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おもてなし
密談
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ハヨンとの手合わせを終えてから、ジンホと城の者たちとの会話が、少し和やかなものになった。
リョンヤンも堅苦しい表情と言葉遣いをやめ、いつもの穏やかな笑顔と、優しい言葉遣いでジンホとしきりに話している。
ジンホも時折口の端に笑みを浮かべているのをハヨンは見逃さなかった。
「ここで城の案内は一通り終わりました。今から用意させればちょうど予定していた宴の時間になるので、手配しますが、宴の時間までどうされます?」
「そうだな。私はあなたと二人でお話したいことがある。構わないだろうか。」
「はい。」
リョンヤンはハヨン以外の者をその場から退出させ、ジンホも、自分の護衛者以外は部屋に待機しているよう伝える。そのままリョンヤンの執務室に向かったが、その道すがらはようやく和んだ空気がもう一度張りつめ、何者かが言葉を発せば何かがもろく壊れていきそうな感覚をハヨンは覚えた。
ハヨンは何があってもすぐに動けるよう、こっそりと隠し持ってた暗器を出しやすい位置に移動させたり、衣を動きやすいように少し整え直す。
そうあっては欲しくないが、こうして国の権力者が二人で会うなど、不穏な動きがあってもおかしく無いのだ。露骨に暗殺などは行わないだろうが、こっそり毒を部屋にしこんだりする可能性もありうる。そのため護衛者はこういう場ではいつも以上に相手を注意深く見る必要があるのだ。
(私の本当の仕事はきっとここからだ…。)
護衛者というものは、主人の内密な話でもその場にいないものとして扱われて平然と聞くことができる。いない存在だからこそ、どんな話であっても、例えば誰かの暗殺計画の話だとしても決して口外してはならないのだ。
今回の仕事で、ハヨンとリョンヤンはより深く秘密を抱えることとなる。これからはさらに護衛者としての行動について慎重にならねばならないことが増えるだろう。
ハヨンはこうして自分が国の重要なことに巻き込まれていくことに、不安と興奮が入り交じった妙な気分を味わう。
ジンホが城に来る前に、ハヨンと他の専属護衛の者は、リョンヤンと共にこの部屋にいたが、戸を開けるとすっかり部屋は暗くなっており、昼もとっくに過ぎたことを実感する。
「二人きりでのお話となると、狭い部屋になってしまいますね。」
リョンヤンはそういいながら客人用の椅子に腰かけるように促す。
「いや、私としてもこちらの方が話しやすいのでありがたい。」
とジンホも会釈しながら腰かけた。ジンホの護衛者は一歩下がったところで、そのまま立っている。やはり抜け目の無い様子だ。
ハヨンもならってリョンヤンの一歩後ろに立つ。
「単刀直入に言います。できるだけ早いうちに私の国と同盟を結んではいただけないだろうか。」
ジンホの言葉があまりにも予想外だったので、ハヨンは思わず間抜け面になりそうだったが、ぐっとこらえた。
なぜならハヨンの国、燐こそ武器が足らず、隣国の睦の動きに警戒しており、ジンホの国、滓と同盟を結びたいという意向を以前から匂わせていた。
だから武器も豊富で武力でもここ一帯では随一を誇る滓にこう頼まれるのは思ってもいなかったのだ。
「それはもちろん、喜んでお受けいたしますが、なぜそのような経緯に?」
「最近どうも睦の動きが思った以上に不穏なのです。どうやら我々の国の商人との裏の取引で繋がっているような節があり、武器の調達が今までになく多い。もちろん商人は突き詰め次第とらえますが、こう言ってはなんですが、やはり睦の国にはない特殊な力が欲しいのです。」
それはきっと、獣を操る燐独特の戦いかたを言っているのだろう。
「その上、我々の国ではまだ女人が女官以外の仕事を勤めるということは普通のことではない。そのような柔軟な考えをもつ燐の国を参考にしたいのです。」
まだ女人の兵士はハヨンだけだが、ヘウォンもこれからはもっと女人が活躍できる場を考えようと言っていたのを思い出す。まだまだ燐も駆け出しなのだが、それでもジンホに魅力的だと思ってもらえたのなら良いことだ。
ハヨンは自分が大いに役に立っていることを嬉しく思えた。
「そのようなことが…。わかりました。できるだけ早く滓との同盟について審議にかけます。」
「それはありがたい。」
さすがにすぐに具体的な話に持っていかなかったのは、リョンヤンが国の王子という立場でしかなく、他の意見も聞かずに同盟を結ぶ訳にはいかないからだろう。やはり国と国が手を結ぶのだから、お互い利益になるような条件が欲しいし、それをリョンヤン一存で決めてしまっては責められてしまう。
「実は話はこれだけでは無いのです。」
ジンホが少し声を潜めてそう話を続ける。その表情はあまりよくないことを伝えるようなので、ハヨンは少し緊張して待ち受ける。
「なんでしょうか。」
リョンヤンも珍しく目付きが鋭い。
「その闇商人を調べていると、どうやら燐で何者かがこっそり我らの国の武器を買い占めているようなのです。それもかなりの数を。」
「えっ」
リョンヤンもハヨンも予想外の事実に息を呑んだ。彼女の頭には反逆者、という可能性が浮かんだ。
「何が起こるかわからないですよ。気をつけた方が良いかと。それとその買い占めによってだいぶん闇商人が儲けているようです。できれば燐の国まで調べることができないので、調査をお願いしたいのです。」
「それは…。随分と危ない話ですね。話してくださってありがとうございます。私もできるだけ尽力します。この件はあまりおおっぴらにしては混乱も起こりかねないので、慎重にならねばなりませんが…」
