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援助要請
宣布作戦 肆
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ハヨンは大きく羽を広げ、上下に動かす。しかし、体は僅かに浮いただけで、体勢を崩しそうになる。
(前に飛んだ時は、どうしてすんなり出来たんだろう)
イルウォンのもとへと飛んだ時の記憶は殆ど残っていない。ハヨンは一度意識を失っていたし、そこからはっきりと覚醒したのは孟の城に運び込まれ、数日経ってからだ。朧げな記憶は、夢を見た時のように曖昧だった。
ムニルと変化の特訓をしている間も、何度か飛ぶ練習をしたが、まぐれのような確率でしか成功出来なかった。
とにかく飛んでしまえば何か思い出すかもしれないと、ハヨンはさらに激しく羽を動かした。ここまで来ればやけである。
伝説の朱雀が激しく羽を上下させ足掻く様子は、間違いなく滑稽だろう。しかし人前で見せたり、闘う時が来るまでには習得しなければいけない。
腕、もとい羽がもう上がらなくなりそうだと感じ始めた頃、突然足元が地を離れた。
(上手く行った!)
ハヨンはそのまま羽をばたつかせた。動きに合わせて視界がぐらぐらと揺れる。何とか体勢を立て直し、辺りを見回す。しかし景色はいつもと変わりがない。おそらく高度としては自身の身長分程しかないのだろう。ハヨンが羽を上下に動かすと、意外にすんなりと高度は上がった。一度飛んでしまえば、難しくないのかもしれない。
城の情景を見下ろしながらハヨンは王都の方へと向かっていく。ハヨンはこの作戦が決まってから、まずは王都に向かうことを決めていたのだ。なぜなら、人の集まりやすい場所から始めた方が、四獣の存在を知らせやすいと思ったからだ。
風を切って進むのは心地かった。冬というのに寒さを感じないのは、羽毛のおかげなのか、はたまた火を操る朱雀だからなのだろうか。
そんな時に、見慣れた姿を見かけた。ハヨンは高度を下げていく。ハヨンの予想通り、その人物はリョンヘだった。上空から見ると豆粒のように小さかったが、それでも見つけられたのはどうしてだろうか。
ハヨンがリョンヘを中心に大きく周回するような飛び方をすると、彼は気づいたようだ。
「ハヨンか?」
彼の問いに応えるように、ハヨンは鳴いた。鷹のように高く鋭い鳴き声だった。想像もしておらず、ハヨン自身も驚いた。
(でも可愛らしい鳴き声よりも自然かもしれないな)
朱雀が小鳥の囀りのような鳴き声だったとすれば、皆拍子抜けするに違いない。
「訓練の成果が出たようだな。俺も頑張らないと」
リョンヘは幼い頃の記憶が戻ってから、王族固有の能力である獣を操る術も思い出していた。もしかすると、イルウォンの呪いと何か関連があったのかもしれない。
獣の力を借りられるならば、大きな戦力になるに違いない。リョンヘの頑張るという言葉は恐らく獣を操る力を使いこなすということだろう。
ハヨンは激励の意味を込めて短く鳴く。言葉に出せないことがもどかしい。まだ変化も自由自在とは言えないため、人の姿に戻って話すことは躊躇われた。
「気をつけてな」
リョンヘもそれを察しているのか、交わす言葉は短かった。ハヨンはリョンヘの頭上をもう一度くるりと周ると、王都の方へと再び向かった。
孟から王都に向かうには二日はかかる。今は雪も積もり、ぬかるんだ地面を馬で進むのであれば、更に半日はかかるだろう。しかし空というのはこんなにも自由なものなのだろうか。ハヨンはその道程を半日で終えた。恐らく傾斜や道を気にする必要がなく、ただ直線に飛べば良かったからだろう。
空から人々の生活を見下ろしながら進んでいくのは、なかなか興味深かった。
雪で覆われた田畑と、子供達が元気に走り回る光景を目にしたが、王都に向かうにつれ、家屋や人々の数が増えていく。
人々に朱雀の姿を見せつけるように、やや低く飛んでいたため、人々の反応もよく見えた。鳥の姿となったことで、視力も向上しているのだろう。
不思議そうに見上げる子供や、ハヨンを指差して何か叫んでいる者、驚きや喜びが見てとれた。
四獣の存在は伝説のものであり、ハヨンもムニルを目にするまでは実在すると思っていなかった。王族の能力は人智を超えたものだが、四獣は王族が従えていた獣を伝説として扱うための名称だと考えていた。王族と接することの無い平民達では、ハヨンと同様の考えの者の方が圧倒的に多いだろう。真っ赤な鳥が炎を纏って飛ぶ姿は衝撃に違いない。
ふと目を落とすと、子供が竈の前に座っている。火打ち石を持っているところからすると、今から食事を作るのかもしれない。
(偉いな…。私は訓練に明け暮れていたから…。)
ハヨンは母親や師匠のヨウに思いを馳せる。
王城での反逆により、長い間二人には会えていない。王を暗殺者から守った褒賞として一度休暇を貰い、帰郷した時が最後だ。宮中で仕えるというのは、そういうものだろう。しかし今は国内で戦が起きている状況だ。二人とも心配していることは間違いない。
母のチャンヒは父が亡くなってからは、ハヨンを女手ひとつで育てた。ハヨンは生活費を稼ぐために、医術師のヒョンテのもとで働いてはいたが、その他はヨウとの訓練に当てていたため、家事や耕作は殆ど関与していなかった。
幼子が家事を手伝う様を見て、ハヨンはもっと手伝うべきだったと、少し後悔していた。
(燐の国での争いが収まったら、一度帰りたいな)
そう考えながらハヨンは竈の前にいる子供にそっと近づいた。
(前に飛んだ時は、どうしてすんなり出来たんだろう)
イルウォンのもとへと飛んだ時の記憶は殆ど残っていない。ハヨンは一度意識を失っていたし、そこからはっきりと覚醒したのは孟の城に運び込まれ、数日経ってからだ。朧げな記憶は、夢を見た時のように曖昧だった。
ムニルと変化の特訓をしている間も、何度か飛ぶ練習をしたが、まぐれのような確率でしか成功出来なかった。
とにかく飛んでしまえば何か思い出すかもしれないと、ハヨンはさらに激しく羽を動かした。ここまで来ればやけである。
伝説の朱雀が激しく羽を上下させ足掻く様子は、間違いなく滑稽だろう。しかし人前で見せたり、闘う時が来るまでには習得しなければいけない。
腕、もとい羽がもう上がらなくなりそうだと感じ始めた頃、突然足元が地を離れた。
(上手く行った!)
