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人は恋に踊らされる
誤解
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「おーい、ハヨン。こんなところにいたのか。もうすぐ朝礼の時間だぞ。ってあれ?この人は…」
近くを通りすがった二つ年上の隊員が声をかけてきたので慌ててリョンは笠を深く被った。
「あ、彼はここで芸人として働いてるリョンです。最近よく会うから仲良くなったんですよ。」
ハヨンは怪しまれないようにとそうリョンを紹介した。ここでどもってしまえば何か隠し事があることがまるわかりだし、相手に先に正体をさらけ出した方が不信感が払拭されるからだ。
「おはようございます。ぜひとも私の演奏をご贔屓にしていただけると嬉しいです。」
リョンもそう爽やかに笑って見せるが、相手に見えているのは口もとだけなので抜かりがない。
「へぇー…。そんなこと言ってハヨンの恋人なんじゃないか?もう声からして色男っぽいもんな。」
(どうしてどいつもこいつも私とリョンが一緒にいると恋人に見えるんだろう。)
ハヨンはこの手の話にうんざりしていた。
白虎、というより兵士はハヨン以外男なので、そういった手のものの話題があまり無く、若い兵士達は何か少しでも異性と関わりができるとこぞって茶化しだす。
(なんだろう、男女の仲をからかいたくなるお年頃だったりするのかな)
いつも仕事においては尊敬しているものの、ハヨンの心の中では今、兵士と幼い男の子を、同じように感じてしまう。
「あのですね。私、そんな恋愛してる暇ありません。」
「あぁあぁ、わかっているとも。そんな中でもしたくなるのが恋ってもんだよなぁ。いやぁ若い若い。」
一人頷いているが、ハヨンの言葉は一切聞いていない。その上自分のことを棚に上げて若いだのと言っているのでハヨンはため息をつきたくなる。
「まぁまぁ、恋人がこうして仲睦まじく待ち合わせたりしているんだったら俺も邪魔しないほうがいいな。」
お幸せに!と、とんでもない勘違いをしたまま先輩の隊員は立ち去った。
「…はぁ。」
ハヨンは思わずため息をつく。これで兵士の間に噂が広まれば、仕事がやりづらくなってしまう。
「ごめんごめん。正体ばれないうちにあの人を追い払いたかったから。なんせ彼は俺の顔もよく知っているからね。」
リョンヘが弁解したりせずに、黙っていたのはそのためだろう。彼はリョンの従兄弟にあたる王子を専属護衛しているので、確かに顔をあわせる機会も多いだろう。声でばれなかったのも奇跡だろう。…それとも、彼が鈍いのか。
「…これから隊の中でどんな顔して過ごそう…。この前もそうやって誤解されたしもうどうやって否定すればいいかわからないや。」
ハヨンの嘆くような口調に、リョンはさすがに申し訳なく思ったらしい。何度もごめんよ、と声をかけ、何をすれば許してくれるかなどと言い始めた。
「またあんたの母さんに会えるように休日を与えるよう父上を説得するから。」
「…それはリョンへ様としての権限だからこそ出来ることでしょ。リョンのときはリョンとして謝って欲しい。」
珍しくハヨンは拗ねてしまったが、ハヨン自身どうして自分が拗ねているのかわからなかった。
(…なんでリョンの言葉に腹が立っているんだろう。)
ハヨンはリョンの言葉を無意識に思い出しては心が痛んだ。
「ごめんって。…じゃあリョンとしてだったら俺はこれぐらいしか出来ることが無いけど…。」
リョンは咳払いをする。
「今から一曲披露するよ。」
リョンは竪琴を掻き鳴らしながら静かに歌い始めた。
(王家の神話の歌だ…)
遥か昔、王の先祖が神から獣を操る力を与えられた時の歌。
彼の歌声はたゆう波の如く、柔らかで優しく響く。
ハヨンはその声に、どこか懐かしさを感じて、目を閉じた。
リョンが歌い終えた後、ハヨンは惜しみ無い拍手を贈る。
「まぁ、いいや。リョンとの関係を誤解されたままの方が、玉の輿狙ってるって女官に思われて、嫌がらせ受けるよりいいや。」
もしハヨンが後宮の女官で、どこかの旅芸人と浮名を流せば姦通罪として、死罪になってもおかしくはなかったが、ハヨンはあくまでも兵士なのでそういったことは無い。
後宮に入った者はもう王の妻の一人として扱われる。そのため浮気はご法度だ。もちろん後宮入りを目指している女官も含まれる。
ハヨンにしてみれば、後宮に入れば王の妻の一人と言う考えは理解しがたい。それはただ単にハヨンが庶民の考えしか持っていないからかもしれないが。
ちなみに姦通罪で罰を受けたものも少ないと聞く。もともとは王族との婚姻を願っている人々が浮気をするのもおかしな話だし、後宮に入れば男性とも接触は少ないだろう。
だから浮気をした女性の相手は大抵他の王族の者だったりするので、またややこしい話になるのだ。
ハヨンはそんな厄介なことに少しも関わりたくなかったので、リョンとの間違った噂もありだと前向きに考えることにする。
「ふーん、そういうものかなぁ。」
なんだか次はリョンが納得し難いような、微妙な表情をしていた。ハヨンはリョンの顔を覗きこむ。
「何、あなたから利用してきたのに不満?」
「いや、そうだったね。うん、いいよ。お互い動きやすいならそうしよう。じゃあよろしく。俺の可愛い恋人さん。」
