恋して、愛して、変になる

まなづるるい

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第二章 千変万化

隣の席の男の子

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    ■


 牧瀬由乃、高校一年生、春。

 うちの学校は新学期を迎えてもクラス替えのない、一年生から三年生までエスカレーター式の学校だ。それに席替えもないので、隣同士でカップルになる確率がそこそこある。

 私の隣はまぁ……顔はいいんだけど、寡黙で能面なんだよね。だからちょっと、恋愛に発展しそうではないかな。

 学校の男子生徒は皆、お芋さんに見えたし、先生に恋するのも悪くないとは思ったけど、顔が強い先生は皆既婚者で、私のようなお子様には興味がないんだって。

 私ってそんなにお子様かな。胸だってそれなりにあるし、顔だってこんなに可愛いのに。

 私が求めているのは白馬の王子様であって、ちょっと前まで中学生だったお芋さんには興味ないんだよね。

 高校生になったばかりの私は、誰かと恋愛することばかり考えていた。

 私の言う『誰かと』に性別は関係なくて、本当に男女問わず『誰かと』恋愛がしたかった。

 結局付き合ってきたのは女の子ばっかりで、女の子から香る独特のいい匂いに包まれている瞬間が何よりも至福の時だった。

 故に私はまだ処女だった。女の子のなかに男の子の一部を入れたことがない。

 私としては、これはこれで大問題だったのだ。

 何故なら私はレズではなく、バイセクシャルだから。

 折角女として産まれてきたのに、一度も使う機会のないまま一生を終えるのはなんとなく。ううん、ものすごおく嫌だった。

 いつか男の子に初めてを捧げるなら、相手に妥協はしたくない。

 そんなことを悶々と考えていたある日のお昼休み。

 天気がいいのでお外のベンチでお弁当を食べようと思った私は、膝の上にピンク色の楕円形のお弁当箱を乗せ、某キャラクターのお箸を手にしていたのだが。

 私の目の前には何故か、私の隣の席の寡黙で能面(以下、彼)な男の子が立っていた。

 何か言わなきゃこの空気は耐えられないと思い、勇気を振り絞って声を掛けてみたのは私の方。

「な、なにか用ですか……」

 隣の席とはいえ、今まで一度も話したことのない男の子が目の前にいる。

 それだけで、警戒心から思わず敬語になってしまった。

 スルーすることだってできたのに、そうしない私の優しさに感謝してもらわなきゃ。

「牧瀬、一人?」
「……へ……あ、うん……」

 び……っくりしたぁ。私の名前知ってたんだ。全然誰かと話してるところ見ないから、人の名前とか覚えたりしないんだろうなって勝手に思ってた。

「隣、座ってもいい?」
「えっ……あ、うん」

 どうして急に隣に座るんだろう。もしかしてお弁当忘れたのかな。忘れたから、私のお弁当食べたいのかな。

 私は確かに処女だけど、男の子と付き合ったことだって勿論ある。あるけど手を繋いだだけ。

 デートの帰りにそういう雰囲気になって、男の子の家でベットに押し倒された瞬間、怖くなって逃げたの。

 だってなんか鼻息がやばかったんだもん。私に向ける性欲が、不快で不潔なものだと思ったんだもん。女の子と男の子じゃ力の入れ方も触れ方も何もかもが違うんだって、気付いたから。だから逃げた。

 興味がないわけじゃないの。ただ、相手が男の子なのが怖いだけ。えーぶいでしか見たことのない成長した男性器を前にしたら、きっと私はこんなの入らない、と言ってまた逃げるんだ。

「弁当、食べないの?」
「え?」
「さっきから手が止まってる」
「あ、た、食べるよ」

 なんだろうこの距離感。距離の詰め方えぐくない?

