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Session03-04 新たな出会いは唐突に
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四日目……小規模一群を三つ発見、そして撃破した。トロールが含まれており、成果としては上々。流石に、”魔法の鞄”のような魔道具は出てこなかった。装備していた武具、素材になる部位を収集。今回は、今までの戦いからの反省点を活かせ、魔法の使用回数を温存した上での撃破ができた。そして、野営の際に確認が出来たことだが、〆られていた狼、水牛、渡り鳥が傷んでいない事が分かった。何分、今は夏である。だらりだらりと汗が流れる程の暑さの中で、水でさえも下手すれば腐敗してしまう時期だ。生物を取り出した時点で熱を持たず、腐敗が感じられなかった。この時点で、五人は、『この”魔法の鞄”は絶対に手放さない。』と意見を一致させた。
五日目……西の方……砦の北側へ様子見を兼ねて狩場を移す。紅葉の国の西部を縦断するように流れるソーキ大河。水量も多く、幅も広い大河である。”迷宮”指定になるまでは近くに大きめの渡し場があり、隣国と交易をしてもいたが、河口を扼するチョトー砦近郊が”迷宮”指定となったため、廃れてしまった。しかし、まるっきり流通がなくなるということはないのが人の営みというものであろう。川賊とも言うべき者共が渡し場を作り、東西の流通を細々とだが、つなげているのだ。彼らは上流となる北方……ベルンシュタイン辺境伯領にて手に入る品を仕入れ、自分たちで維持する渡し場まで輸送。その後、レンネンカンプ辺境伯領都である、ハルベルトまで運び、金に換えるのである。品としては、石材や木材が中心であった。チョトー砦から来た一群が襲ってくることもあるが、そこは川賊と名乗る者達。返り討ちにすること多々であった。
彼らは”青鮫党”と名乗っており、荷の一割を要求するが速やかに対岸へ渡すのと、無体なことはしない、今となっては珍しい川賊であった。
そんな”青鮫党”の元に、アイル達が訪れるのは必然と言えよう。
ソーキ大河に沿って、北へ進むと辺境伯軍が建設した観測所とは違う、建造物が見えてくる。木材と石材を使って、砦の様な壁を作っており、それが対岸にも作られていた。大きい筏が係留されており、それを使って荷や人を運ぶのだろう。壁上には数名の見張りがおり、周囲を警戒していた。一群が見つかれば、すぐに連絡が入り、壁を使って迎え撃ち、筏を使って側面から援護するような流れなのだろう。
「貴殿らは何者か!」
「我が名はバーバラ!我らは、冒険者の一党で、”鬼の花嫁”という!ここにおるアイルが党主じゃ!対岸に渡るための商談をしたい!」
誰何の声に対し、バーバラが代表して応える。その言葉を聞いた見張りは、確認するように壁の中に声をかけた。その後、反応があったらしく、改めて、見張りが彼女らへ声を投げかける。
「どうぞ、お客人!お入り下さい!」
その声に従い、”青鮫党”の渡し場へと入っていく。壁の内側に入ると十数名の男共が、各々の武器の手入れをしていたり、訓練などをしており、改めてそこらへんの野盗や山賊とは一線を画していることがわかった。そうこうしていると、五十代半ばと思われる貫禄のある男と、一歩下がって三十代の男と、十代半ばの女が近寄ってきた。
「お主らが”鬼の花嫁”か。ワシが”青鮫党”党主、ケーマ・ヨース・ツーシュウじゃ。後ろが、ワシの息子のソーヤ・ケーマ・ツーシュウと、孫のイーネ・ソーヤ・ツーシュウじゃ。ワシらで商談の相手をさせていただこう。」
「”鬼の花嫁”の党主、アイルだ。左から、バーバラ、フィーリィ、ピッピ、ルナ。冒険者として、チョトー一帯の”間引き”を行っている。向こう岸の方でも間引きを行いたいので、商談をしたい。」
「承知いたした。イーネ。皆様を客間へ案内なさい。すぐに、ワシとソーヤも参ります。」
「”鬼の花嫁”の皆様、こちらへどうぞ。」