リョンがおどけた表情で差しのべてきた手を握り握手をかわす。ハヨンもふざけて彼の手を握った。
「嘘だけどね。」
ハヨン達は笑いあったのだった。
近くを通りすがった二つ年上の隊員が声をかけてきたので慌ててリョンは笠を深く被った。
「あ、彼はここで芸人として働いてるリョンです。最近よく会うから仲良くなったんですよ。」
ハヨンは怪しまれないようにとそうリョンを紹介した。ここでどもってしまえば何か隠し事があることがまるわかりだし、相手に先に正体をさらけ出した方が不信感が払拭されるからだ。
「おはようございます。ぜひとも私の演奏をご贔屓にしていただけると嬉しいです。」
リョンもそう爽やかに笑って見せるが、相手に見えているのは口もとだけなので抜かりがない。
「へぇー…。そんなこと言ってハヨンの恋人なんじゃないか?もう声からして色男っぽいもんな。」
(どうしてどいつもこいつも私とリョンが一緒にいると恋人に見えるんだろう。)
ハヨンはこの手の話にうんざりしていた。
白虎、というより兵士はハヨン以外男なので、そういった手のものの話題があまり無く、若い兵士達は何か少しでも異性と関わりができるとこぞって茶化しだす。
(なんだろう、男女の仲をからかいたくなるお年頃だったりするのかな)
いつも仕事においては尊敬しているものの、ハヨンの心の中では今、兵士と幼い男の子を、同じように感じてしまう。
「あのですね。私、そんな恋愛してる暇ありません。」
「あぁあぁ、わかっているとも。そんな中でもしたくなるのが恋ってもんだよなぁ。いやぁ若い若い。」
一人頷いているが、ハヨンの言葉は一切聞いていない。その上自分のことを棚に上げて若いだのと言っているのでハヨンはため息をつきたくなる。
「まぁまぁ、恋人がこうして仲睦まじく待ち合わせたりしているんだったら俺も邪魔しないほうがいいな。」
お幸せに!と、とんでもない勘違いをしたまま先輩の隊員は立ち去った。
「…はぁ。」
ハヨンは思わずため息をつく。これで兵士の間に噂が広まれば、仕事がやりづらくなってしまう。
「ごめんごめん。正体ばれないうちにあの人を追い払いたかったから。なんせ彼は俺の顔もよく知っているからね。」
リョンヘが弁解したりせずに、黙っていたのはそのためだろう。彼はリョンの従兄弟にあたる王子を専属護衛しているので、確かに顔をあわせる機会も多いだろう。声でばれなかったのも奇跡だろう。…それとも、彼が鈍いのか。
「…これから隊の中でどんな顔して過ごそう…。この前もそうやって誤解されたしもうどうやって否定すればいいかわからないや。」
ハヨンの嘆くような口調に、リョンはさすがに申し訳なく思ったらしい。何度もごめんよ、と声をかけ、何をすれば許してくれるかなどと言い始めた。
「またあんたの母さんに会えるように休日を与えるよう父上を説得するから。」
「…それはリョンへ様としての権限だからこそ出来ることでしょ。リョンのときはリョンとして謝って欲しい。」
珍しくハヨンは拗ねてしまったが、ハヨン自身どうして自分が拗ねているのかわからなかった。
(…なんでリョンの言葉に腹が立っているんだろう。)
ハヨンはリョンの言葉を無意識に思い出しては心が痛んだ。
「ごめんって。…じゃあリョンとしてだったら俺はこれぐらいしか出来ることが無いけど…。」
リョンは咳払いをする。
「今から一曲披露するよ。」
リョンは竪琴を掻き鳴らしながら静かに歌い始めた。
(王家の神話の歌だ…)
遥か昔、王の先祖が神から獣を操る力を与えられた時の歌。
彼の歌声はたゆう波の如く、柔らかで優しく響く。
ハヨンはその声に、どこか懐かしさを感じて、目を閉じた。
リョンが歌い終えた後、ハヨンは惜しみ無い拍手を贈る。
「まぁ、いいや。リョンとの関係を誤解されたままの方が、玉の輿狙ってるって女官に思われて、嫌がらせ受けるよりいいや。」
もしハヨンが後宮の女官で、どこかの旅芸人と浮名を流せば姦通罪として、死罪になってもおかしくはなかったが、ハヨンはあくまでも兵士なのでそういったことは無い。
後宮に入った者はもう王の妻の一人として扱われる。そのため浮気はご法度だ。もちろん後宮入りを目指している女官も含まれる。
ハヨンにしてみれば、後宮に入れば王の妻の一人と言う考えは理解しがたい。それはただ単にハヨンが庶民の考えしか持っていないからかもしれないが。
ちなみに姦通罪で罰を受けたものも少ないと聞く。もともとは王族との婚姻を願っている人々が浮気をするのもおかしな話だし、後宮に入れば男性とも接触は少ないだろう。
だから浮気をした女性の相手は大抵他の王族の者だったりするので、またややこしい話になるのだ。
ハヨンはそんな厄介なことに少しも関わりたくなかったので、リョンとの間違った噂もありだと前向きに考えることにする。
「ふーん、そういうものかなぁ。」
なんだか次はリョンが納得し難いような、微妙な表情をしていた。ハヨンはリョンの顔を覗きこむ。
「何、あなたから利用してきたのに不満?」
「いや、そうだったね。うん、いいよ。お互い動きやすいならそうしよう。じゃあよろしく。俺の可愛い恋人さん。」
リョンがおどけた表情で差しのべてきた手を握り握手をかわす。ハヨンもふざけて彼の手を握った。
「嘘だけどね。」
ハヨン達は笑いあったのだった。
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