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粛清の時間
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地球外生命体が突如、私たちの前に現れてこういった。
「カイニュウスルゾ、ジンルイ。コレヲツカエ」
手渡されたのは入れ替わり装置と、一人の富裕層の人間だった。
西暦3458年。人類は拡大する貧富の格差を止められなかったが、その馬鹿みたいに真面目な自制心のおかげで幾度となく大戦を回避しつづけた。しかし、このままでは破滅は免れないと彼らは判断したらしい。貧民と富豪がそれぞれ別の生物学的進化を始めたからだ。平均寿命も富豪の方が200年くらい長い。いずれ貧民は駆逐される立場になる。地球は銀河に点在する無数の高度知的生命体によって見守られていたのだ。
だが、大掛かりな介入は禁止されていたため、入れ替え装置を渡されるに留まった。私は実行者として任命され、富裕層の人間と入れ替わった。私の身体に入った彼は私たちの寂れた居住区に事が済むまで拘留される。
「さあ! やったるぞ!」
私は持ち前の明るさと元気で富裕層の世界に飛び込む。この世界の不公平、格差を是正するのだ。
とはいえ、簡単なことではない。そもそも何でこんなことになっているかというと、富裕層が政治家や権力者になってルールを作っているからだ。そして彼らも人間だ。生命保存の潜在意識が自然と働き、自分や自分の血縁にとって不利になるようなことは決してしない。
ルールを作る立場になり、彼らを納得させるしかない。
これは骨が折れた。貧民にとって有利になるような提案をすれば、即座に危険人物扱いされ、疎外される。
時には身内から粛清対象として尋問を受けることもあった。
「一人では荷が重い」
私は他の富豪をどんどん拉致して、入れ替わり装置にかけた。貧民出身の入れ替わり仲間を増やしていったのだ。金持ちのやり方を仲間に浸透させるとともに、その膨大な資産を才覚のある、だが金がなくてそれが活かしきれていない貧民に投資することで少しでも格差をなくそうとした。
そんなある日、事件は起こった。
私はいつものように拉致した富豪を連れて、入れ替わり装置のある故郷へ向かっていた。このころになると、収容者は大勢になっており、専用の大型施設を建設した。彼らがそこまで苦しまないような措置だ。何といっても、自分の身体でもある。いずれはもとに戻りたい。だが……。
「……え?」
なんと、施設が破壊されていたのだ。
嫌な予感がする。
中を見ると、捕まえておいた富裕層たちが殺されていた。すなわち、入れ替わった者たちの身体ごと破壊されたということだ。
「う……うぅ……」
かすかに息がある者がいた。
話を聞くと、入れ替わった者(つまり私が選出した貧民の仲間で、現在は富裕層の姿をしている)の誰かがここになぜ人が収容されているのかを漏らしてしまったらしい。
噂はたちまち広がり、富裕層憎しの貧民が押し寄せ皆殺しにしたという。
「こっちに富裕層がいるぞ! 本物だ!」
暴徒化した貧民が叫んだ。見つかった。
「違う! 私は貧民出身だ! 中身はお前たちとーー!」
「ひゃはははは!」
バン!
連れてきた富裕層の男が撃たれて頭を吹き飛ばされた。赤い血が横っ面に飛んできた。こんなに格差があるのに、血の色は同じだ。
――ダメだ。聞きゃしない。
私はあっという間に囲まれ、ショットガンを突き付けられた。
「てめえ、どうやって死ぬ?」
と、その時だった。
富裕層からやってきた治安部隊のレーザー銃が、暴徒を焼いた。
断末魔と肉が焼ける匂い。
「お怪我はありませんか?」
パワースーツに身を包んだ治安部隊長に声を掛けられ、保護される。
なんなんだこれは。なにがどうなってるんだ。めちゃくちゃだ。
「貧民の暴徒が暴れているという報告を受け、飛んできたのです。間違いありませんよね?」
施設の死体の山に目を向ける。赤黒い血だらけの床に、ゴミのように転がる私の元の肉体を見つけた。銃弾を何発も受け、ボロボロの肉塊になっていた。
「どうしますか? 奴らを駆逐しましょうか」
どうするかだって?
どうする?
