ワケあり!?女オーガの嫁取り冒険譚〜ハーレムを求められたら受け止めるしかないだろう!?〜

加藤備前守

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Session01-4 二人の秘密

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 武具を揃えた後、彼女らはハルベルトの街を旅立った。
 徒歩で最低でも五日はかかる所のため、野宿が必要なところは交代で睡眠をとり、道中に点在する町や村では宿泊させて貰えるところを探し、休む予定である。
 一日は十二の”こく”で分けられている。ハルベルトを出たのは六刻を過ぎたくらいであった。そこから三刻も歩けば日が暮れる。夏ゆえに日が落ち切るのは遅いが、落ちてしまえば、夜の闇の中を松明やランタンの灯りを頼りに歩き通すのは自殺行為に等しい。
 夜の闇は、魔物と呼ばれる存在や、狼と言った肉食動物に有利だ。鉱人族ドワーフ森人族エルフは闇を見通す事ができるが、ほとんどの種族は闇を見通す事ができず、それが恐怖のもとになる。
 そのため、人は安全を求めて隊商や一党パーティを組み、闇を超えるのだ。
 彼女らは夜を徹して急ぐ必要はないため、まず、最寄りの村に唯一存在する宿の部屋を借りる。女性五人という事と金目の物があるという事もあり、部屋を借りる事にした理由だ。
 食事も出せるということで、五人分を注文する。堅いパンに芋と野菜をベースに少しのベーコンと塩をアクセントにしたポタージュが器に盛られて提供された。
 それを各々がパンをちぎり、ポタージュへ浸しながら咀嚼そしゃくしていく。温かい料理を腹に入れられる。それが凄く大きい。道中の食料としてこの堅パンよりも固く焼き上げた携行用のパンに強く塩漬けにされた肉。余裕があれば乾燥させた果物。そして水。食べるときに火を炊くということが厳しい事の方が多いため、どうしても食べるものは一辺倒になってしまう。

「うむ!美味い。温かい食事に、酒と寝床もある。十分過ぎるな!」

 バーバラはニッカリと笑いながら盃に注いで貰った酒を呑み、そう口にした。
 他の四人も同意見である。途上の村にそれなりの宿があり、温かい食事と寝床を得られる。そして……。

「さっき、店主に交渉して湯を用意して貰ったぜ。汗を拭えるなら拭っておいた方がいいからな。」

 保存食として用意していた塩漬け肉の、自身の分を少し取り出して噛りながらピッピが言う。そして、盃に入った酒をゴクリと口にする。

「ならば、ピッピにフィーリィにルナ。そなたらは先に部屋で湯を使ってくれ。我は少しアイルと話をしたくてな。」

 バーバラのその言葉に、三人は頷き席を外す。それを見送った後、バーバラはアイルに向き直った。先程までの陽気な雰囲気はなく、ただ真剣な眼差しを向けるのみであった。

「さて、アイル。少しお主と話したいという理由についてじゃが……リーダーとして、お主の秘密を把握しておきたいのじゃ。」

 自身の手元の盃に酒を注ぎ、アイルの目の前にある盃にも酒を注ぐ。
 そして一口、口にする。
 その仕草をアイルは目を逸らさず、見定めていた。

「もちろん、お主の秘密を打ち明けて貰うのだ。その代わりにこちらも、お主の質問に対して、答えよう。秘密としていることもな。」

 バーバラは、盃を音を立てながら置いた。そして、今まで以上に真剣な眼差しを向け、誓いを口にする。

「我が名、バーバラ・ロドス・デ・フォルミタージの名と名誉にかけて、アイル、お主が口にした秘密は我が胸に納める事を誓おう!」

 その名乗りを聞いて、アイルは表情を動かした。
 その名は、とある鉱人族の国の有名な工房の名であったからだ。
 鉱人族は武器や防具、宝飾品などと様々な物を作る工房が家の基準になっており、その中でも高名な工房は国を代表するものとして他の国で言う貴族と同等の地位を持っていた。フォルミタージ工房は大規模工房の中でも十指の中に入る名であった。
 そのため、平民や農民ではピンとは来ないが、商人や王侯貴族であれば名前を知らなければ問題視される程である。
 そして、アイルの表情に反応があったことで、バーバラにも分かったことがあった。
 最低でも、商家以上。持っていた剣からして貴族である可能性が高い。

「我が名、アイル・コンラート・フォン・ベルンシュタインの名と名誉にかけて誓う。バーバラが口にした秘密は俺の胸に納める事を。」

 そうバーバラに宣誓し、注がれた酒を口にする。コトリと盃を置く音がなった。

「アイル。まずはお主から聞きたい事を聞いてくれ。お主が聞くことについて、包み隠さず答えよう。古の話で、こう言うじゃろう? ”赤心を推して人の腹中に置く”とな。」

 いつもの屈託のない、にっかりという表現がピッタリな笑顔を浮かべながら、そう口にした。
 それを聞いたアイルは溜息を吐いた。

「……あなたはフォルミタージ工房の現工房長の娘ってことで良いのか?」

「うむ。現工房長、ロドスの三女になる。」

「フォルミタージ工房程の大工房だと、伯爵位相当と覚えているが……。そんなあなたが何故冒険者に?」

「そうじゃな……。世界を見たかった。旅をしたかった。冒険をしたかった。……まぁ、冒険者に憧れていた、ということじゃな!」

 指を折りながら目的を数えた後、カカカッと笑いながらバーバラはそう口にした。それにはアイルも毒気を抜かれてしまう。

「……ということは、許可は得ているのか?」

「許可は得たぞ? 殴り合いの喧嘩を父上としたがな! フォルミタージの庇護は受けないという約束で許可を得たのじゃ……。じゃから、本来工房作の品には工房印を入れるのじゃが、それを削ってあるわけじゃな。」

 バーバラは、自身の護身用短剣を鞘ごと机の上に置いた。
 それには確かに、印が削られ、どこ製か分からないようになっていた。

「あなたの目的は何なんだ?」

「目的か……。今の仲間、我、フィーリィ、ピッピ、ルナ……そしてお主。我らで色々こなして、冒険譚として語られるくらいになりたいではないか。そうじゃろ?」

「冒険譚として……か。この後の見通しとかはあるのか?」

「考えているのは、何度か依頼をこなした後、徒党クランを作ろうかと考えておる。更に仲間を集め、迷宮への挑戦と依頼をこなして名声を高めると言った所じゃな。」

「徒党か……。」

 バーバラの発言にアイルは考え込んだ。
 冒険者はほとんどの場合、一党を基本に動いている。
 一党以上に纏まる事は少ない。何故ならば人付き合いが生じるからだ。
 複数の一党を束ね、意思統一し、運用する。組織になってしまうからだ。
 組織になる事でメリットはもちろん存在する。
 だが、それ以上に自分たちの目的や目標、そう言ったことが他者とぶつかってしまうことが多いのだ。
 そのため、徒党というくくりは存在するが、それはそう多くない。
 高名な一党が、戦闘奴隷を集め、いくつかの一党を作り、運用しているという例がある。
 英雄譚として、猛威を振るった悪魔の王が潜む迷宮へ、数多くの一党が集まり、合わせて百人を超える徒党となって挑み、ついには悪魔の王を討滅したという話がある。
 バーバラがどこまでを求めているのか。
 そこまでは思いつかないが、ビジョンはあることがわかった。

「他にはあるかの?」

「いや、大丈夫だ。今度は俺に質問してくれ。」

 バーバラの確認の言葉に対して、頭を振って答える。
 その仕草を見たバーバラは居住まいを正し、質問を口にした。

「お主が貴族だということはわかった。お主が貴族なのに、冒険者となることを選んだ理由を聞かせてくれんか?」

「……俺は、ベルンシュタイン家の側室の子で、三男で庶子になる。母は鬼人族オーガのとある部族の族長の娘だった。鬼人族の部族群と交渉の窓口となっているのが俺の実家でね。親交のために嫁いできて……ってわけだ。」

「なるほどのぉ。……ベルンシュタインと言えば、確かこの国の北方を守る辺境伯がその名じゃった気がするが……。」

「そのベルンシュタインで間違いはない。」

 アイルの出生についての答えを聞いたバーバラは、ふと、覚えのあった名であったため、その質問を口にした。
 アイルはその質問に対して、言葉少なく答えを口にしながら頷いた。