そしてお互いにこれからの予定を話し合い、ジンホ達はリョンヤンの執務室から去って行った。
リョンヤンも堅苦しい表情と言葉遣いをやめ、いつもの穏やかな笑顔と、優しい言葉遣いでジンホとしきりに話している。
ジンホも時折口の端に笑みを浮かべているのをハヨンは見逃さなかった。
「ここで城の案内は一通り終わりました。今から用意させればちょうど予定していた宴の時間になるので、手配しますが、宴の時間までどうされます?」
「そうだな。私はあなたと二人でお話したいことがある。構わないだろうか。」
「はい。」
リョンヤンはハヨン以外の者をその場から退出させ、ジンホも、自分の護衛者以外は部屋に待機しているよう伝える。そのままリョンヤンの執務室に向かったが、その道すがらはようやく和んだ空気がもう一度張りつめ、何者かが言葉を発せば何かがもろく壊れていきそうな感覚をハヨンは覚えた。
ハヨンは何があってもすぐに動けるよう、こっそりと隠し持ってた暗器を出しやすい位置に移動させたり、衣を動きやすいように少し整え直す。
そうあっては欲しくないが、こうして国の権力者が二人で会うなど、不穏な動きがあってもおかしく無いのだ。露骨に暗殺などは行わないだろうが、こっそり毒を部屋にしこんだりする可能性もありうる。そのため護衛者はこういう場ではいつも以上に相手を注意深く見る必要があるのだ。
(私の本当の仕事はきっとここからだ…。)
護衛者というものは、主人の内密な話でもその場にいないものとして扱われて平然と聞くことができる。いない存在だからこそ、どんな話であっても、例えば誰かの暗殺計画の話だとしても決して口外してはならないのだ。
今回の仕事で、ハヨンとリョンヤンはより深く秘密を抱えることとなる。これからはさらに護衛者としての行動について慎重にならねばならないことが増えるだろう。
ハヨンはこうして自分が国の重要なことに巻き込まれていくことに、不安と興奮が入り交じった妙な気分を味わう。
ジンホが城に来る前に、ハヨンと他の専属護衛の者は、リョンヤンと共にこの部屋にいたが、戸を開けるとすっかり部屋は暗くなっており、昼もとっくに過ぎたことを実感する。
「二人きりでのお話となると、狭い部屋になってしまいますね。」
リョンヤンはそういいながら客人用の椅子に腰かけるように促す。
「いや、私としてもこちらの方が話しやすいのでありがたい。」
とジンホも会釈しながら腰かけた。ジンホの護衛者は一歩下がったところで、そのまま立っている。やはり抜け目の無い様子だ。
ハヨンもならってリョンヤンの一歩後ろに立つ。
「単刀直入に言います。できるだけ早いうちに私の国と同盟を結んではいただけないだろうか。」
ジンホの言葉があまりにも予想外だったので、ハヨンは思わず間抜け面になりそうだったが、ぐっとこらえた。
なぜならハヨンの国、燐こそ武器が足らず、隣国の睦の動きに警戒しており、ジンホの国、滓と同盟を結びたいという意向を以前から匂わせていた。
だから武器も豊富で武力でもここ一帯では随一を誇る滓にこう頼まれるのは思ってもいなかったのだ。
「それはもちろん、喜んでお受けいたしますが、なぜそのような経緯に?」
「最近どうも睦の動きが思った以上に不穏なのです。どうやら我々の国の商人との裏の取引で繋がっているような節があり、武器の調達が今までになく多い。もちろん商人は突き詰め次第とらえますが、こう言ってはなんですが、やはり睦の国にはない特殊な力が欲しいのです。」
それはきっと、獣を操る燐独特の戦いかたを言っているのだろう。
「その上、我々の国ではまだ女人が女官以外の仕事を勤めるということは普通のことではない。そのような柔軟な考えをもつ燐の国を参考にしたいのです。」
まだ女人の兵士はハヨンだけだが、ヘウォンもこれからはもっと女人が活躍できる場を考えようと言っていたのを思い出す。まだまだ燐も駆け出しなのだが、それでもジンホに魅力的だと思ってもらえたのなら良いことだ。
ハヨンは自分が大いに役に立っていることを嬉しく思えた。
「そのようなことが…。わかりました。できるだけ早く滓との同盟について審議にかけます。」
「それはありがたい。」
さすがにすぐに具体的な話に持っていかなかったのは、リョンヤンが国の王子という立場でしかなく、他の意見も聞かずに同盟を結ぶ訳にはいかないからだろう。やはり国と国が手を結ぶのだから、お互い利益になるような条件が欲しいし、それをリョンヤン一存で決めてしまっては責められてしまう。
「実は話はこれだけでは無いのです。」
ジンホが少し声を潜めてそう話を続ける。その表情はあまりよくないことを伝えるようなので、ハヨンは少し緊張して待ち受ける。
「なんでしょうか。」
リョンヤンも珍しく目付きが鋭い。
「その闇商人を調べていると、どうやら燐で何者かがこっそり我らの国の武器を買い占めているようなのです。それもかなりの数を。」
「えっ」
リョンヤンもハヨンも予想外の事実に息を呑んだ。彼女の頭には反逆者、という可能性が浮かんだ。
「何が起こるかわからないですよ。気をつけた方が良いかと。それとその買い占めによってだいぶん闇商人が儲けているようです。できれば燐の国まで調べることができないので、調査をお願いしたいのです。」
「それは…。随分と危ない話ですね。話してくださってありがとうございます。私もできるだけ尽力します。この件はあまりおおっぴらにしては混乱も起こりかねないので、慎重にならねばなりませんが…」
そしてお互いにこれからの予定を話し合い、ジンホ達はリョンヤンの執務室から去って行った。
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