オカルト耐性Sランクの私に、ビビりな男子がついてくる件について

結城 雅

文字の大きさ
32 / 53
第3章《新たな怪異》

第32話《記憶の改ざん》

しおりを挟む
 図書室を出た俺たちは、校内の廊下を慎重に進んでいた。

 静寂——それ以外の何もない。

 まるで、俺たち以外の時間が止まったかのように。

「……さっきの本、結局何だったんだ?」

 悠真が俺の手元を見ながら言う。

「『七不思議伝承録』……なんて胡散臭いタイトルだけど、内容は妙に具体的だったな」

「記録がないのに、どうやって七不思議が語り継がれてるのか不思議よね」

 彩華が腕を組みながら言った。

「それにしても、"借りたら翌日にページが変わる"なんて……本当にそんなことが起こるのか?」

「……それを確かめるために借りたんだろ」

「まあね。でも、もし"ページが変わる"ってことが"記憶も変わる"ことを意味してたら?」

「記憶が……変わる?」

 悠真が戸惑った表情を見せた。

「例えば、もしこの本が明日になったら、"この学校に七不思議は存在しない"って内容に書き換わっていたとしたら? そのとき、私たちは"七不思議なんて最初からなかった"って思うようになってしまうかもしれない」

「……そんなの、もう怪異じゃなくて"改ざん"じゃねえか」

 悠真が苦笑しながら言うが、俺は笑えなかった。

「でも、久瀬先輩の話を思い出せよ」

 俺は慎重に言葉を選びながら話を続ける。

「"消えたクラスメイトのことを覚えているのは、鏡の中に引きずり込まれかけた人間だけ"だったよな?」

「……あっ」

「つまり、"消えたこと自体が改ざんされる"可能性があるってことじゃないか?」

 言葉にしてみると、背筋が凍るような感覚があった。

 もし、この本が"過去を書き換える"ことができるのなら……

 俺たちの存在すら、誰かの記憶から消されるかもしれない——。

「……なあ、ちょっと待てよ」

 悠真が足を止めた。

「え?」

「これ、俺がただの考えすぎかもしれないけど……"俺が消えた理由"って、この本と関係あるんじゃないか?」

「……っ!」

 俺と彩華は言葉を失った。

「七不思議の一つに巻き込まれたっていうのは分かる。でも、それだけじゃない気がするんだ。もし、"俺がいなかったことにされた"んだとしたら?」

 悠真の言葉が、妙に重く響いた。

「つまり、お前は"この本によって消された"ってことか?」

「……そんなの、証明できるのか?」

「できるかどうかは分からない。でも、"この本が関わっている"って仮説は捨てられないと思う」

 俺は本を握りしめた。

「……だったら、明日になってどう書き換わっているか、絶対に確認しなきゃな」

「でもさ、もし明日になって……"お前はここにいなかった"って書かれてたら?」

「……っ!」

 ゾッとした。

 もし、本にそう書かれていたら……俺の存在はどうなる?

 俺は、明日も変わらずここにいられるのか?

 いや、それ以前に——俺は自分が"消えた"ことにすら気づけなくなるんじゃないか?

「……やめるなら、今のうちよ」

 彩華が、俺をじっと見つめていた。

「でも、やめても何も解決しないわ。私たちはもう"この本のルール"に巻き込まれてる」

「……やめるわけにはいかないだろ」

 俺は、本を握りしめる。

「やるしかない……"真実"を突き止めるために」

——その瞬間、背後から足音が響いた。

「……え?」

 俺は一瞬、心臓が止まるかと思った。

 この学校に、俺たち以外の誰かがいる……?

「……誰か、来る」

 彩華が、低く囁く。

 俺は反射的に本を抱え、振り向こうと——

 ——いや、違う。振り向いちゃダメだ。

「待て、拓海」

 悠真が俺の肩を掴んで止めた。

「……っ」

「お前、さっきの警告、忘れたのか?」

『最初にこれを読んだ者は、振り向いてはならない』

 そうだ。

 この本を開いた瞬間から、俺はすでに"ルール"の中にいたんだ。

「……逃げるぞ」

 俺は声を低くして言った。

「は?」

「ヤバい気がする。ここにいたらダメだ」

「でも——」

「何が来るかも分からない。とにかく、ここを出よう」

 悠真も彩華も、一瞬の迷いを見せたが、すぐに頷いた。

 俺たちは、一気に駆け出した。

 背後の足音は、俺たちの動きに合わせるように、次第に速くなっていく。

 まるで俺たちを捕まえようとしているみたいに——。

「……っ、こっち!」

 彩華が、廊下の角を指差す。

 俺たちはそこに飛び込み、振り返ることなく一気に階段を駆け上がった。

 しかし——

 その瞬間、俺の視界が真っ暗になった。

「……っ!? おい、なんだよこれ!」

「暗すぎて何も見えない……!」

 悠真が叫ぶ。

 周囲が、漆黒の闇に包まれていた。

「待って……これ……"黒い窓ガラス"と関係あるんじゃないの!?」

 彩華が息を呑む。

 ——そうか。

 俺たちは知らず知らずのうちに、この"異常な空間"の中に踏み込んでいたのか。

"振り向くな"というルールを破らなかったのに、怪異は俺たちを逃がすつもりがない。

「……どうする?」

 悠真の声が、震えていた。

「何か出口を——」

 俺が言いかけた、その時——

——パサッ……

 手の中の本が、勝手に開かれた。

 そこには、新しい一文が記されていた。

『今度は、お前が消える番だ』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...