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1章 ニヴェア編
第4話 王との謁見、勇者の過去
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楽しい会話に夢中になっているうちに、気づけば壮麗な城の門前に到着していた。しかし、この長い道のりを歩き通し、さすがの俺様もわずかながら疲労を感じていた。イシュタルは途中からアリュールにおぶわれていたから疲労の色は見えないが、そのアリュールは涼しい顔で、息1つ乱していない。これがニヴェア国の誇る部隊長の実力か。やるではないか。それにしても、いつもイシュタルの遊びのために、あの岸辺まで長い道のりを行き来しているのだろうか。もしそうだとしたら、アリュールの体力はまさしく超人の域だな。
「では、城内に入りますよ。国王陛下の御前では、陛下がお許しになるまでお静かにお願いしますね」
アリュールが少し改まった口調で言った。ふん、仕方ない。この異世界で不審者として牢屋にでも入れられては、俺様の壮大な計画に支障が出るからな。郷に入っては郷に従え、という日本の諺もあることだし、一時的に聞き入れてやろう。
城の中は、まさに俺が漫画やゲームで夢見た「異世界の王城」そのものの光景が広がっていた。磨き上げられた石の床、通路の両脇には、歴戦の英雄か古代の神々をかたどったかのような荘厳な石像がいくつも並び、俺の行く末を見守っているかのようだ。(ふむ、この石像ども、有事の際には動き出し、侵入者を排除するゴーレムか何かかもしれんな。油断ならん)。天井からは、無数の水晶が輝く巨大なシャンデリアが下がり、幻想的な光を放っている。(あれはただの灯りではあるまい。魔力を凝縮した永遠の炎か、あるいは星の光を閉じ込めた秘宝か……!)。そんなことを考えながら進むと、やがて奥の巨大な両開きの扉の前までたどり着いた。城の入口の門も相当な大きさだったが、それに勝るとも劣らない威容を誇る扉だ。ここが、このニヴェア国の王がいる場所か。俺様がこの世界に招かれてから、これほど早く一国の王に謁見できるとはな。これもひとえに、俺様の持つ圧倒的なカリスマと、隠しきれない王者の風格のおかげに違いない!そんなことを考えていると、アリュールが衛兵に声をかけ、重々しい音を立てて扉が開かれた。
扉の向こう側は、息をのむほど広大な謁見の間だった。天井は高く、壁には英雄譚を描いたであろう巨大なタペストリーが飾られている。そして足元には、深紅の絨毯が部屋の奥へとどこまでも続いている。やれやれ、この俺様を歓迎するために、ここまで盛大な設えを用意するとは、なかなか殊勝な心がけではないか。
部屋の最も奥、一段高くなった玉座に、悠然と腰かけている初老の男がいる。六十を過ぎたあたりだろうか。広くがっしりとした肩幅、鋭い眼光には、長年国を治めてきた者だけが持つ威圧と深みが感じられる。王と呼ぶに相応しい、見事な貫禄だ。(ふむ、ただ者ではないな。あれほどの威圧、尋常ではない。もしかしたら、強大な魔力でもその身に隠しているのかもしれんぞ……?)
「国王陛下、アリュール、ただいま戻りました。急なご報告、お許しください」
アリュールは玉座の前まで進み出て、流れるような動作で片膝をつき、深く頭を垂れた。その姿は、普段の気さくな彼女とは別人のように凛々しい。
「訪問の訳としましては、本日、イシュタル様と共に岸辺へ出ておりましたところ、浜辺に倒れている方を発見いたしました。こちらにおられる、ユウと名乗る少年です」
アリュールの言葉に合わせ、俺もアリュールの隣で軽く頭を下げ、形だけの敬意を示しておいた。内心では(もっと俺の偉大さを強調しろ、アリュール!ただの少年ではない、世界を救うために現れた英雄だと!)と檄を飛ばしていたがな。
アリュールは続ける。「彼が申すには、海を渡っている最中に漂流し、ここニヴェアに流れ着いたとのこと。日本という異国からやってきたそうですが、かの博識なアカツキ殿もご存じない国名だそうで、おそらくは非常に遠い国から来られたものかと」
アリュールが俺を紹介し終えると、玉座の王はゆっくりと頷き、威厳のある、しかしどこか温かみのある声で言った。
「うむ、アリュールよ、案内ご苦労であった。先ほどラファルが、イシュタルと昼飯を共にする約束の刻限になっても姿を見せぬと心配しておったのは、その儀があったためか。ラファルはイシュタルのことをことのほか気にかけておるからのう。後ほど、ラファルにも事情を説明してやってくれ」
(ふむ、ラファルか。新しい登場人物だな。イシュタルのことを気にかけている、だと?さてはイシュタル皇女の許嫁か何かか?だとしたら、この俺が皇女の仮兄として、その男が皇女にふさわしいか厳しく見定めてやらねばなるまい!不埒な輩であれば、喝を入れてやる必要があるな!)と俺が内心で決意を固めていると、横から小さな影が飛び出し、玉座へと駆け寄っていった。
「ねーお父様!今日はね~アリュールと遊んでたら、変なおじさんと会ったんだよ~。すっごく強くて、見たことない『トケイ』っていうのでドラゴンも呼べるんだって!歩いてるときも、お花の名前とかいっぱい教えてくれて、面白かったの!」
イシュタルが、今日の出来事を興奮気味に、しかし少し舌足らずに話している。……また俺のことをおじさんと言っているな。全く、皇女といえども言葉遣いはしっかり躾けねばなるまい。後で泣いても知らんぞ。
王は、そんなイシュタルの話を実に嬉しそうに、目を細めて聞いている。
「そうかそうか、イシュタルが楽しかったのなら、父も嬉しいぞ。しかしイシュタル、良い子だから覚えておきなさい。人前では父のことを『お父様』ではなく、『国王陛下』とお呼びするのだと、いつも言っているだろう?」
そう言いながらも、その声色はどこまでも優しい。
二人が本当に楽しそうに話しているのを見ていると、隣のアリュールがそっと耳元で囁いてきた。
「ユウさん。国王陛下とイシュタル様、本当に仲が睦まじくて、見ているこちらも心が温かくなりますね。私もそう思います」
アリュールが、まるで自分のことのように嬉しそうに言う。私もだと?ふん、俺様がこの程度の親子の会話で心を動かされるとでも思ったか。甘いな。
「……まあ、仲が良いのは良いことだ。国王が家族を大切にする姿は、国民への良き模範ともなるだろうからな」
俺はあくまで冷静に、客観的な分析を述べてやった。
「そうですよね!ユウさんのご両親は、どのような方だったのですか?」
唐突に、アリュールがそんなことを尋ねてきた。話まで振ってくれるとは、なかなか気の利く、よく出来た女性ではないか。
「俺様の父と母か?ふん、そんなものは、俺が物心つくよりも遥か昔、記憶にもないほど小さい頃には既に亡くなっていた“みたい”でな。詳しいことは何も覚えていない。だが、おそらく俺様の親のことだからな、世界征服を企む邪悪なドラゴンと天空で壮絶な死闘を繰り広げ、相討ちとなって燃え盛る炎の中に消えた……とか、そんなところだろう!」
俺がそう言って得意げに胸を張ろうとした瞬間、視界の隅で、意味もなく赤い閃光が弾けたような気がした。同時に、鼓膜の奥で、誰かの叫び声のようなものが微かに響いたような……?(……なんだ、今の奇妙な感覚は……?気のせいか……)
その時だった。いきなりアリュールが、俺の腕を取り、ぐっとその身を寄せて抱きついてきたのだ。柔らかい感触と、ふわりと香る甘い匂いに、俺は完全に不意を突かれた。な、なんだ、この胸の奥がざわつくような、妙な気持ちは……!?
「!?な、な、何をする貴様!れ、礼儀というものを知らんのか!」
俺は咄嗟にそう叫び、彼女の肩を押して抱きしめられている腕を振りほどいた。顔が妙に熱い。落ち着け俺、これは罠だ!異世界の女の誘惑に決まっている!
