僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

文字の大きさ
43 / 71
第二章_水野冬樹

25.理由

しおりを挟む
「水野君、久し振りね。私にもお酌させて」
 見慣れない美人が隣にやってきた。
「あ、はい。って、えぇ~! もしかして三木先輩ですかっ?」
 そこへ松村先輩と菅沼先輩もやってきた。
「何だよ、水野知らねぇのかよ」
「三木は地元のローカル局で活躍してる、ご当地アイドルってやつだぞ」
「長野ではカズより有名かもな」
「マジっすかっ? 三木先輩元々美男子だとは思ってたけど、まさかっ!」
「水野君も来年活躍して有名になってね」
 松村先輩と菅沼先輩は、それぞれ大学を卒業して地元企業に就職した後、同じクラブチームに入団してバッテリーを組み、都市対抗の長野県代表まで、あと一歩のところまで勝ち進んだとのことだ。
 カズさんも含めた二代前の先輩たちは、それぞれ実力を発揮していて、黄金世代と言っても過言ではないだろう。

「冬樹!」「久し振り~」「おめでとう!」
 福井先輩と同期の宮沢・山田・市川・大塚も集まってきた。
 福井先輩はインターネットの投稿サイトにポエムを投稿して活躍している。
 もしかしたら詩人として大成するのではないだろうか?
 宮沢は大学を卒業したら、家業のりんご農家を継いで、松村先輩と菅沼先輩と同じクラブチームに入ることを目標にしている。
 宮沢が加入すれば戦力アップは間違いないので、ますます楽しみだ。
 山田は進学後に回転寿司屋でアルバイトを始めたところ、回転寿司の魅力にすっかり嵌ってしまい、中退して正社員となり店長に昇格している。
 市川は元々実家にあった「切手」に興味を持ち、切手収集という古風な趣味に目覚めて、インターネット界隈では、カリスマ収集家として有名になっている。
 大塚はその後も体を鍛え続け、今では同期の誰よりも逞しくなっている。
 フィットネスクラブでインストラクターのバイトをしているそうだが、趣味と実益を兼ねて充実しているようだ。

 さてさて、今日の目的のひとつであるが、僕をキャッチャーにコンバートした理由を監督に聞いてみたい。
 プロになれたら教えてやる。
 って言われた時は、一生教えてもらえない可能性のほうが高いと思ったが、プロになれた以上、確認しない訳には行かない! 

「監督、お久し振りです」
「ん~ なんじゃ~」
 監督はカズさんの隣で飲んでいるが、かなり酔っている様子だ。

「おぉ! 水野、お前どこで飲んでたんだよっ!
 早くここに座って、この酔っ払いのおっさんを何とかしてくれよっ!」
「バカ野郎! 長嶋っ! 大体お前の話しが下手過ぎるのが悪いんだろうがっ!」
「そんなっ! 水野と二人だからやります。って言ったのに、水野は来ないし、講演会なんて初めてだからあれくらいで普通ですよっ!」
「普通なもんかっ! ボソボソ小声で話しやがって、あれじゃぁ誰にも何も伝わらんだろうがっ!
 おい水野、お前からも長嶋に喋り方の練習をするように言ってやってくれよっ」
「そんな…… 僕も喋りは苦手ですから……」
 聞くところによると、講演会で上手く喋れないカズさんに代わって、同行していた監督がほとんど喋っていたということらしかった。
 来年も講演会があるとしたら、今から憂鬱になる……

「ところで監督、僕がプロになれたら、僕をキャッチャーにコンバートした理由を教えてくれる。
 って言ってましたけど、覚えてますか?」
「ん? そんなこと言ってたか?」
「言ってましたよ! ずっと気になってたんですよっ!」
「あぁ…… 何だ…… 細けぇことはいいじゃねぇかっ!
 それにな、お前はまだプロとして試合にも出てねぇし、プロになったとは認められねぇなっ!
 長嶋とお前が活躍して、優勝したら教えてやるよ。
 まぁ、そのうち優勝するんじゃねぇかな?
 何となくそんな夢を見たような気がするし……」
「監督、夢と現実の区別がつかなくなるようじゃぁ、毎晩飲み過ぎなんじゃないですか……」
 結局この日も、僕をキャッチャーにコンバートした理由は教えてもらえなかった。
 こうなったら本当にカズさんと力を合わせて優勝するしかなさそうだ。

 卒業してから初めてOB会に出席したが、来年も堂々と出席できるように、しっかり活躍しなければならない。
 カズさんのように新人王とまでは行かないとしても、一軍に定着できるような結果は残しておきたいところだ。

 年が明けたらすぐに入寮して、新人の合同自主トレが始まる。
 他の新人に負けないように、準備はしっかりやっておかなければならない。
 年末年始も休み無くトレーニングは続けるつもりだ。
 明日は二日酔いで無理かもしれないが……

 ドルフィンズの寮では、カズさんの隣の部屋が割り当てられた。
 困ったことがあったら、頼りになるカズさんが近くに居てくれるので心強い。

 すぐに新人合同自主トレが始まったが、社会人野球で鍛えられていたので、他の新人選手にスピードでは負けていなかった。
 しかし相変わらずパワー不足を痛感させられて、キャンプは二軍スタートとなった。

 二軍とは言え、社会人野球の大きな大会で対戦するような選手ばかりだ。
 その中で結果を残すのは並大抵のことではない。
 自分の特徴をアピールして結果を残せるように、頭を使って日々を過ごそう。

 キャンプの紅白戦などでは、簡単に凡打することが無いように、泥臭く食らいつく打撃を意識した。
 粘って四球を選び、盗塁も積極的に仕掛けた。
 自分のできることはやれていたつもりだったが、一軍のキャンプに呼ばれることはなかった。

 開幕二軍スタートになったが、去年のカズさんだって開幕は二軍だった。
 そうは言っても、入団時から秘密兵器として期待されていたカズさんは、本拠地開幕戦となる四試合目から一軍昇格する予定が決まっていた様なので、単に実力不足で二軍スタートになった僕とは違う。

 ドルフィンズの課題は、正捕手と一番二番を打てる打者の確立だ。
 前回優勝した1998年は田螺毛たにしげさんという絶対的な捕手が在籍していた。
 一番打者は碓氷さん、二番打者は安芸さんで固定されており、二人共出塁率が高く足も使える理想のコンビだった。

 優勝メンバーが移籍したり引退した後、捕手は日本代表にも選ばれた哀川さんがレギュラーになったが、哀川さんの移籍後は、なかなか正捕手を固定することができていない。
 一番打者も新人王を獲得した兼城さんや、地元・横浜学院から入団した、伊志川さん・島波さんなど、単年で活躍する選手が出現しても、なかなか定着することができずにいた。
 
 久し振りに四位に浮上した去年も例外ではなく、多城さんをはじめとして、来日して十年を経過して、日本人に帰化した呂比須・熊本さん・佐田さんなど、中軸打者は強力なのだが、一番二番の出塁率が低い上に、足が遅い選手が多く得点効率は悪かった。
 僕が出塁して盗塁して多城さんのヒットで得点する。
 中学生の頃に漠然と目標にしていた構想が実現できれば、得点力が上がり、試合終盤までにリードを奪えば、崎山さんとカズさんがブルペンに控えているので、かなり高い確率で勝つことができるのではないか?
 そのためにも、なんとしてでも早い段階で一軍に上がって首脳陣にアピールしなければっ!

 二軍の公式戦は一軍より少し早く、三月の中旬から始まる。
 出場機会はそこそこ与えられている。
 三月の成績は10打数2安打で、打率は2割だったものの、四球を5個選んで盗塁も5個決めていた。
 守備では、僕がマスクを被っているときは無失点で凌いでいた。
 それを捕手の功績として、どの程度認められているかは分からないが……

 四月になり、二軍のレギュラー捕手として、毎試合スタメンで起用されるようになった。
 足の速さを認められて、打順は一番に固定された。
 高校以来の慣れ親しんだ打順で、毎試合出場することで、試合勘が研ぎ澄まされて行くことを、自分でも感じられるようになってきた。

 四月の前半だけで、十試合に出場し30打数10安打で通算打率を丁度3割の乗せることができた。
 四球も10個選んでいて通算15個、盗塁も12個上乗せして17個になった。
 一番打者としては申し分ない数字ではないだろうか?

 そう思っていたところ、一軍のレギュラー捕手だった蛍柱ほとばしらさんが、死球で骨折して登録抹消になった。
 代わりの捕手として指名されたのは僕だった。
 チームは猛虎軍の本拠地・甲子園に遠征していた。

 高校時代、手が届きそうで届かなかった甲子園。
 プロとして甲子園でデビューできたら最高だっ!
 カズさんは去年甲子園で投げているが、チームがリードしてカズさんが登板して、僕がキャッチャーとして出場できたら……
 
 想像しただけで勝手にニヤニヤしてしまうのだが、一軍のキャッチャーは蛍柱さんだけではなく、経験豊富な峰さんも居るし、僕が出場するのは簡単ではないだろう。
 などと、移動中の新幹線の中では、期待しては、その期待を打ち消してみたり、僕の表情はコロコロ変わっていたに違いない。
 知らない人が僕を観察していたら、かなり怪しい人物だと思ったのではないだろうか?

 甲子園に到着すると、葉山監督から驚くべき通達があった。
 今日の試合で僕をスタメン起用すると言うのだ。
 しかも打順は一番である。
 後日聞いた話しではあるが、二軍の喜多監督からの強い進言によるもので、当初は、いきなりは無理だと考えていたのだが、喜多監督がどうにも折れない為に決めたとのことであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

秘密のキス

廣瀬純七
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...