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剣士の休日
人買い
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しばらく大通を歩いて様子を見ていたが、勇気を出して裏路地に入ることにした。
ハヨンは歩いていると時々麻薬の中毒者と思われる人達に足を掴まれたりしたが、心の中で謝りながら少し乱暴に振りほどいた。
呂律が回らず、足もしっかり立っていないので、這ってくるのだが、その割に脚に爪が食い込むほど掴んでくるのだ。
しばらく裏路地を歩くと、人が店から溢れるほど入っている居酒屋らしきものがあった。
「何か怪しいな。少し覗いてもいいか。」
声を抑えているリョンの問いに頷き、少し身構えながら静かに店に入る。
「こいつは読み書きもできるし頭もそんなに悪くねぇ。それにこの器量だ。将来に期待できるぞぉ。誰か買う奴はいねぇか!」
だみ声の男が、小さな少女を舞台のようなところに引っ張りあげて叫ぶ。少女は手枷をつけられた状態で立っていた。俯き、何もかもを諦めてしまったような光の無い目で客たちを見ている。
「俺は三千リン!」
「いいや、五千リンだ。」
「俺はじゃあ一万だす!」
酒を飲みながらそう競っていく者達。恐いと叫びもせず、泣きもしない少女の姿は、もはや絶望して心に蓋をしてしまったように見えた。
(こんな幼い子まで…)
ハヨンは今にも飛び出して、この少女をこの場から逃したいという衝動を、奥歯を食いしばって耐えた。
(今、飛び出してもリョンに迷惑をかける。それにリョンと売られる子達をかばいながら、この人数と戦えるだろうか。危険が大きすぎる。耐えろ私。耐えなきゃ駄目だ。)
「じゃあ一万リンでお買い上げだ!」
だみ声の男はそう高らかに言って、一万リン出した男に少女を引き渡した。
そのとき彼女とハヨンの目が合う。そして、力なくふらふらと歩く小さな背中。
「リョン。ちょっと外に出てくれない?」
ハヨンは低い声でリョンの腕を掴む。
「ここで一暴れするか?」
居酒屋から少し離れたところで、リョンがそう言った。
「うん。だからリョンは危険だから先に帰って。」
「それは聞き捨てならない。俺も参加する。やっぱりああいうのは見過ごせない。」
「で、でも。リョンは」
ハヨンは彼が剣を振るうところを一切見たことがない。こんな所では力の強さが物を言うことが多い。
「大丈夫だ。俺は一応、王族一剣の扱いが上手い。」
にやっと笑っているリョンの上着の下に、立派な剣が携えてあった。
「なら、絶対正体だけはばらさないってことだけ気をつけてやろう。」
正体が明かされてしまえば、リョンヘ王子に不満を持っている者が歯向かう可能性もある。その上、リョンがお忍びで城を抜け出していることや、ハヨンが任務外の時に剣を振るったことが知られれば、いくら人のためとは言え、大なり小なり咎められるのは目に見えている。ハヨンの言葉にリョンも頷く。
ハヨンが辺りを見渡すと、誰が落としたのかわからないが、笠が落ちていた。拾い上げて土埃を落としてみると、わりと新しいようだ。
ハヨンが被ると、
「いいねぇ、正体不明の二人組って訳だな。」
とリョンが笑う。そして彼は近くにあった店で被りものがついた外套を購入した。
「私は店に入ったらまず、売られている人達を助けに行く。リョンはあの酒場で一暴れして、みんなをひきつけといてくれない?」
「わかった。それって派手にやってもいいんだな?」
リョンはにやりとしながらハヨンに尋ねる。
「誰も危険に巻き込まれなければね。」
間違えて罪の無い人まで巻き込むのは一番してはならないことだとハヨンは思っていた。
二人で物陰に身を隠しながら店の中を伺う。
「じゃあ三つ数えたら飛び出して。一、二、三!」
ハヨン達は物陰から飛び出し、店に走り込んだ。
勢いよく入ってきた二人を見て、店にいた者はざわめいた。
「なんだなんだお前ら。城の回し者か?」
「いいや、違うね。ただの通りすがりの正義の味方だ!」
リョンはそう叫んでだみ声の男に飛びかかった。
「おい、お前ら!」
だみ声の男は店のすみに立っていた体格のよい二人組に声をかける。どうやらこの店の用心棒らしい。どこか異国の血が混じっているのか、燐の国の者とは全く違う骨格だ。肌は浅黒く、筋骨隆々としている。
「何人でも相手してやろうじゃないか。」
そう言って笑うリョンは、いつもより生き生きとしている。
(…リョンって戦いの時性格が変わるんだろうか。いつもに増してのりのりな気がする。)
ハヨンは少し呆れながら笠を深く被り直し、人の目につかないようにこっそり店の奥に入っていく。しかし、店の奥には部屋はいくつかあったものの、どこにも人がいなかった。これには流石に拍子抜けする。
