黒猫を追いかけてたら新しい世界への道を見つけちゃった話

まなづるるい

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伊恩と詩恩(1)

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 後日、お兄さんと二人で再び新しい世界にやってきた私は、そこで双子の男の子に出会った。名前は差伊恩まいなすいおん和詩恩ぷらすしおん。二人は新しい世界の住人で、時々きては世界のメンテンスをしているらしい。

 どちらも美形で国宝級の顔立ちをしており、黙っていればどっちがどっちか判別が難しい。

 が、喋ればすぐに分かる程、性格は正反対。伊恩は辛辣トゲトゲ王子で、詩恩は天然ゆるふわ王子。色で例えるなら伊恩は黒で詩恩は白。聞けば女のタイプも正反対らしい。双子って面白い。

 話が逸れてしまったけど、とにかく二人は新しい世界のメンテナンス担当で、時には異物を排除したりもするんだって。異物ってなんだろうね。

 ちょっと怖いから今のは聞かなかったことにしようと思ってスルーしてたのに、新しい世界で『私』を見たことがあると聞いて察してしまう。伊恩が言うには、『沢山いたから消しといた』らしい。

 異物ってもしかして、そういう……。

 タイミングが悪ければ、私も異物として消されてたかもしれないってこと?

 そもそも、そういう事例は今まで一度もなかったんじゃ。

 私って量産型なの?

 今すぐ逃げなきゃと思い踵を返すも、すぐにお兄さんに首根っこを掴まれてしまった。「何処行くの?」と私に問うお兄さんの声色がいつにも増して冷たいような気がして、私はすぐに逃げるのを諦める。

 自分と遭遇してしまったらどうしようと困っていると、伊恩がまじまじとこちらを見つめてくるので何かと思いきや。

「お前って、学校にいる時と全然違うんだな」
「え?」

 どうして私の学校での様子が分かるんだろう。もしかしてエスパーだったりして。

「えって何。もしかして気付いてないわけ?  クラスメイトの顔も覚えてないとか最低なんだけど」
「……あ」

 そうだ、二人は私と同じクラスの人だ。窓際に座ってた。

「やっと思いだしたかよ」
「しょうがないよ伊恩、僕達は向こうの世界では目立たないよう生活してるんだから」

 口の悪い伊恩とは対照的に、おっとりとした口調で喋る詩恩。詩恩はこうしていつも伊恩を宥めているのだろう。

「め、目立たないようにって、どうしてですか?」

 私の問いに、詩恩が笑顔で答えてくれる。

「僕達はあくまでメンテナンス担当なんだ。本来こちら側の僕達が向こうの世界、つまり無花果さんの通う学校にいるのは」
「詩恩」
「……おっとごめん。とにかく僕達は目立たないよう、変わりゆく日々を穏やかに暮らしたいと思ってるだけだよ」

 こちら側とか向こうの世界とか、言い方は人それぞれだというのは分かるけど、理由を話せば存在を消されるとか……そういう類いの掟でもあるのだろうか。だとすればこれ以上深掘りするのはよくないと分かる。何か事情がありそうだけど、ここは「そうなんだ」と答えるのが正解だと思う。

「そ、そうなんだ」
「まあ最近はバグも見当たらないし、何かあったら詩恩が守ってくれるから、ゆっくり探索するといいよ」
「僕と伊恩が守るから大丈夫だよ、無花果さん」
「あ、ありがとう」

 一度も話したことのないクラスメイトと、こんなふうに知り合って話すようになるなんてなんだか嬉しいな。

 彼女も生きてたらお友達になれたかもしれないのに。

 ううん、感傷に浸ってる場合じゃないよ。人生山あり谷あり、出会いもあれば別れもある。いつまでも下ばかり見てちゃ駄目だよね。

 暫く探索していると、色々なことが知れて楽しかった。幸い、バグや異物には出会わなかったし(バグと異物は別物らしい)、異音も聞こえなかった。伊恩と詩恩の二人に出会えたことで、一気に仲間が増えたような気がして安心してたのも大きな要因だったかもしれない。

 無事に家に帰ってくると、私は深い眠りについた。夢は何も見なかった。





 翌朝、学校に行くと確かに窓際に座る伊恩と詩恩の姿があった。

 本当に二人はクラスメイトだったんだ。

 嬉しくなって、思わず伊恩に近付き声をかけてしまう。

「あ、の」

 確かに目が合ったはずなのに、すぐに視線を逸らされてしまい不安になる。

「い、伊恩、おは……よう」

 この反応は、昨日の今日で馴れ馴れしくすんじゃねえよと言っているのだろうか。確かに伊恩の性格ならそうするかもしれない。

 なら、詩恩なら答えてくれるかも。

 私は詩恩の方に行くと、同じように声をかけた。

「し、詩恩、おは……よう」

 詩恩は一瞬、驚いた表情を浮かべると、「ごめんね」と言って席を離れてしまった。

 詩恩まで私をシカトするとは思わなかった。

 ショックで胸が痛くなる。

 呆然と立ち尽くしていると、伊恩まで席を離れてしまったようだ。もしかしたら教室では喋っちゃいけない掟でもあるのかもしれない。掟は守る為にあるものだ。自分に言い聞かせてみても、胸の辺りがズキズキする。

「無花果さーん」
「……?」

 ふと、名前も知らないクラスメイトの男の子が私の名前を呼ぶ。

「あの二人には近付かない方がいいよ」
「……え?」
「俺、前に伊恩に声かけたら舌打ちされてさ。普段から近寄んなオーラが半端ないっていうか、たまに喋ったと思ったら口悪いし、いい噂も聞かないし。無花果さんもさ、ああいうのと関わったら同類だと思われちゃうよ?」

 確かに伊恩は口が悪くて素行も悪い。いい噂を聞かないのもまあ分かる。だけど近寄んなオーラが半端ないのは、クラスでは大人しくしているだけで、わざとではないんだと思う。これも二人の平穏な学校生活の為だと思えば、なんてことはない。だから詩恩は私にごめんねと謝っていたんだろう。

 だけどさ、『ああいうのと関わったら同類だと思われちゃうよ?』って何?

 同類って何。ああいうのって何。貴方今、伊恩のことディスったの?

 それは流石に見過ごせないんだけど。

 私は無言のまま教室を出ると、二人を探した。周りの目がなければ話してくれるかもしれないと思った。言われっぱなしは嫌だから、ちゃんと理由を聞きたいと思った。それが例え掟に反することだとしても。

「……し、詩恩」
「無花果さん……どうしたの?」

 一階と二階の中間地点にある階段の踊り場に詩恩がいた。伊恩は近くにいないみたいだった。

「く、クラスの人が、二人の悪口言ってたの。ふ、二人には近付かない方がいいって、関われば、私も同類だと思われるって」
「……そっか」
「わ、私、二人のことなんにも知らないけど、ふ、二人がクラスの人達に誤解されたままなのは、なんか、嫌」
「……うん」

 詩恩は穏やかな表情を浮かべながら、私の話に耳を傾けてくれている。

「ど、どうして、目立たないようにする必要があるの……どうしてさっき、私を無視したの……ふ、二人はなんの為にこの学校に」
「……言っちゃいけない決まりはないから言うけど、伊恩には内緒ね」

 これから話すことは全部、伊恩にとっては話す必要のないことだから。私は知る必要のないことだから。 そう前置きをして、詩恩は淡々と話しはじめた。

 二人は本来、現実の世界の住人ではないから極力こちらに干渉しないようにしていること。現実の世界の住人が新しい世界に迷い込まないように見張る監視役としてこちらにいること。二人は新しい世界のメンテナンス担当としてお兄さんに作られたプログラムであること。メンテナンスとは主にバグや異物を消したり、見なくていいものを見てしまった時や、本来新しい世界にきちゃいけない人が間違ってきてしまった際にその人の記憶を消したりする役目を担うものだということ。そして、二見双葉は本来『きちゃいけない人』だったということ。

 全てを知った私は情報過多により思考がフリーズする。

 二人はただのプログラム。つまり、人間ではないということ。

 二人を作ったのはお兄さんだということ。

 そして何より、私が彼女を新しい世界へと連れていった所為で、彼女が壊れてしまったと証明されたこと。

 彼女は本来、新しい世界に足を踏み入れてはいけない存在だったんだ。それなのに私の私利私欲で新しい世界の二見双葉に会わせてしまった。

 不運が重なってしまった、運がなかった、だから心が壊れてしまった。私の所為だ……私が彼女の心を壊した。私が彼女を殺した。

 お、落ち着け私。まずはひとつずつ、疑問を解消していこう。

「し、詩恩は人間じゃ、ないの?」
「……うん。僕達は此処では実体を持てないんだ。普段は透過しないよう、ある程度自分で制御してるんだけどね」
「う、嘘だぁ」
「残念ながら本当だよ。嘘だと思うなら証明してあげる。無花果さん、僕の手に触れてみて」

 言われた通り、詩恩の手に触れようとする。

 すると、するりと手を通過してしまった。

「……え」
「これが透過だよ。無花果さんとは、住む世界が違う証拠」

 また、胸の奥がズキッと痛む。

 私はまた、余計な詮索をしているのでないか。知らなくて良かった話を詩恩にさせてしまったのではないか。

「ご、ごめ、ん……ごめん……なさい……」
「いいんだ。無花果さんにそんな顔をさせたくてしたわけじゃない。僕の方こそ、ごめんね」

 詩恩は何も悪くない。悪くないのに謝って、悲しそうに笑ってみせる。私の方こそ、そんな顔をさせてしまってごめん。ごめんね詩恩。

 お兄さんが二人を作った理由。ふたつの異なる世界のバランスを保つ為。

 伊恩が詩恩の話を遮った理由。私にこんな顔をさせたくなかったから。

 二人とも優しいなぁ。生身の人間より優しいんじゃない?

 それなのに私は。

 自分の過去の軽はずみな行いが、余計に首を絞めている。

 私の頬は静かに濡れていた。
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