僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

文字の大きさ
41 / 71
第二章_水野冬樹

23.ドラフト

しおりを挟む
 プロ野球が開幕すると、開幕三連戦では二軍だったカズさんが、本拠地・横浜ボールパークの開幕に合わせて一軍登録された。
 僕はチケットを入手して、香織と二人で一塁側の内野席で観戦していた。

 対戦相手は球界の盟主を自負する東京の紳士球団だ。
 試合は小刻みな点の取り合いとなり、七回終了時点でドルフィンズが5対4でリードしていた。
 七回裏に投手に代打が出された為、八回から投手交代だ。
「先ほど代打いたしました新発田に代わりまして、ピッチャー崎山」とコールされると、球場のボルテージは最高潮になった。
 崎山投手が登場する時の恒例となった「アキヤスジャンプ」で球場が揺れる。

 普通は九回一イニングを抑える崎山投手を八回から投入するとは、この試合は絶対に落としたくない。
 との思いが伝わる。
 開幕当初から無理な起用は禁物だが、弱いドルフィンズは、勝てそうな試合は絶対勝たないとダメだっ!
 この起用は間違ってはいないだろう。 

 八回裏の攻撃が無得点に終わり、アナウンスが流れた。
「ドルフィンズ、選手の交代をお知らせします。九番崎山に代わりまして、ピッチャー長嶋」
 えぇっ!!! マジかっ? この大事な場面でカズさんを使うのかっ?
 その瞬間、球場の雰囲気も変わった。
 崎山投手に何かアクシデントが起きたのか?
 カズさんのことを知っている僕でさえ、直観的にそんな風に思っていた。
 誰もが不安と不満を口にしている。
 カズさんを応援する声は聞こえてこない……

 ところが、一球投げる毎に回りの反応が変わって行くのが分かった。
 紳士球団の打者は、誰もカズさんのナックルに、バットをかすらせることすらできずに、三者連続三球三振で試合は終わった。
 あれほど不満の声を上げていたファンは、全員称賛の声に変わっていた。

 カズさんのヒーローインタビューはポンコツだったけれど、来年は僕もあの場所に立ちたい!
 改めて強く決意した夜となった。


 その後の日本選手権の本戦では、富山さんが大活躍して、今年のドラフトの目玉として注目を浴びるようになった。
 僕の役割は変わらなかったけれど、少しずつではあるが、打率も残せるようになってきていた。

 カズさんは、登板すれば絶対に抑えていた。
 連続セーブの日本記録を更新する勢いで結果を残している。
 このまま活躍すれば新人王も狙える勢いだ。

 この頃、ドルフィンズのスカウトの野口さんと話しをする機会があった。
「水野君、去年の秋から君をマークするように言われて注目してきたんだけど、いいよねぇ! 君は自分の良さに気付いているかい?」
「えっ? 僕なんか補欠でスタメンで出してもらえてないですけど、良いところがありますか?」
 なんて、逆に質問してみる……

「確かに出番は少ないけど、出ている時は何を心掛けて出ているんだい?」
「守備で使われることが多いですから、相手を観察して失点しないリードを心掛けてますが……」
「うんうん、そうなんだよ。私が注目したのもそこなんだよ。
 君がマスクを被っている時の、横浜通運の防御率が格段に良いんだよ。
 何人かの投手に君の配球のことを聞いてみたんだけど、君の指示通りに投げると不思議と打たれないから、今では何も考えずに君のミットだけを見て全力で投げることができる。
 って意見が多かった」
 これは嬉しい!
 打撃でアピールできないので、誰からも評価されていないのでは?
 と心配していたが、守備を見てくれて評価してもらえるとはっ!

「バッティングについての自己評価はどう?」
「はぁ…… あんまり打席が回ってこないですし、まだ非力でなかなか対応できていませんが、簡単にアウトにならずに、相手投手に球数を放らせて、ヒットを打てなくても四球で出塁できれば良いかなぁ……
 って意識してます。それから塁に出たら常に盗塁は狙ってますね」
「君の打撃成績を調べたら、打率は二割台前半で、長打も少ないんだけど、四球がヒットより多くて出塁率が四割を超えているんだよ。
 それと塁に出たら二回に一回は盗塁を決めている。
 これは四球が二塁打と同じ価値になる。ってことだよね」
「はい。そう意識して打席に立ってます」
「今年は同じチームの富山君ばかりが目立っているから、誰も君のことを知らないと思うんだけど、ドルフィンズは富山君ではなく、君を獲るべきだと思っているよ。
 胡桃沢監督には、今年の秋は富山君と君が抜けるから、キャッチャーを採用しておくように伝えておかないとなっ」
 夢なら覚めないで欲しい……
 でも、これは現実だよなぁ。
 ドラフトまで三ヶ月余りだが、一層トレーニングに励まなければっ! 

