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第二章:二度寝を夢見る孤児と修理屋の仲間たち
第三話:迎撃の罠
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空気が重い。それはただの湿気や熱のせいではない。肌を刺すような、張り詰めた緊張感が、周囲の空気を分厚くしていた。
荒廃した街の一角、廃工場跡地の屋上に身を伏せながら、ネロは遠くの砂煙を睨んでいた。太陽が真上にあり、照りつける光の中を十人ほどの影がこちらへ近づいてくるのが見える。砂埃が舞い上がり、遠目にも彼らが武装しているのがわかった。
彼らの姿は、寄せ集めの戦士団といった風情だ。先頭を歩く大男は、さび付いた工事用ヘルメットを被り、肩には巨大な解体用斧を担いでいる。彼の両隣には、くすんだ作業服に身を包んだ男たちが、錆びたパイプやチェーンを武器として手にしていた。その背後には、かろうじて原型を留めたライフルを肩にかけた二人の男が、警戒しながらゆっくりと続く。誰もが泥と埃にまみれ、顔には戦いの傷跡や飢えの影が浮かんでいた。
「来たな……」
横にいるカイルが低く呟いた。十七歳になった彼の体は逞しく、かつての痩せ細った面影はもうない。だが、火花のような激情をたたえた目だけは変わらなかった。
「敵は十人。先頭は斧持ち、後方に銃器が二名。……間違いなく、スカベンジャーの偵察隊です」
リナの声がインカム越しに響く。十五歳の少女とは思えぬ冷静な報告だ。かつては守られるだけの存在だった彼女も、今や高所から仲間を支援する頼もしい「目」となっていた。
「作戦通りに行くぞ」
ネロは静かに息を吐き、心を研ぎ澄ませる。正面からやり合えば勝ち目はない。だが、この地形と仕掛けを利用すれば、敵を丸ごと呑み込むことができる。
工場跡の奥には、老朽化した鉄骨や崩れかけた梁が無数に残っていた。数日をかけてワイヤーを張り巡らせ、腐食した床を落とし穴へと変える罠を組み込んでいた。一見ただの荒れ果てた廃墟だが、踏み込めば牙を剥く檻と化す。
「ネロ、挑発役、行けるか?」
ミナトの声が低く響く。十八歳になった彼は仲間内で最年長だ。眉間に刻まれた皺が、戦況の重さを物語っていた。
「任せろ。俺とカイルでやる」
ネロは決然と答え、カイルと目を合わせた。幼い頃から苦楽を共にしてきた二人には、言葉は要らなかった。そこにあるのは、揺るぎない信頼だ。
「……無茶はするなよ。必ず生きて帰ってこい」
ミナトはそれだけ言うと、ネロの肩を叩いた。
瓦礫の山を飛び降り、ネロは姿をさらしてわざと足音を響かせ、敵の前に立った。
「おい! 田舎者のゴロツキども! ここは俺たちの街だ。迷子か?」
ネロが挑発すると、スカベンジャーの偵察隊は廃墟の入り口で足を止め、嘲笑うように見ていた。
先頭に立つ大きな斧を肩に担いだ男が、下卑た笑みを浮かべる。
「なんだと、小僧! 随分と生意気な口をきくじゃねぇか。お前らの食料と水は、全部俺たちがいただくぜ。お前たちの命もな」
「ほら、見てみろよ! ガキどもじゃねぇか!」
男たちは大声で笑い、ネロたちを侮辱した。その横でカイルが石を投げ、ヘルメットにぶつけた。
「当たったな! ほら、追いかけてこいよ! 怖くて動けねえのかぁ? 腰抜け野郎!」
カイルの挑発に男たちの笑いが止まる。
「待ちやがれッ! てめえら、ぶっ殺してやる!」
荒くれ者たちが一斉に駆け出す。怒りと獲物を侮った油断が、彼らの判断を鈍らせていた。銃を構える者もいたが、焦りからか狙いは定まらない。
「ネロ、行くぞ!」
カイルが叫ぶ。ネロは黙って頷き、二人は廃工場の入り口へ飛び込み、瓦礫の陰へ身を滑り込ませた。後方でリナの旗が振られ、合図が送られる。すべては計算通りだ。
――ガラガラガッ!
最初の梁が落ちた。轟音とともに錆びついた鉄骨が天井から崩れ、突入してきた二人を一瞬で押し潰す。血飛沫が舞い、怒号と悲鳴が交錯した。
「罠か! それがどうした。怯むな、突っ込め!」
指揮官らしき男が怒鳴り、残りの兵を突き動かす。
「たかがガキどもの仕掛けた罠だ! 乗り越えろ!」
「うああああっ! なんだ、この瓦礫は!」
「や、やめろ……! 助け……!」
男は部下の恐怖を力で押し潰し、奥へ進ませた。だが、その選択はさらなる地獄を招いた。
通路の奥に張られたワイヤーが、足元で鈍い音を立てる。次の瞬間――。
ドシャアアアン!