イーネが丁寧にお辞儀をした上で、先を歩いて行く。先導するイーネを追いかけてアイル達は母屋へ入っていった。それを見送る様にケーマとソーヤが見ていた。そして、ケーマが何事かを囁くと、ソーヤが離れていった。
◆◆◆◆◆
母屋に入った後、客間に案内されたアイル達は、板張りの床に用意された座布団に腰を下ろし、ケーマとソーヤを待つ。その間に、イーネがお茶を用意し五人へ提供した。それは緑色の濃厚な茶であり、ハルベルトで良く飲まれる紅茶とはまた違った味わいであった。アイル、バーバラ、フィーリィは苦もなく飲み、ピッピとルナは苦味を強く感じたのか苦手なようだった。それを察したイーネが、合間に口にするように黒い粉を皿に盛って差し出した。問題がないことを示すように、自身でそれをひと摘み分、摘んで口に入れた。それを見たピッピとルナが真似をして、ひと摘み口にした。
「「……砂糖だ!?」」
二人は驚きの声を上げた。その声にまだ口にしてない三人も驚いた。”黒い”砂糖は見たことがなかったのだ。精製の度合いが高い程色が白くなり、そして高級品となる。最下級品ともなれば出涸らしで、色が残って茶がかかった様な物が存在する。……しかも、量を誤魔化すために、砂を混ぜるのだ。違和感を感じても、甘味は感じる。だから、売れる。同じ様に量を誤魔化される物として、塩がある。こっちは生活上必需品のため、砂が混ざっていても、おかしい値段でなければ買わざるを得ないのだ。なので売れる。紅葉の国では、塩商人は認可制であり、二年毎の更新制をとっている。あまりにも評判が悪い場合、認可取消などもあり得る。そのため、あくどい事はあまり起こっていない。
三人も黒い砂糖をひと摘み口にして、顔を見合わせて頷いて見せた。
「……砂糖だな。」
「……砂糖じゃな。」
「……砂糖ですね。」
まず、今まで口にした砂糖とは違った甘さであった。これは流通できれば、既存の砂糖と別物として販売できると思えるものであった。
そんな砂糖が、この場で初めて口にできるということは、流通していない事が理解できる。では、何故、これを出してきたのか。その理由を三人は考えたが、ピッピとルナは、砂糖を摘んだ後、茶を口にした。苦味が抑えられた上で甘味が広がり、苦もなく飲み干した。
皆が一服終えたのを見計らった様に、ケーマとソーヤが客間へ入ってきた。そして、ケーマが上座に座り、ソーヤがケーマから見て左手側一番手前に座り、その隣にイーネが座り直した。
「遅れてしまい、誠に申し訳ござらん。イーネのもてなしはいかがじゃったろうか?」
ケーマが好々爺然とした感じで、イーネの対応についての質問をしてきた。それに対し、アイルがケーマに向かって顔を向けて答えた。
「イーネ殿の御点前、美事でございました。馴れておりませんものにも甘味を御用意いただくなど、お気遣い素晴らしく、感服致しました。」
胡座を組んで座ったアイルが、イーネに向かって身体を倒すように頭を下げた。その言葉に応えるようにイーネも頭を下げる。それを見たケーマは「フォッフォッフォ。」と白髯を撫で付けながら笑い声をあげた。
「さて、では、商談と参りましょうかの? 皆様は”間引き”で渡りたいとのことじゃが……”只の”間引きであれば、そこまでされる必要はないと思いますが……。」
チラリと五人に視線を送る。それを受けて、バーバラが身体の向きを変えて答えた。
「されば、今回の理由じゃが……我らはチョトー地方の”解放”を目的にしておる。そのためには、川向うに渡り様子を見る必要があると考えておりましてな。”間引き”のついでに偵察をしようと思っておるじゃ。」
「ほほぉ……チョトー地方の解放とは大きくでましたな。……冒険者の一党を向こう岸へ渡すことはございましたが、そこまで大風呂敷を広げる方は、ついぞいらっしゃいませんでしたなぁ。」
フォッフォッフォッと笑い声を上げるが、ケーマの瞳は笑っていなかった。値踏みをしているような視線である。それを理解して、アイルは続けて答えた。
「……私は個人的な理由で、名声を上げる必要があります。……叙爵を受けられるぐらいに。」
「……その個人的な理由とやらを聞かせて頂いても宜しいかな?」
