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■■■村にある小屋
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この村には、絶対に近寄ってはならない小屋がある。
コンクリートで作られていて、窓はなくて、鍵が掛かった頑丈そうな扉だけがついてて、お札みたいな気味の悪い文字の書かれた紙が落書きみたいにいっぱい張り付けられてる。
親からもおじいちゃんからも近寄るなと強く言われているから、ぼくはそれをずっと守ってきたんだけど、ある夜顔に黒い袋をかぶされて手を縛られてる人がスーツ姿の人たちに連れてこられてるところを見た。こっそりあとをつけたら、あの小屋に放り込まれてた。
怖くてその日は眠れなかった。
小屋の正体が知りたくてしょうがない。あの中には何があるんだろう。もし悪いことをしてるなら、ぼくはこの村を出ていく。あんなの、十中八九悪いことをしているに決まってるけどさ。同年代のほとんどいない田舎。だけど優しくて大好きな親とおじいちゃん。そんな環境から抜け出す理由が欲しかったのかもしれない。
小屋の鍵は、おじいちゃんがスーツ姿の人たちに渡してたから、うちのどこかにあるはずだ。
おじいちゃんが畑仕事をしている間に、部屋を探してみた。
「これか」
引き出しの中に、見たことのない古びた鍵があった。
それをこっそりポケットにしまって、ぼくは村はずれにある小屋へ向かった。
小屋は林に囲まれていて、昼間でも不気味だ。強い風が吹いて木々がざわめき、不安がこみあげてくる。
ぼくは小屋の扉の前に立つ。鍵を鍵穴に差し込み、回した。
ガチャリ。
「開いた……」
思わずつぶやいた。生唾を飲み込む。
ドアノブを掴み、引いた。鈍い音を出しながら扉は開く。
「うっ」
臭い。腕で鼻を塞ぐ。
何かが腐った匂い。吐きそうだった。だけど、生々しくはないというか、我慢できる範囲。
前を向く。小屋の中は暗闇で何も見えなかった。
携帯のライトを点灯し、中を照らす。
あまり広くないから、数歩進んだだけで部屋の四隅が光で照らされる。
一見すると何もなさそうだったが、それはやっぱりあった。
人の死体だ。
腐った匂いの発生源。
だけど、おかしいな。黒い袋をかぶった人を見たのは、つい先週のこと。それなのにこの死体はミイラみたいに干からびてる。ぼくはライトを顔に当てた。
「――っ!」
異様な表情をしていた。口と目が大きくかっぴらいて、それが固定されたままの状態。
スーツの人たち、どんな手を使って殺したんだ?
と、その時、背後に強烈な気配を感じ、総毛立った。その恐怖に反応する間もなく、耳におぞましい声が飛び込む。
「だ……れ…………」
――振り向くな。
この世のものでない。本能がそう瞬時に判断し、ぼくは固まった。さっきまでこの小屋には誰もいなかったのだ。
すると、それはゆっくりと近づいてくる。
ミシ、ミシ、と床を一歩一歩踏みしめて。
「――っはぁ! ――っはぁ!」
動悸がする。気付くと呼吸が荒く、細切れになっていた。
それはぼくの背後まで来ると立ち止まり、ゆっくりと肩に手を置く。
横目で凝視。
長く鋭く濁った巨大な爪が、ぬめりけのある細長い、切り傷だらけの指から生えていた。
だめだ。死ぬ。
頭が恐怖で埋め尽くされる。
「い……た……だ……き……」
その時だった。
「――え」
誰かに腕を引っ張られた。
小屋の扉の方へぼくは転がる。
「逃げろ!」
おじいちゃんの声だ。
「じっちゃん!」
「わしはいいから逃げ――あ」
言いかけて、おじいちゃんの身体が宙に浮いた。
まるで人形遊びでもするかのよう。そして、あの死体みたいに口と目を大きく広げて、硬直した。おじいちゃんの生気はみるみる吸い取られて、ミイラみたいになっていく。
ぼくは、逃げた。
小屋の外には両親がいた。
「鍵を出せ」
ぼくは渡し、すぐに扉は閉じられた。
翌日。
両親に死ぬほど怒られてから、小屋の正体について説明された。
かつてこの村にあった因習のこと。障害を抱える子供をあの小屋……座敷牢に閉じめていた。
その中に異能をもつ子がいて、彼も例外なく閉じ込められたのだが、死んでからそれは起きた。
怨霊による大量死だ。
大人も子供も大勢死んだ。
彼は座敷牢に憑りついていたため、あることをきちんと行えば被害はない。
すなわち、食事を運ぶこと。定期的に誰か生け贄にすればおとなしい。
怨霊の食事は人間の魂らしいのだ。
腹が減れば暴れる。
先に起きた大量死は政府も認知しており、被害を拡大させないため死刑囚をここへ連れてくることになっている。
スーツ姿の人たちと黒い袋をかぶせられていた人はそれだった。
表向きは死刑を執行したふりをして、ここで贄に……。
ぼくはおじいちゃんを死なせてしまった責任を感じ、今でもこの村にいる。
座敷牢の番人として生涯を全うするつもりだ。
しかし、いったいいつまで? 子や孫の代まで引継ぎ続けるのか?
