伝説の湖畔の塔と三匹のエルフたち

星ふくろう

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第二話 ハッシュバルの森

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 ドワーフ族はトロール族やゴブリン族やコボルト族などの迫害された種族をかくまっていた。
 ドワーフ族は手先の器用な土の妖精や精霊に近い種族だ。
 実体を持つが土などに同化することができる。
 魔族はかつては高山地帯の大半から運河の始まる大草原までを支配する大帝国を築き上げていた。
 大帝国がなぜ滅んだかは、はっきりとした歴史は残されていない。
 ただ、魔族の大帝国が滅亡したあとに勃興したハイエルフの勢力に追われて高山地帯へとドワーフ族は姿を消した。他の種族をかくまっているというのは簡単だ。
 はるか昔から掘り進めてきた坑道に価値がないからだ。
 それならば、ハイエルフに迫害されている種族を住まわせた方が余程効率がいい。
 何がしかの献上品が手に入るし、いざというハイエルフとの戦争時には前線へ送れる貴重な兵力になるからだ。
 トロール、そしてオーク族はそれぞれ共通の祖先を持っている。
 巨人兵と呼ばれる魔族の大帝国が生み出した過去の生物兵器が彼らの祖先だ。
 それぞれ緑色の皮膚であったり、数本の角を持っていたりするが、外見は人間族やエルフ族と大差はない。
 体格差があるかないか、それだけの話しだ。
 ゴブリン族もそうだし、コボルト族もそうだ。
 片方は人間族よりは低い体格だが、器用な指先を持ち、とても美しい装飾技術を誇る。
 大陸中央の大平原が運河が大帝国の滅びた影響でその道筋を変えた結果。
 肥沃な農地となり、別大陸から来た人間族が多く移住してきた。
 ゴブリン族とグレイエルフは人間族と同盟を組み、海洋貿易の利益を享受している。
 コボルト族はドワーフ族の坑道に多くが棲みついている。
 彼らもまた、大帝国の作り出した生物兵器の末裔だ。
 犬や狼とエルフとの合いの子であり優れた嗅覚と集団行動を取る。
 統率された種族本能を持つ。そして知能はどの種族も等しく同じ程度だ。
 ただ、ハイエルフは気づいていない。
 コボルトは非常に優秀なハンターであり、また優れた暗殺者であることに。
 そんな複雑な人種問題が混沌のように混ざり合って存在している。
 その大陸に、沙雪は降り立った。
 しかし彼女に視点を当てるのは少し後になる。
 まずは、この物語の起点となる湖畔の塔へとそれに関係する登場人物たちに舞台を移すことにしよう。


 ハッシュバルという植物がある。
 不思議な植物で、柑橘類に似た実を年に二回実らせる。
 空中に浮き、大地との間、そう数十センチほどの位置に根を張る。
 そこから移動することはなく、高さは地面から測って二メートルほどだ。
 赤い葉をつけ、実の色は綺麗な緑色だ。
 その色が濃いほど、甘さが熟されていることになる。
 一度根付くと移動することはなく、特に生息地を選ぶことは無い。
 土地を涸らすこともなく、樹齢は20年前後だ。
 ただ、水上にその根を張りめぐらすことはなく、そういう意味では運河周辺に根を張ることはない。
 プライバルでは高山地帯でも砂漠地帯でも生息地を選ばないこの植物を重宝してきた。
 この実には糖分以外の養分も含まれており、これ一つだけで一日分の食料になる。
 実は数か月保存することができて、大陸間の航海の食糧に選ばれることも多い。
 中間平野を領土とする人間族はこのハッシュバルと山間部や平原部で。
 運河がもたらす肥沃な大地では農耕を営んでいた。
 米や大麦・小麦、その他の大陸から運ばれてきた穀物類の栽培と収穫。
 出荷や牛や豚の飼育を大きな収入源として国を営んできた。
   このハッシュバルはハイエルフの国々でも多く栽培されていて、中には自生している森林なども存在する。
 その森林と併走するように作られたレンガの街道がある。
 大帝国時代に舗装されたレンガの街道を、高級そうな馬具を付け華美な装飾された六頭建ての馬車が疾走していた。
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