華の剣士

小夜時雨

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剣士の休日

医術師の彼

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「じゃあそろそろ行くね。」
「城で働くのも大変ね。休みといっても結局2泊しかできなかったし。」

  出立しようとしているハヨンにチャンヒはそう声をかけた。

「まあね、でも王族の住まいを守るのが私の役目だから、忙しいのは覚悟してたし。」

  他の護衛と交代するとはいえ、一日中王子の護衛をするのだから、ハヨンには休日と言うものがあまりなかった。そのかわりに休憩を結構まめに取れるので、そこまで不満でもない。

「また休みの時は帰ってきてね」
「もちろん。」
「ハヨン、何かあったら文でいいから遠慮なく相談してくれ。絶対に力になるからな」

  ハヨンはヨウの言葉に強く頷いた。どうやら彼は、ハヨンのこの前の質問で何か心配しているようだった。 

「ヨウさんはまた時間があったら手合わせしてほしいな」
「そうだな。まあお前が傷だらけになって仕事がたちゆかなくなったら大変だが」
「そんなこと言ってたら強くなった私に、負かされてしまうかもしれませんよ?」

と軽口を叩くと、以前の生活を思い出して懐かしくなる。

「じゃあ、行ってきます。」

  ハヨンはそう言って立ち去ったが、何度か振り返ったとき、二人ともこちらを見て立っているのがわかった。そのため、後ろ髪を引かれる思いで前に進んだ。
  ハヨンは来た道とは違う道を歩き始める。リョンと歩いた道では遠回りになっていたのも理由だが、城に帰る途中で会いたい人がいるのだ。

(もう随分と会っていない…。元気かな…)

  彼は忙しいのでなかなか連絡も寄越さない。だから今もその場所に住んでいるかさえ曖昧だ。
  ハヨンは王都に入った頃、ある家の前に立って深呼吸する。開いた窓から物音が聞こえてきた。

(大丈夫、彼ならここにいる。)

  もしいなければ、ここの街で彼が何かを失敗を犯し、去って行ったことを意味するので、ハヨンは戸を叩くのを少し躊躇した。

「こんにちはー」

  ハヨンが戸を叩いてからそう言うと、

「はい、少し待ってください」

と声が返ってきた。

(…!良かった、彼だ)

  そして扉が開くと、男は驚いた顔をした。そしてその顔は徐々に喜色に染まっていく。

「ハヨン!元気だったか。」
「はい。お久しぶりです、ヒョンテさん。」

  彼は医術師で、ハヨンが幼い頃助手として雇っていた者で、生計を立てるのに必死だったハヨンとチャンヒの恩人だ。

「お前が兵士になったのは知っていたが、長い間顔を会わせていなかったからなぁ。懐かしい。次に患者がいつ来るかわからないが、それまで話さないか?」
「はい、もちろんです」

  ハヨンはヒョンテの好意に甘えて家に上がる。薬草や薬研、医学に関する書物等があちこちに置かれているのを見て、ハヨンは思わず笑みを浮かべた。

(懐かしい。ここは昔と全然変わらないな。)

  ヒョンテは忙しいからか、片付けをあまりしなかったので、よくハヨンが掃除や片付けをしていた。医術に携わる者が片付けを怠るなど言語道断、と思うものもいるだろう。しかし、平民を診る医術師の数が圧倒的に足りず、そこかしこを駆けずり回って診療をしているため、文字通り猫の手も借りたいような状況なのだ。

「それにしてもお前が白虎を受けるって言ったときは唖然としたよ。男でもなかなか受からないのにってな。」

  ヒョンテはハヨンにその夢は諦めた方が良いと言ってきた者達の一人だ。ハヨンは彼を慕っていたからこそ、その時は随分とへそを曲げたが、今ならヒョンテがハヨンを思いやっての言葉だとよくわかる。女が兵士になると言うことだけでも前例が無く、苦労が多いからだ。
  ヒョンテは医師の気質だからか理詰めで考える節があり、夢を語ったハヨンに、男の力と女の力の違い等を事細かに説明してきた記憶がある。
  しかし、一向に意思を曲げない強情なハヨンを見て、最後は応援してくれたので、ハヨンは決して彼のことを嫌いになったりはしなかった。

「でも、無事に白虎に入れました」

  ハヨンはわざと得意げな表情で胸を張る。そしてにやりと笑った。こんなに生意気な態度をとったのは、初めの頃に散々反対されたことへの当てつけである。ただし、彼の気持ちも解ってはいるので、これ以上は生意気な態度をとったりはしない。

「そうだな、おめでとう」

  ヒョンテもそれが解っているからか、素直に祝福する。

「それにしても良かった。引っ越してなかったんですね。手紙送っても返ってこなかったから、てっきりどこかに移り住んだのかと思ってました」

  ヒョンテが気まずそうにハヨンから目線を逸らす。どうやら悪いとは思っているらしい。

「悪いなぁ。ずっと忙しくて返せなかったんだ。最近街もますます物騒になって、怪我人やら流行病が蔓延したりとか医術師の休む暇がない」

  医術師になると大抵は王室や貴族のおつき等になって、裕福な生活を送る者も多いのだが、ヒョンテはそういったものに興味は無いらしい。安い値段で丁寧な診察を行うので町の人々からの信頼も厚かった。
  さっきまで往診に行っていたからもう少し時間がずれていたら会えなかったな、とヒョンテはそう言いながら腰をおろす。
  ハヨンもならって昔指定席になっていた椅子に座った。

「それで、どうだ。リョンヤン様の護衛は。」
「覚えていてくださったんですか。」

  忙しいと言いながらも、ハヨンはヒョンテが以前送った手紙での内容をしっかりと覚えていたので驚いた。

「なんだ、俺がまるで適当に読んだかのような言い方だな。」
「だって医術以外ではずぼらじゃあないですか。」

  なんだと?と笑いを含んだ声で言われたので、ハヨンのことわ怒ってはいないようだ。

「お前の手紙だからかちゃんと読んでるんだよ。なんでったって俺の助手だからな」
「元、ですけどね」

  その時ハヨンはヒョンテの机に目がいき、そこには一部だけ整頓されたところを見つける。その箇所にはハヨンの送った手紙らしきものが置かれていた。

「なんで笑ってるんだ?」
「いえ、ちょっと嬉しかっただけです。」

  ハヨンがそう答えるとヒョンテは不思議そうな顔をした。










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