九異世界召喚術

大窟凱人

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一部 皆殺し編

勇者の遺伝子

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 アンデッドの脅威から生存者を救い出すのは想像以上に困難を極めた。
 何しろ王国の兵力はすでにほとんどがアンデッド化しているため、民衆には抵抗力がなかった。そのうえ、アンデッドは魂を侵食するようで、噛みついたり、抵抗力を失った相手もアンデッド化していしまうという、感染能力もあった。これがさらに被害を拡大させてしまっていた。
 結果、生存者はおよそ200万人。8割くらいの罪のない人々が死んでしまった。
 パワースーツ部隊がそれぞれ村や町に行き、アンデッドを倒した後、ギールの根っこを地表に伸ばし囲むような形でバリケードを作った。食糧などの補給も合わせて行っている。
 やっと落ち着いてきたものの、ヤステナ大陸のほとんどがアンデッド達がうろつき、それに怯えて暮らすという状態だった。
 それを解決するため、ライドとミリーは心を鬼にしアンデッド掃討作戦を実行した。音や生者に反応する彼らを巧みに誘導し、数万単位で同じ場所に集めギールの根っこで逃げられないように囲いを作成。水女と雷虎、かまいたちと火龍の広範囲魔法が使える召喚者を呼び出し、アンデッド達を殺して回った。この作戦が終了するまでに、数週間はかかったが、民衆の心を掴んだ。同時に現状を伝えるためにヤステナ王国に何が起きたのかを伝える映像を生存者に伝えていたこともあり、悪逆非道なレバルと王と呼ぶに値しないナルタナ王からスロガ村のライドとミリーが九異世界の召喚術を駆使して救ってくれたと民衆は認めていた。そして、生き残ったすべての村や町の代表たちと話し合い、今後の方針が決定。今日、それを全世界に伝えようとしていた。

 スロガ村はあれから、すっかり変わった。ジャンクロイドの技術力や機械の世界から物資を召喚できる能力のおかげもあって、この世界では見ることのないような、鉄でできた家が立ち並んでいた。作物や食料は十二分にあり、移住した生存者もいて豊かな雰囲気だった。
 その中央広場に、ライドとミリーはいた。2人ともパワースーツに身を包み、真剣な面持ちだった。

「ライド、準備はいい?」
「ん」
「緊張してるじゃない」
「そんなことない」
「ストレスたまってるとすぐ喋んなくなるよね」
「うっ」

 2人の周りには、ハース村長をはじめ、村人たちが集まっている。それに、ジャンクロイドが2人の前に立っていた。頭からカメラのようなものが出ていて、撮影をするような雰囲気だ。

「ミリー、しっかり喋りなよ!この男、たぶん言葉詰まるから」

 カナリアが言った。木偶の坊ライドは、気心の知れた人たちの前なら大丈夫だが、知らない人の前で喋るのは緊張する前でのである。
 苦笑いのライド。

「や、やっぱり喋るのはミリーに任すわ…」
「うん。補完するとこあったら言ってね」
「おう」
「それじゃ、ジャンクロイド、お願い」
「リョウカイシマシタ」
 
 ジャンクロイドが2人に光を当てると、全世界の主要都市や地域に設置した巨大ホログラム装置が作動。巨大なライドとミリーが宙に投影される。
 大騒ぎになっているが、2人は構わず話し出す。
  
「みなさん、初めまして。ヤステナ大陸首領、スロガ村のミリーと、こちらはライドと言います。今、ヤステナ大陸は死霊の大量発生による国民のアンデッド化のため立ち入り禁止区域になっています。その原因は謎で、アンデッド駆除のために討伐部隊が編制されているところかと思われますが、それは事実と異なります」

 ミリーは、ジャンクロイドのドローンが撮影していた映像を流した。

「これが真実です。レバルは世界樹ごと私たちを皆殺しにしようとしました。抵抗すると今度は、ドラゴンを送り込み、ヤステナ王国軍の兵士たちを死霊に憑りつかせ、アンデッド化させました」

 密かに映像に収めていた、ドラゴンの映像。コーマンが冥界の扉から死霊が飛び出してるくる映像。憑りつかれてアンデッド化する兵士たちの映像が流れる。

「私たちは世界樹の精霊、ギールによる召喚術の力でドラゴンとアンデッドを退けました」

 ギールがホログラムの前に姿を現す。ミリーと笑顔で視線を交わしている。

「この地に危険なものはもうありません。レバル。あなたが何を恐れているのかわかりませんが、世界樹は少なくとも私達貧民にとっては恩恵でした。世界樹による被害はありません。共存できるものだと信じています。だけど…」

 ミリーはいったん間を置く。そして、にらみを利かせ、続けた。

「あなたは許せません。ヤステナ王国の罪なき人々を死霊に憑りつかせ、アンデッド化させた罪は万死に値します。何百万人もの人が死にました。家族や友人、恋人がいて、ついこの間まで必死に生きていたのに。そして、生き残った私たちにさらなる追撃を加えようとしている」

 ライドは勇ましく話すミリーの横で無言を保っている。穏やかに話しているが、根底は怒っているのがしっかりと伝わってくる。

「ここに、ヤステナはレバルと、それに組する全ての国、組織に対して宣戦布告します。同時に、私たちに賛同し、反旗を翻すものは大いに歓迎する。この戦争に勝ち、よりよい世界をつくろう!レバルが王になってから、この世界にしてきた非道の数々を思い出せ!」

 ミリーはそう言い切り、ホログラムは消えた。
 全世界に対する宣戦布告だったが、村の小さな教会で戦うと決めた時にすべては変わっていた。今更、臆する事でもなかった。
 負ければ死。なんとしても勝つ。
 
・・・・

 ミリーのホログラム放送はバランサリア王国、レバルの王室からも観ることができた。
 彼女とライドの演説を観終え、レバルはひとり考え込んでいた。
 厄介だな…自分たちの方が不利と見るや否や、味方を増やす作戦に出やがった。そしてその実行力。いつの間にあれだけの機会を世界中に設置してのか。
 レバルが考え込んでいると、王室の扉がバンッ!と開く。
 王室に入ってきたのは、鋼の鎧を身にまとった青年だった。

「おお!よく戻った」

 ずかずかと歩いてくる彼をレバルは彼を快く向か入れ、駆け寄って抱きしめようとしたが、様子がおかしい。怒っている。

「どうした?」
「どうしたもこうしたも、宣戦布告されたんですよ!世界樹の召喚術士に!」
「落ち着け」
「はっ!も、申し訳ございません。王の御前で…」

 青年は我に返り、後ろ下がって跪いた。

「こういうことが起きないように気を張っていたのだがな。イレギュラーが起きてしまった。俺の責任だ」
「いえ!そんなことは。わたしめがあの時、召喚術士の止めを刺し損ねたばっかりに…」
「しかし、息子よ。お前には働いてもらうぞ。いや、勇者カルン。仲間を集めよ。反逆者狩りだ」

 血気盛んな彼は、一点の曇りもなくレバルに応える。その目は真っ赤に燃えていた。

「おおせのままに」



第一部 -END-
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