まれる。
しかし、ラインズは議会のこれ以上の混乱を避けてそれを制止したが、次に発せられた彼の意見に物議が巻き起こる。

「ではこちらの意見として、グレトンへは私が赴きます。」

ラインズのこの発言に長老派からは反発の声が上がり、それに野次を飛ばす国王派の高官達。もはや意見交換というよりも言葉の応酬であった。ラインズの話はまだ終わっておらず、彼も続けて付け足そうとしたその時、美しい声色が響き渡る。

「良いんじゃない。こちらはすでにセルバンデス殿を推挙して意見も通りました。今度は国王派そちらの方針が通ってもおかしなことじゃないでしょう。グレトンへの交流も我々の意見を通せというのは……いささか身勝手では?」

長老派の反発に対して、国王派の意見を通したのはシャーナル皇女。静まった議会でラインズが口を開き更に付け加えた。

「フローゼルには更にシャーナル皇女にも同行していただきたい。そちらの意見を伺いたいのですが如何ですか?」

 先ほどまでの応酬は鳴りを潜め、各派閥で意見交換がなされる。他の王位継承者達も同意しており、決議。長老派からは尚も不満の声が上がるが、彼女達に強く出ることが出来ないため渋々同意といったところ。シャーナル皇女達の考え方に少しの不信感を抱きつつ、まともな反応に困惑する国王派の高官達。彼らの不満を解消すべく最低限の体裁は保ちつつ、シャーナル皇女とセルバンデスでフローゼル王国への外遊は決議される。
ラインズは変わらず、珈琲を啜りながらシャーナル皇女に不適な笑みを向ける。彼女はジト目でそれに応えつつ、静かに紅茶を啜っていた。




 ◇

「すごいすごい!! 色んなお店ありますよ!!」

 その日の午前の仕事を終わらせ、すぐに午後からは買い出しに行くように言いつけられる。セルバンデスさんとメイド長の付き添いという形であるものの、私にとっては内戦以降初めての城下町だ。
 木造と煉瓦で作られ、お洒落で綺麗な建物。風流を感じさせる石造りだけでなく、セメントで固められたと思われる造りの家々も散見。意外と思いながら通り過ぎる町並みの風景を見渡しながら、ドラストニア王都を堪能していた。はしゃぐ私の様子を横目にメイド長は呆れていた。

「ヴェルクドロール、私達は遊びに来たのではなく備蓄品の買い出しに来たのですよ。王宮に仕える者として、品位を損なうようなことはあってはなりません」

「まぁまぁ、外に出て店に入ってしまえば我々も一人のお客。そこまでかしこまることもないでしょう。ただロゼット……殿も迷ってしまっては大変ですから、目の届くところで楽しんでください」

「はーい」

 メイド長が咎めるのに対して宥めるセルバンデスさん。城下町の王宮付近はやはりといっていいのか、見てもわかるような高級店が多く見られた。王族や貴族の御用達といった様子で客層も身なりの整った人物ばかりが目立つ。雰囲気も王宮に近い感じに思え、内装も非常整っている上に品揃えも豊富であった。

「やっぱり綺麗な装飾品が目立ちますね」

「貴金属や鉱物資源の加工技術にもドラストニアは長けております。農産、畜産物以外の強みはそこでしょうか」

 そう答えるセルバンデスさんに冗談っぽく「こんなところでも授業ですかぁ?」とぼやいてみると横から端麗な顔立ちの貴族が声を掛けてくる。

「おや、お美しい。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうかお嬢さん」

「はぇ?」

 その『お美しい』と評した言葉とは裏腹に突然のことに変な声を出してしまう。

「そのお召し物では折角の端麗な容姿を際立たせることは難しいでしょう。貴女のお召し物をご用意させてはいただけませんか?」

 最初は店の客引きかなんかだと思い断ろうとしたけど、どうやらそんな感じではないらしい。難しい言葉を並べ立てられ正直何を言ってるのかわからなかったけど、褒められてるのは何となく理解できた。

(これって……もしかしてナンパ……??)

こういう客引き対応なのかなとも考えられるけど、ちょっとだけナンパのようにも思えた。困惑しながらあたふたしているとセルバンデスさんが間に入ってくれる。

「こちら王家ドラストニアより直々に招かれた大事な客人。立ち振る舞いには気を付けて頂きたい」

「あの……ごめんなさい」と私は一言かける。

 その言葉を聞いて先ほどまでの余裕の表情を崩し、今度はうなだれるような様子へと変わった。貴族は慌てて店を後にしていき、ここでようやく客引きではなく本当にナンパだったことに気づく。「そんなに大人っぽく見えたのかな」と浮かれている横でセルバンデスさんは私に警告をする。

「近年では子供を狙った成り上がりの貴族や行商人もおりますから気を付けてください。中にはまぁ……そういう趣味趣向の変わり者もおりますので」

 セルバンデスさんにそう言われてしまい、先ほどまで舞い上がりかけていた気分が白けてしまう。その様子に少し困り顔だったセルバンデスさんだけど、私は「何でもないです」と一言返す。多分彼には悪気は一切ない―……のだけれども、なんだかモヤモヤした気持ちだけが残る。私も早く大人にみられる女性になりたいし、いつかはシャーナル皇女みたいに大人っぽい女性になれるかなと、ちょっとだけ憧れの念を抱いて見たりする。

「ドラストニアではございませんが、治安の整っていない地域ですと美しい少女や女性の誘拐なんかは多発しておりますね。その後商売として利用されることも」

「奴隷とかですか……?」と不安気に尋ねるが「もっと性質が悪い」とだけしかセルバンデスさんは答えなかった。その後の空気を察し、あまり触れたくないような話題になったから私から話題を逸らすことにした。

「けど……あんな風にナンパなんてされたの初めてですよ。お世辞でもあんな風に言われちゃうと……嬉しいっていうか、えへへ」

そんな風ににやけ顔でその場の空気を和ませようとしていたけど、メイド長からは「はしたない」と一喝されてしまう。セルバンデスさんが宥めながら今度は彼の率直な意見を述べた。

「顔立ちの整いだけでなく、エルフのように透き通った髪に容姿のロゼット殿。やはり目を張るものがあるのでしょうな」

メイド長は少々呆れた様子だったけど、彼の発言に私は少し考えた後に返した。

「セルバンデスさんから見ても……そう思いますか?」

 私の返事と質問に少しばかり驚き、狼狽えるセルバンデスさん。普段さほど慌てるような人ではないから少し新鮮に思いながら眺めていると、彼なりに考えてから答えてくれた。

「ええ、ゴブリンの目からしてもロゼット殿は美しいと思われますよ」

 少し照れたような彼の答えに少し嬉しくなり「知ってる人に言われるほうが、嬉しいですね」と思わず返してしまった。セルバンデスさんも困ったような笑顔で返してくれた。

 ◇

 大体の物資調達は終わり、後は荷台の調達と物資の搬入作業だけである。荷物のチェックを行なっている横からセルバンデスさんに呼ばれどうやら私個人への直接の頼み事のようだった。メイド長が自分が行くと買って出るも私にとのことだ。メイド長は不服そうであったがそのまま私が任されて行くことになる。渡されたメモと袋の中身に目を通したが意外なものだった。

『ロゼット様の私物で足りないものがございましたら、こちらで買い足して下さい』

なんかすごい気を使ってもらって申し訳ないと思いつつ、袋の中を確認すると金貨が十枚ほど入っていた。


    
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