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白い集落
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マッチングアプリで出会った男性と意気投合し、真剣に結婚を考えている。
めちゃくちゃ暑がりだとか、極度の猫舌だとか、ちょっとした癖はあるけど、大丈夫。私にだってそういうのあると思うし。
それに、アプリでいい人と出会えるなんて滅多にない。色白イケメンで高身長。おまけに優しい。
だから思い切って、彼に誘われるまま実家に挨拶しにいくことにしたの。
車を走らせること5時間。すごい田舎に彼の実家はあった。
今は6月なのに結構寒い。山ってこんな感じなんだ。
「まあ、限界集落ってやつだ」
「へえ」
「東京に出てくればって言ってるんだけどな」
「そりゃ、慣れ親しんだ場所から出ていくのは怖いよ」
そんな話をしながら、彼の家に到着。
てっきり、昔話に出てくるような民家を想像していたけど、意外と今っぽい。
「リフォームしたんだ。ついでに手すりつけたり、階段の段差なくしたり……この辺は介護施設もないからさ」
親のこと大事にしてるんだって、うれしくなっちゃった。知ってる? 母親への態度がそのまま妻に対する態度になるんだって。
それに彼、商社系の仕事やっててお金あるから納得。
「おねーさんだれ?」
後ろから小さな女の子に話しかけられた。
すごい白い子。髪も白い。全体的に色素も薄くてアルビノっぽい。
「いぶきにーちゃんの彼女?」
「おー。そうだよ。紹介しよう。りんお姉さんだ」
「わー! そうなの! いひひひ」
「こんにちは」
「こ、こ、こんにちはっ!」
楽しそうに笑って、その子は走って行ってしまった。
「なんか雰囲気似てたね。親戚の子?」
「うん。姪っ子。向かいに住んでるんだ。……あのさ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なに?」
「なんというか、うちの家系、みんなこんな感じなんだ。この集落の人たちも同じ。アルビノではないけど、ちょっと気味悪がられてきた過去も多少なりともあって……あんまり見た目のこととか、そういうことには触れないであげてほしいんだ。俺も髪染めてるし、コンタクトもしてる。色白すぎるから必要な時には日焼けサロンにも行く。体温が低いのは運動とか食べ物でカバーしてたりね……。人と違うって大変なんだ」
「そんなの! もちろんだよ!」
私は腕をまくって答えた。
「あはは……ありがとう。じゃあ行こうか」
家に入ると、彼の両親が温かく出迎えてくれた。
いぶきの言った通り、お母さんはいぶきにそっくりだった。真っ白くて綺麗。
でも、お父さんの方は普通だった。あとでちょこっと聞いたら嫁いできたらしい。
手みやげを渡して、馴れ初めやら、子供の頃の話やら、将来のこととかいろいろ話した。マッチングアプリが出会いって言ったら、まずマッチングアプリの説明をしなくてならず、いろいろと面白かった。
とっても素敵な家族で、結婚したい気持ちはますます強くなった。
そして半年後。
私といぶきはめでたくゴールイン。
彼側の親戚が少ないから、結婚式は派手にはしなかったけど、めちゃ幸せ!
ハピハピな新婚旅行と新婚生活を経て、私は妊娠した。
彼は育休をがっつりとってくれて、付きっきりで支えてくれた。やっぱりこの人を選んでよかった。
ところが、少しずつ異変が生じ始めた。
「さ、寒い」
体温が急激に下がり始めたのだ。
いぶきの子だから? でも、こんなに?
いぶきは気にしないでと言って温かいスープや食事、環境を整えてくれるから、言われた通り気にしないようにした。
だけど、妊娠6カ月。
お腹が大きくなるにつれて、私の体温も下がり続ける。
「ねえ、病院行こう」
「大丈夫だよ。心配ない。俺が生まれるときもそうだったらしいから」
「そうなの?」
彼はなおも付きっきりで私の世話をしてくれる。ありがたいんだけど、その代わり、決して病院に連れていってはくれなかった。
「こういうのは、母さんの方が詳しいから」
そう言って、あの集落にいるお母さんに連絡を取り、アドバイスをもらってた。
だめだ。寒すぎて何も考えられない。お腹の子は、無事なの?
妊娠8か月。
北極にいるみたいだ。
どんなに暖房を効かせても、熱いスープを飲んでも、身体は冷たい。
むしろ、温かくするとお腹の子が嫌がるようにもぞもぞと動くのがわかる。
「がんばれ。あと少しだから」
彼の声援が聞こえた。
来月は出産予定日。
妊娠9か月。
ああ……眠くなってきた。
寒いよ。唇が震える。顎も震える。
こんなに暖かい部屋にいるのに、雪山で遭難してるみたい。
「いぶ……き……」
「なんだい?」
「さ、寒くて死んじゃいそう。子供は、無事に生まれるのかな」
「大丈夫。君が死んでも問題ないようにしてるから」
「え……?」
私が死んでも……?
次の日、彼のお母さんと、同じ集落の女の人がうちにやってきた。
自宅出産をするようだ。
私は寒すぎて死にかけてたから、もはやしゃべれなかった。
彼がそんな私の頬にそっと手を添えた。氷のように冷たい手を。
いぶきの手、こんなに冷たかったっけ……?
