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第二話 ハッシュバルの森
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しおりを挟む「ふん。
こんなダークエルフなどに情けなど……。
もう要らんな、この椅子も」
と言って最後の一蹴りを顔面に入れ、老司祭はブーツについたダークエルフの血を彼女の身に着けている、面積の少ないぼろ布でふいた。
「ではどうなさいますか?
命を奪うのは我らが神の御心に反しますれば……」
ふむ。と老司祭は考えこむ。
「おい、止めろ」
と幾分か控え目に声を出して馬車を止めさせた。
御者席に乗っていた御者と、護衛とおぼしき兵士数名が駆け寄ってくる。
「いかがなさいましたか、フランドル司祭様」
そのうちの一人が、失礼します、と馬車の入り口のガラス戸を軽く叩いて反応を待った。
「開けよ」
「はっ」
扉を開けさせると、御苦労、と老司祭は彼に声をかける。
「この椅子だがな。
飼うための餌代をかけるならば、恵まれぬ我らが同胞に寄付をしようと思うのだ」
兵士は、地面に片足をつき、
「それは素晴らしきお言葉でございます。
では、いかがいたしましょうか」
「ふむ……。
命を奪うには忍びないが、放逐したとて命を長らえさせるのも無碍というものー」
と、シャルネアが手にしていた物を見て一計を案じたのか、フランドル司祭は明るい表情になった。
「どうだね、シャルネア君。
君のそのー」
と、彼女は馬車内で淑女のたしなみとされている刺繍をしていたが、その道具を指差した。
「は?」
今一つ要領を得ないシャルネアは不思議そう顔をする。
「その針と糸を、この物の苦しみが少ない死への手向けとする気はないかね?」
「と、申しますとー?」
うむ、とフランドル司祭はダークエルフの首輪を引き上げ、
「まず、この物の舌をそのハサミで切り取ってやるとよい。
さすれば、ものを咀嚼する力も弱まるであろう。
次に、両目と口をその糸で縫い付けてやると良かろう」
楽しそうに言うその光景を兵士たちは楽しそうに見ている。
シャルネアは思案し、
「では司祭様。
この物の歯もすべて抜いてしまいましょう。
その方が物を噛むこともできませんしー」
と言い、
「あ、それよりも両手足を切断した方がよろしいのではー?」
いやいや、と司祭は首をふる。
「死の際は、肉体を揃えた状態で迎えさせてやるのがまだ慈悲があるというもの。
だが、歯を抜歯するというのは良い案だな。
痛みが増える程に、この物の罪も浄化されるであろう、おい、お前たち」
と、兵士に声をかける。
「ロハの蹄鉄を調整するときに使う、平箸(ペンチの大きくしたもの)で歯を抜いていやりなさい。なるべく、痛みが強くなるようにな……」
命じられた兵士は恐怖におびえるそのダークエルフの拘束を解くと、
「では、この場で血を漏らすのは不浄でありますから。
あちらの川の傍でしてまいります」
うむ、とフランドル司祭はうなづき、ダークエルフは兵士たちに連れられて行った。
馬車の中でフランドル司祭はシャルネアと二人だけになったことを確認すると、
「ふむ。
尊いことだな。異教徒を救うということは……」
と自分の行いを自分で褒め称える。
「さすがですわ、フランドル司祭様。
シャルネアも、あの物に素晴らしき恩寵を授けなくては」
と、シャルネアは大きめの布の裁断を行うハサミと、数本束ねた金糸を通した針を愛おしそうに撫でた。
「司祭様、洗浄も終わってございます」
と兵士の一人が馬車の扉を叩いたのはそれからしばらくしてからだった。
手をとられ、馬車を降りたシャルネアが見たのは全裸にされたダークエルフだった。
「あら、女だったの、あなたたち、まさか交わりなどはー?」
「まさか」
兵士全員が吐き気がするという顔をした。
「かようなものと交われば我らの死後の栄光が消えてしまいます」
確かに。
兵士たちの衣類も鎧にも着直したり、体液といったものは見受けられなかった。
「ならば、いいのですが」
と、シャルネアはダークエルフの女の耳や鼻が気になった。
「司祭様。
耳や鼻は削がなくてよろしいのですか?
死を早めると思うのですが」
「いやいや、シャルネア」
と、フランドル司祭は馬車の中から首を振る。
「言ったでしょう?
死を得るときは五体を遺してやるべきでは、と」
おいでなさい、と司祭はシャルネアを車内に手招きする。
「いいですか、舌を抜き、目を塞ぐのは我らが会話を秘するため。
耳や鼻まで削げば、必ず誰かが、私刑以上の何かだと考えるでしょう。
その手前までならば、我らの国の刑罰で行われている。
もし何かを問われてもー」
わかりますね?
と、司祭は言った。
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