Scrap Regenerations ー不思議な金色の次元猫と、宇宙コロニー修理工の少女の物語ー

星ふくろう

文字の大きさ
6 / 9
第一章

神と魔の会合

しおりを挟む
「ふう……」

 闇に近い漆黒の黒い鱗をてらてらと、てからせて陽光を映し出す。

 その大きな全身を覆えるほどの両翼を持つ彼は、一つ大きなため息をつくとーー

 その卓に集まった数名の同士たちを一段上から見渡した。

 大いなる天輪を頭上にいだき、彼とは違う白い羽毛で覆われた両翼を持つもの。

 海のような青い肌と透き通るつややかな髪を束ね、空のような透き通る青の瞳をもってこちらを見上げるもの。

 胸辺りまで豊かにはやした髭を蓄えて威厳を保ち、その両脇には絶えず雷をまとうもの。

 それぞれが似ていて非なるもの。

 人の中から産まれ人の中に消えた同胞も多い中で、この惑星の誕生した後。

 人より先に知性を持ち、大いなる感情と非凡なる才によりこの世を超えたものたち。

 人は彼らを呼ぶときに、神や魔、怪異などと呼称する。

 そしてその卓にはその中でもいと古きもの、呼ばれるものたちの代表が各自腰を下ろしていた。

「猛き黒きものがため息とはな」

 白い羽を持ち、頭上に天輪を備えたものが言う。

 彼の翼は数枚ずつ、均等に背に備わっていた。

「そう嫌味をいうでない。そなたたちはかつての同胞であろう」

 一人。

 アジアの坩堝の中から産まれ出で、神を超えたと教範には記されているものが諭すようにいう。

 彼と同格の存在は、この天使を御遣いとしてこの場に派遣していた。

「我らが父上は‥‥‥かのものとの会話をなすことを望んでいない。

 宵闇を統べる王としてそこにあればよいのです」

「それは異なことを。他にも闇の眷属は多きもの。

 そなたたちの信徒の数に応じて割り振りを決めただけの話。

 呼ばれるならばオシリスでもハデスでもよかろうものを」

 最も古き神の一人、ポセイドンがその重い口を開く。

 のちの神話でーー彼の兄として描かれた、大神ゼウスもまたこの場にいた。

 しかし、彼にはかつてのような信仰はなく、教徒も少ない。

 近世となっては力を失いつつあったから、先に惑星の母より分かち産まれ出でたこの海神。

 彼より先には口を開こうとはしなかった。

「いま世界の多くはー……こちらにこられておらぬお一方と我らのみ」

 背に大きな天輪を背負いふくよかにも怒りにも取れる瞳で。

 一人高い地位を保つ仏もまた信徒の多さゆえにこの場にいることを許されたもの。

 人間の信徒数か、その産まれ出でた古さか。

 中間にあるものたちには大きな発言権はなかった。

「どちらにせよ、戻れば二君に伝えるのはあなたの役目ではありませんか、ミカエル殿」

 そう揶揄するように北欧の古神は言う。

「比肩されるべきこと自体が間違っておりますがね。

 我らが父はー」

「もう良いではないか、方々よ」

 一人意見が一巡するのを待ってかつて明けの明星とも呼ばれたもの。

 人によって想像され、創造された神たちの一つ。その子であるもの。

 そのものが大きな口を開いた。

「我らより古き神が眠る大地が天空へと旅立った。

 その中より数体、我らに近いものたちが世界を廻り、そしてこの世からあの世へと。

 次元を超えてやってきたことはつい近年のことだ。

 人の信仰も薄れ行き場を失った我らがようやく得た終の住処もまた奪われようとしている。

 そしてあれはこの星のものではないものもいる。

 我らの数は少ない。最早、この地にながらく住まうには時が経ちすぎてしまった。

 人は、はるか星霜の彼方へと旅立つというのに、我らだけはこのまま朽ちていくのか。

 それとも、あれら古きものたちと戦い滅びるのか。

 いまはそれを選ぶ方が先ではないか?」

 確かにこの魔王の言う通りなのだ。

 星が生まれた時よりも、はるか古代の異世界からきた旅人たちが住んでいた大陸。

 それは、はるか数万年前に古き神々との戦いにより海底へと沈み、異世界の古き神々もまたその姿を失った。

 世界にはほんの少しばかりの伝承が残るのみで、いまこの場にいる万能と言われるほどの能力を持つものたちですら、はるか過去の歴史のすべてを知ることはできない。