アリュールはハッとした顔で俺から離れると、みるみるうちに顔を赤らめ、俯いてしまった。
「ご、ごめんなさい!ユウさんがお話されている時の……その、あまりにもお顔が悲しそうに見えてしまって……。私、差し出がましいことを……!本当にごめんなさい!」
そう言って、彼女は深く頭を下げて謝罪する。それを見ていた玉座の王が、今まで抑えていたのであろう笑いを堪えきれないといった様子で、しかし優しい声で言った。
「ほっほっほ。若いのう。アリュールよ、そなたも隅に置けんな。して、そのユウとやらが、ついにそなたの心を射止めたというわけか?いやはや、まさかあの堅物のアリュールに、そのような愛すべき者が出来るとは、私も感無量じゃ」
などと言って、なぜか一人で感動に浸っている。隣のイシュタルに至っては、
「わー!アリュールがユウにハグしてるー!ハグだよハグー!私もユウにハグしたいー!」
などと、俺たちのことを指差しながら無邪気に王に報告している始末だ。
「「いや、違いますよ!!」」
俺とアリュールの否定の声が、見事に謁見の間にハモった。
王は腹を抱えて笑った後、咳払いを1つして、再び威厳のある表情に戻った。
「はっはっは。いや失敬。本当に仲が良いことだ。……さて、優殿。アリュールの先程の説明と、イシュタルからもそなたについては色々と聞かせてもらった。その処遇については、我が国の重臣たちともよく話し合い、決めさせていただこう。なにやら不思議な『トケイ』なるものも持っているということだしな。できる限り、そなたにとって良いように手配できるよう心がけるつもりだ」
そう言ってくれた。ふむ、俺の価値を認めたか。なかなか話の分かる王ではないか。
「感謝するぞ、国王よ。その言葉、信じて待っているとしよう。良い手配を期待しているぞ」
俺がそう堂々と答えると、国王は周りの家臣たちが一瞬息をのんだのとは対照的に、少し驚いたような、それでいてどこか楽しそうな反応を見せた。
「はっはっは、これはこれは!イシュタルの言う通り、其方は実に面白い男だな!よろしい、話し合いが終わるまで、アリュール、そなたに優殿の城内の案内を命じる。退屈させぬよう、よしなに計らえ」
「はっ!かしこまりました、陛下!」
アリュールが再び恭しく頭を下げ、立ち上がった。すると、すかさずイシュタルが声を上げた。
「私もアリュールとユウに着いていきたい~!お城の中、ユウに教えてあげたいこといっぱいあるの!」
そう駄々をこねる。王は少し困ったような顔をしたが、すぐに破顔した。
「うーむ、仕方ないな。アリュール、イシュタルも共に連れて行ってやってくれ。そして、途中でラファルの部屋にでも寄って、イシュタルを預けてくれ。その際に、ラファルにも今日の事情を説明しておくように」
「かしこまりました!ではユウさん、イシュタル様、参りましょう」
アリュールが俺たちを促した。
異世界の城を見学できるだと?これはまたとない機会ではないか!隠された宝物庫や、伝説の武器でも見つかるかもしれん!そう思うと、先程までの疲労もどこへやら、新たな冒険への期待に胸が高鳴るのを感じ、俺も勇んで立ち上がった。
「では、城内に入りますよ。国王陛下の御前では、陛下がお許しになるまでお静かにお願いしますね」
アリュールが少し改まった口調で言った。ふん、仕方ない。この異世界で不審者として牢屋にでも入れられては、俺様の壮大な計画に支障が出るからな。郷に入っては郷に従え、という日本の諺もあることだし、一時的に聞き入れてやろう。
城の中は、まさに俺が漫画やゲームで夢見た「異世界の王城」そのものの光景が広がっていた。磨き上げられた石の床、通路の両脇には、歴戦の英雄か古代の神々をかたどったかのような荘厳な石像がいくつも並び、俺の行く末を見守っているかのようだ。(ふむ、この石像ども、有事の際には動き出し、侵入者を排除するゴーレムか何かかもしれんな。油断ならん)。天井からは、無数の水晶が輝く巨大なシャンデリアが下がり、幻想的な光を放っている。(あれはただの灯りではあるまい。魔力を凝縮した永遠の炎か、あるいは星の光を閉じ込めた秘宝か……!)。そんなことを考えながら進むと、やがて奥の巨大な両開きの扉の前までたどり着いた。城の入口の門も相当な大きさだったが、それに勝るとも劣らない威容を誇る扉だ。ここが、このニヴェア国の王がいる場所か。俺様がこの世界に招かれてから、これほど早く一国の王に謁見できるとはな。これもひとえに、俺様の持つ圧倒的なカリスマと、隠しきれない王者の風格のおかげに違いない!そんなことを考えていると、アリュールが衛兵に声をかけ、重々しい音を立てて扉が開かれた。
扉の向こう側は、息をのむほど広大な謁見の間だった。天井は高く、壁には英雄譚を描いたであろう巨大なタペストリーが飾られている。そして足元には、深紅の絨毯が部屋の奥へとどこまでも続いている。やれやれ、この俺様を歓迎するために、ここまで盛大な設えを用意するとは、なかなか殊勝な心がけではないか。
部屋の最も奥、一段高くなった玉座に、悠然と腰かけている初老の男がいる。六十を過ぎたあたりだろうか。広くがっしりとした肩幅、鋭い眼光には、長年国を治めてきた者だけが持つ威圧と深みが感じられる。王と呼ぶに相応しい、見事な貫禄だ。(ふむ、ただ者ではないな。あれほどの威圧、尋常ではない。もしかしたら、強大な魔力でもその身に隠しているのかもしれんぞ……?)
