漆黒の霊帝~魔王に家族を殺された死霊術師、魔界の統治者になる~

星ふくろう

文字の大きさ
32 / 76
第二章 ダンジョンの死霊術師

『朱色の四刃』の活躍

しおりを挟む
「まさかあれが、えっと……なんだっけ?」

 付近の大樹の頂点に降り立つと、アーチャーは一度はしまいこんだ依頼書を取り出して名前を確認する。
 人数は五人、持っているのは剣が四振り。
 ふむ‥‥‥、『朱色の四刃』、か。
 しかし、全員の武装はありふれた銀色の鋼か鉄の胸当てや手甲に帯剣は二振り、予備も考えてのものだとしたらまあ、普通の装備だった。
 一人だけ朱色のローブを着た魔法使いと思しき存在がいるから、その人物と四本の剣(人)という表現なのかもしれない。
 
「しかし妙な陣形だな? なんで魔法使いが一番前衛にいるんだ??」

 それだけではなかった。
 その溪谷に敵を追い出したことに意味がある陣形なのかもしれない。
 魔法使いの後ろには大柄の剣士が立ち、彼らの真反対には敵を挟撃するようにもう一人の剣士が見て取れた。
 その左右にそびえる崖の上には、均等の背丈をした獣人の少女たちが対面するように立ち――まるで逆三角錐を描くように配置されている。

「どうするつもりだ‥‥‥?」

 見たところ、敵は数体のアンデッド。
 確かに‥‥‥アンデッドだ。それも、特別なアンデッド。
 人間の死体とかではなく――どう見ても、ドラゴン並みの骨格がその溪谷狭しと暴れまわっていた。

「スケルドラゴンなら、あいつらだけでは無理だろ‥‥‥? モンスターとかってのはどこだ? どうにも妙だな」

 そう言っている間にも、骨格だけとはいえさすが元ドラゴン。
 その眼窩には往年の猛々しさを思わせる爛々とした意志の光が宿っているし、まとっているオーラすらも下級モンスターどころの騒ぎじゃない。
 探索範囲を広げればわかるのかね?

 地上ならオークやゴブリンがまず最初に上がるのがモンスターだ。
 それ以外にも狂暴で知性が低い種族はたくさんいるが、代表的なのはこの二種類だろう。
 しかし‥‥‥アーチャーは見てしまっていた。
 この地下世界の入り口と降り口で荷物運びを請け負ったり、書類作業をこなしている、知性が人間と変わらない巨人族やオーク、ゴブリンの存在を。
 ここではそれに変わる、いや‥‥‥より知性の低い凶暴な存在がいるということになるだろう。
 アーチャーはそう予想していた。
 
 光に闇、風に音。そして、魔素。
 その五つがあれば、特に強大な魔力なんて使わずに探知魔法を使うことが出来る。
 空に光源となる光を凝縮した球を放ち、闇の力を利用して屈折させた空間の壁にそれを当てることで指向性の光を操ることが可能になる。ドーム状の結界のように拡散されて地上にぶつかった光は更にすさまじい速度で上空の壁にぶちあたり、また降りてくる。

 それが繰り返される合間は、瞬きをするよりも素早く見る事すらかなわない。
 代わりに、魔素をその光球に含ませて光の質を変えればいい。
 そうすることにより続いて振ってくる風や音を集束して捉えてやる。
 魔素は光よりも早く動き、意思によって操作することができる。
 この探知魔法はどこにでもある光や魔素といったものを利用するから、よほど注意深い魔法使いでもなにかあったのかと思う程度だ。

「さて‥‥‥どんなモンスターがいるんだ? というよりも、あのスケルドラゴンでいいのか? あれが瘴気を吐くって連中理解しているのかな? 瘴気を防ぐ魔法はそうそう使えないはずなんだが‥‥‥」
 
 先にあの連中を支援するべきか?
 竜は胎内で死しても魔石と呼ばれる人間でいうところの心臓がある限り、瘴気を生み出し続ける。
 それを防ぐには、精霊や妖精の能力を借りた魔法では不可能だ。
 瘴気はどんな存在も犯してしまう。防ぐには神格を持つ誰かの能力を借りるしかない。

「もしくは――真炎でも召喚するかな? 太陽があれば可能だろ?」

 星の中核にある炎、ここは地下だからその方が早いかもしれない。
 でも太陽がはるかな天空にある地上とは違い、ここは限定的な空の上だ。

「風と光をまとわせた魔素をあの回りに配置して‥‥‥と。目に見えにないような積層型の魔法陣で囲めばどうにかなるだろ。あの魔法使い邪魔だな」

 そう言っている間に探知魔法の結果がアーチャーの魔道具に反映されてくる。
 レーン・ハルク。ラ・ウンゴリアントなどなど。
 オークと巨人族の忌み子のレーン・ハルク。知能が低く、テイム魔法などで操作されやすいがその体力は無尽蔵に近く、武器を繰り出した際の破壊力はすさまじいものがある。
 ラ・ウンゴリアント。蜘蛛の大魔獣の末裔だ。魔法耐性が強く、堅い甲羅に覆われていて蜘蛛というよりは八本足の亀に近いが――

「へえ、大したもんだ。綺麗に寸断されて始末されてる。あの剣士か? それとも他の三人か? どうやって切り裂いたんだ‥‥‥?」

 これは面白い。
 瘴気を防ぐだけの防御結界を彼らよりスケルドラゴンよりに設置すると、アーチャーは再び空を舞った。


 
 
「ラグ、ラナっ!」

 その合図が最奥の黒髪の剣士から発せられると、溪谷の崖上に対面して立っていた二人の獣人――枯れ葉のような茶褐色の尾を持つ少女たちがその腰に帯びていた剣を鞘から引き抜くと、それぞれ、勢いよく地面に突き刺した。

「アーレン! 良いかっ!?」
「おうっ! 良いぞ!! リーファ、やってくれ!」

 朱色のローブをまとったリーファが等身大の杖の先を地面に立て、その先にしつらえた大きめの宝珠にそれまで蓄めた魔力を注ぎ込んでいく。
 不思議なことに、この紫色の宝珠はリーファの後ろにいる茶髪の剣士アーレンの剣の柄や、獣人の少女たちの剣の握りの部分、黒髪の剣士の左手の腕輪にもはまっていた。

 リーファが呪文を唱え始めると、その宝珠の全てが一条の紫色の光の筋でつながれていく。
 空間に描かれた紫の透明な逆三角錐の魔法陣はみごとにスケルドラゴンを捕らえていた。
 やがて光は一周すると魔法使い――いや、魔女の杖のさきに収束されて、勢いよくアーレンの剣へとその威力をまとわせていく。天空の一角からそれを見物しているアーチャーは面白そうに、へえ‥‥‥?、と声を上げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...