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温かいもの
道程 弐
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一方ヒョンテはハヨンが鍛練の無い時間帯に、助手として手伝いをすることを許し、ハヨンは医術の知識を増やしていった。
彼はヨウとは対照的に穏やかで、いつも静かに話した。ハヨンの年が15になるとき王都に移り住み、それからは文でのやり取りをしている。どうやら小さな診療所を開き、そこそこ上手くいっているようだ。
ヒョンテはハヨンと出会った頃から王都で診療所を持ちたいと願っていて、王都にヒョンテでも買える空き家が売りに出るのをずっと待っていたのだった。
ヒョンテはハヨンの決意に笑いはしなかったが、当初は反対した。それはこの世の中で女が武人になるという厳しさを心配してのことだった。しかし、最後はハヨンの熱意に負け、兵士になっても一人で応急手当てができるようにと惜しみなくヒョンテのもてるだけの知識を与えてくれた。
彼女にとっては、ヒョンテはいつまでもお世話になっているような気がして、彼にも恩返しを必ずしたいと長年思っている。
(ヒョンテさんは次に王都に向かうときに報告しようかな…。やっぱりこういうのは直接言いたいし…。)
ハヨンはそう考えながら家に続く上り坂を歩いていると、ようやく家の屋根の部分が見えてくる。もうとっくに息切れもせずに登れるようになったこの急な坂道は、ヨウとハヨンの鍛練の場となっていた。
汗を流しながら息をきらして登っていた昔の自分を思いだし、ハヨンは少し懐かしく思った。
(私、少しは強くなったのだろうか。)
自分の強さに自信を持て、しかし決して自惚れるな、というヨウの言葉はなかなかに難しい言葉だった。自分を強いと思ってしまえば自惚れてしまいそうで、しかし弱いかと問われれば燐一の部隊、白虎に入ることになったわけで、弱いわけでもない。
ただ、ヘウォンの強さに圧倒されたのでまだまだ自分にはやるべきことがたくさんあることはわかりきっていた。
ようやく我が家が見えて、ハヨンはほっとした。王都までの移動と、宿をとって一泊しただけなのにこんなにも家を懐かしく思うのはそれぐらい自分の家に愛着があるからだろう。
(これくらいで懐かしいとか思ってどうするの…。)
これから先、何ヵ月もこの家に帰ったり母に会うことができなくなると言うのに、とハヨンは自分に言い聞かせる。家の戸に手をかけて開けようとすると、その前に勝手に戸が開いた。
「ヨウさん!?」
飛び出そうとしたヨウと思わずぶつかりそうになったハヨンは、すっとんきょうな声をあげる。
「おお、やっと帰ってきたか。」
どうやらハヨンの帰りを今か今かと待っていたようだった。ヨウは再び家の中へと入る。
「おかえり。ヨウさん、ずっとそわそわしてたわよ。」
くすくす笑いながら出迎えた母のチャンヒは、料理をしながら待っていたようだ。
「チャンヒさんは余裕過ぎる。いくらハヨンの実力があるとはいえ、前代未聞の女剣士だ。何を言われるのかわからんだろう。」
「その件ですが、無事合格しました。」
ハヨンにとっては二人ともが合格する前提で話してくれていたことが何よりも嬉しかった。
「そうか。良かったな。俺も厳しく教えた甲斐があった。あいつに言われたんだ。ヨウさんはハヨンを俺よりも厳しく教えてます。少し酷くはないですかってな。」
あいつとは、ヨウの一番弟子で、ハヨン以外に教えて貰った唯一の生徒だ。彼も同じく白虎で兵士をしており、また会うことがあるかもしれない。
「私は合格するためなら、血を吐いてでも練習しますよ。武道を始めるには遅い年ごろだったんですから、ちょうどいいくらいですよ。」
燐の国では、男は武道を習い始めるのは五歳の頃からという風習がある。五歳になれば、燐の国で伝統的な古武術を習うのが一般的だが、ハヨンは七つの頃からだった。
彼はヨウとは対照的に穏やかで、いつも静かに話した。ハヨンの年が15になるとき王都に移り住み、それからは文でのやり取りをしている。どうやら小さな診療所を開き、そこそこ上手くいっているようだ。
ヒョンテはハヨンと出会った頃から王都で診療所を持ちたいと願っていて、王都にヒョンテでも買える空き家が売りに出るのをずっと待っていたのだった。
ヒョンテはハヨンの決意に笑いはしなかったが、当初は反対した。それはこの世の中で女が武人になるという厳しさを心配してのことだった。しかし、最後はハヨンの熱意に負け、兵士になっても一人で応急手当てができるようにと惜しみなくヒョンテのもてるだけの知識を与えてくれた。
彼女にとっては、ヒョンテはいつまでもお世話になっているような気がして、彼にも恩返しを必ずしたいと長年思っている。
(ヒョンテさんは次に王都に向かうときに報告しようかな…。やっぱりこういうのは直接言いたいし…。)
ハヨンはそう考えながら家に続く上り坂を歩いていると、ようやく家の屋根の部分が見えてくる。もうとっくに息切れもせずに登れるようになったこの急な坂道は、ヨウとハヨンの鍛練の場となっていた。
汗を流しながら息をきらして登っていた昔の自分を思いだし、ハヨンは少し懐かしく思った。
(私、少しは強くなったのだろうか。)
自分の強さに自信を持て、しかし決して自惚れるな、というヨウの言葉はなかなかに難しい言葉だった。自分を強いと思ってしまえば自惚れてしまいそうで、しかし弱いかと問われれば燐一の部隊、白虎に入ることになったわけで、弱いわけでもない。
ただ、ヘウォンの強さに圧倒されたのでまだまだ自分にはやるべきことがたくさんあることはわかりきっていた。
ようやく我が家が見えて、ハヨンはほっとした。王都までの移動と、宿をとって一泊しただけなのにこんなにも家を懐かしく思うのはそれぐらい自分の家に愛着があるからだろう。
(これくらいで懐かしいとか思ってどうするの…。)
これから先、何ヵ月もこの家に帰ったり母に会うことができなくなると言うのに、とハヨンは自分に言い聞かせる。家の戸に手をかけて開けようとすると、その前に勝手に戸が開いた。
「ヨウさん!?」
飛び出そうとしたヨウと思わずぶつかりそうになったハヨンは、すっとんきょうな声をあげる。
「おお、やっと帰ってきたか。」
どうやらハヨンの帰りを今か今かと待っていたようだった。ヨウは再び家の中へと入る。
「おかえり。ヨウさん、ずっとそわそわしてたわよ。」
くすくす笑いながら出迎えた母のチャンヒは、料理をしながら待っていたようだ。
「チャンヒさんは余裕過ぎる。いくらハヨンの実力があるとはいえ、前代未聞の女剣士だ。何を言われるのかわからんだろう。」
「その件ですが、無事合格しました。」
ハヨンにとっては二人ともが合格する前提で話してくれていたことが何よりも嬉しかった。
「そうか。良かったな。俺も厳しく教えた甲斐があった。あいつに言われたんだ。ヨウさんはハヨンを俺よりも厳しく教えてます。少し酷くはないですかってな。」
あいつとは、ヨウの一番弟子で、ハヨン以外に教えて貰った唯一の生徒だ。彼も同じく白虎で兵士をしており、また会うことがあるかもしれない。
「私は合格するためなら、血を吐いてでも練習しますよ。武道を始めるには遅い年ごろだったんですから、ちょうどいいくらいですよ。」
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