■■■村にある小屋

大窟凱人

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白い集落

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 マッチングアプリで出会った男性と意気投合し、真剣に結婚を考えている。

 めちゃくちゃ暑がりだとか、極度の猫舌だとか、ちょっとした癖はあるけど、大丈夫。私にだってそういうのあると思うし。

 それに、アプリでいい人と出会えるなんて滅多にない。色白イケメンで高身長。おまけに優しい。

 だから思い切って、彼に誘われるまま実家に挨拶しにいくことにしたの。

 車を走らせること5時間。すごい田舎に彼の実家はあった。

 今は6月なのに結構寒い。山ってこんな感じなんだ。

「まあ、限界集落ってやつだ」

「へえ」

「東京に出てくればって言ってるんだけどな」

「そりゃ、慣れ親しんだ場所から出ていくのは怖いよ」

 そんな話をしながら、彼の家に到着。

 てっきり、昔話に出てくるような民家を想像していたけど、意外と今っぽい。

「リフォームしたんだ。ついでに手すりつけたり、階段の段差なくしたり……この辺は介護施設もないからさ」

 親のこと大事にしてるんだって、うれしくなっちゃった。知ってる? 母親への態度がそのまま妻に対する態度になるんだって。

 それに彼、商社系の仕事やっててお金あるから納得。

「おねーさんだれ?」

 後ろから小さな女の子に話しかけられた。

 すごい白い子。髪も白い。全体的に色素も薄くてアルビノっぽい。
 
「いぶきにーちゃんの彼女?」

「おー。そうだよ。紹介しよう。りんお姉さんだ」

「わー! そうなの! いひひひ」

「こんにちは」

「こ、こ、こんにちはっ!」

 楽しそうに笑って、その子は走って行ってしまった。

「なんか雰囲気似てたね。親戚の子?」

「うん。姪っ子。向かいに住んでるんだ。……あのさ、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なに?」

「なんというか、うちの家系、みんなこんな感じなんだ。この集落の人たちも同じ。アルビノではないけど、ちょっと気味悪がられてきた過去も多少なりともあって……あんまり見た目のこととか、そういうことには触れないであげてほしいんだ。俺も髪染めてるし、コンタクトもしてる。色白すぎるから必要な時には日焼けサロンにも行く。体温が低いのは運動とか食べ物でカバーしてたりね……。人と違うって大変なんだ」

「そんなの! もちろんだよ!」

 私は腕をまくって答えた。

「あはは……ありがとう。じゃあ行こうか」



 家に入ると、彼の両親が温かく出迎えてくれた。

 いぶきの言った通り、お母さんはいぶきにそっくりだった。真っ白くて綺麗。

 でも、お父さんの方は普通だった。あとでちょこっと聞いたら嫁いできたらしい。

 手みやげを渡して、馴れ初めやら、子供の頃の話やら、将来のこととかいろいろ話した。マッチングアプリが出会いって言ったら、まずマッチングアプリの説明をしなくてならず、いろいろと面白かった。

 とっても素敵な家族で、結婚したい気持ちはますます強くなった。



 そして半年後。

 私といぶきはめでたくゴールイン。

 彼側の親戚が少ないから、結婚式は派手にはしなかったけど、めちゃ幸せ!

 ハピハピな新婚旅行と新婚生活を経て、私は妊娠した。

 彼は育休をがっつりとってくれて、付きっきりで支えてくれた。やっぱりこの人を選んでよかった。

 ところが、少しずつ異変が生じ始めた。

「さ、寒い」

 体温が急激に下がり始めたのだ。

 いぶきの子だから? でも、こんなに?

 いぶきは気にしないでと言って温かいスープや食事、環境を整えてくれるから、言われた通り気にしないようにした。

 だけど、妊娠6カ月。

 お腹が大きくなるにつれて、私の体温も下がり続ける。

「ねえ、病院行こう」

「大丈夫だよ。心配ない。俺が生まれるときもそうだったらしいから」

「そうなの?」

 彼はなおも付きっきりで私の世話をしてくれる。ありがたいんだけど、その代わり、決して病院に連れていってはくれなかった。

「こういうのは、母さんの方が詳しいから」

 そう言って、あの集落にいるお母さんに連絡を取り、アドバイスをもらってた。

 だめだ。寒すぎて何も考えられない。お腹の子は、無事なの?

 

 妊娠8か月。

 北極にいるみたいだ。

 どんなに暖房を効かせても、熱いスープを飲んでも、身体は冷たい。

 むしろ、温かくするとお腹の子が嫌がるようにもぞもぞと動くのがわかる。

「がんばれ。あと少しだから」

 彼の声援が聞こえた。

 来月は出産予定日。

 

 妊娠9か月。

 ああ……眠くなってきた。

 寒いよ。唇が震える。顎も震える。

 こんなに暖かい部屋にいるのに、雪山で遭難してるみたい。

「いぶ……き……」

「なんだい?」

「さ、寒くて死んじゃいそう。子供は、無事に生まれるのかな」

「大丈夫。君が死んでも問題ないようにしてるから」

「え……?」

 私が死んでも……?



 次の日、彼のお母さんと、同じ集落の女の人がうちにやってきた。

 自宅出産をするようだ。

 私は寒すぎて死にかけてたから、もはやしゃべれなかった。

 彼がそんな私の頬にそっと手を添えた。氷のように冷たい手を。

 いぶきの手、こんなに冷たかったっけ……?

「りん……ありがとう。母さんも喜んでる。君との子供、大事に育てるよ。だから安心して眠っていいよ」

「う……ん……」

 頭の中が白んでいく。まるで、雪が降り積もるように。

 凍死する直前、お腹の中から取り出された赤ちゃんを見た。

 あの集落で見かけた、いぶきの姪っ子と同じ……。

 真っ白な我が子が、元気な産声を上げていた。
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