13 / 71
第一章_長嶋一茂
12.打撃投手
しおりを挟む
突然道が開けたのは良いが、冷静に考えると問題が山積みである。
僕はただプロ野球選手になりたい。
という希望だけではなく、ドルフィンズの選手になりたいのだ。
その手順としてドラフトで指名されなければならない。
今から投手に転向して、連戦連勝すれば興味を持ってくれるスカウトが居るかもしれないが、ドルフィンズのスカウトが興味を持ってくれなければ意味が無い。
連戦連勝とは言え、ウチの大学が加盟しているリーグはレベルが低いし、僕自身の能力も低い。
最速120キロのストレートで結果を残したとしても、対戦相手の実力にも問題があると判断されるだろう。
一般的なドラフトで指名される方法を模索するのは、あまり意味が無さそうだ。
そうなると、テスト入団という方法がある。
テストに合格しても、今のルールだとドラフトで指名されなければならない。
でも、ドルフィンズのテストだけを受ければ、他の球団から指名されることは無い。
しかし、ここでも問題がある。
テストの内容だ。
球団によって基準は違うだろうが、一次テストには遠投という項目がある。
僕の肩では遠投で基準を満たせずに不合格になるだろう。
仮に一次テストを通過したとしても、二次テストが対戦形式になるとは限らない。
ブルペンでの投球だけで判断されてしまえば、120キロの球では、プロ野球チームが欲しがるとは思えない。
大学四年の秋のドラフトまで、あと二年ちょっとある。
その間に何とか遠投の距離を伸ばすことと、対戦形式でのテストを実施してもらえるように、ドルフィンズの関係者に、僕のことを知ってもらえる機会を作る必要がある。
もし何かの方法が見つかり、ドルフィンズに入れたとしても、何の変哲も無い120キロの球でプロから立て続けに空振りを奪えるのは不自然だ。
何か不正行為をしていることを疑われるに違いない。
しかし、この問題は解決策がある。
僕の高校時代の決め球、ナックルを投げればいいのだ。
ナックルならば投げた本人にも分からない変化をする。
大学に入学してから投球練習をしていないので、あと二年、本格的に投手としての基礎を固めることが必要だろう。
僕は野球部で裏方に回る決意をした。
打撃投手に専念する為だ。
あの球ばかり投げていたら、打撃練習にならないので、ロージンバックで手汗を止めて投げるようにした。
打者と対峙しての投球は高校以来だったが、すぐに感覚を思い出した。
あとはもう少しスピードアップしたいところだ。
同時に遠投の距離を伸ばすように、投げ方の基本から勉強したいと思っていた。
インターネットで調べると、ピッチングの技術指導をやっている企業や団体が多くあるようだ。
元プロ野球選手などが個人レッスンしてくれるところもある。
主に少年野球を対象としているようだが、大学生でもレッスンを受けられるとのことで、早速入会することにした。
授業の合間にレッスンを受け、打撃投手として投げながら確認、練習が終わった後に再度レッスンを受けに行く。
そんな生活が始まった。
レッスン料はタダではない。
それまでは球場に通う為にアルバイトをしていたが、レッスンに通う為にアルバイトの時間も増えることになった。
毎日忙しく過ごしていたが、もう一つ気になることがあった。
亜希子さんのことだ。
あの日、店を飛び出して部屋までダッシュで帰ってしまったが、今更ながら何故連絡先を聞いておかなかったのか……
上原に相談すれば、またすぐに会えるのでは?
なんて楽観的な気持ちがどこかにあったのだろうか?
後日、校内で上原を見つけて、亜希子さんともう一度連絡がしたい旨を説明したのだが、それは難しいかもしれない。
との見解だった。
あの合コン的な集まりは、参加を申し込んで会費を払えば誰でも参加できるのだが、会場で連絡先を交換するのがルールで、後から主催者に問い合わせしても、個人情報の開示は難しいだろう。
とのことだった。
なるほど、それは最もなことだ。
相手にその気が無いのに、連絡先を勝手に教えるようなことをすれば、何か事件になる可能性もあるだろう。
しかし、そこは常連の上原のこと、ダメ元で主催者に確認してくれたのだが……
あの日の参加者に、星亜希子という女子は参加していなかった。
という返事が来たらしい。
言われてみれば、僕も長嶋一茂として参加していない。
上原の相棒の滝沢が行けなくなったので、その代役で無理やり連れて行かれたのだった。
会場の雰囲気に馴染めずにいた亜希子さんも、自分の意志で参加したのではなく、誰かの代理だったことは考えられる。
あのイベントは毎月行われているらしいので、上原に頼み込んで次回の申し込みをしてもらった。
あの雰囲気は苦手だが、もう一度参加すれば亜希子さんに会えるのではないか?
