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揺らぎ
王城にて 漆
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「ヘウォンさん、お邪魔しますよ」
「ハイル…!」
ヘウォンの部屋を吹き飛ばしたのは、間違いなく己の右腕で副隊長であるハイルだった。彼は大きく穴の空いたヘウォンの寝室の壁からゆっくりと入ってくる。その手には室内戦に向いているやや短めな刀が握られていた。
「これは、どういうことだ」
「どういうとは…。貴方があまりに不甲斐ないので、隊長の座をいただきに参ったのですよ」
ハイルの返答に、ヘウォンは眩暈がした。
(もう、おかしなことだらけだ)
ハイルは元々野心家な気質ではない。周囲の力関係を見定めて、安定した状態を維持することを好む者だった。そして、頭も切れて白虎隊の参謀といえばハイルと言われるほどだった。上司から力業でその座を奪うようなことは到底考えられない。彼もまた、イルウォンの手に落ちたのかと、ヘウォンは脳裏によぎる。
「そうだとして、こんな風に俺の部屋を吹っ飛ばす必要はないだろう。何がしたい。」
「この館…いえ、この城は出入り口に全て何か仕掛けがあります。それも通った瞬間に何者かがやってくるような厄介な代物です。なので貴方に監視をつけさせずに合う方法を考えた結果…少し荒っぽくなったというわけです。」
「いや、少々では済まされないが…」
ハイルの言葉に訂正を入れつつも、ヘウォンはいつも館を出てすぐに何者かが己の後ろをつけられる理由がやっと理解できた。とはいえ、こんな大規模な爆発である。暫くしないうちに城を警備しているものか、イルウォンの手下がやってくるだろう。爆発の粉塵や煙が徐々に薄れてきたと同時に、ヘウォンの混乱も少し落ち着いてきた。
(ハイルは俺から隊長の座を奪うと言っていたが…。おそらく…。)
ヘウォンはハイルの狙いに薄々感づいていた。しかし、まだ確証はない。
「お前が隊長になりたい理由はなんだ?」
時間もないので手っ取り早く聞こうと、ヘウォンは単刀直入に尋ねた。
「貴方は大らかで白虎隊の精神的支柱です。そして何より強い。しかし、今の城内ではそれは求められていない。状況を上手く見て立ち回り、犠牲を少しでも減らすことが求められます。」
ヘウォンはイルウォンに口止めをされていたが、ハイルはこの短期間で独自に今の状況を把握していたのだ。ヘウォンは己の右腕が相変わらずの切れ者であることに感嘆する。そして、その言葉に納得もしていた。今のヘウォンはイルウォンにいいように扱われている。これではいつあの取引が反故にされるかもわからない。
「そんな状況にあっては隊長の座は貴方に相応しくない。なので…。」
ハイルが何かを投げてよこす。それを受け取ってみると、爆薬だった。まだ導線に火は付けられていない。
「貴方にはこの城から出ていってもらいます。私の方がこの城の真の主人に上手く取り入って立ち回れるでしょう。」
「そうか…」
そう彼が自信ありげに話すということは何か算段があるのだろう。
「わかった。俺はこの城を出て行く。この爆薬は、城の壁に穴を空けろということか?」
「その通りです。ヘウォンさんに反旗を翻した者たちは、既に城内で行動を起こしています。」
つまりは、ヘウォンを逃す為に、城壁に偽の穴を空けたり、乱闘騒ぎをわざと起こしているということだろう。
「さぁ、早く出ていってください。面倒なことになる前に。」
「ああ、後のことは…頼んだぞ」
「変な人ですね。裏切った部下にそんな言葉を投げるなんて」
ハイルは嘲るようにして言っていたが、先ほどからの態度は建前であることはヘウォンも察していた。ヘウォンは己の愛刀とハイルから渡された爆薬だけを携えて、穴の空いた壁から出ていった。ヘウォンは部下たちの今後が気になって、心残りはあったので、振り返ってしまうとこの機会を逃すような気がして、走り去っていった。ハイルがその後ろ姿が見えなくなるまで見送っていたことは彼の知る由もない_______。
「ハイル…!」
ヘウォンの部屋を吹き飛ばしたのは、間違いなく己の右腕で副隊長であるハイルだった。彼は大きく穴の空いたヘウォンの寝室の壁からゆっくりと入ってくる。その手には室内戦に向いているやや短めな刀が握られていた。
「これは、どういうことだ」
「どういうとは…。貴方があまりに不甲斐ないので、隊長の座をいただきに参ったのですよ」
ハイルの返答に、ヘウォンは眩暈がした。
(もう、おかしなことだらけだ)
ハイルは元々野心家な気質ではない。周囲の力関係を見定めて、安定した状態を維持することを好む者だった。そして、頭も切れて白虎隊の参謀といえばハイルと言われるほどだった。上司から力業でその座を奪うようなことは到底考えられない。彼もまた、イルウォンの手に落ちたのかと、ヘウォンは脳裏によぎる。
「そうだとして、こんな風に俺の部屋を吹っ飛ばす必要はないだろう。何がしたい。」
「この館…いえ、この城は出入り口に全て何か仕掛けがあります。それも通った瞬間に何者かがやってくるような厄介な代物です。なので貴方に監視をつけさせずに合う方法を考えた結果…少し荒っぽくなったというわけです。」
「いや、少々では済まされないが…」
ハイルの言葉に訂正を入れつつも、ヘウォンはいつも館を出てすぐに何者かが己の後ろをつけられる理由がやっと理解できた。とはいえ、こんな大規模な爆発である。暫くしないうちに城を警備しているものか、イルウォンの手下がやってくるだろう。爆発の粉塵や煙が徐々に薄れてきたと同時に、ヘウォンの混乱も少し落ち着いてきた。
(ハイルは俺から隊長の座を奪うと言っていたが…。おそらく…。)
ヘウォンはハイルの狙いに薄々感づいていた。しかし、まだ確証はない。
「お前が隊長になりたい理由はなんだ?」
時間もないので手っ取り早く聞こうと、ヘウォンは単刀直入に尋ねた。
「貴方は大らかで白虎隊の精神的支柱です。そして何より強い。しかし、今の城内ではそれは求められていない。状況を上手く見て立ち回り、犠牲を少しでも減らすことが求められます。」
ヘウォンはイルウォンに口止めをされていたが、ハイルはこの短期間で独自に今の状況を把握していたのだ。ヘウォンは己の右腕が相変わらずの切れ者であることに感嘆する。そして、その言葉に納得もしていた。今のヘウォンはイルウォンにいいように扱われている。これではいつあの取引が反故にされるかもわからない。
「そんな状況にあっては隊長の座は貴方に相応しくない。なので…。」
ハイルが何かを投げてよこす。それを受け取ってみると、爆薬だった。まだ導線に火は付けられていない。
「貴方にはこの城から出ていってもらいます。私の方がこの城の真の主人に上手く取り入って立ち回れるでしょう。」
「そうか…」
そう彼が自信ありげに話すということは何か算段があるのだろう。
「わかった。俺はこの城を出て行く。この爆薬は、城の壁に穴を空けろということか?」
「その通りです。ヘウォンさんに反旗を翻した者たちは、既に城内で行動を起こしています。」
つまりは、ヘウォンを逃す為に、城壁に偽の穴を空けたり、乱闘騒ぎをわざと起こしているということだろう。
「さぁ、早く出ていってください。面倒なことになる前に。」
「ああ、後のことは…頼んだぞ」
「変な人ですね。裏切った部下にそんな言葉を投げるなんて」
ハイルは嘲るようにして言っていたが、先ほどからの態度は建前であることはヘウォンも察していた。ヘウォンは己の愛刀とハイルから渡された爆薬だけを携えて、穴の空いた壁から出ていった。ヘウォンは部下たちの今後が気になって、心残りはあったので、振り返ってしまうとこの機会を逃すような気がして、走り去っていった。ハイルがその後ろ姿が見えなくなるまで見送っていたことは彼の知る由もない_______。
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