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第一章
第四話 春雨の夜 4
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「実はお願いとは主人の探索なのです、レザロ様」
「探索?
いや、しかし。
それは上にばれた日には侯爵家そのものの威信にかかわりますよ?
下手をすれば、御家取りつぶしという命令が下るかもしれません。
そんなことになれば……」
「もちろん、表立っては困ります。
ですからお願いしているのです。
王国に依頼するわけにも参りません。
内々に、秘密裏にしかし、きちんと探索をしていただかねば困るのです」
「いやあ、そうは言われましても……。
なにぶん、自分も忙しい――」
「お暇ですよね?」
「は?
いやそんなことは――」
「きちんとあの子から聞いていますから。
ジョアンナをここに呼んでいただいてもかまいませんよ?」
「そういう問題ではないのです、侯爵夫人……」
それはそうよね。
まさか、わたしがマクスウェルが捜査をしていて、レザロ様がその部下だという事実を知っているなんて。
この人は知らないようだし……知っていれば、さっさと打ち明けるか。
それとも、女性が入りこむ問題ではない、そう怒りながら言うはずだわ。
アンナは心でそうつぶやくと、ここぞとばかりに提案を続けた。
もっとも、それは半分は脅迫めいた内容だったが……
「いいのですよ、レザロ様?
受けて頂けないのなら、我が家と一蓮托生。
王国にあなた様とマクスウェルがともに色町で夜な夜な遊びほうけているという、そんな噂が流れてきたと貴族院に報告するだけのこと。
その際、まあ……悲しいですが三世紀続いたこの侯爵家も断絶となることは間違いありません。
もしかしたら――男爵様も同様に処断されるかも?
もっとも、それが本当ならば、ですけど?」
「アンナ様!?
それは無茶苦茶ですよ、言い過ぎだ。
それにやりすぎですよ!?
自分はただ、侯爵家に御迷惑がかからないようにと静かに戻ってきただけなのに!!」
「静かに……戻ってきた?」
「……あっ……」
「いまおっしゃいましたわね?
確かに、戻ってきた、と。
きちんと聞きましたよ、レザロ様?」
「いや、それはそうではなく、ですから!
朝早くに予定があったのです。
それを済ませて屋敷に戻るにはこの侯爵家の門前を通らなければならない。
その、馬のひづめの音がですねー……」
レザロは苦しいばかりの言い訳で逃れようとする。
もう少し頭をひねった言い訳はでないものかしら?
例えば旦那様から? あ、それはだめね。
なら、ジョアンナの、それもまずい。
だったら、好きな女性のために朝早く出向いたとか。昔の友人と会っていたとか。
あんな遠くから、この敷地内のしかもはるかに奥まった場所にある寝室まで響くもんですか。
あなたの下手くそなチェロの方が、まだましな言い訳の音色を奏でるでしょうね!
もう、めんどくさい。
さっさと認めさせるのをやめて、探索に向かわせよう。
アンナはそう決めると、用意していたあるものを一枚、レザロの前に取り出した。
「ねえ、レザロ様?
もうそんな苦し紛れの言い訳は聞き飽きました。
まるで夜遊びから帰宅したマクスウェルがいるみたい。
見苦しい。
もう結構です。
ですから提案しますわ。
一日、金貨十枚」
「じゅっ、十枚……!?」
「そう、十枚です。
ここにとりあえずの前払いとして、十日分。
大金貨一枚ございます。ですが、これは日当分。
経費として両替が大変でしょうから、銀貨で用意させた大金貨一枚分もございます」
ドン、ドンッ、と机の上に、アンナが銀貨の詰まった小袋を数袋、積み上げていく。
「あ、ああ……いや、しかし……」
「もちろん、前払いですから。
あとから、更に大金貨三枚。
合計、大金貨五枚分。経費も含めて。
差し上げます。男爵家の次男では……失礼ながら、よきお相手がいらしても財産の問題などで話がこじれるときもあるでしょう?
大金貨三枚あれば、お父様と同じ男爵位が購入できるのを御存知?」
「え、いやそれは、知りません。
しかし、そんなに都合よくあるわけがない。
すでにあるじ不在となり、廃絶になった貴族籍は王国が管理しているはず……」
「残念ながら、ありましてよ?」
「そんな、御冗談を……」
「あら?
我が父上は婿養子。
下級貴族では釣り合わないと、伯爵様のお家に養子になりそれから我が家に来ました。
その前はどんな階級だったか、おわかりですね?」
「まさか、まだその貴族籍を保有されている、と?
いや、それはまさか……」
「主人を内密に、しかし、安全に連れ戻してくださったら。
差し上げます。
ついでに、この侯爵家の持つ権利を駆使しても構いませんよ?
委任状は書きますから。
さ、どうされますか??」
ここまで破格の条件を提示されては、飲まない理由がない。
こうしてレザロは一時期のアルバイトとして、侯爵探索を請け負うことになった。
「探索?
