僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第二章_水野冬樹

26.稜線の果て

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 一番打者として出場する以上、出塁して得点することが使命になる。
 真っ先に確認したのは猛虎軍のキャッチャーの梅木さんの血液型だ。
 ラッキーなことにA型だった。
 これで配球は聞ける。
 先発投手は今季好調の小柳さんだ。
 サイドハンドからの絶妙なコントロールで、右打者としては打ちにくいタイプになる。

 そして何よりも、守りの要として相手を抑え込まなければならない。
 今日のドルフィンズの先発は荒れ球の濱崎さんだ。
 相手の狙いを外して配球を組み立てる僕としては、荒れ球の投手はリードするのが難しい。
 コースは二の次で球種で相手の逆を選択して行こう。

 試合前はブルペンに入っていないカズさんが、僕をリラックスさせようとして、イロイロ話し掛けてくれていたが、僕よりもカズさんのほうが緊張しているようで、話しの内容は空っぽだった。
 とは言え、ありがたいことだ。
 カズさんを安心させる為にも、最初の打席から結果を残したいっ!

 一回の表、いきなり初打席だ。
 球種とコースが聞けるので、先ずは粘って四球狙いが良いだろう。
 呼吸を止めて打席に入る。
 初球は外のスライダーか。
 じっくり球筋を確認する。

「!」凄いキレだっ!

 これがプロの一軍で投げる投手の球かっ!
 手元で急激に曲がるし、コースもギリギリだ。

 次はインコースのストレートだ。
 スピードは広島に入団した青木さんや、去年同僚だった須藤さんのほうが速いが、微妙に球が動くので見極めが難しい。

 そうは言っても、それをファールしてカウントを整えなければならない。
 コントロールが正確なので、球種とコースは絞れる。
 何とかカットして10球目を選んで四球をもぎ取った!
 記念すべきプロ初打席で、自分の特徴を発揮して出塁できた! 

 次の狙いは盗塁だ。
 梅木さんの肩はリーグでも屈指の強肩だ。
 しかしサイドハンドの小柳さんならモーションを盗めるはずだ。
 勇気を持って果敢にスタートすると、何とかセーフになった。

 しかし、後続が倒れて僕は二塁に釘付けのままで二死になった。
 これがドルフィンズの弱さだと思う。
 ランナーが出ても好き勝手に打つだけなので、繋がれば大量得点になるが、一点を確実に取りに行く野球ができないのだ。

 まるで山田と市川がバントや進塁打を嫌い、好き勝手に打っていた頃の染川高校と同じなのだ。
 去年から就任した葉山監督は、そんな雑な攻撃を変えようと努力はしたが、何せ足の遅い選手がスタメンに並んでいるので、結局打つしかない攻撃になってしまっていた。

 僕が一番に定着できれば、足を使った攻撃ができるはずだ。
 今後の為にも多城さんに打ってもらって、何としてでも得点に繋げたいっ!
 お願いしますっ!

 願いが通じたのか?
 多城さんのセンター前ヒットで、僕がホームを踏み先制することができた。
 中学生の頃から目標にしていた形で、プロ入り初得点を記録することができた。
 が、特に記念のボールとかが手元に残らないことが残念ではある……

 その裏、猛虎軍の一番打者・二番打者の狙いを外して、簡単に二死となった。
 迎える打者は三番の神庄しんじょうさんだ。
 この人に打たれると猛虎打線に勢いが付く、絶対に抑えたい選手だ。

 呼吸を止めて狙い球を聞くと「ホームランっ!」と聞こえる。
 えっ?
 コースや球種は関係無く、ホームラン狙いなの?
 こんな打者は初めてだっ!