アイルが、皆に視線を向ける。それに、皆が頷くことで応えた。それを見たアイルは、今回の理由を順番に説明をしていく。有力者の幼馴染を娶る為に名声を得ないといけないこと。一党を組み、徒党も組んでいること。自分たちなりに解放へ向けて考え、それを補強するために調べていること。人材も集めていること。……メンバーがハーレムであることと、自分が”両性具有”であることも……ケーマの瞳をしっかりと見つめながら、伝えた。
それを聞いたケーマは、白髯を撫で付けながら瞑目する。ソーヤとイーネは瞑目しているケーマを見つめ、沈黙を保つ。そして、少しの間沈黙が場を支配したが、ケーマがその口を重々しく開いたことで破られた。
「……お主らは、ワシらの出自を知っておるかね?」
「……残念ながら。しかし、辺境伯からあなた方の話が出なかったのは、その出自に関係しますか?」
アイルが代表して答えた。それを聞いたケーマは一つ頷き、ソーヤが続けて答えた。
「……ツーシュウ家は、チョトーに居を構えた元商家だ。この川を使って商いをしていてな。あの時、船を持っていた事で一族郎党の大半は逃げることが出来たのだ。……大半はな。」
「……犠牲になった方々がおったのじゃな?」
「……弟夫婦の一家だ。それも、”緑肌”共じゃない。隣国の”乱取り”にあったんだ。」
ソーヤは手を固く握り締め、床板を強く叩いた。”乱取り”は軍隊の略奪行為のことを指す。特に人を指すことが多い。当時、辺境伯軍と隣国の軍が衝突。衝突の最中、横合いから”緑肌”共に襲いかかられ、両軍は戦闘を中断し撤退した。辺境伯軍は川を渡って撤退をする必要があり、渡る前に追撃を受け、その際に避難民の一部が攫われたのだ。辺境伯軍としても、攫われた人々を取り戻したかったが、”迷宮”指定地域が間に存在していることと、法外な料金を上げてきたこともあり、交渉は決裂。慣例であれば、乱取りとして攫われた人々は奴隷として売られたであろうことが予測された。
「……辺境伯軍は守れなんだ……。故に、ワシらは信を置くことができん。……あれはどうしようもなかったとわかってはおる。……わかってはおるが、納得なぞできん!……なぜ、なぜ、息子夫婦が犠牲とならねばならんのじゃ!!……ワシら以外に犠牲になったものもいるのはわかっておる……じゃが、それだけで納得なぞできるか!」
「それに、辺境伯軍は二十年経つが解放できていない。信じられるものではない……ということもある。貴殿らにそれができるかも怪しい。」
ソーヤはアイル達五人に厳しい視線を向けた。それはそうだろう。二十年。それは普人族としては一生の三分の一に値する。希望が欲しい。解放できるという希望が。それが、”青鮫党”という、チョトーに住んでいた者達の願いであった。
「……今、あなた方に明確な答えを伝える事は出来ません。……しかし、俺は生き残りの一人であるクリスさんに約束をしました。必ず解放すると。俺は成してみせます。」
アイルはその言葉を口にするとともに、ケーマ、ソーヤ、イーナの瞳をしっかりと見つめた。三人も、アイルの瞳をしっかりと見つめる。そして、ケーマが立ち上がり、アイルの手前まで進むと、改めて胡座を組み直した。
「……アイル殿。頼みがございます。……イーナ、隣に来なさい。」
ケーマの隣に、呼ばれたイーナが並ぶように座った。黒髪に黒い瞳。黄色い肌。髪を後ろに、馬の尻尾の様に纏めていた。川賊として動き易い服装をしており、メリハリのあるボディラインを持っていた。そんな彼女が、祖父に呼ばれ、アイルのすぐ斜め前に座った。
「ワシら”青鮫党”は、辺境伯軍に力添えすることはお断り申し上げる。……が、アイル殿。あなたになら力添えしたい。その意志として、こちらのイーナをあなたのハーレムにお加えいただきたい。剣術、薙刀術、弓術、格闘術を始め、若干の秘術呪文、会計などを仕込んでおります。お役に立てるかと。」
そう言って、ケーマはアイルに対して頭を下げる。イーネもケーマの動きに合わせて頭を下げた。それを見たアイルは、二人に頭を上げるよう伝える。
「……お二人とも、頭をお上げ下さい。……イーネ殿。あなたはそれで宜しいのか?どなたか意中の方はおりませんか?」
