華の剣士

小夜時雨

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温かいもの

回想

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 試験の結果の報告を待つ母と師匠のヨウのもとへと帰る道すがら、ハヨンはヘウォンに言われたことを思い返していた。

「よく見たらお前…。異国の血が混じっているのか。」
 
ヘウォンの問いに苦笑いしたハヨンはどうやらその事をよく尋ねられるらしい。ゆるゆるとかぶりを振った。

「いえ、私はれっきとした燐の者です。父も母も異国の血は一滴も混じっておりません。何故なのかはわからないのですが、生まれつき私は赤い目をしているのです。」

 そう、ハヨンの目は赤く燃え立つ炎のような色をしていたのだ。生まれたとき周りから災いを招くと疎まれたり、珍しいので見世物小屋に売ろうと誘拐されそうになったことがあった。
 それでもハヨンがこの目を疎ましく思わないのは、母のチャンヒのおかげだろう。チャンヒはいつも、「貴方の目は神聖な色なのよ。王国の旗や宮殿に使われている赤色と同じだもの。貴方はきっとこの国の守り神に祝福されて産まれてきたんだわ。」と

(そういえば私が剣士を志したのも、この赤い目が引き合わせた運命なのかも知れない…。)

 今までのことを思い返し終えて、ハヨンはそんな考えが頭に浮かんだ。
 ハヨンが剣士を志したきっかけは今から一昔ほど前に遡る。
 
父が死んで間もない頃だった。父が鍛冶屋を営んでいたことで生計を立てていたハヨン達は、稼ぐ術を失い、家を引き払って王都から遠く離れたさびれた街の小さな家に移り住んだ。
 母のチャンヒはなんとかその街の地主の屋敷の厨房で働くことになり、食いつなぐ程度には稼げていた。前のように豊かな生活でも無いが、なんとか生きていける。そうハヨンとチャンヒが思っていた矢先、またしても危機が訪れた。
 チャンヒが重い病にかかったのだ。
 ハヨンはチャンヒが貯めていたほんの少しの貯金の大半を使って医術師に診てもらい、そして薬を貰った。

「これはかなり高価な薬だ。お母さんの病は時間をかければ治せる。もし良かったら俺の手伝いをしないか。そのかわりに薬が足りなくなったらその分を渡すし、食事ぐらいならなんとかなるぐらいの報酬もやる。」

 医術師は様々な街に出向いて治療をしていたので、それなりに稼いでいたのだろう。幼いハヨンにできる手伝いなど限られていただろうに、親切にそう提案した。
(薬があれば母さんは助かる…。)

「はい。よろしくお願いします」

 そしてハヨンは毎日街の外れから医術師のいる街の中心地まで通うようになったのだった。













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