いや、しかし。
それは上にばれた日には侯爵家そのものの威信にかかわりますよ?
下手をすれば、御家取りつぶしという命令が下るかもしれません。
そんなことになれば……」
「もちろん、表立っては困ります。
ですからお願いしているのです。
王国に依頼するわけにも参りません。
内々に、秘密裏にしかし、きちんと探索をしていただかねば困るのです」
「いやあ、そうは言われましても……。
なにぶん、自分も忙しい――」
「お暇ですよね?」
「は?
いやそんなことは――」
「きちんとあの子から聞いていますから。
ジョアンナをここに呼んでいただいてもかまいませんよ?」
「そういう問題ではないのです、侯爵夫人……」
それはそうよね。
まさか、わたしがマクスウェルが捜査をしていて、レザロ様がその部下だという事実を知っているなんて。
この人は知らないようだし……知っていれば、さっさと打ち明けるか。
それとも、女性が入りこむ問題ではない、そう怒りながら言うはずだわ。
アンナは心でそうつぶやくと、ここぞとばかりに提案を続けた。
もっとも、それは半分は脅迫めいた内容だったが……
「いいのですよ、レザロ様?
受けて頂けないのなら、我が家と一蓮托生。
王国にあなた様とマクスウェルがともに色町で夜な夜な遊びほうけているという、そんな噂が流れてきたと貴族院に報告するだけのこと。
その際、まあ……悲しいですが三世紀続いたこの侯爵家も断絶となることは間違いありません。
もしかしたら――男爵様も同様に処断されるかも?
もっとも、それが本当ならば、ですけど?」
「アンナ様!?
それは無茶苦茶ですよ、言い過ぎだ。
それにやりすぎですよ!?
自分はただ、侯爵家に御迷惑がかからないようにと静かに戻ってきただけなのに!!」
「静かに……戻ってきた?」
「……あっ……」
「いまおっしゃいましたわね?
確かに、戻ってきた、と。
きちんと聞きましたよ、レザロ様?」
「いや、それはそうではなく、ですから!
朝早くに予定があったのです。
それを済ませて屋敷に戻るにはこの侯爵家の門前を通らなければならない。
その、馬のひづめの音がですねー……」
レザロは苦しいばかりの言い訳で逃れようとする。
もう少し頭をひねった言い訳はでないものかしら?
例えば旦那様から? あ、それはだめね。
なら、ジョアンナの、それもまずい。
だったら、好きな女性のために朝早く出向いたとか。昔の友人と会っていたとか。
あんな遠くから、この敷地内のしかもはるかに奥まった場所にある寝室まで響くもんですか。
あなたの下手くそなチェロの方が、まだましな言い訳の音色を奏でるでしょうね!
もう、めんどくさい。
さっさと認めさせるのをやめて、探索に向かわせよう。
アンナはそう決めると、用意していたあるものを一枚、レザロの前に取り出した。
「ねえ、レザロ様?
もうそんな苦し紛れの言い訳は聞き飽きました。
まるで夜遊びから帰宅したマクスウェルがいるみたい。
見苦しい。
もう結構です。
ですから提案しますわ。
一日、金貨十枚」
「じゅっ、十枚……!?」
「そう、十枚です。
ここにとりあえずの前払いとして、十日分。
大金貨一枚ございます。ですが、これは日当分。
経費として両替が大変でしょうから、銀貨で用意させた大金貨一枚分もございます」
ドン、ドンッ、と机の上に、アンナが銀貨の詰まった小袋を数袋、積み上げていく。
「あ、ああ……いや、しかし……」
「もちろん、前払いですから。
あとから、更に大金貨三枚。
合計、大金貨五枚分。経費も含めて。
差し上げます。男爵家の次男では……失礼ながら、よきお相手がいらしても財産の問題などで話がこじれるときもあるでしょう?
大金貨三枚あれば、お父様と同じ男爵位が購入できるのを御存知?」
「え、いやそれは、知りません。
しかし、そんなに都合よくあるわけがない。
すでにあるじ不在となり、廃絶になった貴族籍は王国が管理しているはず……」
「残念ながら、ありましてよ?」
「そんな、御冗談を……」
「あら?
我が父上は婿養子。
下級貴族では釣り合わないと、伯爵様のお家に養子になりそれから我が家に来ました。
その前はどんな階級だったか、おわかりですね?」
「まさか、まだその貴族籍を保有されている、と?
いや、それはまさか……」
「主人を内密に、しかし、安全に連れ戻してくださったら。
差し上げます。
ついでに、この侯爵家の持つ権利を駆使しても構いませんよ?
委任状は書きますから。
さ、どうされますか??」
ここまで破格の条件を提示されては、飲まない理由がない。
こうしてレザロは一時期のアルバイトとして、侯爵探索を請け負うことになった。
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