オカルト耐性Sランクの私に、ビビりな男子がついてくる件について

結城 雅

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第2章「七不思議と消えたクラスメイト」

第21話《鏡の記憶》

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 久瀬先輩は鏡の外にいる。
 俺たちは、鏡の中の世界に閉じ込められたまま。

「……つまり、やっぱり俺たちは"現実の世界"に戻れていないってことですよね」

「そういうことになるな」

 久瀬先輩の声が、鏡越しに聞こえる。
 しかし、鏡の向こうに映る彼の姿はどこかぼやけていて、靄(もや)がかかったようだった。
 まるで、現実と鏡の世界の境界が曖昧になっているような感覚。

「戻る方法は?」

「それが分かれば苦労しない。ただ、お前たちの世界と俺のいる世界は、鏡を通じて"繋がっている"のは確かだ」

「それは分かりますけど……"繋がってる"だけじゃ意味がないですよね」

「違う。"繋がっている"ならば、そこに影響を及ぼすことができるはずだ」

「影響……?」

「お前が"記憶を取り戻せば"、この世界に変化が起こるかもしれない」

「……」

 記憶を取り戻す——。
 つまり、俺の中にはまだ"何か"が欠けているということか。



「記憶を取り戻す方法は?」

「試す価値があるのは"鏡に触れること"だ」

 久瀬先輩の言葉に、俺は鏡を見つめた。

 確かに、この鏡はただの"映すもの"じゃない。
 この世界に囚われた原因であり、同時に"繋ぐもの"でもある。

「……触れるだけで記憶が戻るんですか?」

「確証はないが、鏡は"記憶を映すもの"でもある。お前がこの世界に囚われる前の出来事——それがこの鏡に残されている可能性はある」

「つまり……俺が"思い出すべきこと"は、すべてここにあるってことですか?」

「その可能性が高い」

 そう言われても、不安は拭えない。

 俺は、"何を"忘れている?
 なぜ、"消えたクラスメイト"のことを思い出せない?

 答えが鏡の中にあるのなら——俺は、それを知るしかない。



 俺は、ゆっくりと鏡に手を伸ばした。

 指先が鏡の表面に触れた瞬間——

 視界が歪んだ。

 景色がぐにゃりと曲がり、音が遠ざかる。
 まるで水の中に沈んでいくような感覚。

 次の瞬間——

 ————

……おい、拓海……

……一緒に、帰ろうぜ……

……もう遅い……

……俺のこと、覚えていてくれ……

 ————

 誰かの声が、脳の奥に直接響く。

「っ!!!」

 息を呑む。

 今のは……"誰"の声だ?

 記憶の奥底に沈んでいた何かが、呼び起こされようとしている。



 視界がぼやけ、頭の奥がズキズキと痛む。
 でも、それでも思い出さずにはいられなかった。

 俺は——忘れていた。
 "消えたクラスメイトアイツ"のことを。

 それだけじゃない。
 俺が"なぜ今ここにいるのか"も、ずっと忘れていた。



 三年前の記憶が、脳裏に蘇る。

 薄暗い旧校舎。
 夕暮れに照らされた、あの鏡。

 俺は、あの時——"誰か"と一緒にいた。

「……!!」

 断片的な記憶が、次々に押し寄せる。

「おい、そんなことして大丈夫なのか?」

「大丈夫だって。ほら、ちゃんと映ってるだろ?」

「でもさ……」

「……え?」

「今、ズレたよな?」

 鏡の中の"もうひとりの自分"。

 それが、ゆっくりと"ズレた"瞬間——

 世界が、"反転した"。



「……っ」

 息が詰まる。

 俺は、そこで——

「……誰と一緒にいたんだ……?」

 思い出せそうで、思い出せない。

 消えたクラスメイトの名前。
 俺と一緒に、鏡の前にいた"アイツ"のことを——。



「拓海、どうした?」

 久瀬先輩の声が、鏡の向こうから響く。

 俺は、ゆっくりと顔を上げた。

「……思い出しました」

「……何を?」

「"消えたクラスメイト"のことを……」

「!!」

 彩華が息を呑む。

「名前も、顔も、全部……」

 脳が、ズキズキと痛む。

 でも、俺はもう、確信していた。

「俺は……アイツと、"一緒に鏡を覗いた"んです……」



三年前。

 俺とアイツは、"鏡の怪異"の噂を聞いて、旧校舎へ足を運んだ。
 冗談半分だった。

 だが——俺たちは、見てはいけないものを見た。

 鏡の中の"もうひとりの自分"。

 それが、ゆっくりと"ズレた"瞬間——

 俺は、"アイツと一緒に"、この世界に囚われた。



「……"俺が消えた"んだ」

「……え?」

 久瀬先輩が、驚いたような声を漏らす。

「"消えたクラスメイト"は……」

 俺は、震える唇で、言葉を紡いだ。

「""んですよ」
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