 世界の歴史を記したと言われる、アカシックレコードと呼ばれる存在があるとは言われてきたが。

 それははるか高次の高みにあり、いまの彼らでは手にすることのできないものだ。

「万能と言われた我らですら、古のあれらには打ち勝てぬ。

 互いに滅びるか、新たな地への希望を託すか。どちらかだけだ」

「そのようなこと言われずとも……我ら天界が一丸となればー」

 天使長は言うが、それが単なる強がりであることはその場にいるもの全員が知っていた。

「天界と言われるが、それはどちらの主上も信徒と共に滅する覚悟ということかな?」

 静かに沈黙を保っていたゼウスが口を開く。

「それとも、そちらの天帝以下の方々も同意見かな?

 弥勒殿の降誕を待つ前に滅びを迎えるのは必定……」

 この数世紀で飛来した、古代からの奔流は収まりようのない災厄となって。

 この場にいるものたちの眷属を襲い、食い荒らした。

 人類が発展し、死という概念から遠く離れる時もそうは遠くないはずだ。

 その時、人類は百二十億という強大な支配可能な戦力となるか。

 それとも多くの文明がその進化した末にーーこの卓に腰を据えた彼らのように世の裏の姿を知りどう振る舞うか。

 人類は敵にはなれども、支配は叶わず。

 いまこの数世紀で古きものたちによる猛威を振るわれ、数を減らした彼らが選んだ方法。

 それは、人類がはるかさきの銀河まで、定期的に派遣している植民船団に紛れ込んでの集団移住計画だった。

「しかし情けなきことよ。

 万の刻至らぬ前にこの地から去らねばならぬとはな……」

「致し方あるまい、彼らには叶わぬ。

 我らの力はあくまでも人の信心により生まれたもの。

 この惑星の創世の御代に産まれたものたちには叶わぬ。

 稚児が牡牛に挑むようなものよ。神と呼ばれようともかりそめの器。

 まだ己が存在を信じてくれよう者たちと共に旅に出でるほうがよい」

「左様な。

 さすれば、我ら魔の者はどう致したものか。

 人がおれば我らは生を続けることは叶う。

 だが、悪霊・悪魔と呼ばれてまで我らは存在するべきか」

 最後に魔王は深い深いため息を残してこの集まりが終わろうとしていたその時だった。

「誰か?」

 ふと、ミカエルがその異空間の中に別なる存在がいることに気づいた。

 それはポセイドンに近い物。

 彼ら天使の父祖たる神に近い物。

 だが、より絶対的で、彼らがいましがた話していた古きものにも近く、それ以上に深い混沌と絶対的な存在感を放つもの。

 それは久しくこの惑星に降り立つことの無かった存在。

 間接的にだけ死を迎える存在を輪廻の輪の果てに案内するだけの存在だったものが、直接的にそこにいた。

「あなたは……」

 死神。

 全員がその名を口にすることを憚った。

 彼ら高次の存在はより高次なものの名を口にするだけで、存在そのものを失うこともある。大きな奔流に小さな波が飲みこまれるようなものだ。

 誰もがその場から逃げ出したいと思ったに違いない。

 彼ら卓を囲むものよりも一際背丈の低いその白人の男は、ゆらりとどこからか姿を現した。

「おい、参ったなミスターブラック。

 あんた、バレてるみたいだぜ?」

(ふむ、では少しだけ体を借りてもいいかな?)

「ご自由に」

 ロイがそういうと、死神が表に、ロイが中へと入れ替わるようになりその途端、その場にいた死神以外の存在は圧倒的な虚無に引きずりこまれそうになった。

「では諸君。

 私がこの惑星に来たことは、はるかな過去になるを除けば数度しかない。

 君たちの移住計画を知ったとき、私は君たちの同胞へと渡したある道具のお陰で。

 まあ、私の責務をを正しく終えることができなかった。

 それについて多少なりとも紛議をしたかったのだが……」

 死神は、背丈以上ある異形の神々を見上げると、静かにその力を身の内へと潜めさせた。

「いま話していた古きもの。

 その存在を私にも教えてくれないかね。

 彼らはどうも私から身を潜めているようで見つけられないのだ。

 いにしえの血族たちに、私も挨拶をしておこうではないか」

 そう言い放った死神の言葉は、その卓にいた全員に暗い未来の予感しか与えなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...