束ねられた鉄パイプが上から雨のように降り注ぎ、三人が頭を砕かれ、もう二人が逃げ場を失って倒れ込む。絶叫が工場内に木霊した。
「くそっ、進め! まだだ、まだやれる!」
指揮官は顔を血に染めながら怒鳴る。その目は狂気に満ちていた。
だが、その先にもネロたちの罠は続いていた。
指揮官に突き動かされた兵士が、再び足を一歩踏み出した瞬間、地面に仕掛けられていた罠が作動する。
ガシャアアア!
錆びついた古いスチール缶の山が、勢いよく崩れ落ちた。ただのゴミの山ではない。ネロがサイコキネシスで圧縮し、刃物のように鋭く加工した金属片が混ざっている特製のトラップだ。
無数の刃が、足元の兵士たちを襲う。悲鳴を上げながら倒れ込む兵士たち。その背後では、重厚な鉄扉がガシャンと音を立てて閉まり、通路を完全に塞いだ。
「ちくしょう! どけ、どけってんだよ!」
「誰か、開けてくれえええ!」
「うわあああ、足が、足がぁぁぁ!」
残ったのは、指揮官ただ一人。肩で荒く息をし、血に濡れた斧を握り締めていた。獣のような眼光で周囲を睨み、ゆらりと立ち上がる。
「小僧……貴様ら、ただの孤児じゃねえな……」
「そのとおりだ」
ネロは前に出る。掌をかざし、意識を集中する。必死に磨いた能力――サイコキネシス。
指揮官が雄叫びを上げ、斧を振りかぶった瞬間、見えない力が炸裂した。斧ごと彼の体を弾き飛ばし、鉄壁に叩きつける。骨の砕ける音とともに、男は崩れ落ちた。
静寂が戻る。粉塵が晴れ、仲間たちが姿を現した。リナが高所から降り、安堵の笑みを浮かべる。カイルは拳を突き上げ、ミナトは黙って頷いた。
ネロはゆっくりと仲間を見渡す。胸の奥に、熱いものが込み上げてきた。
「これで――俺たちがただの孤児じゃないってこと、奴らに刻み込めただろう」
「うん」
リナが小さく笑い、頷いた。
「次は本隊だな」
カイルは唇を噛む。
ミナトは周囲を見回しながら低く言った。
「奴らは必ず報復に来る。ここからが本番だ」
テゴの機械声が無線に入る。
「迎撃作戦、成功を確認。敵偵察部隊、全滅。……だが、これは序章に過ぎない」
仲間たちはその言葉を胸に刻む。スカベンジャーの影はまだ濃く、この街を覆い尽くそうとしている。だが彼らにはもう、恐怖だけに縛られる日々は戻らない。
廃墟に残る瓦礫の中で、ネロは拳を固めた。俺達はただ生き延びるだけの子供ではない――自分の手で未来を切り拓けるんだ。
荒廃した街の一角、廃工場跡地の屋上に身を伏せながら、ネロは遠くの砂煙を睨んでいた。太陽が真上にあり、照りつける光の中を十人ほどの影がこちらへ近づいてくるのが見える。砂埃が舞い上がり、遠目にも彼らが武装しているのがわかった。
彼らの姿は、寄せ集めの戦士団といった風情だ。先頭を歩く大男は、さび付いた工事用ヘルメットを被り、肩には巨大な解体用斧を担いでいる。彼の両隣には、くすんだ作業服に身を包んだ男たちが、錆びたパイプやチェーンを武器として手にしていた。その背後には、かろうじて原型を留めたライフルを肩にかけた二人の男が、警戒しながらゆっくりと続く。誰もが泥と埃にまみれ、顔には戦いの傷跡や飢えの影が浮かんでいた。
「来たな……」
横にいるカイルが低く呟いた。十七歳になった彼の体は逞しく、かつての痩せ細った面影はもうない。だが、火花のような激情をたたえた目だけは変わらなかった。
「敵は十人。先頭は斧持ち、後方に銃器が二名。……間違いなく、スカベンジャーの偵察隊です」
リナの声がインカム越しに響く。十五歳の少女とは思えぬ冷静な報告だ。かつては守られるだけの存在だった彼女も、今や高所から仲間を支援する頼もしい「目」となっていた。
「作戦通りに行くぞ」
ネロは静かに息を吐き、心を研ぎ澄ませる。正面からやり合えば勝ち目はない。だが、この地形と仕掛けを利用すれば、敵を丸ごと呑み込むことができる。
工場跡の奥には、老朽化した鉄骨や崩れかけた梁が無数に残っていた。数日をかけてワイヤーを張り巡らせ、腐食した床を落とし穴へと変える罠を組み込んでいた。一見ただの荒れ果てた廃墟だが、踏み込めば牙を剥く檻と化す。
「ネロ、挑発役、行けるか?」
ミナトの声が低く響く。十八歳になった彼は仲間内で最年長だ。眉間に刻まれた皺が、戦況の重さを物語っていた。
「任せろ。俺とカイルでやる」
ネロは決然と答え、カイルと目を合わせた。幼い頃から苦楽を共にしてきた二人には、言葉は要らなかった。そこにあるのは、揺るぎない信頼だ。
「……無茶はするなよ。必ず生きて帰ってこい」
ミナトはそれだけ言うと、ネロの肩を叩いた。
瓦礫の山を飛び降り、ネロは姿をさらしてわざと足音を響かせ、敵の前に立った。
「おい! 田舎者のゴロツキども! ここは俺たちの街だ。迷子か?」
ネロが挑発すると、スカベンジャーの偵察隊は廃墟の入り口で足を止め、嘲笑うように見ていた。
先頭に立つ大きな斧を肩に担いだ男が、下卑た笑みを浮かべる。
「なんだと、小僧! 随分と生意気な口をきくじゃねぇか。お前らの食料と水は、全部俺たちがいただくぜ。お前たちの命もな」
「ほら、見てみろよ! ガキどもじゃねぇか!」
男たちは大声で笑い、ネロたちを侮辱した。その横でカイルが石を投げ、ヘルメットにぶつけた。
「当たったな! ほら、追いかけてこいよ! 怖くて動けねえのかぁ? 腰抜け野郎!」
カイルの挑発に男たちの笑いが止まる。
「待ちやがれッ! てめえら、ぶっ殺してやる!」
荒くれ者たちが一斉に駆け出す。怒りと獲物を侮った油断が、彼らの判断を鈍らせていた。銃を構える者もいたが、焦りからか狙いは定まらない。
「ネロ、行くぞ!」
カイルが叫ぶ。ネロは黙って頷き、二人は廃工場の入り口へ飛び込み、瓦礫の陰へ身を滑り込ませた。後方でリナの旗が振られ、合図が送られる。すべては計算通りだ。
――ガラガラガッ!
最初の梁が落ちた。轟音とともに錆びついた鉄骨が天井から崩れ、突入してきた二人を一瞬で押し潰す。血飛沫が舞い、怒号と悲鳴が交錯した。
「罠か! それがどうした。怯むな、突っ込め!」
指揮官らしき男が怒鳴り、残りの兵を突き動かす。
「たかがガキどもの仕掛けた罠だ! 乗り越えろ!」
「うああああっ! なんだ、この瓦礫は!」
「や、やめろ……! 助け……!」
男は部下の恐怖を力で押し潰し、奥へ進ませた。だが、その選択はさらなる地獄を招いた。
通路の奥に張られたワイヤーが、足元で鈍い音を立てる。次の瞬間――。
ドシャアアアン!
束ねられた鉄パイプが上から雨のように降り注ぎ、三人が頭を砕かれ、もう二人が逃げ場を失って倒れ込む。絶叫が工場内に木霊した。
「くそっ、進め! まだだ、まだやれる!」
指揮官は顔を血に染めながら怒鳴る。その目は狂気に満ちていた。
だが、その先にもネロたちの罠は続いていた。
指揮官に突き動かされた兵士が、再び足を一歩踏み出した瞬間、地面に仕掛けられていた罠が作動する。
ガシャアアア!
錆びついた古いスチール缶の山が、勢いよく崩れ落ちた。ただのゴミの山ではない。ネロがサイコキネシスで圧縮し、刃物のように鋭く加工した金属片が混ざっている特製のトラップだ。
無数の刃が、足元の兵士たちを襲う。悲鳴を上げながら倒れ込む兵士たち。その背後では、重厚な鉄扉がガシャンと音を立てて閉まり、通路を完全に塞いだ。
「ちくしょう! どけ、どけってんだよ!」
「誰か、開けてくれえええ!」
「うわあああ、足が、足がぁぁぁ!」
残ったのは、指揮官ただ一人。肩で荒く息をし、血に濡れた斧を握り締めていた。獣のような眼光で周囲を睨み、ゆらりと立ち上がる。
「小僧……貴様ら、ただの孤児じゃねえな……」
「そのとおりだ」
ネロは前に出る。掌をかざし、意識を集中する。必死に磨いた能力――サイコキネシス。
指揮官が雄叫びを上げ、斧を振りかぶった瞬間、見えない力が炸裂した。斧ごと彼の体を弾き飛ばし、鉄壁に叩きつける。骨の砕ける音とともに、男は崩れ落ちた。
静寂が戻る。粉塵が晴れ、仲間たちが姿を現した。リナが高所から降り、安堵の笑みを浮かべる。カイルは拳を突き上げ、ミナトは黙って頷いた。
ネロはゆっくりと仲間を見渡す。胸の奥に、熱いものが込み上げてきた。
「これで――俺たちがただの孤児じゃないってこと、奴らに刻み込めただろう」
「うん」
リナが小さく笑い、頷いた。
「次は本隊だな」
カイルは唇を噛む。
ミナトは周囲を見回しながら低く言った。
「奴らは必ず報復に来る。ここからが本番だ」
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