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孟へようこそ
己の正体 參
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「つまり、俺が変われってことか…?」
「そう言うことだね。面倒だけど、人に変わってもらうには、自分から変わる他無いんだよ。」
ソリャは黙りこんでしまった。何やら考えているようで、そっとしておくことにする。
「ところでソリャは白虎の姿にはなれるのかい?」
老婆は残る三人にそうたずねた。ハヨンは自分が知り得た、ソリャに関する噂を一つ一つ思い返す。
「白虎の姿を誰かに見られたのなら噂になるだろうし、ソリャ自身も今の姿についてしか言及しているところを見たことがないので、多分なれないんだと思います。」
「私もそう思うわ。あの姿になれたら、もう少し自分への認識も変わってくると思うの。化け物って言うより…。獣って考えそうな気もするのだけど…」
ハヨンの言葉にムニルが同意する。ソリャがどう反応を示すか、彼の方を見たが、老婆の言ったことを反芻し考えているらしい。床をじっと見つめて、体をぴくりとも動かなかった。
「そうじゃな。ちなみに言っておくと、ムニル、あんたが龍の姿になれるのは、自分が何者かをはっきり認識しているからじゃ。あれは四獣の本来の姿だ。」
ハヨンやリョンヘにとっては、ぴんと来ない話だがムニルはふぅん、と訳知り顔だった。
「じゃあ私のあの姿は、伝説のあの青龍と寸分違わない訳ね」
「そういうことになるのぉ。」
「本来の姿?」
一人で考え込んでいたソリャは、いつのまにかこちらの会話を聴いていたらしい。己の求める答えがまるで老婆の目の奥に潜んでいるかのように、見つめている。
「そう。もしかすると、いつかはお前も白虎に変化する力を得られるかもしれぬな。」
「俺が白虎…。まだその事も信じられねぇ話だな…。もしそれが本当なら、今は青龍のムニルと白虎の俺がここに集められている理由は何だ?俺に戦えということか?」
王城を取り戻したい、自身の兄を救いたい、国を反逆者から守りたい、そう言ったことは聴いていたが、やはり実感がわかないだろう。そもそも、リョンヘが王子である事をハヨン達は知っているがソリャにとってはついこの前会ったばかりの人間で、その情報が正しいのか、リョンヘ達を信用していいのかも分からない状態だ。そんな中で国のために戦ってくれと言うのは、不信感を抱く事間違い無いし、今まで人を傷つけることに抵抗があったソリャにとっては受け入れ難いことだろう。
しかし、何せ事を急いで運ばねばならなかった。得体の知れない者が国を乗っ取り、好き勝手にのさばっている状況なのだ。戦力になる四獣に助けを求めることに必死になっていた。
「俺は四獣の全員に力になってほしい。俺の力になってくれる人たちは限られている…。それに民達をできるだけこの戦に巻き込まないうちに決着をつけてしまいたい。そのために共に戦って欲しいんだ」
リョンヘはそうソリャとムニルを交互に見てそう言った。ムニルはその言葉に軽く頷く。彼は力になると前から明言していたし、それを前提に今は動いている。しかし、初めの頃は仕方なく引き受けている節があったため、ハヨンは彼のこの仕草一つで安堵した。
「…つまりそれは人を傷つけるって訳だな?」
ソリャがそう低く呟き、眉根を寄せる。ソリャにとってはもうこりごりな話のようだ。
「…そう言うことになるな。でもこれは俺にとっても本望ではない。戦なんて負の感情が生まれるばかりだ。でも、これを避けたところで、向こうはこの国を無茶苦茶にするつもりだ。そんなことが起きればもっと酷いことになる。」
「…」
ソリャはリョンヘに何も返事をせずにいたが、どうやら迷っているようだ。ソリャがこの事を決めるにはまだまだ時間が必要だ。何せ、人々から否定され続け、その環境から抜け出したばかりだと言うのに、また新たな問題を突きつけられる。誰でもこのような状況になれば戸惑うだろう。
「私は今回の戦に出るわよ。私はこの国の行く末なんて気にしたことはないけどね。それなりに自分でこの戦に意味は見出だしてる。」
ハヨンはムニルの言葉に目を瞠った。彼は四獣という力がなければ、一人の燐国の民だ。そして己の正体を隠し通して来ている。彼は何事にも縛られず、自由な人間であり、真剣な姿勢を見せる事を嫌っている様子もあった。しかし軽い言動と裏腹に、彼はこの状況を己の中に落とし込み、熟慮に重ねていたと言う事だ。
「意味…」
「無理に戦えとは言っていないから、ソリャは戦いたくないならそれで良い。流石に戦い以外での力仕事には力を貸して欲しいが…。自分の状況が把握しずらいと思うから、俺がどう思っているかだけは知って欲しかった。だから正直に言ったんだ。」
「…わかった。」
ソリャはそう言って首肯く。そんなやり取りをじっと見ていた老婆の視線はどことなく鋭く、猛禽類を彷彿とさせてハヨンは少しぞっとした。