「りん……ありがとう。母さんも喜んでる。君との子供、大事に育てるよ。だから安心して眠っていいよ」
「う……ん……」
頭の中が白んでいく。まるで、雪が降り積もるように。
凍死する直前、お腹の中から取り出された赤ちゃんを見た。
あの集落で見かけた、いぶきの姪っ子と同じ……。
真っ白な我が子が、元気な産声を上げていた。
めちゃくちゃ暑がりだとか、極度の猫舌だとか、ちょっとした癖はあるけど、大丈夫。私にだってそういうのあると思うし。
それに、アプリでいい人と出会えるなんて滅多にない。色白イケメンで高身長。おまけに優しい。
だから思い切って、彼に誘われるまま実家に挨拶しにいくことにしたの。
車を走らせること5時間。すごい田舎に彼の実家はあった。
今は6月なのに結構寒い。山ってこんな感じなんだ。
「まあ、限界集落ってやつだ」
「へえ」
「東京に出てくればって言ってるんだけどな」
「そりゃ、慣れ親しんだ場所から出ていくのは怖いよ」
そんな話をしながら、彼の家に到着。
てっきり、昔話に出てくるような民家を想像していたけど、意外と今っぽい。
「リフォームしたんだ。ついでに手すりつけたり、階段の段差なくしたり……この辺は介護施設もないからさ」
親のこと大事にしてるんだって、うれしくなっちゃった。知ってる? 母親への態度がそのまま妻に対する態度になるんだって。
それに彼、商社系の仕事やっててお金あるから納得。
「おねーさんだれ?」
後ろから小さな女の子に話しかけられた。
すごい白い子。髪も白い。全体的に色素も薄くてアルビノっぽい。
「いぶきにーちゃんの彼女?」
「おー。そうだよ。紹介しよう。りんお姉さんだ」
「わー! そうなの! いひひひ」
「こんにちは」
「こ、こ、こんにちはっ!」
楽しそうに笑って、その子は走って行ってしまった。
「なんか雰囲気似てたね。親戚の子?」
「うん。姪っ子。向かいに住んでるんだ。……あのさ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なに?」
「なんというか、うちの家系、みんなこんな感じなんだ。この集落の人たちも同じ。アルビノではないけど、ちょっと気味悪がられてきた過去も多少なりともあって……あんまり見た目のこととか、そういうことには触れないであげてほしいんだ。俺も髪染めてるし、コンタクトもしてる。色白すぎるから必要な時には日焼けサロンにも行く。体温が低いのは運動とか食べ物でカバーしてたりね……。人と違うって大変なんだ」
「そんなの! もちろんだよ!」
私は腕をまくって答えた。
「あはは……ありがとう。じゃあ行こうか」
家に入ると、彼の両親が温かく出迎えてくれた。
いぶきの言った通り、お母さんはいぶきにそっくりだった。真っ白くて綺麗。
でも、お父さんの方は普通だった。あとでちょこっと聞いたら嫁いできたらしい。
手みやげを渡して、馴れ初めやら、子供の頃の話やら、将来のこととかいろいろ話した。マッチングアプリが出会いって言ったら、まずマッチングアプリの説明をしなくてならず、いろいろと面白かった。
とっても素敵な家族で、結婚したい気持ちはますます強くなった。
そして半年後。
私といぶきはめでたくゴールイン。
彼側の親戚が少ないから、結婚式は派手にはしなかったけど、めちゃ幸せ!
ハピハピな新婚旅行と新婚生活を経て、私は妊娠した。
彼は育休をがっつりとってくれて、付きっきりで支えてくれた。やっぱりこの人を選んでよかった。
ところが、少しずつ異変が生じ始めた。
「さ、寒い」
体温が急激に下がり始めたのだ。
いぶきの子だから? でも、こんなに?
いぶきは気にしないでと言って温かいスープや食事、環境を整えてくれるから、言われた通り気にしないようにした。
だけど、妊娠6カ月。
お腹が大きくなるにつれて、私の体温も下がり続ける。
「ねえ、病院行こう」
「大丈夫だよ。心配ない。俺が生まれるときもそうだったらしいから」
「そうなの?」
彼はなおも付きっきりで私の世話をしてくれる。ありがたいんだけど、その代わり、決して病院に連れていってはくれなかった。
「こういうのは、母さんの方が詳しいから」
そう言って、あの集落にいるお母さんに連絡を取り、アドバイスをもらってた。
だめだ。寒すぎて何も考えられない。お腹の子は、無事なの?
妊娠8か月。
北極にいるみたいだ。
どんなに暖房を効かせても、熱いスープを飲んでも、身体は冷たい。
むしろ、温かくするとお腹の子が嫌がるようにもぞもぞと動くのがわかる。
「がんばれ。あと少しだから」
彼の声援が聞こえた。
来月は出産予定日。
妊娠9か月。
ああ……眠くなってきた。
寒いよ。唇が震える。顎も震える。
こんなに暖かい部屋にいるのに、雪山で遭難してるみたい。
「いぶ……き……」
「なんだい?」
「さ、寒くて死んじゃいそう。子供は、無事に生まれるのかな」
「大丈夫。君が死んでも問題ないようにしてるから」
「え……?」
私が死んでも……?
次の日、彼のお母さんと、同じ集落の女の人がうちにやってきた。
自宅出産をするようだ。
私は寒すぎて死にかけてたから、もはやしゃべれなかった。
彼がそんな私の頬にそっと手を添えた。氷のように冷たい手を。
いぶきの手、こんなに冷たかったっけ……?
「りん……ありがとう。母さんも喜んでる。君との子供、大事に育てるよ。だから安心して眠っていいよ」
「う……ん……」
頭の中が白んでいく。まるで、雪が降り積もるように。
凍死する直前、お腹の中から取り出された赤ちゃんを見た。
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真っ白な我が子が、元気な産声を上げていた。
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