 なんかちょっと怖いかも。やっぱり教室で食べようかな。

 この場からなんとか逃げだす理由はないものかと考えながらお箸で卵焼きを一切れ掴むと、隣から彼にぱくりと食べられてしまい動揺する。

「え、は、ぇ」
「ん、美味い。これ牧瀬が作ったの?」
「う、うん」
「ふうん。料理できるとか凄いね」

 どうして勝手に人の卵焼き食べてんの。

 大抵の人はそう言って彼に怒るだろう。

 だけど私はそうではなかった。怒りという感情よりも、先にきた淡い感情。

 この気持ち、知ってる。人が恋をする気持ちだ。

 そう実感した次の瞬間には、唇が触れていた。

 触れていた、なんて他人事。仕掛けたのは私の方。

 どうしてかな。私、この人になら初めてを捧げてもいいと思ったの。運命って言うと大袈裟だけど、それに付随する何かを感じたの。

「……なにしてんの」
「キス」
「なんで?」
「したかったから……駄目?」
「駄目じゃないけど」

 結局、教室に逃げることなくベンチでお弁当を完食した私の隣には、ずっと彼が座っていた。キスだって私からした一度きり。あとはお弁当箱が空になるまで下を向いて黙食した。

 お弁当も食べ終わり、いよいよすることのなくなった私は、ようやくベンチから立ち上がる。

「牧瀬」
「うん?」
「彼氏できたら教えて」
「……うん」

 彼と交わした会話はそれだけで、あの日以来、一言も喋っていない。

 だからあれは幻で、欲求不満な私が見た白昼夢。

 そう思っていた頃に私は奏太くんに出会ったんだ。

 奏太くんとは熱々の肉まんを寒空の下で二人で分け合ったのが始まりで、そこから自然と仲良くなって、私と奏太くんが付き合うのはもはや自然の摂理だった。

 奏太くんがえーぶい男優だと知ったのは付き合ってからだったけど、お仕事とプライベートは違うからと思い、私はそれを受け入れた。

 結局、彼には奏太くんのことを報告していないけど、もう目が合うこともなければ話すこともないし、わざわざ報告しなくてもいいよね。

 彼は隣の席の寡黙で能面な男の子。それ以上でもそれ以下でもないんだから。




    ■


 私は真っ暗な部屋でイヤフォンをしながら、奏太くんの声を聞いていた。ベットの上で横になりながら聞いていると、下腹部が疼いて寝返りばかり打ってしまう。

 奏太くんとならできるかも。えっちな奏太くん、興奮する。うん、興奮はする。

 やっぱりあの時えっちしたいって言えば良かった。

 愛子は奏太くんとえっちしたんだよね。

 いいなぁ、私も奏太くんとえっちしたい。欲求不満になっちゃった。触ってないのにびしょびしょだよ。

「ん……奏太く、ん」

 寝返りを打つ度に、軋むベットの音が卑猥すぎる。

 私は枕にうつ伏せになると、腰を浮かせてシーツにぱんぱんと下半身を打ち付けた。

 擬似えっち。一人でやると虚しいけど、今はこんなことですら興奮する。

「あっ、あっ、ぁん、奏太、くんっ、ああんっ」

 下半身を打ち付ける度に、さっきよりも強く軋むベット。この程度の刺激じゃいけない。もっともっと気持ち良くなりたいのにいけないのがもどかしい。

 響。

 確かそんな名前だった。奏太くんのお姉さん。

 シカトでいいって言われたのに、私、今、奏太くんの声を聞きながら、お姉さんのこと思いだしちゃった。

 お姉さんに滅茶苦茶にされたいな。いっぱい気持ち良くしてもらいたい。

 そう思うのは浮気かなぁ?

 ばれたら奏太くんに嫌われちゃう?

 だって、奏太くん忙しいもん。会いたい時に会えないんだもん。愛子とはえっちした癖に、私とはしてくれないの?

 奏太くん、会いたいよ。淋しいよ。えっちしなくてもいいから抱き締めて。

『淋しい』

 ラインを送る。既読が付く。

『お姉さんが慰めてあげる』

 いけないことだって頭では分かってる。分かってるけど、もう無理なの。身体が疼いてしょうがない。水を飲まないと生きていけないのと同じだよ。喉が渇いたら潤さなきゃ。

 私はぐちゃぐちゃのまま支度をすると、お姉さんに会いに行った。




 駅まで行くとお姉さんがいて、呑気に手を振っている。

「やっほー、由乃ちゃん」
「……こんにちは」
「随分と溜まってそうね。じゃ、行こっか」

 ラブホテルに着くと、ベットの上に立ってパンツを脱いだ。脱いだパンツは床に捨てて、膝上まである真っ赤なスカートを捲り上げる。

「あらあら。由乃ちゃんてば大胆なんだから♡」
「舐めて」
「こんなにぐちょぐちょにしてぇ……いったいどんなえっちなえーぶい見てたのかなぁ?」
「んああっ♡」

 ちゅぷ、と割れ目に人差し指の先端を入れられて、勝手に声が甘くなる。まだ先っぽだけなのに私の身体は気持ち良いでいっぱいになって、足がガクガクと震えてしまう。ゆっくりと抜くお姉さんの人差し指の先端から、私の愛液が糸を引いて。

「えっちな由乃ちゃん、今度は指の根元まで入れてあげまちょおねぇ♡」
「あ……ッ、ぁあアッ♡」

 多分、軽くイッた。

 だけどこんなんじゃ駄目。もっともっと激しくして。立っていられないくらいぐちゃぐちゃにしなきゃ駄目。

「うんうんきもちいね、まずは指だけでイッてみよっか♡」

 人差し指を出して、入れて、出して、入れて。

 頭がおかしくなりそうだった。ううん、もうおかしくなっている。

 私のあそこから卑猥な音が聞こえてくるの。お姉さんの指が気持ち良くて、どんどんえっちな愛液が溢れてきちゃう。

 お姉さんの両肩を掴む指先に力が入る。

 ごめんね痛いよねごめんね。でも、でもお、きもちいよおう。

  中指も一緒に挿入されると、快感が二倍になった。このままぐちょぐちょされてたらイッちゃう。イッちゃう、イク、イクううううう。

「ああーーーッ、イクうううううう♡」

 やっちゃった。お姉さんの指だけで気持ち良くなっちゃった。

 駄目なのに、いけないことなのに、ばれたら今度こそ奏太くんに嫌われちゃうかもしれないのに。

「お、お姉さん……ここぉ、綺麗にしてぇ」
「いいよ。由乃ちゃんのまんこ、綺麗にお掃除してあげる♡」
「ひえ、お姉さんの舌、気持ち良いよぉっ♡」

 綺麗にしたはずのところから、またえっちな汁が垂れてくる。

 敏感な突起はすぐに痙攣した。

 立ったまま二度目のオーガズムを迎えた私は、お姉さんを強く抱き締めていた。

「お姉さん、お姉さん」
「よちよち、いいこでちゅね♡ 淋しい気持ち、しんどい気持ち、全部お姉さんに吐きだそおね♡」

 膝から崩れ落ちていくと、私はボロボロと泣いていた。

 本当は奏太くんとえっちしたいのにできないもどかしさとか、会いたくても会えない淋しい気持ちとか。

 そういうの全部お姉さんにぶつけてる自分が嫌で、私のこのもやもやを全部受け止めてくれるお姉さんの優しさが、私には毒だった。

 私、お姉さんのことが好きなんだ。

 初めて強く実感した。

 だけどこの人は奏太くんのお姉さんで、お姉さんからも付き合おうなんて言われていないのに、私ばっかり好きになって勝手に一人で苦しくなるの。

 傍から見ればこれは浮気で、彼氏である奏太くんを裏切っているんじゃないかって、葛藤がある。

 浮気も何も、私とお姉さんは性欲を満たすだけの関係なのにね。

「お姉さん、私、私ね、お姉さんのことが好きみたい」

 お姉さんは何も答えてくれなかった。

 それは私が奏太くんと付き合っているからだ。

 優しい人。

 お姉さんは私の気持ちに答えないことで、私が悪者にならないようにしてくれている。

 どうして人は同時に誰かと付き合っちゃいけないんだろう。好きな人が二人いたっていいじゃない。それに、異性と同性なんだから、浮気にはならないでしょ?

 もしも奏太くんに出会う前にお姉さんと出会っていたら。

 そんなふうに想像してしまう私は、奏太くんの彼女失格だ。
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