この怨霊を殺す方法があれば、誰か教えてほしい。できれば、なるべく早く。
ぼくたちがいけにえを捧げるごとに彼は強大に、そして貪欲になっているから……。
コンクリートで作られていて、窓はなくて、鍵が掛かった頑丈そうな扉だけがついてて、お札みたいな気味の悪い文字の書かれた紙が落書きみたいにいっぱい張り付けられてる。
親からもおじいちゃんからも近寄るなと強く言われているから、ぼくはそれをずっと守ってきたんだけど、ある夜顔に黒い袋をかぶされて手を縛られてる人がスーツ姿の人たちに連れてこられてるところを見た。こっそりあとをつけたら、あの小屋に放り込まれてた。
怖くてその日は眠れなかった。
小屋の正体が知りたくてしょうがない。あの中には何があるんだろう。もし悪いことをしてるなら、ぼくはこの村を出ていく。あんなの、十中八九悪いことをしているに決まってるけどさ。同年代のほとんどいない田舎。だけど優しくて大好きな親とおじいちゃん。そんな環境から抜け出す理由が欲しかったのかもしれない。
小屋の鍵は、おじいちゃんがスーツ姿の人たちに渡してたから、うちのどこかにあるはずだ。
おじいちゃんが畑仕事をしている間に、部屋を探してみた。
「これか」
引き出しの中に、見たことのない古びた鍵があった。
それをこっそりポケットにしまって、ぼくは村はずれにある小屋へ向かった。
小屋は林に囲まれていて、昼間でも不気味だ。強い風が吹いて木々がざわめき、不安がこみあげてくる。
ぼくは小屋の扉の前に立つ。鍵を鍵穴に差し込み、回した。
ガチャリ。
「開いた……」
思わずつぶやいた。生唾を飲み込む。
ドアノブを掴み、引いた。鈍い音を出しながら扉は開く。
「うっ」
臭い。腕で鼻を塞ぐ。
何かが腐った匂い。吐きそうだった。だけど、生々しくはないというか、我慢できる範囲。
前を向く。小屋の中は暗闇で何も見えなかった。
携帯のライトを点灯し、中を照らす。
あまり広くないから、数歩進んだだけで部屋の四隅が光で照らされる。
一見すると何もなさそうだったが、それはやっぱりあった。
人の死体だ。
腐った匂いの発生源。
だけど、おかしいな。黒い袋をかぶった人を見たのは、つい先週のこと。それなのにこの死体はミイラみたいに干からびてる。ぼくはライトを顔に当てた。
「――っ!」
異様な表情をしていた。口と目が大きくかっぴらいて、それが固定されたままの状態。
スーツの人たち、どんな手を使って殺したんだ?
と、その時、背後に強烈な気配を感じ、総毛立った。その恐怖に反応する間もなく、耳におぞましい声が飛び込む。
「だ……れ…………」
――振り向くな。
この世のものでない。本能がそう瞬時に判断し、ぼくは固まった。さっきまでこの小屋には誰もいなかったのだ。
すると、それはゆっくりと近づいてくる。
ミシ、ミシ、と床を一歩一歩踏みしめて。
「――っはぁ! ――っはぁ!」
動悸がする。気付くと呼吸が荒く、細切れになっていた。
それはぼくの背後まで来ると立ち止まり、ゆっくりと肩に手を置く。
横目で凝視。
長く鋭く濁った巨大な爪が、ぬめりけのある細長い、切り傷だらけの指から生えていた。
だめだ。死ぬ。
頭が恐怖で埋め尽くされる。
「い……た……だ……き……」
その時だった。
「――え」
誰かに腕を引っ張られた。
小屋の扉の方へぼくは転がる。
「逃げろ!」
おじいちゃんの声だ。
「じっちゃん!」
「わしはいいから逃げ――あ」
言いかけて、おじいちゃんの身体が宙に浮いた。
まるで人形遊びでもするかのよう。そして、あの死体みたいに口と目を大きく広げて、硬直した。おじいちゃんの生気はみるみる吸い取られて、ミイラみたいになっていく。
ぼくは、逃げた。
小屋の外には両親がいた。
「鍵を出せ」
ぼくは渡し、すぐに扉は閉じられた。
翌日。
両親に死ぬほど怒られてから、小屋の正体について説明された。
かつてこの村にあった因習のこと。障害を抱える子供をあの小屋……座敷牢に閉じめていた。
その中に異能をもつ子がいて、彼も例外なく閉じ込められたのだが、死んでからそれは起きた。
怨霊による大量死だ。
大人も子供も大勢死んだ。
彼は座敷牢に憑りついていたため、あることをきちんと行えば被害はない。
すなわち、食事を運ぶこと。定期的に誰か生け贄にすればおとなしい。
怨霊の食事は人間の魂らしいのだ。
腹が減れば暴れる。
先に起きた大量死は政府も認知しており、被害を拡大させないため死刑囚をここへ連れてくることになっている。
スーツ姿の人たちと黒い袋をかぶせられていた人はそれだった。
表向きは死刑を執行したふりをして、ここで贄に……。
ぼくはおじいちゃんを死なせてしまった責任を感じ、今でもこの村にいる。
座敷牢の番人として生涯を全うするつもりだ。
しかし、いったいいつまで? 子や孫の代まで引継ぎ続けるのか?
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