非現実的転職~暗殺者から第二王子になりました~

赤寺 蘭兎

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突然ですが、王子だったそうです

パンの行方(ラモール視点)

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 なんか…すっげー恥ずかしいことになってます…。

 俺、暗殺者死神ことラモールは今朝、大好きなパン屋『ブローレ』にクリームパンを買いに行った帰りに知らない相手_後に俺の相棒であるオルコだってわかったけど_に誘拐されて、王宮に連れていかれ、第二王子だって論破されて以下略…そんなこんなでしばらくの間王宮に住むことになったが…最後の最後で涙腺が久し振りに何度目かの大崩壊して、そんな俺を王族とオルコが慰めてくれたんだが、その慰め方が…

「あの…いい加減離していただけないでしょうか…。」

 俺を抱きしめながらだ。俺も、今年で17歳になる立派な男なんだ。今更人に抱きしめられるとか本当に恥ずかしい。絶対に顔が赤くなってるやつだろ…顔が熱いし。

「え~…ラモールを抱きしめてると、顔が赤くなって可愛いのにな。」
「離せ!」

 これだからこいつは…。昔からこんな奴だ。
 取りあえず無理矢理四人を引き離すと、遠くから正午を知らせる鐘の音が聞こえてくる。それと重なるように俺の腹の虫がなる。俺の顔がさらに赤く、熱くなるのが分かった。

「あら?ニーラ…じゃなくて、ラモール君お腹すいたの?」

 そう言えば、朝食を食べる前にオルコに攫われたせいでまだパンを食べてな…い…あれ?そう言えば…

「…俺のパン何処だ?」

 俺が最後にパンを見たのは裏路地に入る前だ。そのすぐ後に攫われて…目が覚めた時には武器も何も持ってない。もちろん、買ったはずのパンもだ…

「オルコ…」
「ん?何?」
「俺のパンはどこだ・・・?」
「え?パン…あぁ!!」

 突然叫び出したオルコに少し驚いたが、オルコはそのまま駆け出して行った。

「なんだよ…」
「パン?食べたいなら作ってもらうが…」
「すいません、俺はブローレのクリームパンが食べたいんです。」

 頼もうとした国王陛下の誘いはありがたかったが、俺の腹はあのパンの甘さと優しさを待っている。
 あの店のクリームパンは絶品だ。あの甘くとろりとした特性のカスタードクリーム。それを優しく包み込むふっくら、モチモチとしたパン生地。それはまるで、まだ生まれたばかりの幼子を優しく抱きしめる母親のようだ。俺はブローレのクリームパンを食べて以来、あのパンにしかない優しさの虜になってしまった。

「そんなにおいしいんだ。そう言えば…この間、ノース君が凄い幸せそうにパンを食べてたけど…ノース君も好きなの?」
「はい。少なくても、三年前まではよく一緒に買いに行っていましたよ。俺がクリームパンで、あいつが塩パンって感じで。」
「今度ボクも案内してよ。是非、一回食べてみたいからさ。」
「機会がございましたら。」

 その後、暫くの間パン談議に花を咲かせていると、息を切らしたオルコが戻って来た。その手には袋が一つ。きっと、ブローレのパンが入った袋だろう。

「はい。持って来たよ…」

 袋を開けると、まだホカホカのパンが2つ・・。一つは確かに俺が食べた合ったクリームパンだったがも一つは…何故か塩パンが入っていた。俺は買った覚えはないし、何よりも買ってから相当の時間が立っているにもかかわらずまだ温かい事から察するに…。

「ごめん…攫った時に路地裏に置いてきちゃったみたい♪」
「それで買ってきたと…」
「うん。馬を走らせてきたよ。やっぱり気前がいいよね、あの店は。おまけしてもらちゃった♪」
「それは分かる。俺も今朝おまけしてもらったしな。何よりもおいしい!」

 袋から取り出してしばらく香りを楽しんだのち、食べようと思ったが、そう言えば…

「あの…これ良ければ。」

 食べたいって言ってたからな。俺のクリームパンを半分にして、シーラさんに渡した。差し出したら物すっごい驚いた顔されたんだけど…俺なんかやらかしたか?!

「あの…シーラさん?」
「いいの?」
「え?」
「貰っても…」

 何だ…そんなことかよ。今どきの王子様は決行下手に出て来るのか…。

「はい。さっき話してましたし。」
(クリームパン勢を増やしたい!!)

 俺の周りにいた奴らは皆、塩パン勢、クロワッサン勢、クリームパン勢、その他に分類されるが、この大まかに分けた三つの中で一番人数が少ないのが現状である。出来る事なら、是非語り合う仲間が欲しいものだ。
 渡したクリームパンをシーラさんは食べるとすぐに驚いたような顔をした。これは落ちたようだな。

「ん!すっごい美味しいよ!!」
「お気に召したようで良かったです。」
「塩パンもいかがですか?そんな甘いものよりもおいしいですよ。」
「おい、喧嘩売ってるのか…?」

 こいつは…いつもいつもこうやって喧嘩をふっかけて来るんだ。っと。でも、三年前よりも俺は大人になったんだ。ここはちゃんと大人として…

「え?格下の相手にわざわざ喧嘩なんて売らないよ。」
「よし、今すぐ戦争だ。」

 結局、全員分のパンを買って昼飯としてみんなで食べてました。え?戦争の決着はついたのかって?ついたわけないだろ。あまりにも騒ぐから王妃殿下に叱られたんだよ。でも…誰かに怒られたのも久し振りだったな。その後に食べたパンは、いつもより優しく感じたのは秘密な。
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