「……意中の殿方はおりません。お祖父様の言葉に従います。……ただ、一つお願いを聞いていただけるのであればお願いがございます。」
「これ、イーネ!」
「……ケーマ殿、構いません。俺で叶えられることであればよいのですが。」
「簡単な内容です。」
イーネはそう言うと立ち上がり、アイルを見下ろして続けて言った。
「私とお手合わせをお願いいたします。」
五日目……西の方……砦の北側へ様子見を兼ねて狩場を移す。紅葉の国の西部を縦断するように流れるソーキ大河。水量も多く、幅も広い大河である。”迷宮”指定になるまでは近くに大きめの渡し場があり、隣国と交易をしてもいたが、河口を扼するチョトー砦近郊が”迷宮”指定となったため、廃れてしまった。しかし、まるっきり流通がなくなるということはないのが人の営みというものであろう。川賊とも言うべき者共が渡し場を作り、東西の流通を細々とだが、つなげているのだ。彼らは上流となる北方……ベルンシュタイン辺境伯領にて手に入る品を仕入れ、自分たちで維持する渡し場まで輸送。その後、レンネンカンプ辺境伯領都である、ハルベルトまで運び、金に換えるのである。品としては、石材や木材が中心であった。チョトー砦から来た一群が襲ってくることもあるが、そこは川賊と名乗る者達。返り討ちにすること多々であった。
彼らは”青鮫党”と名乗っており、荷の一割を要求するが速やかに対岸へ渡すのと、無体なことはしない、今となっては珍しい川賊であった。
そんな”青鮫党”の元に、アイル達が訪れるのは必然と言えよう。
ソーキ大河に沿って、北へ進むと辺境伯軍が建設した観測所とは違う、建造物が見えてくる。木材と石材を使って、砦の様な壁を作っており、それが対岸にも作られていた。大きい筏が係留されており、それを使って荷や人を運ぶのだろう。壁上には数名の見張りがおり、周囲を警戒していた。一群が見つかれば、すぐに連絡が入り、壁を使って迎え撃ち、筏を使って側面から援護するような流れなのだろう。
「貴殿らは何者か!」
「我が名はバーバラ!我らは、冒険者の一党で、”鬼の花嫁”という!ここにおるアイルが党主じゃ!対岸に渡るための商談をしたい!」
誰何の声に対し、バーバラが代表して応える。その言葉を聞いた見張りは、確認するように壁の中に声をかけた。その後、反応があったらしく、改めて、見張りが彼女らへ声を投げかける。
「どうぞ、お客人!お入り下さい!」
その声に従い、”青鮫党”の渡し場へと入っていく。壁の内側に入ると十数名の男共が、各々の武器の手入れをしていたり、訓練などをしており、改めてそこらへんの野盗や山賊とは一線を画していることがわかった。そうこうしていると、五十代半ばと思われる貫禄のある男と、一歩下がって三十代の男と、十代半ばの女が近寄ってきた。
「お主らが”鬼の花嫁”か。ワシが”青鮫党”党主、ケーマ・ヨース・ツーシュウじゃ。後ろが、ワシの息子のソーヤ・ケーマ・ツーシュウと、孫のイーネ・ソーヤ・ツーシュウじゃ。ワシらで商談の相手をさせていただこう。」
「”鬼の花嫁”の党主、アイルだ。左から、バーバラ、フィーリィ、ピッピ、ルナ。冒険者として、チョトー一帯の”間引き”を行っている。向こう岸の方でも間引きを行いたいので、商談をしたい。」
「承知いたした。イーネ。皆様を客間へ案内なさい。すぐに、ワシとソーヤも参ります。」
「”鬼の花嫁”の皆様、こちらへどうぞ。」
イーネが丁寧にお辞儀をした上で、先を歩いて行く。先導するイーネを追いかけてアイル達は母屋へ入っていった。それを見送る様にケーマとソーヤが見ていた。そして、ケーマが何事かを囁くと、ソーヤが離れていった。
◆◆◆◆◆
母屋に入った後、客間に案内されたアイル達は、板張りの床に用意された座布団に腰を下ろし、ケーマとソーヤを待つ。その間に、イーネがお茶を用意し五人へ提供した。それは緑色の濃厚な茶であり、ハルベルトで良く飲まれる紅茶とはまた違った味わいであった。アイル、バーバラ、フィーリィは苦もなく飲み、ピッピとルナは苦味を強く感じたのか苦手なようだった。それを察したイーネが、合間に口にするように黒い粉を皿に盛って差し出した。問題がないことを示すように、自身でそれをひと摘み分、摘んで口に入れた。それを見たピッピとルナが真似をして、ひと摘み口にした。
「「……砂糖だ!?」」
二人は驚きの声を上げた。その声にまだ口にしてない三人も驚いた。”黒い”砂糖は見たことがなかったのだ。精製の度合いが高い程色が白くなり、そして高級品となる。最下級品ともなれば出涸らしで、色が残って茶がかかった様な物が存在する。……しかも、量を誤魔化すために、砂を混ぜるのだ。違和感を感じても、甘味は感じる。だから、売れる。同じ様に量を誤魔化される物として、塩がある。こっちは生活上必需品のため、砂が混ざっていても、おかしい値段でなければ買わざるを得ないのだ。なので売れる。紅葉の国では、塩商人は認可制であり、二年毎の更新制をとっている。あまりにも評判が悪い場合、認可取消などもあり得る。そのため、あくどい事はあまり起こっていない。
三人も黒い砂糖をひと摘み口にして、顔を見合わせて頷いて見せた。
「……砂糖だな。」
「……砂糖じゃな。」
「……砂糖ですね。」
まず、今まで口にした砂糖とは違った甘さであった。これは流通できれば、既存の砂糖と別物として販売できると思えるものであった。
そんな砂糖が、この場で初めて口にできるということは、流通していない事が理解できる。では、何故、これを出してきたのか。その理由を三人は考えたが、ピッピとルナは、砂糖を摘んだ後、茶を口にした。苦味が抑えられた上で甘味が広がり、苦もなく飲み干した。
皆が一服終えたのを見計らった様に、ケーマとソーヤが客間へ入ってきた。そして、ケーマが上座に座り、ソーヤがケーマから見て左手側一番手前に座り、その隣にイーネが座り直した。
「遅れてしまい、誠に申し訳ござらん。イーネのもてなしはいかがじゃったろうか?」
ケーマが好々爺然とした感じで、イーネの対応についての質問をしてきた。それに対し、アイルがケーマに向かって顔を向けて答えた。
「イーネ殿の御点前、美事でございました。馴れておりませんものにも甘味を御用意いただくなど、お気遣い素晴らしく、感服致しました。」
胡座を組んで座ったアイルが、イーネに向かって身体を倒すように頭を下げた。その言葉に応えるようにイーネも頭を下げる。それを見たケーマは「フォッフォッフォ。」と白髯を撫で付けながら笑い声をあげた。
「さて、では、商談と参りましょうかの? 皆様は”間引き”で渡りたいとのことじゃが……”只の”間引きであれば、そこまでされる必要はないと思いますが……。」
チラリと五人に視線を送る。それを受けて、バーバラが身体の向きを変えて答えた。
「されば、今回の理由じゃが……我らはチョトー地方の”解放”を目的にしておる。そのためには、川向うに渡り様子を見る必要があると考えておりましてな。”間引き”のついでに偵察をしようと思っておるじゃ。」
「ほほぉ……チョトー地方の解放とは大きくでましたな。……冒険者の一党を向こう岸へ渡すことはございましたが、そこまで大風呂敷を広げる方は、ついぞいらっしゃいませんでしたなぁ。」
フォッフォッフォッと笑い声を上げるが、ケーマの瞳は笑っていなかった。値踏みをしているような視線である。それを理解して、アイルは続けて答えた。
「……私は個人的な理由で、名声を上げる必要があります。……叙爵を受けられるぐらいに。」
「……その個人的な理由とやらを聞かせて頂いても宜しいかな?」
アイルが、皆に視線を向ける。それに、皆が頷くことで応えた。それを見たアイルは、今回の理由を順番に説明をしていく。有力者の幼馴染を娶る為に名声を得ないといけないこと。一党を組み、徒党も組んでいること。自分たちなりに解放へ向けて考え、それを補強するために調べていること。人材も集めていること。……メンバーがハーレムであることと、自分が”両性具有”であることも……ケーマの瞳をしっかりと見つめながら、伝えた。
それを聞いたケーマは、白髯を撫で付けながら瞑目する。ソーヤとイーネは瞑目しているケーマを見つめ、沈黙を保つ。そして、少しの間沈黙が場を支配したが、ケーマがその口を重々しく開いたことで破られた。
