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四獣
新たな手がかり
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「いや…。死者を蘇らせるとかなんとか怪しい噂だったな。だから異宗教の類かと思っていたんだが…。あとはその村では崇拝される子供がいるとか。気にはなっていたが、村としてはなんの問題もないと領主から報告を受けていたから後回しにはなっていたんだ。」
死者を蘇らせる。それは大切な人を失った者にとってはどれほど魅力的に聞こえるか。他国では不老不死の薬を作ろうとして、内紛が起こったと、ハヨンは聞いたことがある。皮肉な話だが、それほどに生と死は人間にとって避けようの無い問題なのだ。
「崇拝される子供というのは…。話の流れからすると玄武で間違いないわね。そんな力を持っているのね…。」
ムニルが呆然としながら呟く。確かに他の四獣とは能力が全く異なるが、人によっては喉から手が出るほど羨ましい力だろう。ハヨンとて、亡くなった父に会いたいという気持ちはある。しかし、自然の摂理として失われた命が蘇ったと考えると、些か怪異的にも感じる。諸刃の剣のような能力だ。
「それで、その村はどこなんだ?」
予想以上の話になり、静まり返った空間をソリャの一声が破った。
「冬山群の周という所だ。」
リョンヘの答えに、ハヨンは意気消沈した。冬山群はこの燐国の中でも最も北に位置する領地だ。この孟からではかなりの距離がある。その上、冬も間近なこの季節では冬山なら雪が積もり始めていてもおかしくない。もし出向いたとしても、雪で足止めを食らうだろう。
ハヨンとムニルの表情が暗くなったのを見てか、ソリャがはっとする。ずっと暮らしていた赤架以外の土地には疎いソリャでも、行きづらい場所だというのは察したのだろう。
「やはり冬山だったんじゃな。流石にわしも寒さが堪えるから、噂は耳にしていたが行ってはいないねぇ。最後に出向いたのはいつだったか。」
老婆は腕を組み、首を傾げながら思い起こしている。ハヨンも王城で仕えるようになるまでは、ほとんど家の近辺や王都しかで歩いたことがない。冬山がどんな場所であるのかは、人から聞いたことしか情報がないため、具体的な想像はつかないが、噂の通り寒さの厳しい所なのだろう。
しかし、ふとハヨンはあることが気になった。
(玄武が戦闘向きでないなら、急いで探さなくとも大丈夫なんじゃ…)
玄武の持つ力が本当に死者を蘇らせることであるなら、余計に国内を混乱させるだけだ。玄武の力を公表すれば、火に油を注ぎかねない。
「どんなに探すことが困難でも、玄武は見つけ出した方がいいな。」
正反対の答えに、ハヨンは勢いよくリョンヘの方へと顔を向ける。ソリャもハヨンと同じく驚いた表情だったが、ムニルと老婆は険しい表情で頷く。
「なぜ?彼が来ることで混乱したり、捜索と戦の割り振りが難しくなったりしない?」
「確かにそれは一理ある。だが、イルウォン…あいつは厄介だ。もしあいつに玄武を見つけ出されて、無理矢理従わせることになれば向こうは死者をも戦に駆り出させることになりそうだ」
リョンへの答えにハヨンはぞっとした。既に死んだ者と剣を交えるなど、どうやって勝てば良いのかもわからないし、死者への冒涜にも思えた。
「今の様子だと向こうは手段を選ばないと思うわね。玄武が戦闘向きでないなら、捕らえられても脱出は難しいでしょうし」
「同感じゃな。この国は王族と四獣が支柱であるといってもいい。向こうは青龍と朱雀の姿は確認しているんじゃから、四獣を揃えないようにするためにも玄武を必死になって探すのは間違いないの」
「この前の戦でこちら側の負傷者の数も少なくはない…。どうやって探し出そうか…。」
考えているからか、リョンヘは口を閉し、視線が泳いでいる。ハヨンは老婆がその顔を見ながら、少し意地の悪そうな微笑みを浮かべているのが気になった。
「悩ませているところに悪いんじゃが…。もう一つやらねばならんことがある」
「え?」
リョンヘの眉がぴくりと動き、老婆の笑みは深まった。彼女はリョンヘを助けたいのか、困らせたいのか、相変わらず真意がわからない。いったいどんな難題があるのかと、ハヨンは身構える。
「奉謝の儀。あれを忘れてはならんぞ」
「…。そうだ。もうそんな時期か…」
低く、呻くようにリョンヘは呟く。どうやら忘れかけていたらしい。
城で仕え始めたばかりのハヨンは、見たことがなかったが、一年の締めくくりとして天に感謝の舞を納める儀式だそうだ。国の貴族全員が参加し、王城にある天山の間という祭儀を行う広間で行うらしい。毎年王族の男子が宝刀である天絆の剣で剣舞を行うのだ。ちなみに、前回の儀式はリョンヤン王子が舞手で、しなやかで流れるような舞は好評だったそうだ。
「今まではは伝統の儀式として見ていたが、これも何か意味があるんだろうな」