ハヨンはそのまま羽をばたつかせた。動きに合わせて視界がぐらぐらと揺れる。何とか体勢を立て直し、辺りを見回す。しかし景色はいつもと変わりがない。おそらく高度としては自身の身長分程しかないのだろう。ハヨンが羽を上下に動かすと、意外にすんなりと高度は上がった。一度飛んでしまえば、難しくないのかもしれない。
城の情景を見下ろしながらハヨンは王都の方へと向かっていく。ハヨンはこの作戦が決まってから、まずは王都に向かうことを決めていたのだ。なぜなら、人の集まりやすい場所から始めた方が、四獣の存在を知らせやすいと思ったからだ。
風を切って進むのは心地かった。冬というのに寒さを感じないのは、羽毛のおかげなのか、はたまた火を操る朱雀だからなのだろうか。
そんな時に、見慣れた姿を見かけた。ハヨンは高度を下げていく。ハヨンの予想通り、その人物はリョンヘだった。上空から見ると豆粒のように小さかったが、それでも見つけられたのはどうしてだろうか。
ハヨンがリョンヘを中心に大きく周回するような飛び方をすると、彼は気づいたようだ。
「ハヨンか?」
彼の問いに応えるように、ハヨンは鳴いた。鷹のように高く鋭い鳴き声だった。想像もしておらず、ハヨン自身も驚いた。
(でも可愛らしい鳴き声よりも自然かもしれないな)
朱雀が小鳥の囀りのような鳴き声だったとすれば、皆拍子抜けするに違いない。
「訓練の成果が出たようだな。俺も頑張らないと」
リョンヘは幼い頃の記憶が戻ってから、王族固有の能力である獣を操る術も思い出していた。もしかすると、イルウォンの呪いと何か関連があったのかもしれない。
獣の力を借りられるならば、大きな戦力になるに違いない。リョンヘの頑張るという言葉は恐らく獣を操る力を使いこなすということだろう。
ハヨンは激励の意味を込めて短く鳴く。言葉に出せないことがもどかしい。まだ変化も自由自在とは言えないため、人の姿に戻って話すことは躊躇われた。
「気をつけてな」
リョンヘもそれを察しているのか、交わす言葉は短かった。ハヨンはリョンヘの頭上をもう一度くるりと周ると、王都の方へと再び向かった。
孟から王都に向かうには二日はかかる。今は雪も積もり、ぬかるんだ地面を馬で進むのであれば、更に半日はかかるだろう。しかし空というのはこんなにも自由なものなのだろうか。ハヨンはその道程を半日で終えた。恐らく傾斜や道を気にする必要がなく、ただ直線に飛べば良かったからだろう。
空から人々の生活を見下ろしながら進んでいくのは、なかなか興味深かった。
雪で覆われた田畑と、子供達が元気に走り回る光景を目にしたが、王都に向かうにつれ、家屋や人々の数が増えていく。
人々に朱雀の姿を見せつけるように、やや低く飛んでいたため、人々の反応もよく見えた。鳥の姿となったことで、視力も向上しているのだろう。
不思議そうに見上げる子供や、ハヨンを指差して何か叫んでいる者、驚きや喜びが見てとれた。
四獣の存在は伝説のものであり、ハヨンもムニルを目にするまでは実在すると思っていなかった。王族の能力は人智を超えたものだが、四獣は王族が従えていた獣を伝説として扱うための名称だと考えていた。王族と接することの無い平民達では、ハヨンと同様の考えの者の方が圧倒的に多いだろう。真っ赤な鳥が炎を纏って飛ぶ姿は衝撃に違いない。
ふと目を落とすと、子供が竈の前に座っている。火打ち石を持っているところからすると、今から食事を作るのかもしれない。
(偉いな…。私は訓練に明け暮れていたから…。)
ハヨンは母親や師匠のヨウに思いを馳せる。
王城での反逆により、長い間二人には会えていない。王を暗殺者から守った褒賞として一度休暇を貰い、帰郷した時が最後だ。宮中で仕えるというのは、そういうものだろう。しかし今は国内で戦が起きている状況だ。二人とも心配していることは間違いない。
母のチャンヒは父が亡くなってからは、ハヨンを女手ひとつで育てた。ハヨンは生活費を稼ぐために、医術師のヒョンテのもとで働いてはいたが、その他はヨウとの訓練に当てていたため、家事や耕作は殆ど関与していなかった。
幼子が家事を手伝う様を見て、ハヨンはもっと手伝うべきだったと、少し後悔していた。
(燐の国での争いが収まったら、一度帰りたいな)
そう考えながらハヨンは竈の前にいる子供にそっと近づいた。
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