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episode2 『ユーロピア共栄圏』
44話 シャーナルの真意
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ドラストニア王宮にて議会が開かれた。ホールズ一派の動向に関する新たな情報が入ったとのことでラインズ派閥、長老派とで行なわれる今後の方針に関してだ。
円卓にはフローゼルの山岳地帯で取れた珍しい茶葉で淹れた紅茶が席の数だけ用意されていた。しかしそのほとんどが手も付けられずにただ冷めてゆくだけである。
というのも長老派陣営はほとんどが空席、ラインズ派閥の人材しか出席していなかったのだ。ラインズが溜め息をついて議会をはじめると伝えると同時に扉が開かれる。
「遅れて申し訳ございません。紅茶が冷める前には間に合ったかしら?」
茶化すように周囲に伺う彼女だが出席したのは長老派の皇女シャーナルと彼女に付き従う高官数名だけであった。ラインズも紅茶のおかわりは残っていると笑って返し、形としては国王派と長老派の議会となり開会した。
フローゼルから逃れたホールズ一派は南下し、ガザレリア国内に入国したことを確認したとのことだ。工作員の報告によれば予想通り魔物を利用して入り込み、現在は中枢にまで及んでいると予想される。
思いのほか早い動きに国王派のサンドラが疑問を呈する。
「いささか早すぎるのでは?」
「繋がっているか、嵌められているか――どちらにしろ情報に疎すぎるではないか」
魔物を使役しているという理由だけで外からの人間を簡単に信用するという彼らの性質には呆れに似たものを感じる。ガザレリア側の対応に疑問を呈する中で、長老派の高官からはガザレリアとの接触は避けるべきだと言う意見が飛ぶ。
「現在、わが方にはガザレリアとの強固な結びつきがございません。このような状況でわが方が接触を図ろうとすればこの一件のことと勘付かれ、下手をすれば摩擦が起こりましょう。」
「ですが――…これは好機とも言えます」
ラインズが顔色を変えて追求する。
「ほう、その理由は?」
「この際……あのお方を利用なさるのですよ」
白羽の矢が立ったのはイヴであった。ガザレリアと既に友好関係にあるフローゼル側に今回仲介人として入ってもらう。彼らにとっても汚名を返上する好機を与えることにも繋がり、上手くいけばこちらは一切労力を使わずに解決を図ることも可能だと。
彼らの提案にも理はある。国王派でもこの提案に対して賛成意見が飛び交う中、ラインズは紅茶を啜りながらそれを黙って聞いているだけのシャーナルに僅かに違和感を覚える。
◇
議会終了後、ラインズは王都へ出向き茶屋のバルコニーにて珈琲を啜りながら、午後のひとときを楽しんでいる。イヴも側につかせている様は貴族の御曹司と貴婦人といったところか。彼女は呆れ顔でこんなところで呑気に茶を啜っている場合なのかと苦言を溢す。
「四六時中、内政のことばかり考えていたら頭壊れるだろう」
「あなたは呑気すぎるのよ。ホールズ一派を取り込んだガザレリアにはフローゼルの今後の動きも筒抜けになっているでしょうし、こちらが動けないのを良い事に対立派閥は私達に動けと言ってきたのでしょう?」
ジト目で彼のことを一瞥した後不満げな表情を浮べるイヴ。彼女もこのドラストニアに赴任して以来、内政に関わることは愚か軍を率いて各地の野盗討伐にも参加できずにただ日々を過ごすばかり。
受ける報告をフローゼル国王へ書簡をしたためるだけの役目しか与えてもらえず彼女も何かしたいと模索していたのだ。ましてや再び祖国の危機が訪れるやも知れぬ状況で座視しているなど彼女の性格からして到底できないこと。
ホールズ一派は元フローゼル。ガザレリアにフローゼルの内情を明かしていない保証などない。ましてやグレトンに吸収させようと考えていた彼らがガザレリアを利用して再び騒乱を巻き起こす可能性さえありえる。イヴはそのことを危惧していた。そうなればドラストニアもただでは済まない。
「あんたの言うとおり、明らかにフローゼルとドラストニアの仲違いを狙っている。それどころかガザレリアとフローゼルとの間で一戦交えさせる魂胆も垣間見える」
「ならどうして今回有耶無耶にしたのですか?」
少し語気を強めて彼に詰め寄る。ラインズは珈琲の入ったカップを揺らしながら神妙な表情に変わり答える。
「力を国王派に集中させないためだ」
現在、国王派と長老派は微妙な均衡を保っている。権威はほとんど形骸化に近いものであるがそれでも一定の支持層は存在する。彼らにも発言権を残しておかなければ彼らが挙兵を狙いアズランド家の二の舞になり兼ねない。長老派にも有能な高官は存在するが故、彼らの能力も軽視したくない。
長老派の主張から察するに思想としては現在のドラストニアの体制を壊すものに近い。しかしドラストニアを本気で潰すと考えているほど愚かではないと説く。彼らを利用こそすれど、彼らに実権を握らせないためにあくまで彼らの主張も取りいれるべきだと。
「なら…フローゼルに今回のことを一任すると?」
イヴがラインズに更に詰め寄っている中、茶屋に入店する一人の女性の姿があった。妖艶なふとももが垣間見えるほどに短いスカートに自慢の美しい髪を靡かせ、ヒールの音を立てて歩いてくる。彼らの元にやってきた意外な人物。
「紅茶を頂戴、それと茶菓子も忘れずに」
「かしこまりました」
知的で優雅な雰囲気と相も変わらず冷徹な対応の彼女はイヴも同席していたことに予想通りといった様子を見せる。
「あなたに王族の茶会を開く器量があったとは初耳ね」
「美しい女性方と茶を啜れるのなら喜んで開きますとも」
「あらそう、だったら泥水じゃなくて紅茶でも注文されては?」
皮肉を茶化すラインズ。シャーナルも彼の珈琲を泥水と酷くこき下ろし、淹れたての紅茶を嗜む。ラインズは苦笑いを溢しながらも珈琲を口に運んでいく。イヴには彼らの真意は掴めずにどういうことなのか動向を伺うしかなかった。
シャーナルは長老派、ラインズら国王派とは真っ向から対立する二人が私的に密会するとは想像もしていない。実際のところは彼女とラインズは繋がっていたのかと勘ぐっているとシャーナルが口を開く。
「それで、私を招いた用件を聞こうかしら」
紅茶を味わい、カップを片手に彼女は単刀直入に問う。
「今日の議会、どう思う?」
「どう…とは?」
ラインズは今回の議会での内容に触れる。ホールズ一派がガザレリアへ南下し、入国したことに対して彼女に付き従えていた長老派の高官らは「フローゼルに向かわせるべき」と意見を述べていた。それに同調する国王派の高官らも散見され、意見はフローゼルへ一任するかの方向に定まりかけていた――…しかし。
「高官達が意見を述べていた時、シャーナル嬢は一言も発しなかった。それどころか今回の議会でほとんど発言していなかったように見受けられるが」
「それは貴方も同じでしょう」
同じだとシャーナルはすぐさま切り返す。国王派のラインズが信頼しているサンドラも彼の発言の無さに表情には出さなかったものの少し驚いている様子を見せていた。シャーナルは紅茶を楽しみつつもずっとラインズの動向を伺っていた。それはラインズも同様であったが彼はもう少し違う側面で彼女を見ていた。
「あれはあんたの意見じゃない。それどころかシャーナル嬢の意図が汲まれているものには到底思えなかったな」
シャーナルは紅茶のカップを持ったまま揺らしながら彼とは目を合わせず話を聞いている。
「あんたはむしろ――…フローゼルに出向かわせるつもりは全くないんじゃないかと思ってる」
そうラインズが言いかけるとシャーナルは動きを止めて大きく鋭い目を見開いて彼の目を見る。
「あら、どうしてかしら? フローゼルに責任を取らせるべきだと、直談判したのは私なのに、なぜ今回はフローゼルに出向かわせようとしないと?」
「今フローゼルとガザレリアとの間に摩擦を生じさせることがどういうことか――…あんたなら理解しているとは思っている。そこまで愚かとも思わん」
イヴは彼女の真意が少しずつわかりかけてくる。シャーナルもおそらくラインズが見立てたとおりの事を考えているのだ。
紅茶のカップを置いて溜め息をつきながら外の景色を眺める。
「………あれは長老たちの直属よ、私の配下じゃない」
「だろうな。流石、シャーナル嬢。表には出さず、なおかつ自分の意志を伝えるのはあんたらしい」
「貴方は逆に黙っていることでこちらの真意を引き出そうとしていたようね」
シャーナルは長老達の代理で出向いたという体で本心はラインズに真意を伝えることにあった。それはラインズも同じで長老派でも他と比較して現実的に物事を考える彼女の意志を引き出すこと。互いの見解は一致していた。そういう意味では賛成だったのだろう。
「貴方達の高官のほうが一枚上手ね。部下の扱い方がお上手なことで」
「いや、中には本気で同調している連中もいたと思うがな」
シャーナルは皮肉のような物言いをするが実際には本音であろう。
自分達が意見を述べたことで国王派が賛同するような動きを見せた。これがあたかも意見が通ったと思っているようだが実際にはシャーナルの意志とは反するもので、国王派が真意を引き出そうとしていることに気づかずにいる。
そういった駆け引きがあまり向かない人間を重要な場面で引き出してくる長老派に辟易している様子のシャーナル。長老派でも摩擦が起こりつつあるのが伺えるが疑問が残る。
「ならシャーナル皇女はなぜ長老派の言いなりなのですか? 貴女ほどの見識の持ち主なら――…」
そうイヴが言いかけるがそれの被せるようにイヴに鋭い視線を突き刺す。
「貴女は何か思い違いしているようね。私はあくまで長老派の人間でありドラストニアの王族。分家であっても私は正統な王位継承者で先代ドラストニア国王の血族よ。そこでふんぞり返っている男とは『血の重さ』が違うわ」
「故にドラストニアを誤った方向へと導くわけにはいかない。他に何があるというのかしら?」
ドラストニアの利にならないがための意見でフローゼルの利益のためではないと切り捨てる。イヴも顔を僅かに顰めるが彼女の主張は間違ってない。むしろ自国のために動かず他国の利益を優先するような人間に国家の代表を任せることなどできないし信用もできないのが普通の考え方だ。
その点に関してはシャーナルは分かりやすいと言えよう。
「それはどこの国だって同じさ。イヴ王女だって同じこと」
「……そうですね」
「だからこそあえてシャーナル嬢を呼んだわけですよ」
イヴの方を一瞥した後、シャーナルを呼びつけた目的へと話題を移す。シャーナルは茶菓子に手をつけて意味深に目を細めラインズを一瞥。
「その前に――…紅茶のおかわりを頂いても?」
「勿論、随分とお気に召されたようで何より」
「ええ、とても気に入りましたわ。この紅茶」
シャーナルは店で使われた茶葉が議会で出された紅茶と同じものだと即座に気づく。それはラインズが仕掛けたものだとも気づいていたが彼女はその策にあえて掛かり、彼らの真意を引き出すために本題へと移る。
円卓にはフローゼルの山岳地帯で取れた珍しい茶葉で淹れた紅茶が席の数だけ用意されていた。しかしそのほとんどが手も付けられずにただ冷めてゆくだけである。
というのも長老派陣営はほとんどが空席、ラインズ派閥の人材しか出席していなかったのだ。ラインズが溜め息をついて議会をはじめると伝えると同時に扉が開かれる。
「遅れて申し訳ございません。紅茶が冷める前には間に合ったかしら?」
茶化すように周囲に伺う彼女だが出席したのは長老派の皇女シャーナルと彼女に付き従う高官数名だけであった。ラインズも紅茶のおかわりは残っていると笑って返し、形としては国王派と長老派の議会となり開会した。
フローゼルから逃れたホールズ一派は南下し、ガザレリア国内に入国したことを確認したとのことだ。工作員の報告によれば予想通り魔物を利用して入り込み、現在は中枢にまで及んでいると予想される。
思いのほか早い動きに国王派のサンドラが疑問を呈する。
「いささか早すぎるのでは?」
「繋がっているか、嵌められているか――どちらにしろ情報に疎すぎるではないか」
魔物を使役しているという理由だけで外からの人間を簡単に信用するという彼らの性質には呆れに似たものを感じる。ガザレリア側の対応に疑問を呈する中で、長老派の高官からはガザレリアとの接触は避けるべきだと言う意見が飛ぶ。
「現在、わが方にはガザレリアとの強固な結びつきがございません。このような状況でわが方が接触を図ろうとすればこの一件のことと勘付かれ、下手をすれば摩擦が起こりましょう。」
「ですが――…これは好機とも言えます」
ラインズが顔色を変えて追求する。
「ほう、その理由は?」
「この際……あのお方を利用なさるのですよ」
白羽の矢が立ったのはイヴであった。ガザレリアと既に友好関係にあるフローゼル側に今回仲介人として入ってもらう。彼らにとっても汚名を返上する好機を与えることにも繋がり、上手くいけばこちらは一切労力を使わずに解決を図ることも可能だと。
彼らの提案にも理はある。国王派でもこの提案に対して賛成意見が飛び交う中、ラインズは紅茶を啜りながらそれを黙って聞いているだけのシャーナルに僅かに違和感を覚える。
◇
議会終了後、ラインズは王都へ出向き茶屋のバルコニーにて珈琲を啜りながら、午後のひとときを楽しんでいる。イヴも側につかせている様は貴族の御曹司と貴婦人といったところか。彼女は呆れ顔でこんなところで呑気に茶を啜っている場合なのかと苦言を溢す。
「四六時中、内政のことばかり考えていたら頭壊れるだろう」
「あなたは呑気すぎるのよ。ホールズ一派を取り込んだガザレリアにはフローゼルの今後の動きも筒抜けになっているでしょうし、こちらが動けないのを良い事に対立派閥は私達に動けと言ってきたのでしょう?」
ジト目で彼のことを一瞥した後不満げな表情を浮べるイヴ。彼女もこのドラストニアに赴任して以来、内政に関わることは愚か軍を率いて各地の野盗討伐にも参加できずにただ日々を過ごすばかり。
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「あんたの言うとおり、明らかにフローゼルとドラストニアの仲違いを狙っている。それどころかガザレリアとフローゼルとの間で一戦交えさせる魂胆も垣間見える」
「ならどうして今回有耶無耶にしたのですか?」
少し語気を強めて彼に詰め寄る。ラインズは珈琲の入ったカップを揺らしながら神妙な表情に変わり答える。
「力を国王派に集中させないためだ」
現在、国王派と長老派は微妙な均衡を保っている。権威はほとんど形骸化に近いものであるがそれでも一定の支持層は存在する。彼らにも発言権を残しておかなければ彼らが挙兵を狙いアズランド家の二の舞になり兼ねない。長老派にも有能な高官は存在するが故、彼らの能力も軽視したくない。
長老派の主張から察するに思想としては現在のドラストニアの体制を壊すものに近い。しかしドラストニアを本気で潰すと考えているほど愚かではないと説く。彼らを利用こそすれど、彼らに実権を握らせないためにあくまで彼らの主張も取りいれるべきだと。
「なら…フローゼルに今回のことを一任すると?」
イヴがラインズに更に詰め寄っている中、茶屋に入店する一人の女性の姿があった。妖艶なふとももが垣間見えるほどに短いスカートに自慢の美しい髪を靡かせ、ヒールの音を立てて歩いてくる。彼らの元にやってきた意外な人物。
「紅茶を頂戴、それと茶菓子も忘れずに」
「かしこまりました」
知的で優雅な雰囲気と相も変わらず冷徹な対応の彼女はイヴも同席していたことに予想通りといった様子を見せる。
「あなたに王族の茶会を開く器量があったとは初耳ね」
「美しい女性方と茶を啜れるのなら喜んで開きますとも」
「あらそう、だったら泥水じゃなくて紅茶でも注文されては?」
皮肉を茶化すラインズ。シャーナルも彼の珈琲を泥水と酷くこき下ろし、淹れたての紅茶を嗜む。ラインズは苦笑いを溢しながらも珈琲を口に運んでいく。イヴには彼らの真意は掴めずにどういうことなのか動向を伺うしかなかった。
シャーナルは長老派、ラインズら国王派とは真っ向から対立する二人が私的に密会するとは想像もしていない。実際のところは彼女とラインズは繋がっていたのかと勘ぐっているとシャーナルが口を開く。
「それで、私を招いた用件を聞こうかしら」
紅茶を味わい、カップを片手に彼女は単刀直入に問う。
「今日の議会、どう思う?」
「どう…とは?」
ラインズは今回の議会での内容に触れる。ホールズ一派がガザレリアへ南下し、入国したことに対して彼女に付き従えていた長老派の高官らは「フローゼルに向かわせるべき」と意見を述べていた。それに同調する国王派の高官らも散見され、意見はフローゼルへ一任するかの方向に定まりかけていた――…しかし。