淡い期待だが、何もしないよりはマシだ。
亜希子さんのことを想うと胸が苦しくて仕方がないのだ……
そんな毎日を過ごしていたが、僕の投手としての能力が確実にアップしている手応えがあった。
高校生の時は自己流で研究していたが、元プロの指導は的確で、僕の球は130キロ近くまで出るようになっていた。
僕の体格では、今現在の筋肉量やパワーは理想的で、これ以上鍛える必要はあまり無い。
との分析結果が出た。
では、何が悪くてスピードが出なかったのか?
どうやら体が固いことが原因らしく、肩の可動域が狭いことが悪かったらしい。
それからもう一つ。
速い球を投げたいという意識が強すぎて、無駄な力が入り、上手くボールに力が伝わっていなかったことも原因だった。
ストレッチで身体をほぐし、肩を大きく回し柔らかく投げる。
ボールをリリースする瞬間にだけ、ピッと力を込めて投げる。
レッスンで繰り返し身体に覚え込ませる。
大学で打撃投手をやることで、更に体に覚え込ませる。
それが身に付いているのか、次のレッスンで確認する。
毎日毎日その繰り返しで、ある程度の基礎は出来上がったと思われる。
次はナックルの精度だ。
どう変化するのか? ということよりも、無回転に近い球を投げることが重要だと思っていた。
ストライクゾーンに行けば、あとは勝手にボールがバットを避けてくれるのだ。
元々高校生の時に試合で投げていたボールなので、すぐに以前のように投げられるようになった。
しかも、汗を擦り込んでなくても、それなりの変化をするので、打撃投手ではなく試合で投げてみたらどうか?
なんて声も出るようになった。
いやいや、僕の目的は試合に勝つことではなく、自分の腕を磨くことなのだから、それはご丁寧にお断りして裏方に専念させてもらうようにした。
投球には手応えがあったのだが、遠投のほうはサッパリだった……
こればかりは練習してもどうにもならないようだ。
持って生まれた能力なのだから仕方ない……
秋季リーグが終わり、野球部もオフになった。
練習に参加する部員が大分少なくなったが、僕は休むことなく参加していた。
毎日投げていないと不安になるからだ。
投げ過ぎて肩を壊しては元も子もないので、球数は50球程度に抑えているが、投げていない時間はひたすら走って足腰を鍛えた。
裏方の打撃投手なのに、何故そんなに練習するのか?
変わり者扱いされたが、そんなことは気にならない。
プロでやるのだから身体が資本だ。
祖父が言っていたっけ「続けていれば必ず目標ができる」本当にそうなって驚いている。
小さな目標ではなく、子供の頃から夢見ていた大きな目標だ。練習に身が入らないはずがない!
僕はただプロ野球選手になりたい。
という希望だけではなく、ドルフィンズの選手になりたいのだ。
その手順としてドラフトで指名されなければならない。
今から投手に転向して、連戦連勝すれば興味を持ってくれるスカウトが居るかもしれないが、ドルフィンズのスカウトが興味を持ってくれなければ意味が無い。
連戦連勝とは言え、ウチの大学が加盟しているリーグはレベルが低いし、僕自身の能力も低い。
最速120キロのストレートで結果を残したとしても、対戦相手の実力にも問題があると判断されるだろう。
一般的なドラフトで指名される方法を模索するのは、あまり意味が無さそうだ。
そうなると、テスト入団という方法がある。
テストに合格しても、今のルールだとドラフトで指名されなければならない。
でも、ドルフィンズのテストだけを受ければ、他の球団から指名されることは無い。
しかし、ここでも問題がある。
テストの内容だ。
球団によって基準は違うだろうが、一次テストには遠投という項目がある。
僕の肩では遠投で基準を満たせずに不合格になるだろう。
仮に一次テストを通過したとしても、二次テストが対戦形式になるとは限らない。
ブルペンでの投球だけで判断されてしまえば、120キロの球では、プロ野球チームが欲しがるとは思えない。
大学四年の秋のドラフトまで、あと二年ちょっとある。
その間に何とか遠投の距離を伸ばすことと、対戦形式でのテストを実施してもらえるように、ドルフィンズの関係者に、僕のことを知ってもらえる機会を作る必要がある。
もし何かの方法が見つかり、ドルフィンズに入れたとしても、何の変哲も無い120キロの球でプロから立て続けに空振りを奪えるのは不自然だ。
何か不正行為をしていることを疑われるに違いない。
しかし、この問題は解決策がある。
僕の高校時代の決め球、ナックルを投げればいいのだ。
ナックルならば投げた本人にも分からない変化をする。
大学に入学してから投球練習をしていないので、あと二年、本格的に投手としての基礎を固めることが必要だろう。
僕は野球部で裏方に回る決意をした。
打撃投手に専念する為だ。
あの球ばかり投げていたら、打撃練習にならないので、ロージンバックで手汗を止めて投げるようにした。
打者と対峙しての投球は高校以来だったが、すぐに感覚を思い出した。
あとはもう少しスピードアップしたいところだ。
同時に遠投の距離を伸ばすように、投げ方の基本から勉強したいと思っていた。
インターネットで調べると、ピッチングの技術指導をやっている企業や団体が多くあるようだ。
元プロ野球選手などが個人レッスンしてくれるところもある。
主に少年野球を対象としているようだが、大学生でもレッスンを受けられるとのことで、早速入会することにした。
授業の合間にレッスンを受け、打撃投手として投げながら確認、練習が終わった後に再度レッスンを受けに行く。
そんな生活が始まった。
レッスン料はタダではない。
それまでは球場に通う為にアルバイトをしていたが、レッスンに通う為にアルバイトの時間も増えることになった。
毎日忙しく過ごしていたが、もう一つ気になることがあった。
亜希子さんのことだ。
あの日、店を飛び出して部屋までダッシュで帰ってしまったが、今更ながら何故連絡先を聞いておかなかったのか……
上原に相談すれば、またすぐに会えるのでは?
なんて楽観的な気持ちがどこかにあったのだろうか?
後日、校内で上原を見つけて、亜希子さんともう一度連絡がしたい旨を説明したのだが、それは難しいかもしれない。
との見解だった。
あの合コン的な集まりは、参加を申し込んで会費を払えば誰でも参加できるのだが、会場で連絡先を交換するのがルールで、後から主催者に問い合わせしても、個人情報の開示は難しいだろう。
とのことだった。
なるほど、それは最もなことだ。
相手にその気が無いのに、連絡先を勝手に教えるようなことをすれば、何か事件になる可能性もあるだろう。
しかし、そこは常連の上原のこと、ダメ元で主催者に確認してくれたのだが……
あの日の参加者に、星亜希子という女子は参加していなかった。
という返事が来たらしい。
言われてみれば、僕も長嶋一茂として参加していない。
上原の相棒の滝沢が行けなくなったので、その代役で無理やり連れて行かれたのだった。
会場の雰囲気に馴染めずにいた亜希子さんも、自分の意志で参加したのではなく、誰かの代理だったことは考えられる。
あのイベントは毎月行われているらしいので、上原に頼み込んで次回の申し込みをしてもらった。
あの雰囲気は苦手だが、もう一度参加すれば亜希子さんに会えるのではないか?
淡い期待だが、何もしないよりはマシだ。
亜希子さんのことを想うと胸が苦しくて仕方がないのだ……
そんな毎日を過ごしていたが、僕の投手としての能力が確実にアップしている手応えがあった。
高校生の時は自己流で研究していたが、元プロの指導は的確で、僕の球は130キロ近くまで出るようになっていた。
僕の体格では、今現在の筋肉量やパワーは理想的で、これ以上鍛える必要はあまり無い。
との分析結果が出た。
では、何が悪くてスピードが出なかったのか?
どうやら体が固いことが原因らしく、肩の可動域が狭いことが悪かったらしい。
それからもう一つ。
速い球を投げたいという意識が強すぎて、無駄な力が入り、上手くボールに力が伝わっていなかったことも原因だった。
ストレッチで身体をほぐし、肩を大きく回し柔らかく投げる。
ボールをリリースする瞬間にだけ、ピッと力を込めて投げる。
レッスンで繰り返し身体に覚え込ませる。
大学で打撃投手をやることで、更に体に覚え込ませる。
それが身に付いているのか、次のレッスンで確認する。
毎日毎日その繰り返しで、ある程度の基礎は出来上がったと思われる。
次はナックルの精度だ。
どう変化するのか? ということよりも、無回転に近い球を投げることが重要だと思っていた。
ストライクゾーンに行けば、あとは勝手にボールがバットを避けてくれるのだ。
元々高校生の時に試合で投げていたボールなので、すぐに以前のように投げられるようになった。
しかも、汗を擦り込んでなくても、それなりの変化をするので、打撃投手ではなく試合で投げてみたらどうか?
なんて声も出るようになった。
いやいや、僕の目的は試合に勝つことではなく、自分の腕を磨くことなのだから、それはご丁寧にお断りして裏方に専念させてもらうようにした。
投球には手応えがあったのだが、遠投のほうはサッパリだった……
こればかりは練習してもどうにもならないようだ。
持って生まれた能力なのだから仕方ない……
秋季リーグが終わり、野球部もオフになった。
練習に参加する部員が大分少なくなったが、僕は休むことなく参加していた。
毎日投げていないと不安になるからだ。
投げ過ぎて肩を壊しては元も子もないので、球数は50球程度に抑えているが、投げていない時間はひたすら走って足腰を鍛えた。
裏方の打撃投手なのに、何故そんなに練習するのか?
変わり者扱いされたが、そんなことは気にならない。
プロでやるのだから身体が資本だ。
祖父が言っていたっけ「続けていれば必ず目標ができる」本当にそうなって驚いている。
小さな目標ではなく、子供の頃から夢見ていた大きな目標だ。練習に身が入らないはずがない!
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる