11 / 11
その7 陶晴賢 五郎涙する
しおりを挟む
その7
江田浜での楽しいひと時をすごしてた五郎だったが・・・
その三日後、三時をまわった頃、
隆房はふと川に水浴びをしようと思い、タケとマツを連れ近くの牛田山の方へ向かった。
ここには五郎の小さな時からの遊び場なのである。
原っぱあり、お気に入りの洞窟あり、川あり、滝あり・・・
遊び場としてはこと欠かない。
道から広い草っぱらに出たとき、タケとマツは水を得た魚のように
あっちこっちを走り回っていた。
遠くの方まで行ったタケとマツの姿はどんどん小さくなった。
隆房は
「タケー、マツー!!」
と大声で呼んだ。
隆房の声にタケは動きを止め隆房を見つめ、そして次の瞬間隆房の方へ走りはじめた。
(タケ、すっごく速くなったなー)
と思った。
マツはまだ向こうの方を駆けまわっている。
ふと空を見上げた。
残暑がまだ厳しく続いていたが、夏雲の間にチラホラと秋雲の気配も・・・
五郎は、
(あれは何だろう)と思った。
黒い点が遠くに見えた。
しばらく見ていると・・・何かの鳥だとわかった。
(なーんだ)
ということで、タケが嬉しそうに駆けてくる方を見た。
五郎のもとまでやってきたタキは、五郎の周りをクルクルまわった。
「ワンワン」
遅れてマツもやってきた。
「ほーれほれほれ、ほーれほれほれ!」
などと言いながら・・・撫でまわした。タキ・マツももう大喜びで・・・
わんわ、わんわと吠えまわっている。
犬二匹と五郎が原っぱを転げまわっていた。
五郎の息も弾んでいた。
少し落ち着いて・・・五郎は地面に座り、その横にタキ・マツも佇んでいた。
すると、
タケは五郎の元からまた駆けだした。どんどんタケの姿が小さくなっていった。
(やっぱり速くなったなあ)
マツは五郎の横で一心不乱に草を噛んでいた。
その時、ちょうど五郎の上空高くに、大きな鳶が見えた。
(さっき見えた鳥は・・・鳶だったんだなあ)
と思い鳶の様子を目で追った。
突然、鳶は急降下しだした。
(地面に降りるのかな)
と、地面の方に目をやると、タケの姿が目に入った。
五郎ははっとした。
(まさか)
タケの方へ向けて駆けだした。
必死になり全力で走った。
そして大声で。
「タケー、タケー逃げろ」
と叫んだ。
しかし、タケは何も気づかず走っている。
五郎は狂ったようにタケの名を叫んだ。
それは、タケが五郎の声に気付いて止まり、五郎の方を振り向いた時だった。
鳶が猛烈な速さで地面すれすれまで舞い降り、一瞬でタケをさらって空を駆け上がっていった。
鳶の足につかまれた、タケは手足をもがくように激しく動かしていた。
やがてタケと鳶の姿は見えなくなった。
五郎は泣いていた。涙が止まらなかった。マツもじっとして動かなかった。
悲しくてしゃくりあげながら泣き続けた。
頭の中に、手足をもがくように動かすタケの姿が何度も何度も思い出された。
五郎は呆然となり、その後どうやって館に帰ったのかも覚えていなかった。
五郎のその後の落ち込みは、傍目からみていても気の毒なほどだった。
ある日、
その様子を見かねた百乃介が・・・
「五郎様、そろそろ元気をだされないと・・・」
「ああ、わかってはいるのだが」
「たかが犬ではございませぬか。また違うのを・・・」
「たかが犬、たかが犬だと!!」と大声を張り上げた。
「そうではございませぬか!!」と百乃介も負けずに言った。
五郎の中で何かがはじけた。
五郎は次の言葉を吐かずに、百乃介に飛びつき殴りかかっていた。
家来の侍に
「五郎様、五郎様、おやめなさい!!」
と止められるまで、殴っていた。
百乃介は殴られるままに・・・じっと耐えていた。
五郎は家来の腕を振り切って・・・城の外に走り出た。
(ちくしょう、ちくしょう)
と心の中で叫んでいた。
その日の夜の事・・・
五郎は部屋で端坐していた。
父の命令で・・・鏡の前に座っていた。
「己を見つめよ」とのこと。
最初反発する気持の強かった五郎だったが・・・
ご飯も食べずに、ずっと・・・
頭に様々なことが浮かんでは消え、浮かんでは消えした。
朝方のことであった。
五郎は「はっ」と気づくものがあり・・・
いつしか、頬を涙が伝わり、肩を震わせていた。
父の元へ行き、二人でしばらくなにやら語り合っていたが・・・
最後に父の興房が、
「これからのこと、そちにまかせる」
「はっ」
五郎はいつもより長く頭を下げ、部屋をあとにしていった。
百乃介のもとを訪ねた五郎であったが、心の底から百乃介に詫びをいれた。
謝る五郎も、謝られる百乃介も・・・ともに目に涙を浮かべていた。
外では秋の気配を感じさせる涼しい風が、時折、道端の草を揺らしていた。
江田浜での楽しいひと時をすごしてた五郎だったが・・・
その三日後、三時をまわった頃、
隆房はふと川に水浴びをしようと思い、タケとマツを連れ近くの牛田山の方へ向かった。
ここには五郎の小さな時からの遊び場なのである。
原っぱあり、お気に入りの洞窟あり、川あり、滝あり・・・
遊び場としてはこと欠かない。
道から広い草っぱらに出たとき、タケとマツは水を得た魚のように
あっちこっちを走り回っていた。
遠くの方まで行ったタケとマツの姿はどんどん小さくなった。
隆房は
「タケー、マツー!!」
と大声で呼んだ。
隆房の声にタケは動きを止め隆房を見つめ、そして次の瞬間隆房の方へ走りはじめた。
(タケ、すっごく速くなったなー)
と思った。
マツはまだ向こうの方を駆けまわっている。
ふと空を見上げた。
残暑がまだ厳しく続いていたが、夏雲の間にチラホラと秋雲の気配も・・・
五郎は、
(あれは何だろう)と思った。
黒い点が遠くに見えた。
しばらく見ていると・・・何かの鳥だとわかった。
(なーんだ)
ということで、タケが嬉しそうに駆けてくる方を見た。
五郎のもとまでやってきたタキは、五郎の周りをクルクルまわった。
「ワンワン」
遅れてマツもやってきた。
「ほーれほれほれ、ほーれほれほれ!」
などと言いながら・・・撫でまわした。タキ・マツももう大喜びで・・・
わんわ、わんわと吠えまわっている。
犬二匹と五郎が原っぱを転げまわっていた。
五郎の息も弾んでいた。
少し落ち着いて・・・五郎は地面に座り、その横にタキ・マツも佇んでいた。
すると、
タケは五郎の元からまた駆けだした。どんどんタケの姿が小さくなっていった。
(やっぱり速くなったなあ)
マツは五郎の横で一心不乱に草を噛んでいた。
その時、ちょうど五郎の上空高くに、大きな鳶が見えた。
(さっき見えた鳥は・・・鳶だったんだなあ)
と思い鳶の様子を目で追った。
突然、鳶は急降下しだした。
(地面に降りるのかな)
と、地面の方に目をやると、タケの姿が目に入った。
五郎ははっとした。
(まさか)
タケの方へ向けて駆けだした。
必死になり全力で走った。
そして大声で。
「タケー、タケー逃げろ」
と叫んだ。
しかし、タケは何も気づかず走っている。
五郎は狂ったようにタケの名を叫んだ。
それは、タケが五郎の声に気付いて止まり、五郎の方を振り向いた時だった。
鳶が猛烈な速さで地面すれすれまで舞い降り、一瞬でタケをさらって空を駆け上がっていった。
鳶の足につかまれた、タケは手足をもがくように激しく動かしていた。
やがてタケと鳶の姿は見えなくなった。
五郎は泣いていた。涙が止まらなかった。マツもじっとして動かなかった。
悲しくてしゃくりあげながら泣き続けた。
頭の中に、手足をもがくように動かすタケの姿が何度も何度も思い出された。
五郎は呆然となり、その後どうやって館に帰ったのかも覚えていなかった。
五郎のその後の落ち込みは、傍目からみていても気の毒なほどだった。
ある日、
その様子を見かねた百乃介が・・・
「五郎様、そろそろ元気をだされないと・・・」
「ああ、わかってはいるのだが」
「たかが犬ではございませぬか。また違うのを・・・」
「たかが犬、たかが犬だと!!」と大声を張り上げた。
「そうではございませぬか!!」と百乃介も負けずに言った。
五郎の中で何かがはじけた。
五郎は次の言葉を吐かずに、百乃介に飛びつき殴りかかっていた。
家来の侍に
「五郎様、五郎様、おやめなさい!!」
と止められるまで、殴っていた。
百乃介は殴られるままに・・・じっと耐えていた。
五郎は家来の腕を振り切って・・・城の外に走り出た。
(ちくしょう、ちくしょう)
と心の中で叫んでいた。
その日の夜の事・・・
五郎は部屋で端坐していた。
父の命令で・・・鏡の前に座っていた。
「己を見つめよ」とのこと。
最初反発する気持の強かった五郎だったが・・・
ご飯も食べずに、ずっと・・・
頭に様々なことが浮かんでは消え、浮かんでは消えした。
朝方のことであった。
五郎は「はっ」と気づくものがあり・・・
いつしか、頬を涙が伝わり、肩を震わせていた。
父の元へ行き、二人でしばらくなにやら語り合っていたが・・・
最後に父の興房が、
「これからのこと、そちにまかせる」
「はっ」
五郎はいつもより長く頭を下げ、部屋をあとにしていった。
百乃介のもとを訪ねた五郎であったが、心の底から百乃介に詫びをいれた。
謝る五郎も、謝られる百乃介も・・・ともに目に涙を浮かべていた。
外では秋の気配を感じさせる涼しい風が、時折、道端の草を揺らしていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜
上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■
おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。
母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。
今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。
そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。
母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。
とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください!
※フィクションです。
※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。
皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです!
今後も精進してまいります!
【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる