王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第一章 失われた竜使い

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「それは、待って、お願い。
 お願いだから、子供だけはーー」
 自分は死んでもいいから、この子だけはどうか。
 それは慈悲深いと言われる竜族の母性愛か、それとも母親の愛情か。
 その嘆願には嘘がないように思えた。
「なら、答えなよ。エリス。
 なぜアシュリーに近寄った!?
 憐みか? 人間という弱い存在に対しての動物を飼うようなそんな遊び心か?」
 しかし、エリスはそれを必死に否定する。
「ち、違う!!
 そんなことを考えていたら、子供なんて宿さなかった。
 堕胎するための魔法だってあるのにーー」
 なんでそこまで言わせておいて、この刃はまだそのままなの?
 アルバートを見てエリスは嘆願の涙を流す。
 どうかこの子供だけは、と。
 アルバートは変わらない笑顔の奥に、憎しみを宿してエリスに最後の質問をした。
「ねえ、エリス。
 子供ができていれば、メアリージュン王女が青龍王様の聖女になれば、彼女が君の兄上の竜公子イゼア様。
 彼と結婚すれば。
 我がシェス王家はほどなくして崩壊する。リベイエ王国と竜公国はそれを吸収し‥‥‥。
 そして、大河の対岸にあるルケード大公国まで続く一大帝国が築けるね?
 ねえ、エリス。
 この計画の首謀者は誰だい?
 君のような慈愛に満ちてはいるが青竜王神の敬虔豊かな信徒が、アシュリーに近づくこと自体。
 誰から見ても憐みをかけている、優しい公女。
 それはメアリージュン王女も同じだ。
 そろそろ、話したほうがいいんじゃないかな?
 僕はまだまだ力を込めれるよ?」
 その言葉通りにアルバートは刃先をエリスの腹部に埋めていく。
「だ、誰がーー人間なんかに‥‥‥」
 へえ、それが本音、か。
 この愛も作りものか‥‥‥アルバートはいくばくかのむなしさを心に覚えた。
「じゃあ、子供はいない?
 そんなことは無いよね?
 僕の天眼にはきちんと見えているよ?
 君の中に宿る新しい命の場所も、魔石の在り処も」
「----!!??」
 逃れられない?
 この竜族の公女たるわたしが!?
 エリスはうまれてはじめて、背筋に汗をかいていた。
 冷や汗?
 そんなものではない。
 死に対する恐怖の、汗を。
「そういえば、竜族はその魔石を片方でも奪われたらーー」
 それはかつての魔法大国。
 エルムド帝国が編み出した操竜の技法。
 禁忌とされ、いまでは知る者も少ない、闇に葬られた禁断の法術。
 エリスの息が止まる。
「なぜ、それを‥‥‥」
 さあね?
 そうアルバートは笑って返す。
「天眼は、いろいろな過去の知恵を与えてもくれるから。
 ああ、そうそう。
 世の中では、大して役に立たないなんて言われる僕の魔眼だけど。
 その一つ、すこしだけの距離や、空間にものをいれて運べる、扉の瞳。
 これには本当の正しい使い方があることを誰も知らないね?」
 あそこからここまで移動できる。
 それはつまり、ある物の中から、特定の何かを抜きだすことができるんだよ?
 そう、アルバートはエリスにささやいてやる。
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