(変だな。いったいどこから…。)
廊下を見渡すと床の木目が、異なっている場所を見つけた。
ハヨンは歩いていると時々麻薬の中毒者と思われる人達に足を掴まれたりしたが、心の中で謝りながら少し乱暴に振りほどいた。
呂律が回らず、足もしっかり立っていないので、這ってくるのだが、その割に脚に爪が食い込むほど掴んでくるのだ。
しばらく裏路地を歩くと、人が店から溢れるほど入っている居酒屋らしきものがあった。
「何か怪しいな。少し覗いてもいいか。」
声を抑えているリョンの問いに頷き、少し身構えながら静かに店に入る。
「こいつは読み書きもできるし頭もそんなに悪くねぇ。それにこの器量だ。将来に期待できるぞぉ。誰か買う奴はいねぇか!」
だみ声の男が、小さな少女を舞台のようなところに引っ張りあげて叫ぶ。少女は手枷をつけられた状態で立っていた。俯き、何もかもを諦めてしまったような光の無い目で客たちを見ている。
「俺は三千リン!」
「いいや、五千リンだ。」
「俺はじゃあ一万だす!」
酒を飲みながらそう競っていく者達。恐いと叫びもせず、泣きもしない少女の姿は、もはや絶望して心に蓋をしてしまったように見えた。
(こんな幼い子まで…)
ハヨンは今にも飛び出して、この少女をこの場から逃したいという衝動を、奥歯を食いしばって耐えた。
(今、飛び出してもリョンに迷惑をかける。それにリョンと売られる子達をかばいながら、この人数と戦えるだろうか。危険が大きすぎる。耐えろ私。耐えなきゃ駄目だ。)
「じゃあ一万リンでお買い上げだ!」
だみ声の男はそう高らかに言って、一万リン出した男に少女を引き渡した。
そのとき彼女とハヨンの目が合う。そして、力なくふらふらと歩く小さな背中。
「リョン。ちょっと外に出てくれない?」
ハヨンは低い声でリョンの腕を掴む。
「ここで一暴れするか?」
居酒屋から少し離れたところで、リョンがそう言った。
「うん。だからリョンは危険だから先に帰って。」
「それは聞き捨てならない。俺も参加する。やっぱりああいうのは見過ごせない。」
「で、でも。リョンは」
ハヨンは彼が剣を振るうところを一切見たことがない。こんな所では力の強さが物を言うことが多い。
「大丈夫だ。俺は一応、王族一剣の扱いが上手い。」
にやっと笑っているリョンの上着の下に、立派な剣が携えてあった。
「なら、絶対正体だけはばらさないってことだけ気をつけてやろう。」
正体が明かされてしまえば、リョンヘ王子に不満を持っている者が歯向かう可能性もある。その上、リョンがお忍びで城を抜け出していることや、ハヨンが任務外の時に剣を振るったことが知られれば、いくら人のためとは言え、大なり小なり咎められるのは目に見えている。ハヨンの言葉にリョンも頷く。
ハヨンが辺りを見渡すと、誰が落としたのかわからないが、笠が落ちていた。拾い上げて土埃を落としてみると、わりと新しいようだ。
ハヨンが被ると、
「いいねぇ、正体不明の二人組って訳だな。」
とリョンが笑う。そして彼は近くにあった店で被りものがついた外套を購入した。
「私は店に入ったらまず、売られている人達を助けに行く。リョンはあの酒場で一暴れして、みんなをひきつけといてくれない?」
「わかった。それって派手にやってもいいんだな?」
リョンはにやりとしながらハヨンに尋ねる。
「誰も危険に巻き込まれなければね。」
間違えて罪の無い人まで巻き込むのは一番してはならないことだとハヨンは思っていた。
二人で物陰に身を隠しながら店の中を伺う。
「じゃあ三つ数えたら飛び出して。一、二、三!」
ハヨン達は物陰から飛び出し、店に走り込んだ。
勢いよく入ってきた二人を見て、店にいた者はざわめいた。
「なんだなんだお前ら。城の回し者か?」
「いいや、違うね。ただの通りすがりの正義の味方だ!」
リョンはそう叫んでだみ声の男に飛びかかった。
「おい、お前ら!」
だみ声の男は店のすみに立っていた体格のよい二人組に声をかける。どうやらこの店の用心棒らしい。どこか異国の血が混じっているのか、燐の国の者とは全く違う骨格だ。肌は浅黒く、筋骨隆々としている。
「何人でも相手してやろうじゃないか。」
そう言って笑うリョンは、いつもより生き生きとしている。
(…リョンって戦いの時性格が変わるんだろうか。いつもに増してのりのりな気がする。)
ハヨンは少し呆れながら笠を深く被り直し、人の目につかないようにこっそり店の奥に入っていく。しかし、店の奥には部屋はいくつかあったものの、どこにも人がいなかった。これには流石に拍子抜けする。
(変だな。いったいどこから…。)
廊下を見渡すと床の木目が、異なっている場所を見つけた。
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