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第五話
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ここに集まる有力者たちの協力とか、王家とお近づきになれるとか。そんな自分に都合のよいことだけを勝手に並びたてて理解した気でいるのでしょう。
「でも、お姉様?」
「何? 怖気づいたの?」
「違いますっ! お姉様は女神さまの聖女ではありませんか」
「だから……何?」
「そんな存在を誰が断罪できると言うのですか? 女神様が聖女の首をあっさりと挿げ替えるとも思えません……」
「妙なところで慎重なのね、あなたって」
「だって!」
と、言い募るのを制して教えてやります。
神殿に関しては詳しく知らなくても仕方ない、そう思ったから。
「いい、アテッサ。この大神殿では女神様いがいの神様の分社もあるの。つまり、大陸にある十数柱の神々の目が、今この場にそそがれている。そういうことよ」
「そんなっ!」
「え……?」
一瞬、妹が己の愚かさに気づいたから天罰を与えられるのかなーと恐れたのかと――思ってみたら誤解でした。
「神々の前でお姉様の愚かさを断罪できる機会を与えられることに歓びを感じますっ!」
「……何よそれ……」
私の呆れ声も興奮したその耳には届かず、彼女はただただ神託を早く! なんて叫んではしゃいでいました。
それならさっさと済ませましょう。
私は神殿の管理主である大神官様や王家の方々にご挨拶。
その合間にも、愚妹は男性陣の視線を集めることに貪欲的。
しかし、あの程度の美しさなどとは比較にならない王太子妃様を妻にもつ殿下などは、「大変だねー」とお声かけ頂けるなどして、正しい心を持つ方々は動じないのだな、と思ったりもしました。
仔細を伝えてみると、国王陛下はうーん、と首をひねります。
「いいのかね、聖女殿。新たな神託が下されるとまた、その……」
「……お布施、ですか。陛下」
「そう、だな……」
確かに、この神殿はドケチなことで有名なのです。
王宮の隣にどどんと神の威光を利用してそびえたつ……あ、いえ口が滑りました。
王など神に比べれば大したことなんてないと言いたそうな――我が豊穣の女神の大神殿は何をするにも多額のお布施を要求することで有名なのです。
それも今の代の大神官様がドケチで有名なだけなんですけどね。
「それはいずれどうにか致しますので、どうか。お願いいたします」
「そうまで言われるのならば……まあ、よかろう」
結果。
私が聖女となった褒美として与えられる予定だった土地の一部を王国に返上することで、話がつきました。
そして、愚妹は水晶球に手を振れ、選ばれたその神の名は――。
冒頭に戻ります。
妹が地の底に消え、大理石の床が元通りに戻ったのを目にしてふふっ、とひとごこちついた私でした。
心の中で我が主と冥府の王にどうか妹をよろしくお願いいたします、と祈りながら。
今夜は久しぶりにゆっくりと寝られそうな私でした。
(終わり)
「でも、お姉様?」
「何? 怖気づいたの?」
「違いますっ! お姉様は女神さまの聖女ではありませんか」
「だから……何?」
「そんな存在を誰が断罪できると言うのですか? 女神様が聖女の首をあっさりと挿げ替えるとも思えません……」
「妙なところで慎重なのね、あなたって」
「だって!」
と、言い募るのを制して教えてやります。
神殿に関しては詳しく知らなくても仕方ない、そう思ったから。
「いい、アテッサ。この大神殿では女神様いがいの神様の分社もあるの。つまり、大陸にある十数柱の神々の目が、今この場にそそがれている。そういうことよ」
「そんなっ!」
「え……?」
一瞬、妹が己の愚かさに気づいたから天罰を与えられるのかなーと恐れたのかと――思ってみたら誤解でした。
「神々の前でお姉様の愚かさを断罪できる機会を与えられることに歓びを感じますっ!」
「……何よそれ……」
私の呆れ声も興奮したその耳には届かず、彼女はただただ神託を早く! なんて叫んではしゃいでいました。
それならさっさと済ませましょう。
私は神殿の管理主である大神官様や王家の方々にご挨拶。
その合間にも、愚妹は男性陣の視線を集めることに貪欲的。
しかし、あの程度の美しさなどとは比較にならない王太子妃様を妻にもつ殿下などは、「大変だねー」とお声かけ頂けるなどして、正しい心を持つ方々は動じないのだな、と思ったりもしました。
仔細を伝えてみると、国王陛下はうーん、と首をひねります。
「いいのかね、聖女殿。新たな神託が下されるとまた、その……」
「……お布施、ですか。陛下」
「そう、だな……」
確かに、この神殿はドケチなことで有名なのです。
王宮の隣にどどんと神の威光を利用してそびえたつ……あ、いえ口が滑りました。
王など神に比べれば大したことなんてないと言いたそうな――我が豊穣の女神の大神殿は何をするにも多額のお布施を要求することで有名なのです。
それも今の代の大神官様がドケチで有名なだけなんですけどね。
「それはいずれどうにか致しますので、どうか。お願いいたします」
「そうまで言われるのならば……まあ、よかろう」
結果。
私が聖女となった褒美として与えられる予定だった土地の一部を王国に返上することで、話がつきました。
そして、愚妹は水晶球に手を振れ、選ばれたその神の名は――。
冒頭に戻ります。
妹が地の底に消え、大理石の床が元通りに戻ったのを目にしてふふっ、とひとごこちついた私でした。
心の中で我が主と冥府の王にどうか妹をよろしくお願いいたします、と祈りながら。
今夜は久しぶりにゆっくりと寝られそうな私でした。
(終わり)
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