元殺し屋だった俺は騎士団長に溺愛されているらしい

MICHE

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第2章 

第31話

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 突然、背中にのしっ、とした重さを感じる。

「アルゼオ、危ないだろ。離れてろ」
「ん、あぁ」

 耳元で、寝ぼけたような力の抜けた声が聞こえた。わかったのかわかっていないのか、アルゼオが俺から離れたのはたった数センチほどで、俺にとって邪魔なのは変わっていない。

「今包丁を使ってるんだ。邪魔だから座ってろ」

 まな板の上の食材から目を離さないまま、アルゼオに忠告する。しかし、アルゼオは一歩たりとも動かない。

「問題ない」
「なにが問題ないだ。おとなしく座って待ってろ」
「あぁ...」

 小さな声で返事はしたが、アルゼオは全く離れない。それどころか、せっかく少し離れたというのに、後ろから俺の腹に腕を回し、肩に頭を乗せてくる。未だに慣れない料理をやってるというのに、アルゼオは邪魔ばかりだ。

「おいっ!」

 痺れを切らして、包丁を一旦置いて後ろを振り返ると、アルゼオの顔が目の前にあった。

「びっ、くりするだろ」

 先ほどまで頭を俺の肩に置いていたから、アルゼオの視線がちょうど俺の目線の高さにあり、強く交わる。

「ん?」

 アルゼオは小さく首を傾げる。ただでさえ無口なほうのアルゼオだが、いつもよりもさらに口数が少ない。その上、今はなんだか目がとろんとしている気がする。


「眠いのか?髪をちゃんと拭かないと風邪をひくぞ」
「眠くない…」

 か細い声でそう言うが、すっかり瞼は落ちてしまっている。それでもって、濡れたままの髪を擦りつけてくるものだから、俺はアルゼオが首にかけていたタオルで髪を拭いてやった。そうしていると、なにやら振動音が聞こえてくる。

「アルゼオ?」

 音の出どころをよく聞いてみると、なんとアルゼオから発せられていたものだった。まさか、と思い、髪だけでなく耳の毛や耳の中までタオルで拭いてやると、振動音が大きくなったり小さくなったりしている。

「うそだろ…」

 アルゼオが頭を乗せている俺の肩を伝わって、柔らかな、それでいて芯のある微振動が耳に響いてくる。確かにアルゼオは獅子だが、これではまるで大きな猫のようだ。半分眠っているくせに、耳は気持ちよかったのかずっと喉が鳴っている。驚きでしばらくそのままでいたが、少し時間が経つと肩が疲れてきたので、アルゼオをベッドに運ぶことにした。
 アルゼオは獣人で、騎士ということもあり、見た目も中身も筋肉質だ。もちろん重ったいが、なんとかおんぶの体勢で持ち上げることができた。アルゼオは結局完全に眠りに落ちてしまったのか、手足はだらんとなって俺にされるがままだ。
 
「はぁ…」

 アルゼオを比べるともちろん劣るが、俺もそこまで貧弱なわけではない。キッチンから寝室までの距離だったが、多少息を切らしながらなんとかベッドの上に落とすことができた。どちらかというと腰をやってしまいそうだ。
 規則正しい呼吸で眠るアルゼオを置いて、俺は料理の続きにとりかかった。今日はトマトソースベースの肉と野菜のスープだ。味見をして完成を確かめると、火を止めて俺は風呂に行くことにした。

 この家のバスルームは、一人で入ると余計に広く感じる。何度かアルゼオと入ったことがあるからこそ、お湯に浸かって足を伸ばしてもなおスペースがあると逆に落ち着かない。顎の下ぎりぎりまでお湯に浸かり、ぼーっとする。
 正確には、ぼーっとしようとした。

「アオハっ!!」

 急にドアが、激しい音を立てて力強く開かれた。
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