僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第二章_水野冬樹

24.あの時の場所で

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 ドラフトの後に、都市対抗の本戦が行われた。

 ドラフトに指名された富山さん、須藤さん、そして僕が所属していることから、横浜通運は優勝候補に挙げられていた。

 今年勝たないと来年は苦しいだろう。

 田舎の無名高校から、僕を採用してくれた恩に報いたい!

 

 僕の出番は相変わらず終盤の八回九回に限られていたが、僕が守っている時は無失点に抑え、チームは前評判通り優勝することができた。

 所属期間はほとんど控え捕手としての起用だったけれど、この三年間で僕の実力はワンランク上に上がった実感はある。

 最後の都市対抗で優勝できて、少しは恩返しできたのだろうか?

 レギュラーではなかったので、沢山恩返ししたことにはなってないだろう……

 でもこの先、ドルフィンズで活躍して「元横浜通運の水野」として有名になることで恩返しできたら良いな。

 と思っている。



 都市対抗が終わり、横浜通運野球部の送別会が行われた。

 ドラフト一位の富山さん、今年はエースとして活躍した須藤さんと比べて、僕は地味な存在ではあったが、チームの仲間が次々とお酌をしに来る。

 まだ二十歳なので、酒はそんなに多くは飲めなくて困っているところ、同期の斎藤が代わりに飲んでくれて助かった。

 高卒ルーキーとして一緒に頑張った斎藤、まだまだ伸びしろがあると思うので、将来プロに進めるように頑張ってもらいたい。



 酔い潰れる前に、監督にも挨拶しとかなきゃ……

「あの、監督…… 短い間でしたが、ありがとうございました」

「おぉ、水野! まさかこんなに早くドラフト指名されるとは思わなかったが、まぁそのうち可能性はあるな。

 とは思っていたよ。来年はお前を正捕手にしようと思ってたから、ちょっとチームとしては痛かったけどな」

「まだチームに全然貢献できてませんでしたが、プロで頑張ります。

 えぇ~っと、それでですねぇ、あの、もしプロで活躍できるようになったら、香織さんと結婚したいとょ思ってりゅんでしゅが……」

 あれ? また発音が……

「ん? 何だって?」

「えぇ~ ですから……」

「あははっ…… 聞こえてたよ! 俺は反対はせんけど、今の話しはちゃんと香織にも言ったのか?」

「いや…… えぇ~っと、まだです」

「バカ野郎っ! こんな大事な話しを本人より先に俺に言うなっ!

 罰としてプロで活躍できなかったら認めないからなっ!」

「えっ? いやっ絶対活躍するので、その時はちゃんとご挨拶に伺いますっ!」

「よしっ! 待ってるからなっ!」



 酒に酔っていたからなのだろうか?

 つい勢いで言ってしまった。

 監督の言う通り、先に香織に言わなきゃダメだったよなぁ……

 監督の口から先に伝わると後が怖いから、近いうちに何とかせねば。

 こういうことは勢いが大事だから、明日言っちゃうかなぁ……

 「明日会えない?」とLINEを送ると、すぐに「OK」と返事が来た。



 翌日、横浜駅で合流してランチを食べてから、上茶谷をブラブラ歩くことにした。

 僕たち二人の原点となった町だ。

 初冬の空気は冷たかったが、晴れていて透明度が高く、いつものように丹沢の山並みの向こうに富士山が見えた。

 この時期の日の入りは早い。

 間もなく丹沢と富士山が茜色に染まった空に、黒く塗りつぶされるように見える。



「あのさ、香織」

「なぁに?」

 振り向いた顔はニコニコ笑っている。

 次に僕が何を言おうとしているのか、見透かされているようだ。

 ちょっと焦った僕のセリフは、いつものアレになった……

 プロポーズがポンコツになってしまい申し訳ない……

 マジでボイストレーニングをやろうっ!

 この時も強く決意した。

 

 この頃、カズさんの新人王が決定した。

 年末の染川高校野球部OB会の案内も届いた。

 去年のカズさんに続き、二年連続でプロ野球選手が誕生することになり、しかもカズさんは新人王に輝いている。

 学校関係者は大変な盛り上がりだそうで、カズさんと僕の二人で講演会をやって欲しいとの依頼まで来た。



 講演会なんて無理に決まっている。

 また声がひっくり返ってしまい、ロクなコメントもできないに違いない。

 僕は一応会社員なので、日程の調整が無理との理由で、講演会はカズさん一人でやってもらうように逃げた。

 本当は年内で退職が決まっていて、有給休暇が丸々残っているので、十二月になれば毎日暇になるのだが、講演会はやっぱり無理なので、ここは嘘を見逃して欲しいところだ。



「来年立派な成績を残せたら、その時は必ずカズさんと二人でやらせて下さい」と言って、なんとか逃げることができた。

 来年活躍してしまったら、もう逃げられないが、講演会をやるのが嫌なので活躍しないでおこう。

 という訳には行かない。

 ここでもボイストレーニングの必要性を強く感じた。

 本当はプロ野球選手としてのトレーニングに集中しなければならないのだが、このまま放置するのは何かと不味いよなぁ……

 プロとして、しっかりしたコメントを残すことも大切だ。

 来年までに喋りの練習もしておこう……



 年末も近くなり、忘年会も兼ねた野球部OB会が開かれた。

 カズさんの新人王獲得のお祝いと、僕のドルフィンズ入団のお祝いも兼ねている。



「皆さんの応援もあり、自分でも想像した以上の結果を残せました。

 来年も引き続き頑張りますので、応援よろしくお願いいたします」

 と、カズさんは無難な挨拶をした。

 これはヒーローインタビューでよくあるテンプレートかと思われる。

 今年は何度も経験したので、慣れているなぁ……

 と感心した。

 さて僕の番だ。



「子供の頃から憧れていたドルフィンズに入団することになりました。

 三年間の染川高校野球部での苦しい練習が僕の原点です。

 来年からも初心を忘れずに、長嶋先輩と共に活躍できるように頑張ります」

 ふ~……

 何度も練習したので上手く言えた。

 さて、まだ酒はあんまり飲めないし、新人王のカズさんに主役は任せて、僕は少し隅のほうでコソコソ飲むとするか……

 と思っていたのだが、すぐに森田さんに見つかってしまった。



「水野君も主役なんだから、長嶋君の隣に居なきゃダメだよ」

「いや、まだそんなに酒は飲めないし、プロとして実績を残しているカズさんと比べたら、僕なんて全然主役じゃないですよ」

「何言ってるんだよ。来年は水野君が新人王になって、染川高校の名を全国に轟かせないとっ!

 そうそう、後でサイン書いてくれよ。ウチの店のお客さんからプロ野球選手になったのは水野君が第一号だよっ!」



 そこへ良子さんが純米大吟醸の一升瓶を持ってやってきた。

「冬君、飲んで飲んでっ! もうお酒大丈夫なんでしょ? 今日は甘酒は無いからねっ」

「ホントにそんなに飲めないんですよ。まだ二十歳ですよ。手加減して下さいよっ」

「そんな人にこのお酒は勿体ないから私が飲むっ! お酌してっ! それから私にもサイン書いてよ。お店に飾っておくから」



 そこへ、鷹杉さんが遅れて到着した。

 スキー教室が忙しくて菅平から街まで降りてくるのが遅れたらしい。

「水野君、プロになれて良かったなぁ。

 あの時は本気でスキーにスカウトしたかったけど、まさかプロ野球選手にまで上り詰めるとは思わなかったよ。

 いや~無理に誘わなくて良かった」

「そんな、あの時は嬉しかったですよ。でもスキーは初めてだったし、自分では全然自信なんて無かったですから……」

「でもマジで才能はあったと思うよ。多分、君はどんなスポーツをやっても、何でもできちゃうセンスがあるんだろうなぁ」

 などと話しをしながら、鷹杉さんは良子さんが持っていた一升瓶をペロリと空にしてしまった。

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