オカルト耐性Sランクの私に、ビビりな男子がついてくる件について

結城 雅

文字の大きさ
52 / 53
第4章 書き換わる現実

第52話《誘う影》

しおりを挟む
「探すのをやめろ」という警告を受けてから数日が経った。

 図書室の異変は収まるどころか、むしろ加速していた。毎日少しずつ本の内容が消えてゆき、俺たちの記憶もじわじわと侵食されている。気づけば、その状況に慣れ始めている自分たちが恐ろしかった。

 この日も放課後になると、俺たちは自然と図書室へ足を運んだ。

「結局、この現象が起こるタイミングは掴めてないのよね」

 彩華は小さくため息をつきながら呟いた。

「ああ。でも、明らかに進行はしている」

 悠真も頷きながら、本棚の間を見回す。

「だけど不思議ね。このまま記憶が侵食され続けたら、私たちが怪異について調べていること自体も忘れてしまうんじゃない?」

 彩華の言葉は俺たちが恐れていたことだった。

「そうだな。何とか突破口を見つけないと、本当に何もかも忘れてしまいそうだ」

 俺の言葉に悠真も黙って頷く。けれど、今のところ具体的な手がかりはなかった。

「久瀬先輩は今日は来ないのかな」

「いや、今日は用事があるって言ってた」

 俺が答えると、彩華が少しだけ不安げな顔をした。

「先輩もずっと調査を続けてたのに、何か気になることがあったのかしら」

 その時だった。

 ふいに図書室の奥から、小さな物音が聞こえた。

「……?」

 俺たちは一斉に音のした方を振り返る。

 しかし、誰もいないはずの書棚の影は静かで、何かが動いた気配はない。

「気のせいか?」

「そうかもしれないけど……」

 彩華は気になったようで、そっと音のした方向へ歩き出した。

「おい、彩華」

「何かがいる気がするのよ」

「待てよ、危ないだろ」

 俺と悠真も慌てて後を追った。

 彩華は迷いなく図書室の奥の小さな書架へと向かい、じっとその書棚を見つめている。

「この辺りから聞こえた気がしたんだけど……」

 しかし、何の異常もないように見えた。

「気にしすぎだろ」

 悠真が呆れ気味に言ったが、その直後、俺は奇妙な違和感に気づいた。

「あれ、ちょっと待て。この本棚……さっきまでこんなに古ぼけてたか?」

「え?」

 彩華も改めて本棚を見つめ直す。

 その瞬間、本棚の一冊の本が静かに棚から滑り落ち、足元に落ちた。

「うわっ!」

 俺たちは思わず後ずさった。

「……どういうこと?」

「わからないけど、何かを示そうとしているようにも見えるな」

 悠真が慎重にその本を拾い上げ、開いてみる。
 ページはほぼ白紙だったが、最後の一ページだけに短い文章が残されていた。

『お前たちは本当に忘れたのか?』

「また警告か?」

「いや、これは警告というより……挑発に近いわね」

 彩華は眉を寄せながら、その文字を睨んだ。

 すると、そのページの文字がゆっくりと滲み、まるで誰かがリアルタイムで文字を書き加えているように、新たな言葉が浮かび上がった。

『それとも、もう一度ここへ来るか?』

「……!」

 俺たちは顔を見合わせた。

「挑発どころか、誘ってるみたいじゃないか」

「ええ。私たちをどこかに誘導しようとしてるのよ、きっと」

 彩華の目が興味深そうに光る。

「でも、どこに?」

 悠真が呟いたそのとき、俺たちの背後で再び小さな音が響いた。

 振り返ると、図書室の隅にある資料室へと続く小さな扉が僅かに開いていた。

「あの部屋……」

「資料室ね。普段は鍵がかかっているはずだけど」

 彩華はすでに扉へと足を進めている。俺たちも仕方なく後に続いた。

 扉を押し開けると、中は薄暗く、古い書類や資料が雑然と積み上げられていた。

「ここには初めて入ったな」

「確か、古い記録とか学校の歴史関係の資料があるはずよ」

「何か手がかりがあるかもしれないな」

 俺たちは手分けして資料を調べ始めた。

 だが、すぐに俺は異常なことに気づく。

「……これ、全部白紙じゃないか?」

 手に取った資料のページがすべて真っ白になっていたのだ。

「こっちもだ」

 悠真も険しい顔で呟いた。

「どうやら私たちが来る前に、すでに何者かが消したみたいね」

 彩華が冷静にそう言った瞬間だった。

『ようやくここまで来たか』

 どこからともなく、低い声が響いた。

「誰だ!」

 俺たちはすぐに周囲を見回したが、誰の姿もない。

『お前たちはまだ何も理解していない』

「お前が本を消したのか?」

 悠真が鋭く問いかける。

『そうだ。そしてお前たちの記憶もだ』

「なんでこんなことをするんだ!」

 俺が怒りを込めて叫ぶと、その声は淡々と答えた。

『全ては『七不思議』のためだ。お前たちが記憶を取り戻しすぎた。そのために他の怪異が乱れ始めたのだ』

「何だって……?」

『これ以上記憶を取り戻せば、怪異の調和は完全に崩れ、取り返しがつかなくなる。だから、再びお前たちの記憶を奪うしかない』

「そんなの勝手すぎるわ!」

 彩華が即座に言い返した。

『ならば、このまま全てを失う覚悟をするがいい』

 その言葉と共に、資料室の扉が勢いよく閉まった。

「しまった……!」

 俺たちは閉じ込められたことを悟った。

「どうやら罠にかかったみたいね」

 彩華は苦笑しつつも、全く動揺していないように見える。

「……ほんとに、なんでいつもこうなるんだよ」

 俺は思わず深くため息をついた。

 だが、ここで諦めるわけにはいかない。

 俺たちは暗い資料室の中で、改めて覚悟を決めた。

 何度でも、俺たちは記憶を奪還する——。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...