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1.スタダ

26.恋のキューピッド

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オレが教会前で景色の余韻に浸っていた時にそれは起こった。

『プレイヤー 上野 樹 さんが ユニーククエスト「桜の舞う季節に…」をクリアしました』

初めて流されるRDOのワールドアナウンス。

(え、オレ!?というかア、アナウンス自体なんて初めて聞いたぞ!それとユニーククエストだって!?)

『上野 樹 さんには、クエスト報酬として称号「恋のキューピッド」が与えられます』

「はあ!?称号!?というか何その称号名!?」

オレはあまりの事につい大声を出してしまう。

『それに伴い、神国プロテアの一部NPCに変動があります。。
クエストにも変影響があるので、クエストをよく確認するようお願い致します』

オレはあまりの事に頭が真っ白になり、数分そのままで硬直したままになるのだった。

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そのワールドアナウンスにより、恋のキューピッドこと上野 樹の名前はRDOに留まらず、現実世界の世界にも広まった。

そしてこの称号により、面倒な事になっている。
何故なら称号が外せない。
メニューを隅から隅まで見ても、称号という項目が無い。
ステータス画面にある名前の下に恋のキューピッドと載っているだけ。
勿論ステータス画面をタップしても何も起こらない。

まあステータス画面だけであれば、別に問題は無かった。
一番の問題は、プレイヤーの頭上には常にプレイヤー名が表示されているのだが…入手した称号も常に表示されるようになっているのだ…。

つまり…他プレイヤーからオレを見た場合。

称号(恋のキューピッド)とプレイヤー名である上野 樹が2段に分けられ、頭上に表示される。
全プレイヤーへの晒し者である。

そしてこの称号による影響は、プレイヤー内には収まらずにNPCにも影響を与える効果を持っていた。

ララさんは教会司祭の娘という事で、教会関係者の中では名前を知られていた。
また、ルークさんもクルード商店を経営する優秀な商人。徐々に名前が知られるように。

この2人の恋の話はは…クエストクリア後すぐにプロテア中のNPCに広まり、街中のNPCで噂話をされる程有名な話に。
そして…その話の中には恋仲を取り持った冒険者の名前も出てくる。

その冒険者の名前は上野 樹。オレである。

アナウンス後、オレはNPCからも恋のキューピッド扱いされている。

MMOでは公平さを保つために、プレイヤー1人の行動が大きくゲーム世界に影響を与える事はほとんど無い。
ただRDOでは違うらしい。オレの中にあるMMOの固定概念を全て壊していってくれる。考え方を改めよう。

このゲームにはまだまだ分からない要素が沢山ある。
オレは楽しみながら、出来るだけ早く見つけたいと思った。

そして…オレはステータス画面の称号を見つめてため息をつく。
小さくは無い後悔があるが、過ぎた事はどうにもならない。

気持ちを切り替え、スキルクエストの報告へモンクギルドへと向かった。

騎士団の建物内に入り、モンクギルドの受付部屋の扉を開けようとする。
すると…部屋の中から多くの人の話し声が聞こえてくる。
オレは不思議に思いながらもその扉を引いた。

モンクギルドの受付が有る狭い部屋。
その部屋には想像ができない光景が広がっていた。

昨日まではモンク希望のプレイヤーはほぼ居らず閑散としていた。
それがなんという事だろう。
モンクギルドの受付部屋には、多くのプレイヤーが押し寄せて行列が出来ているではないか!
そして暇そうにしていたアイシャさんがプレイヤーの対応に追われ、休む暇もなく忙しそうにしている。
また…アイシャさんの手伝いだろうか、受付には見た事のない男性職員がもう一人増えていた。
あのモンクギルドに何が有ったのだろうか。

部屋に入ったは良いが…行列により通れず、どうしたものか…と立ち尽くしていると、オレに一人の男性プレイヤーが声を掛けてきた。

「生放送していた上野さんですよね!放送見ました!良ければ握手して下さい!」

なんとオレの放送を見ていたプレイヤーだった。
戸惑いながらもオレは男性プレイヤーと握手をする。

そして…それを皮切りに、周りのプレイヤーが急に集まってくる。

「上野さん!オレも握手を!」
「放送見ました!」
「ハイ!ミスターイツキ!ハグをしよう!」
「上野さん!アイシャさんに会わせて頂きありがとうございます!」

オレの周りに人だかりが出来るわ、一気に話し掛けられるわで対応しきれない。
ただ、集まったプレイヤーに話を聞いていると、オレの生放送の影響によりモンク志望のプレイヤーが増えたようだ。
理由はオレの戦闘を見て、モンクの有用さに気付いた人やモンク最強!と勘違いした人。
一部はアイシャさんのファン。

モンクが増えるのは喜ばしい事だが、モンクが最強と勘違いしている人が増えるのは良くない傾向だ。
このモンクという職業だが、ソロであればトップクラスの性能だと思う。
ただ今後パーティー狩りが主流になっていくであろう事を考えると、器用貧乏でパーティ内での役割が中途半端になる可能性が高い。
そして効率を考えるならそれぞれの役割を、一番こなせる職の方が需要が出る。

パーティーの盾となる騎士や、回復や支援の要となるプリースト。火力なら遠距離で安全に高い火力を出せる魔法使いやハンター。
盾役も回復も支援も火力役も出来るモンクだが、専門職に比べ突出した部分があるとは思えない。
モンクを最強と勘違いして、パーティーに入る事が出来ずに絶望するプレイヤーが出てくる未来は困る。

そして…この問題の原因はオレだ。
責任を持って、モンク最強と勘違いしているプレイヤーに、注意を促さなければならない。
あぁ…次々に問題が増えていく。

中間管理職ってこんな感じなんだろうか・・・胃が痛くなってきた。

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称号(恋のキューピッド)
上野 樹 (かみの いつき)

武器種:ナックル

職業モンク中級 Lv.53

ステータス/
STR - 57
VIT - 24
AGI - 57
DEX - 35
INT - 24
LUK - 12

成長傾向/
STR 5 VIT2 AGI 5 DEX3 INT2 LUK1

スキル/15pt余り16pt
(パッシブスキル)
ナックル修練Lv1,キック修練Lv1
(アクティブスキル)
掌底Lv1,連打拳Lv5,
(マジックスキル)
パワーブレスLv1,スピードアップLv10,リジェネレートLv1

未修得
格闘修練,鉄壁,気功術,気弾,粉砕拳,連風脚
ヒール,キュア

装備/
半漁人の手+6/鎖帷子上下/
鉄のヘッドギア/トゲブーツ/祝福印(低)

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