老婆は掴みどころの無い言動が多い。そのため今まで一度も彼女の本心に触れられたと思えたことがない。老婆はこれから始まる戦のことををどう思っているのだろうか。
「そう言うことだね。面倒だけど、人に変わってもらうには、自分から変わる他無いんだよ。」
ソリャは黙りこんでしまった。何やら考えているようで、そっとしておくことにする。
「ところでソリャは白虎の姿にはなれるのかい?」
老婆は残る三人にそうたずねた。ハヨンは自分が知り得た、ソリャに関する噂を一つ一つ思い返す。
「白虎の姿を誰かに見られたのなら噂になるだろうし、ソリャ自身も今の姿についてしか言及しているところを見たことがないので、多分なれないんだと思います。」
「私もそう思うわ。あの姿になれたら、もう少し自分への認識も変わってくると思うの。化け物って言うより…。獣って考えそうな気もするのだけど…」
ハヨンの言葉にムニルが同意する。ソリャがどう反応を示すか、彼の方を見たが、老婆の言ったことを反芻し考えているらしい。床をじっと見つめて、体をぴくりとも動かなかった。
「そうじゃな。ちなみに言っておくと、ムニル、あんたが龍の姿になれるのは、自分が何者かをはっきり認識しているからじゃ。あれは四獣の本来の姿だ。」
ハヨンやリョンヘにとっては、ぴんと来ない話だがムニルはふぅん、と訳知り顔だった。
「じゃあ私のあの姿は、伝説のあの青龍と寸分違わない訳ね」
「そういうことになるのぉ。」
「本来の姿?」
一人で考え込んでいたソリャは、いつのまにかこちらの会話を聴いていたらしい。己の求める答えがまるで老婆の目の奥に潜んでいるかのように、見つめている。
「そう。もしかすると、いつかはお前も白虎に変化する力を得られるかもしれぬな。」
「俺が白虎…。まだその事も信じられねぇ話だな…。もしそれが本当なら、今は青龍のムニルと白虎の俺がここに集められている理由は何だ?俺に戦えということか?」
王城を取り戻したい、自身の兄を救いたい、国を反逆者から守りたい、そう言ったことは聴いていたが、やはり実感がわかないだろう。そもそも、リョンヘが王子である事をハヨン達は知っているがソリャにとってはついこの前会ったばかりの人間で、その情報が正しいのか、リョンヘ達を信用していいのかも分からない状態だ。そんな中で国のために戦ってくれと言うのは、不信感を抱く事間違い無いし、今まで人を傷つけることに抵抗があったソリャにとっては受け入れ難いことだろう。
しかし、何せ事を急いで運ばねばならなかった。得体の知れない者が国を乗っ取り、好き勝手にのさばっている状況なのだ。戦力になる四獣に助けを求めることに必死になっていた。
「俺は四獣の全員に力になってほしい。俺の力になってくれる人たちは限られている…。それに民達をできるだけこの戦に巻き込まないうちに決着をつけてしまいたい。そのために共に戦って欲しいんだ」
リョンヘはそうソリャとムニルを交互に見てそう言った。ムニルはその言葉に軽く頷く。彼は力になると前から明言していたし、それを前提に今は動いている。しかし、初めの頃は仕方なく引き受けている節があったため、ハヨンは彼のこの仕草一つで安堵した。
「…つまりそれは人を傷つけるって訳だな?」
ソリャがそう低く呟き、眉根を寄せる。ソリャにとってはもうこりごりな話のようだ。
「…そう言うことになるな。でもこれは俺にとっても本望ではない。戦なんて負の感情が生まれるばかりだ。でも、これを避けたところで、向こうはこの国を無茶苦茶にするつもりだ。そんなことが起きればもっと酷いことになる。」
「…」
ソリャはリョンヘに何も返事をせずにいたが、どうやら迷っているようだ。ソリャがこの事を決めるにはまだまだ時間が必要だ。何せ、人々から否定され続け、その環境から抜け出したばかりだと言うのに、また新たな問題を突きつけられる。誰でもこのような状況になれば戸惑うだろう。
「私は今回の戦に出るわよ。私はこの国の行く末なんて気にしたことはないけどね。それなりに自分でこの戦に意味は見出だしてる。」
ハヨンはムニルの言葉に目を瞠った。彼は四獣という力がなければ、一人の燐国の民だ。そして己の正体を隠し通して来ている。彼は何事にも縛られず、自由な人間であり、真剣な姿勢を見せる事を嫌っている様子もあった。しかし軽い言動と裏腹に、彼はこの状況を己の中に落とし込み、熟慮に重ねていたと言う事だ。
「意味…」
「無理に戦えとは言っていないから、ソリャは戦いたくないならそれで良い。流石に戦い以外での力仕事には力を貸して欲しいが…。自分の状況が把握しずらいと思うから、俺がどう思っているかだけは知って欲しかった。だから正直に言ったんだ。」
「…わかった。」
ソリャはそう言って首肯く。そんなやり取りをじっと見ていた老婆の視線はどことなく鋭く、猛禽類を彷彿とさせてハヨンは少しぞっとした。
老婆は掴みどころの無い言動が多い。そのため今まで一度も彼女の本心に触れられたと思えたことがない。老婆はこれから始まる戦のことををどう思っているのだろうか。
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