「……正真正銘の貴族という事か。であれば、あの振る舞いもわかる。……ああ、すまぬ。続けてくれ。」

「その鬼人族の部族群には、他に二つの部族があるんだが……。その二つの部族の族長の娘を受け入れなければならなくなった。」

「一つの部族だけ親交を深めただけでは、他の部族が満足しない。まぁ当然の帰結じゃな。」

 アイルの話に、バーバラがうむうむと相づちを打ちながら、酒を口にする。

「……その二人は俺の幼馴染でな。俺が二人を娶る為に、実力を示すために冒険者を選んだんだ。」

 バーバラは酒をゴクリと飲み干すと、盃を机に置いた。
 そして、今のアイルの発言を反芻する。

「……二つの部族の部族長の娘さんがお主の幼馴染ということは分かった。じゃが、娶るという意味がわからん。思い返すと、三男とも言っていたが、そこらを説明してほしい。」

 バーバラの疑問について納得したのか、盃に残った酒をあおるようにして呑み、アイルは答えを口にした。

「……俺は”両性具有フタナリ”なんだ。男であり、女でもある。普人族と鬼人族の”半端者”な上に、男と女の”半端者”でもあるんだ。人としても貴族としても異端……だから、成果を上げねばならないのさ。」

 アイルの言葉を、バーバラは頭の中で反芻するようにアイルの言葉を口にした。

「……”両性具有”か。……ということは、ついておるということか?」

 バーバラは頬を赤らめながらも、その質問を口にした。
 彼女はそれなりの教育を受けているため、そう言った知識もあったからである。
 アイルはその質問に、真顔で頷くと共に立ち上がり、自身の着ている服に手をかけた。それを見たバーバラが顔中を真赤にしながら慌てて止める。

「わかった!わかった!見せんでいい!……そうなると、そっちの方の欲は……どうなってるんじゃ? ……その、何というか……。」

 アイルは、バーバラの慌てぶりを見て服を脱ぐのやめ、再度席へ座り直した。また、続いた質問に対して、苦笑いを浮かべた。

「性欲は、もちろんある。だが、それで一党に迷惑をかけるようにはしない。約束する。」

 そして、表情を真顔に戻し、バーバラに向かって頭を下げた。話すべきこと、伝えるべきことは伝えた。
 それがどう捉えられるかは相手次第。
 特に、人と”違う”ということは、根深き差別となりうる。
 農村などであれば、化け物や悪魔とされ、殺されることだってあり得るだろう。
 貴族社会であっても、異端でしかない。
 そんな中で、彼女の求めている事を成すには、貴族社会以外で成果を上げねばならない。
 成果を上げる方法の中で、一番手っ取り早いのが冒険者であった。
 名を上げれば、仕官もあり得る。
 国や地域に貢献したのであれば、叙爵もあり得るやもしれない。
 自分の幼馴染である少女二人を娶るためにどれくらいの成果をあげれば良いかはわからないが……それでも、これが第一歩であった。
 そして、この身体である以上、男だけの一党を選ぶことができないことも関係がある。
 ”男”であり、”女”でもあるのだ。自分自身の欲は、我慢をするなり、別の方法で発散すればいいが、他者の欲の対象となった場合。それが一番の問題であった。
 それを警戒するとなると、下手な一党には入れない。
 名と名誉にかけた約束故にアイルは腹を割って答えたのだ。
 その姿をバーバラはじいっと見つめ、そして口を開いた。

「あい、わかった。我はアイルを信じるぞ。ただ、一つだけ約束をして欲しい。」

 バーバラの言葉を聞いて、アイルは身体を起こした。そして、その真剣な眼差しを正面から受け止めて、続きを促すように一度だけ頷いた。

「我もこの仲間と一緒にやりたい。そのためには、我とお主の秘密は、皆が知っていないといけないことだと思う。もちろん、それ以外の者には伝える必要はないと思っておる。」

 自身の盃に酒を注ぎながら話を続ける。

「故にじゃ。この依頼が終わった後、我とお主の秘密を皆に明かそう。それが我とお主、各々の目的に繋がる一歩じゃと思う。」

 そして、アイルの盃にも酒を注いでいく。

「どうじゃろうか?」

「……あなたの言う通りだと思う。約束する。」

 アイルのその返事に、バーバラは相好を崩した。
 あのにっかりと言う笑みを浮かべ、盃を手に取り、掲げる。
 それを見て、アイルも盃を掲げ、この人には敵わないと観念したように、ほほえみを浮かべた。

「我らの一党の未来に。」
「我らの一党の武運に。」

 バーバラが口にするのに合わせて、アイルも口にした。
 そして、互いに一息に仰ぎ呑む。
 飲み干した盃を机に置き、互いの顔を見て、互いに笑いあった。

「さて、我らも湯を使わせて貰うとしようぞ。」
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