 それよりも、今後の試合で活躍してしまうと、他のチームにも僕の存在が知られてしまうのは困る。
 だからと言って、わざと失敗するようなことをすると、チームに迷惑が掛かってしまう。
 仮病でも使うかなぁ……

 などと心配もしたが、ドラフトの目玉選手に成長した富山さんが活躍してくれたので、僕は相変わらず試合の終盤に守備に就くことが多く、今まで通り目立つことは無かった。

 プロ野球のペナントレースが終了した。
 カズさんはシーズンを通して、不動のクローザーとなっていた。
 51試合に登板して、1勝1敗45セーブ、防御率0.64、奪三振78。
 広島の青木投手も、先発として10勝6敗の好成績を残していたが、新人王はカズさんが獲るのではないだろうか?

 しかし、チームの勝率は五割に届かず、今年もBクラスの四位で終わった。
 チームにしてみると十年振りの四位ではあった。
 この十年間は五位が二回で最下位が八回だったので、カズさんの活躍で順位を上げることができた。
 と言っても大袈裟ではないだろう。

 来年は、僕が多城さんの前で出塁して、盗塁を決めて得点力をアップさせる。
 そして僕の配球でチーム防御率を良くすることができれば、更に順位を上げることも可能だろう。
 早く僕もこのチームの一員として働きたい。
 ドラフトの日が待ち遠しい!

 十月の終わりにドラフト会議が実施された。
 ドラフト一位指名が確実な富山さんの為に、立派な会見場が用意されていた。
 他には大卒で僕の一年後に入社した左腕の須藤投手がドラフト候補になっている。

 その一方、全く無名の僕も指名される可能性があることは、チーム関係者には知られていたので、この日は僕も会見場の裏で待機することになった。
 富山さんは埼玉と千葉が一巡目で指名して、クジ引きの結果埼玉が交渉権を得た。
 須藤さんは三巡目で名古屋が指名した。
 会見場のチーム関係者は盛り上がっていた。
 指名が確実だった富山さんの会見が早くも始まっていた。
 誰も僕のことなど気にしていない。

 五巡目まで回ったが、まだ僕の名前は呼ばれていない。
 既に指名を終えた球団も出てきていた。
 本当に指名してもらえるのだろうか?
 だんだん心配になってきたその時……

「第六巡目選択希望選手、横浜、水野冬樹、捕手、21歳、横浜通運」
 会場に「おぉ!」と軽いどよめきが起きた。
 マスコミ関係者が大勢来ていたが、「水野って誰だ?」と言ったような声も聞こえてきた。
 とりあえず、用意されていた席に座らされて、インタビューを受けることになった。

「えぇ、水野君は…… おっと、今年活躍した長嶋投手と同じ高校の出身ですが、今後の抱負を聞かせて下さい」
 おっ! 流石は新聞記者、調べるのが早いな。

「ひゃ、ひゃい。長嶋さんとバッテリーを組んで、ドルフィンズを優勝させることが目標でしゅ」
 あっ、まただ。
 緊張するとちゃんと喋れない……
 この癖をなんとか克服しないと格好悪いぞ。
 ボイストレーニングみたいなことも必要かなぁ。
 てか、それよりも一軍で活躍できるような選手になることが先だよな。

 これまで、目立った成績を残していないので、インタビューはすぐに終わった。
 スマホを確認すると、読み切れないくらいのLINEとメールが届いていた。
「俺は七巡目だったのに、お前は六巡目か、また負けたよ」
 ってカズさん、新人王になるかもしれない人が、何を細かいこと気にしてるんだか……
 去年カズさんが入団テストの時に僕を連れて行ってくれたから、今日の指名になったんですよ。
 あと何年かしたら、実力で指名されるような選手になれたかもしれないけれど、そうなったらドルフィンズ以外のチームから指名された可能性もあったし、小学生の頃から漠然とした夢だったことが現実になったのは、カズさんと会えたからにほかならない。

 高校一年の時に、運命の出会いだと感じたことは間違いではなかった。
 そしてその絆はこれからも続いて行くことになりそうだ。
 カズさんと会えて、本当に良かったっ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...