「……お主らは、ワシらの出自を知っておるかね?」
「……残念ながら。しかし、辺境伯からあなた方の話が出なかったのは、その出自に関係しますか?」
アイルが代表して答えた。それを聞いたケーマは一つ頷き、ソーヤが続けて答えた。
「……ツーシュウ家は、チョトーに居を構えた元商家だ。この川を使って商いをしていてな。あの時、船を持っていた事で一族郎党の大半は逃げることが出来たのだ。……大半はな。」
「……犠牲になった方々がおったのじゃな?」
「……弟夫婦の一家だ。それも、”緑肌”共じゃない。隣国の”乱取り”にあったんだ。」
ソーヤは手を固く握り締め、床板を強く叩いた。”乱取り”は軍隊の略奪行為のことを指す。特に人を指すことが多い。当時、辺境伯軍と隣国の軍が衝突。衝突の最中、横合いから”緑肌”共に襲いかかられ、両軍は戦闘を中断し撤退した。辺境伯軍は川を渡って撤退をする必要があり、渡る前に追撃を受け、その際に避難民の一部が攫われたのだ。辺境伯軍としても、攫われた人々を取り戻したかったが、”迷宮”指定地域が間に存在していることと、法外な料金を上げてきたこともあり、交渉は決裂。慣例であれば、乱取りとして攫われた人々は奴隷として売られたであろうことが予測された。
「……辺境伯軍は守れなんだ……。故に、ワシらは信を置くことができん。……あれはどうしようもなかったとわかってはおる。……わかってはおるが、納得なぞできん!……なぜ、なぜ、息子夫婦が犠牲とならねばならんのじゃ!!……ワシら以外に犠牲になったものもいるのはわかっておる……じゃが、それだけで納得なぞできるか!」
「それに、辺境伯軍は二十年経つが解放できていない。信じられるものではない……ということもある。貴殿らにそれができるかも怪しい。」
ソーヤはアイル達五人に厳しい視線を向けた。それはそうだろう。二十年。それは普人族としては一生の三分の一に値する。希望が欲しい。解放できるという希望が。それが、”青鮫党”という、チョトーに住んでいた者達の願いであった。
「……今、あなた方に明確な答えを伝える事は出来ません。……しかし、俺は生き残りの一人であるクリスさんに約束をしました。必ず解放すると。俺は成してみせます。」
アイルはその言葉を口にするとともに、ケーマ、ソーヤ、イーナの瞳をしっかりと見つめた。三人も、アイルの瞳をしっかりと見つめる。そして、ケーマが立ち上がり、アイルの手前まで進むと、改めて胡座を組み直した。
「……アイル殿。頼みがございます。……イーナ、隣に来なさい。」
ケーマの隣に、呼ばれたイーナが並ぶように座った。黒髪に黒い瞳。黄色い肌。髪を後ろに、馬の尻尾の様に纏めていた。川賊として動き易い服装をしており、メリハリのあるボディラインを持っていた。そんな彼女が、祖父に呼ばれ、アイルのすぐ斜め前に座った。
「ワシら”青鮫党”は、辺境伯軍に力添えすることはお断り申し上げる。……が、アイル殿。あなたになら力添えしたい。その意志として、こちらのイーナをあなたのハーレムにお加えいただきたい。剣術、薙刀術、弓術、格闘術を始め、若干の秘術呪文、会計などを仕込んでおります。お役に立てるかと。」
そう言って、ケーマはアイルに対して頭を下げる。イーネもケーマの動きに合わせて頭を下げた。それを見たアイルは、二人に頭を上げるよう伝える。
「……お二人とも、頭をお上げ下さい。……イーネ殿。あなたはそれで宜しいのか?どなたか意中の方はおりませんか?」
「……意中の殿方はおりません。お祖父様の言葉に従います。……ただ、一つお願いを聞いていただけるのであればお願いがございます。」
「これ、イーネ!」
「……ケーマ殿、構いません。俺で叶えられることであればよいのですが。」
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これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
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