華の剣士

小夜時雨

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軍事同盟

ともに結びしもの

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  ついに同盟を結ぶ日となった。
  朝、ハヨンは自室で隊服に袖を通す。この同盟を結んだら明日には帰郷の途につく。そのとき自分の故郷はどうなっているのか。最近、人々の怪しい動きが多いので不安がわき起こる。

(もしかすると、自分が知らないうちに何か小さな動きでもあったかもしれない。)

  城からの早馬や伝令では伝えきれないような、たとえ小さなことでも、リョンヤンやリョンへの身に降りかかるような災いがないか、ハヨンにはそのことばかりが案ぜられる。

(お願いだから…。皆んな無事でいてほしい。)

  父の形見である剣に手を伸ばしながら、ハヨンは祈るように考える。
  そして部屋を出て、隣のリョンへの部屋の戸を叩いた。

「リョンへ様。お迎えにあがりました。」
「ああ、入ってくれ。」

  ハヨンが部屋に入ると、もうリョンへは支度を終えていた。
  気品のある、王族の象徴でもある真紅の衣を纏い、美しい刺繍が施された藍墨茶あいすみちゃの裳は、その赤をに映えており、気品ある色合いに纏められていた。

「では私達はこれで…」

  着付けを手伝っていた、この城の侍女達は部屋からそっと出ていく。

「今日が正念場だな」
「はい」

  朝日に照らされたリョンへの表情はとても柔らかく見える。ハヨンも微笑んで答えた。

「明日にはここを発つが、城に戻ったらまた状況が変わっているかもしれん。それに私達は城を離れていた…。そうであれば完全においてけぼりをくらう。…もし何かあったらリョンヤンを頼んだぞ」
「当たり前でございます。なにしろ私はリョンヤン様の専属護衛なのですから」
(なんでこういうところだけ似ているんだろう…)

  ハヨンは相手を思いやりすぎる二人を、良い関係にも感じるが、一方で苛立ちを覚える。二人には自分の身のことが念頭にないのだ。

「お、そろそろ時間のようだな。では行くか。」
 
  ハヨンはその本音をいつかはぶつけてみたいと思っている。しかし、滓の城を案内する者がやって来たので話は閉ざされたのた。
  同盟の締結は厳かに行われた。皆が静かに見守るなか、滓の王が署名し、その後にリョンへが署名した。
  あとはその署名の写しを書記官が書き取り、正式な印を押してリョンへが受けとる。この書は本国の国王が手にした時からこの同盟は施行される。それまでは仮のものだ。リョンへは写しを丁寧に箱に入れた。
  そこまでの一連の動作を終えて、みなはほっと息をついた。
  その後は大きな仕事を終えた達成感かみな少し表情が明るかった。仕事が本当に終わるのは燐の王城へと戻った時なのだが、やはり山を越えた気にはなるらしい。
  昼食をリョンへとハヨン、その他数人の従者と、滓の王とジンホ、そしてその他数名ととる予定だったのでハヨンはまだまだ達成した気持ちにはなれなかった。
  滓の王は、ジンホを授かったときすでに三十路を過ぎていたらしく、リョンへの父王と比べると、顔には深いしわが刻まれている。しかしその皺はけっして彼を老いたように感じさせるものではなく、むしろ威厳のある物静かな雰囲気があった。
  実際王は口数が少なかったが、口を開けば確信を突く発言ばかりで、鋭い瞳で何事でも見通しているような感覚におそわれた。

「リョンへ殿は武道に通じていらっしゃるそうですな」
「はい、多少は」

  ハヨンは王に話しかけられたリョンへがどのように答えるのか気になってじっと話に耳を傾ける。滓の王は笑った。

「多少ではなかろう。お主は戦の折に王族の中で最も最前線を担う者だと聞いている。それほど信頼されておるのだろう。」

  王子でも落ちこぼれだから、捨て駒なのだ、という噂も燐の宮中では飛び交っているが、第一の理由はそれに間違いないとハヨンも思っている
  以前、一度共に戦ったときはこれほど頼もしい相手はいないと思えたのだ。

「お褒めに預り光栄です」

  リョンへがはにかみながら頭を下げた。

「なんと、リョンへ殿は剣の腕が立つのか。良ければ私と手合わせ願いたいな」

  ハヨンは相変わらず、誰とでも手合わせしたがるジンホの様子に、思わずにやりと笑いそうになる。
  しかし食事中だし、自分もまだまだこの場では下っ端なので顔に力を入れて耐えた。なんだか無愛想に感じていたジンホも、こうなれば可愛らしく思えてきてしょうがない。

「喜んで。城の者がハヨンとお手合わせなさった折に、ジンホ殿は強いと申していたので気になっていたのです。」

  ハヨンは二人の手合わせが観れることに心が躍る。ハヨンとしてはジンホは勝てなかったために悔しい思いをした人物だし、リョンへの強さを信頼している。出来ればリョンヘが勝ってほしい。

「ほう、ハヨン殿もヨンホと手合わせをしたのか」

  そのときハヨンは滓の王に話題を振られて思わず体を強張らせた。どくどくと心臓の動きが、耳鳴りのように聞こえてくる。

「はい。しかしジンホ様とお手合わせさせていただいたことで、私もまだまだ実力が足りないことを自覚しましたので、もっと鍛練を増やそうと思っております。」
「それは違う」

  ハヨンの言葉に被せるようにジンホが話したので、ハヨンは驚いたと同時に何を言われるのかと肝が冷えた。

「この者はとても腕が立つので、ただの力の強い男では負けてしまうでしょう。見た目は細いですし、女人ですが、恐ろしく素早いのと、頭をつかって闘うということを私が知る中では最も理解している者と思います。」

  ジンホの言葉にハヨンはとても驚いた。ここまで他国の従者である自分を褒めるなんて思ってもみなかったからである。

「そうか、燐は様々な人材を見抜き、抜擢する力があるのだな」

  そう滓の王はそう言ってハヨンの方を見、微笑む。その後の食事は和やかに進んでいき、ハヨンはほっとしたのだつた。













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