 僕はタイムを要求して濱崎さんに駆け寄る。
「あの、新人の僕が生意気言いますけど、神庄さんには絶対に中に入るボールは投げないで下さい。
 全力で腕を振って、全部ボール球で歩かせてもいいですから」
「おぉ、分かってるよ。この場面はホームラン狙いだろうしな」
 流石は経験豊富な濱崎さん。
 僕が言わなくても充分警戒している。
 アウトコース低目に逃げるチェンジアップを二球続けると、いずれも空振りを奪い追い込んだ。
 三球目はインコース高目のストレートを見せて、最後はチェンジアップを要求しようと考えていたところ、三球目も空振りで切り抜けた。
 
 二回裏、猛虎軍の四番・五番は強力外国人のバーツとテルマが続く。
 先ずは球団史上最強の助っ人と言われているバーツを迎えるが、ここで今まで考えもしなかった問題が発生した。
 呼吸を止めて彼の声を聞いてみたが、英語なので完全に理解できないのだ。
「ファストボール」「インサイド」とか、単語は理解できるが、速球やインコースを狙っているのか、捨てているのかが分からない。

 様子を探る為に、インコースのボールゾーンへストレートを要求してみた。
 すると、ピクリと反応したので、これは狙っている球だと理解して良さそうだ。
 聞こえてくる単語とは別の球種とコースを要求して、バーツは何とか抑えることができた。

 一難去って…… 五番のテルマはドミニカ出身だ。
 英語なら何とか単語で理解できるが、スペイン語は全く分からない。
「??ラーピド」って何だ?
 聞き取れない。
 意味が全く分からないので、ここは無理して長打を打たれるよりも、シングルヒットなら良しとして、低目の球で勝負して行こう。

 二回裏を何とか凌いでベンチに戻ると、僕はすぐに呂比須に聞きに行った。
 スペイン語で「速球」「高目」「低目」「インコース」「アウトコース」とりあえず五つの単語を教わった。

 今日はこれで凌ぐしかない。
 英語とスペイン語は、今後の課題としよう。

 初回の一点を守り、濱崎さんは六回を投げ切った。
 七回は石塚さん、八回は崎山さんと継投して凌ぎ、いよいよ九回裏だ。

「ドルフィンズ、選手の交代をお知らせします。九番崎山に代わりまして、ピッチャー長嶋」

 そうコールされると、僕は武者震いがした。
 カズさんとの夢のバッテリーが実現する。
 高校時代には辿り着けなかった甲子園のマウンドでカズさんを待つ。
 マウンドに集まっていた多城さんが言った。

「冬樹、一茂のナックルは投球練習の時より、打者が居る時のほうが変化が大きいから、捕球できなくても後ろにだけは逸らすなよ」
「ひゃ、ひゃい。絶対に止めてみせましゅ」
 ありゃ、緊張してるのだろうか?

「おいおい冬樹、そんなんで大丈夫か?」
 熊本さんがニヤニヤしながら言ってきた。
 皆さんリラックスしてるなぁ……
 それはカズさんの実力を信じているからに違いない。
 僕は自分で両頬を叩き気合を入れた。

「大丈夫ですっ! 今日は僕のデビュー戦ですから、絶対に勝ちますっ!」
 カズさんがマウンドに来ると、全員で「ヨッシャ!」と気合を入れて各ポジションに散った。
 規定の投球練習を終え、僕だけ再びマウンドに行く。

 カズさんは何を思っているのだろうか?
 呼吸を止めて歩み寄った。
 カズさんは、ジッとこちらを見つめていた。

(水野、お前に会えて本当に良かったよ)と聞こえた。
「カズさん、僕もずっとそう思ってましたよっ!」
「な、何だよ、俺、口に出してたか?」
「えぇ。ボソっとだけど、しっかり聞こえました」
「お前、地獄耳だな」
「そうなんですよ。僕の悪口を言う時は気を付けたほうがいいですよ」
「バ~カ! お前の悪口言う時は、いつも皆に聞こえるようにデカい声で言ってるだろっ!」

 特に配球の打合せをする訳でもなく、いつものように二人で軽口を叩き合って、僕はホームベースに戻る。


 父が好きだった山登りに例えるならば、今日で頂上に着いた訳ではない。
 やっと稜線に出た。
 と言ったところだろうか?
 まだまだ頂上は見えない。
 彼方まで道は続いているが、その先はどんな道になっているのだろうか?
 
 第一歩は踏み出せた。
 これから稜線の果てを目指し……
 カズさんと、チームメイトと、応援してくれる仲間たちと、そして香織と……
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