恋して、愛して、変になる

まなづるるい

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第二章 千変万化

お姉さんの正体は

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 愛子に気持ち悪いと言った。あれから愛子とは一度も口を聞いていない。

 学校に行けば野郎共に告白されて断って、外に行けばお芋野郎にナンパされて断って。本当につまんない。退屈すぎて死にたくなる。

 もういっそのこと死んでしまおうか。どうせもう、奏太くんにも嫌われてるし。

 私が存在してる理由がなくなっちゃった。

 そうだよそうだ、死ねばいいんだ。

 どうしようかな。遺書とかいる?

 でも、遺書って誰に?

 あは、笑える。こんな時に誰に書くんだっての。馬鹿じゃねえの。

 よし、遺書は書かない。それならどうやって死のうかな。

 薬は途中で吐くって聞くし、飛び降りは痛そう。溺死や首吊りは苦しいだろうし、包丁で刺すのは死ぬまでが絶対痛い。死ぬ瞬間ぐらいはみっともなく暴れたりしたくないもんね。いだい、いだあい! って。

 自分で死ぬのが怖いなら、誰かに殺してもらえばいいのかな。そうすれば途中で死ぬのが怖くなってもちゃんと死ねる。

 だけどどうやって?

 私、さっきから阿呆なことばかり考えてる。それもこれも全部、奏太くんの所為。奏太くんが私にあんなこと言うから。

 ねえ、もう充分考えたよね。そろそろ私に会いにきてよ。私をそっと抱き締めながらあの時はきもいなんて言ってごめんな、って言って、謝って。

 でも結局、私が奏太くんと仲直りする前に愛子と仲直りしちゃった。奏太くんとはもう、会うことはないのかな。どんなに頭の中で考えても答えなんて出てこなくて。

 誰か私を助けてよ。

 そうやって心の中で叫ぶだけ。

「由乃? え、どうしたの?」

 愛子と話した公園の帰り道。私は泣き崩れていた。

 何かきっかけがあったわけじゃない。急に涙が溢れてきたんだ。

 きっと涙腺が馬鹿になってるの。だからなんでもない時に泣いちゃうの。

「な、なんでもないの……最近ずっとこうなの。癖みたいなものだから気にしないで」
「癖って。なんでもないわけないでしょ。由乃は今、心が痛くて泣いてるんだよ。助けてって泣いてるの。それをなんでもないなんて言わないで」
「愛子……」

 優しい子。

 やっぱり愛子は私の友達だ。恋愛が絡むとちょっときもくなるけど。




 家に帰ると、そこには奏太くんが立っていた。

「え、え、どうしたの急に。もしかしてずっと待ってたの?」
「いや、さっききたところだよ」

 奏太くん、奏太くんだ。ずっと会いたかった奏太くんが目の前にいる。

 もう駄目かと思ってたのに、まさか奏太くんの方から会いにきてくれるなんて。

 嬉しくて頬が緩んでしまう。

 私は奏太くんを部屋へと招き入れると、慌ただしく冷たいお茶を用意した。

「ごめんね、お部屋散らかってて。くるなら事前に連絡くれれば良かったのに」
「うん」

 どうしたんだろう、奏太くん。なんか今日元気ない?

 もしかして別れを言いにきたんじゃないよね。違うよね、奏太くん。

「……仕事ではよくするから」
「え?」
「プライベートではそういう行為をしなくてもいいパートナーが欲しかったんだ」

 あ。これ、えっちの話だ。

 そうだよね、奏太くんはえーぶい男優だもん。お仕事で沢山してるのに、私ともなんて疲れちゃうよね。分かるよ。

「由乃は可愛いし求めてこないから、一緒にいて楽だったんだよ」
「奏太くん……」

 胸の奥がギュッとなる。私もだよ。この気持ちを大事に育てていきたいの。奏太くんと一緒に。

「だからあの時は吃驚しちゃって」

 うん、そうだよね。逆の立場だったら私だって吃驚すると思う。ていうか、あんなの誰だって吃驚するよ。

「まさか姉ちゃんとやってるんだもん……いや、姉ちゃんにそういう趣味があるのは知ってたけどさ、まさか俺の彼女とやるとは思わなかった……的な」
「……ねえ……ちゃん?」

 今なんて言ったの?

 分かんない、理解できなかった。

「……お姉さんって、奏太くんのお姉さんなの?」
「そうだよ。あれ、知らなかった? てっきり知ってて会ってるんだと思ってた」
「し、知らないよぉ……私、なにも聞いてないもん」

 そうか、だからあの時きもいって。あれは私にじゃなくて、お姉さんに言ってたんだ。

「あいつのあれは病気だから。連絡きてもシカトしていいよ」

 お姉さんは奏太くんのお姉さん。奏太くんのお姉さんはお姉さん。

 何度も頭の中で復唱をする。忘れないように。これ、テストに出ます。

「由乃は、さ。俺としたいと思う?」
「え、な、なにを」
「性行為」

 お姉さんが奏太くんのお姉さんなことにも驚いたけど、奏太くんがどうしてこんなことを聞いてくるのかも分からなくて反応に困る。

 いったいどう答えたら正解なんだろう。私がうん、と頷いたらどうなるの?

「わ、私は……」

 本当は私だってしたい。したいけど、奏太くんは今の関係が楽だって言ってくれた。それなのに私がしたいなんて伝えてもいいのかな。駄目だよね。私が大人にならないと。

「私は、今のままで充分幸せだよ」
「そっか、残念。したいって言ったらしてたのに」
「え、え! ちょ、ちょっと考えさせて! もう一回、考えるから!」
「あはは。もう駄目でーす」
「ああもう!」

 地獄のような日々が嘘のように、歯車が噛み合って回りだす。

 私はもう泣かなくていいんだ。

 そう思うと、なんだか心に光が差した気がして嬉しかった。

 大丈夫。私たちはもう揺らぐことのない愛を手にしたの。愛子にもお姉さんにも、邪魔なんてさせないんだから。

 私は暫くの間、奏太くんと過ごす久しぶりのおうち時間を全力で楽しんでいた。
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