僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第一章_長嶋一茂

13.弁当売り

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 秋も深まる頃、上原と一緒に例の合コンに参加した。
 しかしその日は亜希子さんは来ていなかった。
 ガッカリしたが、反面ホッとした気持ちにもなった。

 毎回のように、このような場所に参加するような人ではなかった。
 と思ったからだ。
 そして、その翌月も会えなかった。
 
 他に手掛かりも無いので、年が明けてからも毎月参加したが、もしかしたらこの合コンに来ても、ここでは亜希子さんには会えないのかもしれない。
 季節は春になろうとしていた。

 
 三年に進級して、野球部の練習も本格的に再開された頃、合コンに参加することは止めることにした。
 それよりもドルフィンズに入団して有名になれば、また何処かで会えるのではないか?
 そう思うことにして、練習に集中することにしたのだ。

 プロ野球の入団テストは、毎年実施しているチームと、不定期に実施しているチームがあるらしい。
 どうやらドルフィンズは不定期に実施しているらしく、来年の秋に入団テストがあるとは限らない。
 しかも、プロ経験の無い一般公募という形でのテストは、最近はやっていない様子だ。
 他球団を戦力外になった選手で、見込みのありそうな選手の獲得を検討する為に実施しているような感じである。

 プロ経験どころか、ここまでのアマチュアでの実績もほとんど無いに等しい僕が、来年のドラフト前にドルフィンズのスカウトだけに注目される手段など、今のところ全く無い。
 このまま毎日トレーニングしているだけでは、それを披露することも無く大学を卒業することになる。
 何かしなければならない。
 そうは言ってもドルフィンズには知り合いも居ないし……
 藁にもすがる思いで、横浜ボールパークで弁当売りのアルバイトを始めることにした。

 球場の半地下になっている部分は、選手や関係者の駐車場になっているのだが、アルバイトの通用門も駐車場から入場する選手と同じ入り口だった。
 球団関係者やマスコミ関係者、それどころか選手も同じ入り口を利用していることを知った。

 多城選手の姿を間近で見掛けたこともあったが、緊張して声も出せず、ペコリとお辞儀をするのが精いっぱいだった。
 しかし、試合がある日に毎日通っていれば、僕のことを知ってもらえる可能性が無いとも言えない。
 個人レッスンにもお金が必要だし、このアルバイトは一石二鳥だ。
 いやいや、まだお得感が他にもある。
 弁当の売り子は七回を過ぎると大体終了する。
 本当は終わったら帰らなければいけないのだが、僕はこっそりスタンドに上がり、試合を最後まで楽しんでから帰っていたので、一石三鳥だったのだ。
 
 こうして三年生の春から、それまでの二年間と違う生活パターンが始まった。
 ここまで、学業とデザインと野球とをバランス良く時間を使って過ごしていた生活が、野球とアルバイト中心の生活に変化して行った。
 その結果、今までには無かった新たな問題が発生した。
 成績が著しく低下し、夏休み前の前期試験は散々な結果に終わったのだ。

 このままでは、四年生に進級できなくなる可能性もある。
 夏休みは、前期試験の結果が悪かった科目で補修が実施されたのだが、ほとんど毎日学校に通うようなことになってしまった。
 これでは夏休みではないな……
 と思いながらも、どうせ自主トレで毎日学校に行くのだから、大して変わらないか……
 と、気持ちを切り替えた。
 自主トレの時間に多少制限ができるが、ちゃんと卒業することが先決だろう。

 久し振りに勉強で頑張った結果、夏休み明けの追試は無事にクリアすることができた。
 
 追試が終わる頃は、プロ野球もいよいよシーズン終盤になる。
 僕は可能な限り弁当売りのアルバイトに出掛けたが、単なるアルバイトの兄ちゃんの一人として認知されている程度の存在で、今シーズンを終えることになった。

 シーズンオフにあるドルフィンズ主催のイベントで、何かアルバイトがあれば積極的に応募したが、弁当売りのような肉体労働でもないので競争率が高く、お断りされることも少なくなかった。
 単なるアルバイトなのにお断りされている様では先が思いやられるなぁ……
 
 三年生の後期の単位を落とさなければ、卒業に必要な単位はほぼ取得できる。
 四年次は少しの単位と卒論、普通の学生は就職活動に精を出すことになる。
 僕の就職活動は、球場に足を運んで何とか僕のことを知ってもらうチャンスを作ることだ。
 その為には三年後期はきっちり単位を取ることが重要だ。
 個人レッスンを続けるには、アルバイトをする必要があったが、この先の半年間は学業優先で過ごすことにした。

 個人レッスンで習得した技術を忘れないように、後期試験が終わるまでは、自主トレは毎日継続するようにしよう。
 その後はオープン戦のホームゲームから、弁当売りのアルバイトに復帰して、球団関係者ともう少し具体的な関係を作れるように、何か対策を考えてみよう。

 年が明け、後期試験が終わると、二月から長い春休みが始まる。
 どうやら追試を受けることも無く、無事に四年生に進級できそうだ。
 二月はキャンプの季節だ。
 ドルフィンズは沖縄に行っている。
 去年の秋から個人レッスンを受けていないので、その前に稼いだアルバイト代が浮いている。
 何も行動しないより、何かきっかけになるのではないか?
 そう思って宜野湾市のキャンプを観に行くことにした。

 予想通り、選手とファンの間は近い。
 僕は大きな声で多城選手に声援を送った。
 練習終了後には、レプリカユニフォームにサインしてもらい、握手もしてもらった。
 でも、大勢のファンの中の一人なんだろうなぁ……
 過剰な期待はしてはいけない。常に最低の効果だったと考えておいたほうが良い。
 まだまだシーズンは長いのだ。アピールするチャンスは必ず来るはずだ。

 オープン戦が始まった。
 横浜で試合が始まるのは三月になってからだが、僕は初戦からアルバイトに出掛けた。
 オープン戦前半では若手選手の実力を試すことも重要なので、多城選手のような主力選手はベンチ入りしていなかったのだが、この際、誰でも良いから球団関係者と仲良くなりたかった。
 球場のスタッフには、「今年も宜しくね」と声を掛けてもらい、とりあえず去年一年間の努力が無駄ではなかった。
 と確信した。
 
 四月になり四年生に進級した。
 去年の後期に頑張った甲斐もあり、もう授業はあまり無いので、学校には野球をしに行くだけの感じになっていた。

 この後の春季リーグが終われば四年生は引退だ。
 野球で有名な大学では、卒業後も野球を続ける選手は秋季リーグまで現役を続けるが、ウチの大学の四年生は、普通に就職活動をしなければならないので、この時点で引退して退部届けを提出する習慣だ。
 僕は退部届は提出せずに秋まで部に在籍して、打撃投手の裏方を続けさせてもらうようにお願いしていた。

 投げる感覚を忘れたくないのだ。
 打撃投手なんて、できれば誰もやりたくないのだろうか?
 僕のお願いは、むしろ喜ばれていたようなので、これまた一石二鳥だったと言えよう。
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