私はこれまで貧民を助けるために心血を注いできたのに。もう戻る場所はない。この富裕層の体で生きていくしかないんだ。どうすればいい。どうすれば。
「……ろ……く」
「え? もう一度お願いします」
「あいつらを、殺してくれ! 駆逐するんだ! 早く!」
「はい! お任せください!」
そして粛清が始まり、故郷は壊滅した。
私は富裕層としてそのまま生き続けた。
もし地球外生命体に貧民の救済はどうするのかと言われれば、こう答える。
奴らには霞でも食わせておけ。ってね。
「カイニュウスルゾ、ジンルイ。コレヲツカエ」
手渡されたのは入れ替わり装置と、一人の富裕層の人間だった。
西暦3458年。人類は拡大する貧富の格差を止められなかったが、その馬鹿みたいに真面目な自制心のおかげで幾度となく大戦を回避しつづけた。しかし、このままでは破滅は免れないと彼らは判断したらしい。貧民と富豪がそれぞれ別の生物学的進化を始めたからだ。平均寿命も富豪の方が200年くらい長い。いずれ貧民は駆逐される立場になる。地球は銀河に点在する無数の高度知的生命体によって見守られていたのだ。
だが、大掛かりな介入は禁止されていたため、入れ替え装置を渡されるに留まった。私は実行者として任命され、富裕層の人間と入れ替わった。私の身体に入った彼は私たちの寂れた居住区に事が済むまで拘留される。
「さあ! やったるぞ!」
私は持ち前の明るさと元気で富裕層の世界に飛び込む。この世界の不公平、格差を是正するのだ。
とはいえ、簡単なことではない。そもそも何でこんなことになっているかというと、富裕層が政治家や権力者になってルールを作っているからだ。そして彼らも人間だ。生命保存の潜在意識が自然と働き、自分や自分の血縁にとって不利になるようなことは決してしない。
ルールを作る立場になり、彼らを納得させるしかない。
これは骨が折れた。貧民にとって有利になるような提案をすれば、即座に危険人物扱いされ、疎外される。
時には身内から粛清対象として尋問を受けることもあった。
「一人では荷が重い」
私は他の富豪をどんどん拉致して、入れ替わり装置にかけた。貧民出身の入れ替わり仲間を増やしていったのだ。金持ちのやり方を仲間に浸透させるとともに、その膨大な資産を才覚のある、だが金がなくてそれが活かしきれていない貧民に投資することで少しでも格差をなくそうとした。
そんなある日、事件は起こった。
私はいつものように拉致した富豪を連れて、入れ替わり装置のある故郷へ向かっていた。このころになると、収容者は大勢になっており、専用の大型施設を建設した。彼らがそこまで苦しまないような措置だ。何といっても、自分の身体でもある。いずれはもとに戻りたい。だが……。
「……え?」
なんと、施設が破壊されていたのだ。
嫌な予感がする。
中を見ると、捕まえておいた富裕層たちが殺されていた。すなわち、入れ替わった者たちの身体ごと破壊されたということだ。
「う……うぅ……」
かすかに息がある者がいた。
話を聞くと、入れ替わった者(つまり私が選出した貧民の仲間で、現在は富裕層の姿をしている)の誰かがここになぜ人が収容されているのかを漏らしてしまったらしい。
噂はたちまち広がり、富裕層憎しの貧民が押し寄せ皆殺しにしたという。
「こっちに富裕層がいるぞ! 本物だ!」
暴徒化した貧民が叫んだ。見つかった。
「違う! 私は貧民出身だ! 中身はお前たちとーー!」
「ひゃはははは!」
バン!
連れてきた富裕層の男が撃たれて頭を吹き飛ばされた。赤い血が横っ面に飛んできた。こんなに格差があるのに、血の色は同じだ。
――ダメだ。聞きゃしない。
私はあっという間に囲まれ、ショットガンを突き付けられた。
「てめえ、どうやって死ぬ?」
と、その時だった。
富裕層からやってきた治安部隊のレーザー銃が、暴徒を焼いた。
断末魔と肉が焼ける匂い。
「お怪我はありませんか?」
パワースーツに身を包んだ治安部隊長に声を掛けられ、保護される。
なんなんだこれは。なにがどうなってるんだ。めちゃくちゃだ。
「貧民の暴徒が暴れているという報告を受け、飛んできたのです。間違いありませんよね?」
施設の死体の山に目を向ける。赤黒い血だらけの床に、ゴミのように転がる私の元の肉体を見つけた。銃弾を何発も受け、ボロボロの肉塊になっていた。
「どうしますか? 奴らを駆逐しましょうか」
どうするかだって?
どうする?
私はこれまで貧民を助けるために心血を注いできたのに。もう戻る場所はない。この富裕層の体で生きていくしかないんだ。どうすればいい。どうすれば。
「……ろ……く」
「え? もう一度お願いします」
「あいつらを、殺してくれ! 駆逐するんだ! 早く!」
「はい! お任せください!」
そして粛清が始まり、故郷は壊滅した。
私は富裕層としてそのまま生き続けた。
もし地球外生命体に貧民の救済はどうするのかと言われれば、こう答える。
奴らには霞でも食わせておけ。ってね。
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