53 / 53
第4章 書き換わる現実
第53話《繰り返す記憶》
しおりを挟む
薄暗い資料室に閉じ込められ、数分が過ぎた。
「くそっ、やっぱり開かない!」
悠真が何度もドアノブを回しながら舌打ちした。さっきから試しているが、扉は頑として動かない。
「落ち着いて。きっと何か別の方法があるわ」
彩華は淡々と言ったが、その声もいつもより少し硬かった。
スマホも圏外になっていて外への連絡手段はない。この状況では誰かが通りかかるまで待つしかないのか——そんなことを考えていた時だった。
「……あれ?」
資料室の奥の棚に視線を向けていた悠真が、小さな声を上げた。
「どうした?」
「あそこに、まだ何かある」
悠真が指差した先、古い木製の棚の中段に、少しだけ色あせたファイルがひっそりと収まっていた。他の資料と違い、妙に古くて埃をかぶっている。
「こんなのさっきまであったっけ?」
「わからない。でも、何か気になる」
彩華は迷わず手を伸ばし、ファイルを棚から抜き出した。俺と悠真も彼女を取り囲むようにしてそれを覗き込んだ。
「随分と古いファイルだな」
「ええ、何か書いてあるわ」
彩華がファイルを慎重に開いた。ページは黄ばんでいたが、文字はしっかり残っていた。
『七不思議・第六の怪異に関する調査報告書』
「第六の怪異?」
悠真が呟き、彩華がページをめくる手を止めた。
「『図書室の本の内容が消える怪異』……これ、今まさに私たちが調べている怪異じゃない!」
「まさか、過去にもこの怪異があったのか?」
「そのようね。しかもかなり前……20年以上前の日付だわ」
俺たちは互いに顔を見合わせた。
「とりあえず、中を確認しよう」
悠真の言葉に頷き、俺たちはその報告書を詳しく読み始めた。
そこには、20年以上前にも本の内容が消え、人々の記憶も侵食される現象があったことが書かれていた。そして当時もまた、この資料室に閉じ込められた生徒たちがいたことも。
『私たちは閉じ込められて数時間、脱出を試みたが無理だった。しかし、ここで私たちは重要なことに気がついた。この怪異は本の中身を奪っているのではなく、奪った内容をどこか別の場所に蓄積しているようだ。』
「別の場所に蓄積……?」
彩華が眉をひそめながらページをめくる。
『もし我々の仮説が正しければ、その場所に行き着ければ失われた記憶を取り戻すことが可能かもしれない』
「記憶を取り戻す場所、か……」
悠真が呟いた。その言葉は重く、俺たちの胸に響いた。
「でも、その場所ってどこよ?」
「それが書かれているかもしれない。読み進めよう」
俺たちは緊張したまま続きを読み進めた。しかし、そこから先はページが破り取られてしまっていた。
「ちょっと、ここから先がないわ……!」
彩華が舌打ちした。
「肝心なところが破り取られてるなんて……」
「わざとだろうな。俺たちがここまで辿り着くことも想定されていたんだろう」
「なら、どうすれば……」
俺たちが途方に暮れかけたその時、ファイルの最後のページに別の走り書きを見つけた。
『その場所に辿り着くには、怪異の中心となっている本を見つけるしかない。図書室のどこかに、全ての記憶が集約される一冊が存在するはずだ』
「怪異の中心となる本?」
「つまり、その本を見つけ出せば、記憶も取り戻せる可能性があるってことね」
彩華は即座に顔を上げた。その瞳には再び鋭い好奇心が宿っている。
「でも、それってどの本だよ?」
「わからないわ。でも、おそらく私たちが今まで見た本とは違う特別な何かがあるはず」
「その本を探すためにも、まずはここを脱出しないと話にならないな」
俺が言うと同時に、資料室の扉が唐突にゆっくりと開いた。
「……開いた?」
「どういうこと?」
「また誘導されてるのかもしれないわ」
彩華が呟き、俺たちは資料室の外に慎重に出た。図書室は変わらず静かで、異常はないように見える。
しかしその瞬間、俺は違和感を覚えた。
「あれ?」
「どうした?」
悠真が問いかける。
「さっきまで確かに閉じ込められていたのに、そのことが……」
「拓海、どういう意味?」
彩華が心配そうに覗き込んでくるが、俺はうまく言葉が出ない。
「……いや、なんでもない」
俺は誤魔化したが、心の中では違和感が広がっていく。
(もしかして、さっきの資料室での出来事すら、記憶が侵食され始めているのか?)
