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第七章 闇の希望と炎の魔神
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しおりを挟むなんだろう?
ナターシャはかすかな音を耳にしていた。
くぐもった、老いた男性が小声でぼやいているような、そんなかすかな声が聞こえてくる。
誰?
そこに誰かいますか?
あー‥‥‥めまいがする。
頭が痛い。
耳の音で小人が、木靴を履いて壇上でステップを踏んでいるような軽やかな音が何度も、何度も聞こえてくる。
老人?
人の声も聞こえている。
なんだろう?
「‥‥‥きた」
きた?
来た?
何が来た?
ああ、わたしが入り込んだのかもしれない。
ここは土の妖精、ノームの棲み処かしら?
目を開けても鋭い剣先でえぐられたりしあい?
まだ‥‥‥気を失ったふりをしていたほうがいいかな?
この声がなにを言っているのかを理解してから目を開けた方が無難かもしれないわ。
そう、ナターシャは思いそっと聞き耳を立ててみた。
でも、不思議なことに聞こえるのは男性の声で、それも独り言のように聞こえる。
その声は老人のようなものかと最初は思っていたが――
やがて、そうではないことにナターシャは気づいた。
耳鳴りに混じって聞こえるせいで、彼の声が妙にくぐもったように聞こえていたのだ、と。
「困ったもんだ。
今日は来客の多い日だな、まったく」
ところどころに混じっているのはこのナターシャ達がいた大陸北部の言葉ではない。
どちらかといえば、西にある神聖ムゲール帝国の発音に近い大陸の公用語。
あそこは確かー‥‥‥太陽神アギト様の大神殿があったはず。
なぜ、この暗黒神ゲフェトの神殿にその信徒が‥‥‥?
「さて、どうするかな。
墓守をして久しぶりだな、人間が二人、か。
まあ、食料には困らない。
どっちを先にするかー‥‥‥????」
え!?
ちょっと待って、そんなーまさかここは‥‥‥食人鬼?
オーグの巣窟‥‥‥!?
ナターシャは背筋に冷や汗をかいていた。
緑肌とも灰色とも言われる食人鬼の一族。
魔族であり、人間の男性の倍ある体躯を誇りその肌は、鉄製の剣ですらも跳ね返すという。
出会ってはならない、ダンジョンや森の奥深くに住む、禁忌の魔獣。
それが、オーグ。
中には人とまるっきり変わらない容姿を持ち、文化をもつ存在もいるとは王立学院で習ってはいたけど、とナターシャは過去の記憶を呼び起こしていた。
でもー‥‥‥?
と、不思議な感覚にもとらわれてしまう。
だって、彼の声はまるで若くて、小さくて‥‥‥ナターシャやアルフレッドと背格好も年齢も変わらないそんなように聞こえていたからだ。
あの剣で戦えるかしら?
もしかしたら、アルフレッドのいる場所に――
ナターシャはそう画策するが、ふと気づく。
背に背負い、手にしていたあの剣は――カーティスに渡したままでどこにいったのか、と。
剣はナターシャの記憶の中では、その存在を消してしまっていた。
鞘もなく、手元にその感触もない。
薄目を開けて見える範囲を確認するが、そこにも剣らしきものは見えなかった。
「うーん。
緑の髪、か。
エルフ?
それにしては、男のような格好だな。
おまけに‥‥‥怨霊くさい。
魔女にでも魅入られて男装でもしたか?
まあ、それならここに来る間に怨霊は逃げ出しただろうな。
あいつらは、ここの扉を潜れないからな‥‥‥。
女と男か。
つがいにして子を産ませる策もあるが、食事にいろいろと気を遣わなきゃならんしなあ。
男は殺して、女はー‥‥‥ここで俺が好きにするか」
髪にそっと手を這わされて、思わず悲鳴をあげそうになる自分を、ナターシャは必至に抑えていた。
黙らないと、アルフレッドに会うまでは‥‥‥でも、好きにするって一体なにを???
その不安はあることを思い当たらせる。
男性が、女性にする事といえば‥‥‥まさ、か。
「さすがに墓の前で抱く訳にもいかんな。
ここで身ぐるみはいで、抱いたあとに殺す、ああ、いや。
もう死んでいるのか?
どうだろうか?
そうか、刺せばわかるな。
どこにするか?
太ももか、首か、手首か、それともー‥‥‥眼にするか!!?」
そう言うと彼はいきなり首ががっしりと捕み――床に倒れこんでいたナターシャを高々と持ちあげていた。
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