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宴にて交わされるのは杯か思惑か
深まる謎 弐
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一日の仕事を終えて、自分の部屋へ戻る間、ハヨンは今日見聞きしたことを頭の中で繋ぎ合わせていた。
(昨日の今日だからみんな酷く怯えていた。宴の間を片付けた侍女たちから様子を聞いたんだろうな。)
暗殺者を牢へと連れていったあと、侍女が片付けにやって来たのだが、あのとき彼女達は随分と怯えていた。
無理もない。床には料理が散乱し、戸は外れかかっていて、ところどころに血が飛び散っていた。兵士でもない彼女たちには見なれないものだ。
そんな話を城の者と話せば次々に尾ひれのついた噂が飛び交うことになる。今日は暗殺者のことばかりを耳にした。
しかし暗殺者の話と言っても、少し違ったものもあり、「リョンヘ様もこれから大変だろう…」という者もちらほらといたのだ。
(リョンとどういう関係があるんだろう。)
ハヨンはどうやらしっかりと前を見ていなかったようだ。向かい側から歩いてきた女官二人にぶつかる。
「ごめんなさい。大丈夫?」
ハヨンはほぼ反射的にそう言って相手を見ると、
「え、ええ。大丈夫よ。私もちゃんと見てなかったから。ごめんなさいね。」
と言って、そそくさと去っていく。
「彼女よ!あのおぞましい暗殺者と戦った人!」
「怒らせない方がいいわね。」
と聞こえないように言っているつもりだが、興奮しているのかハヨンにも十分聞き取れた。
最初は疎ましがられて次は恐がられるなんて、おかしなことだ。とハヨンは自嘲ぎみに笑ったが、まあ嫌がらせをされるよりましだと思えた。
ようやく部屋にたどり着いて寝台に座り込む。ずっと考え込んでいたハヨンは、暗殺者の彼がどういう経緯であの貴族に雇われたかを皮切りにあることに気がついた。
(確か身寄りもなく貧しい彼を哀れに思って雇ったんだっけ…。そういえばあの貴族は、平民派だったか。)
平民派とは、今干ばつなどで厳しい生活を送っている平民たちにどう対策を施すかを優先して考えている貴族や王族のことだ。ここにはお忍びでよく平民達と関わっているリョンヘも含まれる。
一方対立しているのは王権派で、この貧しい生活により平民が王族や貴族に不満を持たぬよう王の権力を高めようとする一派である。
そしてもう一つは中立派で、どこにも属さず、二つの派閥が争わぬように調整している。王や、リョンヤンがこの立場であり、平民派と王権派はより味方を増やそうと躍起になっている。
隠居させられた貴族は特に平民派でも熱心な一人で、リョンヘの強い味方だったらしい。それに財力もあったので、平民派の筆頭とも言えた。
(つまり、今回の件で平民派の発言力は一気に落ちて、リョンヘの賛同者が減るわけか。)
ハヨンは座っていた体勢をそのまま崩し、後ろに倒れる。天井を見つめながらなおも考えていた。
(確かあの貴族の息子は王権派で、親子の仲が悪かったな。)
一度城で立ち聞きした噂話を思い返して少し青ざめる。
(本当にリョンヘが追い詰められている。これは王権派にとって有利な話だ。もしあの従者が操られていたのだとしたら?わざとされたことだったら?それは、王権派が人々を操って、この世を自分の思い通りにしようとしているということだ。)
ハヨンは恐ろしくなって目を閉じる。しかしそんなところで不安が薄れるものではない。ほんの数日前、意を決したようにリョンヘを守ってほしいと頼み込んできたリョンヤンの表情を思い出した。
(何かあれば助けようと思っていたけれど、これはもういつも警戒しなければいけないかもしれない…)
一人で二人を守り通せるだろうか、とハヨンは悩み始めるのだった。
(昨日の今日だからみんな酷く怯えていた。宴の間を片付けた侍女たちから様子を聞いたんだろうな。)
暗殺者を牢へと連れていったあと、侍女が片付けにやって来たのだが、あのとき彼女達は随分と怯えていた。
無理もない。床には料理が散乱し、戸は外れかかっていて、ところどころに血が飛び散っていた。兵士でもない彼女たちには見なれないものだ。
そんな話を城の者と話せば次々に尾ひれのついた噂が飛び交うことになる。今日は暗殺者のことばかりを耳にした。
しかし暗殺者の話と言っても、少し違ったものもあり、「リョンヘ様もこれから大変だろう…」という者もちらほらといたのだ。
(リョンとどういう関係があるんだろう。)
ハヨンはどうやらしっかりと前を見ていなかったようだ。向かい側から歩いてきた女官二人にぶつかる。
「ごめんなさい。大丈夫?」
ハヨンはほぼ反射的にそう言って相手を見ると、
「え、ええ。大丈夫よ。私もちゃんと見てなかったから。ごめんなさいね。」
と言って、そそくさと去っていく。
「彼女よ!あのおぞましい暗殺者と戦った人!」
「怒らせない方がいいわね。」
と聞こえないように言っているつもりだが、興奮しているのかハヨンにも十分聞き取れた。
最初は疎ましがられて次は恐がられるなんて、おかしなことだ。とハヨンは自嘲ぎみに笑ったが、まあ嫌がらせをされるよりましだと思えた。
ようやく部屋にたどり着いて寝台に座り込む。ずっと考え込んでいたハヨンは、暗殺者の彼がどういう経緯であの貴族に雇われたかを皮切りにあることに気がついた。
(確か身寄りもなく貧しい彼を哀れに思って雇ったんだっけ…。そういえばあの貴族は、平民派だったか。)
平民派とは、今干ばつなどで厳しい生活を送っている平民たちにどう対策を施すかを優先して考えている貴族や王族のことだ。ここにはお忍びでよく平民達と関わっているリョンヘも含まれる。
一方対立しているのは王権派で、この貧しい生活により平民が王族や貴族に不満を持たぬよう王の権力を高めようとする一派である。
そしてもう一つは中立派で、どこにも属さず、二つの派閥が争わぬように調整している。王や、リョンヤンがこの立場であり、平民派と王権派はより味方を増やそうと躍起になっている。
隠居させられた貴族は特に平民派でも熱心な一人で、リョンヘの強い味方だったらしい。それに財力もあったので、平民派の筆頭とも言えた。
(つまり、今回の件で平民派の発言力は一気に落ちて、リョンヘの賛同者が減るわけか。)
ハヨンは座っていた体勢をそのまま崩し、後ろに倒れる。天井を見つめながらなおも考えていた。
(確かあの貴族の息子は王権派で、親子の仲が悪かったな。)
一度城で立ち聞きした噂話を思い返して少し青ざめる。
(本当にリョンヘが追い詰められている。これは王権派にとって有利な話だ。もしあの従者が操られていたのだとしたら?わざとされたことだったら?それは、王権派が人々を操って、この世を自分の思い通りにしようとしているということだ。)
ハヨンは恐ろしくなって目を閉じる。しかしそんなところで不安が薄れるものではない。ほんの数日前、意を決したようにリョンヘを守ってほしいと頼み込んできたリョンヤンの表情を思い出した。
(何かあれば助けようと思っていたけれど、これはもういつも警戒しなければいけないかもしれない…)
一人で二人を守り通せるだろうか、とハヨンは悩み始めるのだった。
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