「とにかく、中心となる本を見つけないと」
「ええ、急ぎましょう」
彩華が促し、俺たちは再び本棚を調べ始めた。だが、俺は既に不安を抑えきれずにいた。
次々に記憶が消えていくこの状況で、いつまで俺たちは本当のことを覚えていられるのだろうか。
そして、この怪異の中心となる一冊の本は、どこに隠されているのだろうか。
俺たちは何度も見てきたはずの本棚を、初めて見るような感覚で見つめながら、不気味な焦燥感に追い立てられていった。
「くそっ、やっぱり開かない!」
悠真が何度もドアノブを回しながら舌打ちした。さっきから試しているが、扉は頑として動かない。
「落ち着いて。きっと何か別の方法があるわ」
彩華は淡々と言ったが、その声もいつもより少し硬かった。
スマホも圏外になっていて外への連絡手段はない。この状況では誰かが通りかかるまで待つしかないのか——そんなことを考えていた時だった。
「……あれ?」
資料室の奥の棚に視線を向けていた悠真が、小さな声を上げた。
「どうした?」
「あそこに、まだ何かある」
悠真が指差した先、古い木製の棚の中段に、少しだけ色あせたファイルがひっそりと収まっていた。他の資料と違い、妙に古くて埃をかぶっている。
「こんなのさっきまであったっけ?」
「わからない。でも、何か気になる」
彩華は迷わず手を伸ばし、ファイルを棚から抜き出した。俺と悠真も彼女を取り囲むようにしてそれを覗き込んだ。
「随分と古いファイルだな」
「ええ、何か書いてあるわ」
彩華がファイルを慎重に開いた。ページは黄ばんでいたが、文字はしっかり残っていた。
『七不思議・第六の怪異に関する調査報告書』
「第六の怪異?」
悠真が呟き、彩華がページをめくる手を止めた。
「『図書室の本の内容が消える怪異』……これ、今まさに私たちが調べている怪異じゃない!」
「まさか、過去にもこの怪異があったのか?」
「そのようね。しかもかなり前……20年以上前の日付だわ」
俺たちは互いに顔を見合わせた。
「とりあえず、中を確認しよう」
悠真の言葉に頷き、俺たちはその報告書を詳しく読み始めた。
そこには、20年以上前にも本の内容が消え、人々の記憶も侵食される現象があったことが書かれていた。そして当時もまた、この資料室に閉じ込められた生徒たちがいたことも。
『私たちは閉じ込められて数時間、脱出を試みたが無理だった。しかし、ここで私たちは重要なことに気がついた。この怪異は本の中身を奪っているのではなく、奪った内容をどこか別の場所に蓄積しているようだ。』
「別の場所に蓄積……?」
彩華が眉をひそめながらページをめくる。
『もし我々の仮説が正しければ、その場所に行き着ければ失われた記憶を取り戻すことが可能かもしれない』
「記憶を取り戻す場所、か……」
悠真が呟いた。その言葉は重く、俺たちの胸に響いた。
「でも、その場所ってどこよ?」
「それが書かれているかもしれない。読み進めよう」
俺たちは緊張したまま続きを読み進めた。しかし、そこから先はページが破り取られてしまっていた。
「ちょっと、ここから先がないわ……!」
彩華が舌打ちした。
「肝心なところが破り取られてるなんて……」
「わざとだろうな。俺たちがここまで辿り着くことも想定されていたんだろう」
「なら、どうすれば……」
俺たちが途方に暮れかけたその時、ファイルの最後のページに別の走り書きを見つけた。
『その場所に辿り着くには、怪異の中心となっている本を見つけるしかない。図書室のどこかに、全ての記憶が集約される一冊が存在するはずだ』
「怪異の中心となる本?」
「つまり、その本を見つけ出せば、記憶も取り戻せる可能性があるってことね」
彩華は即座に顔を上げた。その瞳には再び鋭い好奇心が宿っている。
「でも、それってどの本だよ?」
「わからないわ。でも、おそらく私たちが今まで見た本とは違う特別な何かがあるはず」
「その本を探すためにも、まずはここを脱出しないと話にならないな」
俺が言うと同時に、資料室の扉が唐突にゆっくりと開いた。
「……開いた?」
「どういうこと?」
「また誘導されてるのかもしれないわ」
彩華が呟き、俺たちは資料室の外に慎重に出た。図書室は変わらず静かで、異常はないように見える。
しかしその瞬間、俺は違和感を覚えた。
「あれ?」
「どうした?」
悠真が問いかける。
「さっきまで確かに閉じ込められていたのに、そのことが……」
「拓海、どういう意味?」
彩華が心配そうに覗き込んでくるが、俺はうまく言葉が出ない。
「……いや、なんでもない」
俺は誤魔化したが、心の中では違和感が広がっていく。
(もしかして、さっきの資料室での出来事すら、記憶が侵食され始めているのか?)
「とにかく、中心となる本を見つけないと」
「ええ、急ぎましょう」
彩華が促し、俺たちは再び本棚を調べ始めた。だが、俺は既に不安を抑えきれずにいた。
次々に記憶が消えていくこの状況で、いつまで俺たちは本当のことを覚えていられるのだろうか。
そして、この怪異の中心となる一冊の本は、どこに隠されているのだろうか。
俺たちは何度も見てきたはずの本棚を、初めて見るような感覚で見つめながら、不気味な焦燥感に追い立てられていった。
10
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
13話 先輩の登場あたりから面白くなってきます。なんなら途中での離脱をを招かないよう1章を削ってもいいくらいに思えます。
今後の展開が楽しみになってきました。応援してます。頑張ってください。