「何の意味もなくあのような大掛かりな祭典を開いたりはせんじゃろうな。天は自身が分け与えたものを、どう扱うのかずっと見ているとわしは思う。だから、天への感謝を忘れてはいけない。感謝を忘れた者の末路はあまりに虚しいものじゃからな。」
老婆の言葉には納得がいった。大勢の人の中から、四獣がこうして三人揃ったことも、努力はしたとはいえ何か導きとなるものがあったのだろう。
死者を蘇らせる。それは大切な人を失った者にとってはどれほど魅力的に聞こえるか。他国では不老不死の薬を作ろうとして、内紛が起こったと、ハヨンは聞いたことがある。皮肉な話だが、それほどに生と死は人間にとって避けようの無い問題なのだ。
「崇拝される子供というのは…。話の流れからすると玄武で間違いないわね。そんな力を持っているのね…。」
ムニルが呆然としながら呟く。確かに他の四獣とは能力が全く異なるが、人によっては喉から手が出るほど羨ましい力だろう。ハヨンとて、亡くなった父に会いたいという気持ちはある。しかし、自然の摂理として失われた命が蘇ったと考えると、些か怪異的にも感じる。諸刃の剣のような能力だ。
「それで、その村はどこなんだ?」
予想以上の話になり、静まり返った空間をソリャの一声が破った。
「冬山群の周という所だ。」
リョンヘの答えに、ハヨンは意気消沈した。冬山群はこの燐国の中でも最も北に位置する領地だ。この孟からではかなりの距離がある。その上、冬も間近なこの季節では冬山なら雪が積もり始めていてもおかしくない。もし出向いたとしても、雪で足止めを食らうだろう。
ハヨンとムニルの表情が暗くなったのを見てか、ソリャがはっとする。ずっと暮らしていた赤架以外の土地には疎いソリャでも、行きづらい場所だというのは察したのだろう。
「やはり冬山だったんじゃな。流石にわしも寒さが堪えるから、噂は耳にしていたが行ってはいないねぇ。最後に出向いたのはいつだったか。」
老婆は腕を組み、首を傾げながら思い起こしている。ハヨンも王城で仕えるようになるまでは、ほとんど家の近辺や王都しかで歩いたことがない。冬山がどんな場所であるのかは、人から聞いたことしか情報がないため、具体的な想像はつかないが、噂の通り寒さの厳しい所なのだろう。
しかし、ふとハヨンはあることが気になった。
(玄武が戦闘向きでないなら、急いで探さなくとも大丈夫なんじゃ…)
玄武の持つ力が本当に死者を蘇らせることであるなら、余計に国内を混乱させるだけだ。玄武の力を公表すれば、火に油を注ぎかねない。
「どんなに探すことが困難でも、玄武は見つけ出した方がいいな。」
正反対の答えに、ハヨンは勢いよくリョンヘの方へと顔を向ける。ソリャもハヨンと同じく驚いた表情だったが、ムニルと老婆は険しい表情で頷く。
「なぜ?彼が来ることで混乱したり、捜索と戦の割り振りが難しくなったりしない?」
「確かにそれは一理ある。だが、イルウォン…あいつは厄介だ。もしあいつに玄武を見つけ出されて、無理矢理従わせることになれば向こうは死者をも戦に駆り出させることになりそうだ」
リョンへの答えにハヨンはぞっとした。既に死んだ者と剣を交えるなど、どうやって勝てば良いのかもわからないし、死者への冒涜にも思えた。
「今の様子だと向こうは手段を選ばないと思うわね。玄武が戦闘向きでないなら、捕らえられても脱出は難しいでしょうし」
「同感じゃな。この国は王族と四獣が支柱であるといってもいい。向こうは青龍と朱雀の姿は確認しているんじゃから、四獣を揃えないようにするためにも玄武を必死になって探すのは間違いないの」
「この前の戦でこちら側の負傷者の数も少なくはない…。どうやって探し出そうか…。」
考えているからか、リョンヘは口を閉し、視線が泳いでいる。ハヨンは老婆がその顔を見ながら、少し意地の悪そうな微笑みを浮かべているのが気になった。
「悩ませているところに悪いんじゃが…。もう一つやらねばならんことがある」
「え?」
リョンヘの眉がぴくりと動き、老婆の笑みは深まった。彼女はリョンヘを助けたいのか、困らせたいのか、相変わらず真意がわからない。いったいどんな難題があるのかと、ハヨンは身構える。
「奉謝の儀。あれを忘れてはならんぞ」
「…。そうだ。もうそんな時期か…」
低く、呻くようにリョンヘは呟く。どうやら忘れかけていたらしい。
城で仕え始めたばかりのハヨンは、見たことがなかったが、一年の締めくくりとして天に感謝の舞を納める儀式だそうだ。国の貴族全員が参加し、王城にある天山の間という祭儀を行う広間で行うらしい。毎年王族の男子が宝刀である天絆の剣で剣舞を行うのだ。ちなみに、前回の儀式はリョンヤン王子が舞手で、しなやかで流れるような舞は好評だったそうだ。
「今まではは伝統の儀式として見ていたが、これも何か意味があるんだろうな」
「何の意味もなくあのような大掛かりな祭典を開いたりはせんじゃろうな。天は自身が分け与えたものを、どう扱うのかずっと見ているとわしは思う。だから、天への感謝を忘れてはいけない。感謝を忘れた者の末路はあまりに虚しいものじゃからな。」
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