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その2 陶晴賢 身分の差を痛切に知る
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兄の死後、元気をなくしていた五郎であったが、柴犬のタケとマツは大いに五郎の心を慰めた。
五郎も心から、この二匹を可愛がった。
そんな五郎が熱中しはじめたのが喧嘩である。五郎が陶家の跡取りであるので、地元では、皆が五郎様、五郎様と大変持ち上げる。
大人も子供も、陶家の若様ということで五郎には平身低頭である。
それでは面白くないと、五郎は遊び相手として選ばれた又二郎、与吉、百乃介をひきつれて、遠くへ出かけていく。
そして、五郎のことを知らない同じくらい、あるいは少し上の年頃の男をみつけると側(そば)によって、睨み付けるのである。
この日も遠くの河原まで出かけると、男の子らが遊んでいた。
五郎は、その中で一番体のでかい奴を睨み据えた。
五郎はこれから始まる喧嘩を想うと怖いやらうれしいやらでゾクゾクするのである。
でかい奴がチラチラこっちを気にしだした。
背は五郎より10センチくらい高い。
(こいつはおおきいな!)
と思ったとき、そのでかい奴がおもむろに近づいてきて、
「おいお前、さっきから俺のこと見てるけど何か文句でもあるのか」
と厳しい眼差しをしながら言った。
「大いにあるね。お前のその顔が気に入らないんだよ」と五郎。
「なんだとー」
と怒鳴りながら、殴りかかってきた。
五郎は、それをかわし相手の横っ腹に蹴りをいれた。
そして続けて左拳を相手の顔面にぶつけた。
「この野郎」
相手は、五郎につかみかかってきた。二人はもみ合って倒れた。
五郎が上になった時に三発殴ったが、下になった時にはその三倍ぐらい殴られた。
「五郎様!」と又二郎、与吉、百乃介らが声をかけると、
「絶対手出すな」と五郎が大声で言った。
相手の仲間も手は出さずに、必死で応援していた。
相手の方が優勢で何度も
「参ったか!」というのだが
五郎はすでにもう力はないのだが、
「いや参らぬ」
と頑張るのだ。しかし・・・体が動かなくなっていた。
相手が立ち上がり、
「これくらいにしておいてやる」
五郎は寝転がったまま、
「負けちゃいないからな、負けちゃいない・・・また来るからな」
とつぶやくが・・・
「おい、みんな帰ろうぜ」と相手方は河原を後にしていった。
又二郎、与吉、百乃介らが五郎に近寄り、
「大丈夫ですか」と口々に言った。
「負けちゃいないからな・・・でも痛かったな」
五郎は、彼らにもたれながらゆっくり帰っていった。
五郎はこんな喧嘩をしょっちゅう繰り返していた。
勝ったり、負けたりするのだが、それが五郎には楽しかった。
対対たいたいで体をぶつけあうことが、なんとも言えない快感なのであった。
五郎の母はもちろん家来の中にも、
こんな五郎の所業に眉をひそめるものもいるだが・・・・
父の興房が、
「それぐらいかまわぬ」
とぴしゃりというものだから、誰も止められないのである。
でかい奴にこっぴどく殴られてから三日たったときのことである。
遊びに行こうと、又二郎、与吉、百乃介らと城を出たところ、
土下座している二人を見た。
「どうしたのでしょうかね」と百乃介が言った。
「さあな」と五郎。
見ると、大人と子どものようである。その大人の百姓男が五郎を見つめ
「あのー五郎様でございましょうか」
五郎が、
「そうだが・・・」
横を見ると、その男の子どもが額を地面に擦り付けている。
「あっ」
五郎は気が付いた。そいつは先日五郎を殴ったでかい奴であることを。
百姓男が、
「このたびは・・・せがれが誠に誠に・・・すみませんでした・・お許しください。ほれ、お前も謝らぬか」
でかい奴が顔を上げた。
その顔は相当殴られたのであろう。ぼこぼこに腫れあがっていた。
この前見た時とは別人のように見えた。
「先日は申し訳ありませんでした・・お許しください、お許しください・・」
流れる涙と鼻汁をぬぐおうともせず・・・泣きながら謝りつづけるのである。
五郎は胸が苦しくなった。
(こんなことをしてもらおうなんて思ってもいないのに・・・・)
でかい奴は顔をくしゃくしゃにしていた。流れる涙に、腫れた部分から流れ出る血が混じり赤色になっていた。
(どんだけ殴られたのだろう・・・どんだけ痛かったろう)
「お許しください・・・」という、そいつの腫れあがった目元の奥に見える充血した瞳から、涙がぽろぽろっと落ちるのが見えた。
五郎は心がしめつけられるような息苦しさを感じ、いたたまれなくなった。
「全然気にしなくていいんだー、気にしなくていいんだよ」
と言うなり突然、五郎は走り出した。
五郎の目からは涙があふれ出していた。
喧嘩で殴られるより、はるかに衝撃を受けた。心が痛かった。
自分の行ったことの大きさを痛切に感じた。後悔する気持でいっぱいになった。
(ごめんよ、ごめんよ)
走りながら五郎は何度も何度も心の中で謝った。
五郎も心から、この二匹を可愛がった。
そんな五郎が熱中しはじめたのが喧嘩である。五郎が陶家の跡取りであるので、地元では、皆が五郎様、五郎様と大変持ち上げる。
大人も子供も、陶家の若様ということで五郎には平身低頭である。
それでは面白くないと、五郎は遊び相手として選ばれた又二郎、与吉、百乃介をひきつれて、遠くへ出かけていく。
そして、五郎のことを知らない同じくらい、あるいは少し上の年頃の男をみつけると側(そば)によって、睨み付けるのである。
この日も遠くの河原まで出かけると、男の子らが遊んでいた。
五郎は、その中で一番体のでかい奴を睨み据えた。
五郎はこれから始まる喧嘩を想うと怖いやらうれしいやらでゾクゾクするのである。
でかい奴がチラチラこっちを気にしだした。
背は五郎より10センチくらい高い。
(こいつはおおきいな!)
と思ったとき、そのでかい奴がおもむろに近づいてきて、
「おいお前、さっきから俺のこと見てるけど何か文句でもあるのか」
と厳しい眼差しをしながら言った。
「大いにあるね。お前のその顔が気に入らないんだよ」と五郎。
「なんだとー」
と怒鳴りながら、殴りかかってきた。
五郎は、それをかわし相手の横っ腹に蹴りをいれた。
そして続けて左拳を相手の顔面にぶつけた。
「この野郎」
相手は、五郎につかみかかってきた。二人はもみ合って倒れた。
五郎が上になった時に三発殴ったが、下になった時にはその三倍ぐらい殴られた。
「五郎様!」と又二郎、与吉、百乃介らが声をかけると、
「絶対手出すな」と五郎が大声で言った。
相手の仲間も手は出さずに、必死で応援していた。
相手の方が優勢で何度も
「参ったか!」というのだが
五郎はすでにもう力はないのだが、
「いや参らぬ」
と頑張るのだ。しかし・・・体が動かなくなっていた。
相手が立ち上がり、
「これくらいにしておいてやる」
五郎は寝転がったまま、
「負けちゃいないからな、負けちゃいない・・・また来るからな」
とつぶやくが・・・
「おい、みんな帰ろうぜ」と相手方は河原を後にしていった。
又二郎、与吉、百乃介らが五郎に近寄り、
「大丈夫ですか」と口々に言った。
「負けちゃいないからな・・・でも痛かったな」
五郎は、彼らにもたれながらゆっくり帰っていった。
五郎はこんな喧嘩をしょっちゅう繰り返していた。
勝ったり、負けたりするのだが、それが五郎には楽しかった。
対対たいたいで体をぶつけあうことが、なんとも言えない快感なのであった。
五郎の母はもちろん家来の中にも、
こんな五郎の所業に眉をひそめるものもいるだが・・・・
父の興房が、
「それぐらいかまわぬ」
とぴしゃりというものだから、誰も止められないのである。
でかい奴にこっぴどく殴られてから三日たったときのことである。
遊びに行こうと、又二郎、与吉、百乃介らと城を出たところ、
土下座している二人を見た。
「どうしたのでしょうかね」と百乃介が言った。
「さあな」と五郎。
見ると、大人と子どものようである。その大人の百姓男が五郎を見つめ
「あのー五郎様でございましょうか」
五郎が、
「そうだが・・・」
横を見ると、その男の子どもが額を地面に擦り付けている。
「あっ」
五郎は気が付いた。そいつは先日五郎を殴ったでかい奴であることを。
百姓男が、
「このたびは・・・せがれが誠に誠に・・・すみませんでした・・お許しください。ほれ、お前も謝らぬか」
でかい奴が顔を上げた。
その顔は相当殴られたのであろう。ぼこぼこに腫れあがっていた。
この前見た時とは別人のように見えた。
「先日は申し訳ありませんでした・・お許しください、お許しください・・」
流れる涙と鼻汁をぬぐおうともせず・・・泣きながら謝りつづけるのである。
五郎は胸が苦しくなった。
(こんなことをしてもらおうなんて思ってもいないのに・・・・)
でかい奴は顔をくしゃくしゃにしていた。流れる涙に、腫れた部分から流れ出る血が混じり赤色になっていた。
(どんだけ殴られたのだろう・・・どんだけ痛かったろう)
「お許しください・・・」という、そいつの腫れあがった目元の奥に見える充血した瞳から、涙がぽろぽろっと落ちるのが見えた。
五郎は心がしめつけられるような息苦しさを感じ、いたたまれなくなった。
「全然気にしなくていいんだー、気にしなくていいんだよ」
と言うなり突然、五郎は走り出した。
五郎の目からは涙があふれ出していた。
喧嘩で殴られるより、はるかに衝撃を受けた。心が痛かった。
自分の行ったことの大きさを痛切に感じた。後悔する気持でいっぱいになった。
(ごめんよ、ごめんよ)
走りながら五郎は何度も何度も心の中で謝った。
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