「高官達が意見を述べていた時、シャーナル嬢は一言も発しなかった。それどころか今回の議会でほとんど発言していなかったように見受けられるが」
「それは貴方も同じでしょう」
同じだとシャーナルはすぐさま切り返す。国王派のラインズが信頼しているサンドラも彼の発言の無さに表情には出さなかったものの少し驚いている様子を見せていた。シャーナルは紅茶を楽しみつつもずっとラインズの動向を伺っていた。それはラインズも同様であったが彼はもう少し違う側面で彼女を見ていた。
「あれはあんたの意見じゃない。それどころかシャーナル嬢の意図が汲まれているものには到底思えなかったな」
シャーナルは紅茶のカップを持ったまま揺らしながら彼とは目を合わせず話を聞いている。
「あんたはむしろ――…フローゼルに出向かわせるつもりは全くないんじゃないかと思ってる」
そうラインズが言いかけるとシャーナルは動きを止めて大きく鋭い目を見開いて彼の目を見る。
「あら、どうしてかしら? フローゼルに責任を取らせるべきだと、直談判したのは私なのに、なぜ今回はフローゼルに出向かわせようとしないと?」
「今フローゼルとガザレリアとの間に摩擦を生じさせることがどういうことか――…あんたなら理解しているとは思っている。そこまで愚かとも思わん」
イヴは彼女の真意が少しずつわかりかけてくる。シャーナルもおそらくラインズが見立てたとおりの事を考えているのだ。
紅茶のカップを置いて溜め息をつきながら外の景色を眺める。
「………あれは長老たちの直属よ、私の配下じゃない」
「だろうな。流石、シャーナル嬢。表には出さず、なおかつ自分の意志を伝えるのはあんたらしい」
「貴方は逆に黙っていることでこちらの真意を引き出そうとしていたようね」
シャーナルは長老達の代理で出向いたという体で本心はラインズに真意を伝えることにあった。それはラインズも同じで長老派でも他と比較して現実的に物事を考える彼女の意志を引き出すこと。互いの見解は一致していた。そういう意味では賛成だったのだろう。
「貴方達の高官のほうが一枚上手ね。部下の扱い方がお上手なことで」
「いや、中には本気で同調している連中もいたと思うがな」
シャーナルは皮肉のような物言いをするが実際には本音であろう。
自分達が意見を述べたことで国王派が賛同するような動きを見せた。これがあたかも意見が通ったと思っているようだが実際にはシャーナルの意志とは反するもので、国王派が真意を引き出そうとしていることに気づかずにいる。
そういった駆け引きがあまり向かない人間を重要な場面で引き出してくる長老派に辟易している様子のシャーナル。長老派でも摩擦が起こりつつあるのが伺えるが疑問が残る。
「ならシャーナル皇女はなぜ長老派の言いなりなのですか? 貴女ほどの見識の持ち主なら――…」
そうイヴが言いかけるがそれの被せるようにイヴに鋭い視線を突き刺す。
「貴女は何か思い違いしているようね。私はあくまで長老派の人間でありドラストニアの王族。分家であっても私は正統な王位継承者で先代ドラストニア国王の血族よ。そこでふんぞり返っている男とは『血の重さ』が違うわ」
「故にドラストニアを誤った方向へと導くわけにはいかない。他に何があるというのかしら?」
ドラストニアの利にならないがための意見でフローゼルの利益のためではないと切り捨てる。イヴも顔を僅かに顰めるが彼女の主張は間違ってない。むしろ自国のために動かず他国の利益を優先するような人間に国家の代表を任せることなどできないし信用もできないのが普通の考え方だ。
その点に関してはシャーナルは分かりやすいと言えよう。
「それはどこの国だって同じさ。イヴ王女だって同じこと」
「……そうですね」
「だからこそあえてシャーナル嬢を呼んだわけですよ」
イヴの方を一瞥した後、シャーナルを呼びつけた目的へと話題を移す。シャーナルは茶菓子に手をつけて意味深に目を細めラインズを一瞥。
「その前に――…紅茶のおかわりを頂いても?」
「勿論、随分とお気に召されたようで何より」
「ええ、とても気に入りましたわ。この紅茶」
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