「国王陛下、アリュール、ただいま戻りました。急なご報告、お許しください」
アリュールは玉座の前まで進み出て、流れるような動作で片膝をつき、深く頭を垂れた。その姿は、普段の気さくな彼女とは別人のように凛々しい。
「訪問の訳としましては、本日、イシュタル様と共に岸辺へ出ておりましたところ、浜辺に倒れている方を発見いたしました。こちらにおられる、ユウと名乗る少年です」
アリュールの言葉に合わせ、俺もアリュールの隣で軽く頭を下げ、形だけの敬意を示しておいた。内心では(もっと俺の偉大さを強調しろ、アリュール!ただの少年ではない、世界を救うために現れた英雄だと!)と檄を飛ばしていたがな。
アリュールは続ける。「彼が申すには、海を渡っている最中に漂流し、ここニヴェアに流れ着いたとのこと。日本という異国からやってきたそうですが、かの博識なアカツキ殿もご存じない国名だそうで、おそらくは非常に遠い国から来られたものかと」
アリュールが俺を紹介し終えると、玉座の王はゆっくりと頷き、威厳のある、しかしどこか温かみのある声で言った。
「うむ、アリュールよ、案内ご苦労であった。先ほどラファルが、イシュタルと昼飯を共にする約束の刻限になっても姿を見せぬと心配しておったのは、その儀があったためか。ラファルはイシュタルのことをことのほか気にかけておるからのう。後ほど、ラファルにも事情を説明してやってくれ」
(ふむ、ラファルか。新しい登場人物だな。イシュタルのことを気にかけている、だと?さてはイシュタル皇女の許嫁か何かか?だとしたら、この俺が皇女の仮兄として、その男が皇女にふさわしいか厳しく見定めてやらねばなるまい!不埒な輩であれば、喝を入れてやる必要があるな!)と俺が内心で決意を固めていると、横から小さな影が飛び出し、玉座へと駆け寄っていった。
「ねーお父様!今日はね~アリュールと遊んでたら、変なおじさんと会ったんだよ~。すっごく強くて、見たことない『トケイ』っていうのでドラゴンも呼べるんだって!歩いてるときも、お花の名前とかいっぱい教えてくれて、面白かったの!」
イシュタルが、今日の出来事を興奮気味に、しかし少し舌足らずに話している。……また俺のことをおじさんと言っているな。全く、皇女といえども言葉遣いはしっかり躾けねばなるまい。後で泣いても知らんぞ。
王は、そんなイシュタルの話を実に嬉しそうに、目を細めて聞いている。
「そうかそうか、イシュタルが楽しかったのなら、父も嬉しいぞ。しかしイシュタル、良い子だから覚えておきなさい。人前では父のことを『お父様』ではなく、『国王陛下』とお呼びするのだと、いつも言っているだろう?」
そう言いながらも、その声色はどこまでも優しい。
二人が本当に楽しそうに話しているのを見ていると、隣のアリュールがそっと耳元で囁いてきた。
「ユウさん。国王陛下とイシュタル様、本当に仲が睦まじくて、見ているこちらも心が温かくなりますね。私もそう思います」
アリュールが、まるで自分のことのように嬉しそうに言う。私もだと?ふん、俺様がこの程度の親子の会話で心を動かされるとでも思ったか。甘いな。
「……まあ、仲が良いのは良いことだ。国王が家族を大切にする姿は、国民への良き模範ともなるだろうからな」
俺はあくまで冷静に、客観的な分析を述べてやった。
「そうですよね!ユウさんのご両親は、どのような方だったのですか?」
唐突に、アリュールがそんなことを尋ねてきた。話まで振ってくれるとは、なかなか気の利く、よく出来た女性ではないか。
「俺様の父と母か?ふん、そんなものは、俺が物心つくよりも遥か昔、記憶にもないほど小さい頃には既に亡くなっていた“みたい”でな。詳しいことは何も覚えていない。だが、おそらく俺様の親のことだからな、世界征服を企む邪悪なドラゴンと天空で壮絶な死闘を繰り広げ、相討ちとなって燃え盛る炎の中に消えた……とか、そんなところだろう!」
俺がそう言って得意げに胸を張ろうとした瞬間、視界の隅で、意味もなく赤い閃光が弾けたような気がした。同時に、鼓膜の奥で、誰かの叫び声のようなものが微かに響いたような……?(……なんだ、今の奇妙な感覚は……?気のせいか……)
その時だった。いきなりアリュールが、俺の腕を取り、ぐっとその身を寄せて抱きついてきたのだ。柔らかい感触と、ふわりと香る甘い匂いに、俺は完全に不意を突かれた。な、なんだ、この胸の奥がざわつくような、妙な気持ちは……!?
「!?な、な、何をする貴様!れ、礼儀というものを知らんのか!」
俺は咄嗟にそう叫び、彼女の肩を押して抱きしめられている腕を振りほどいた。顔が妙に熱い。落ち着け俺、これは罠だ!異世界の女の誘惑に決まっている!
アリュールはハッとした顔で俺から離れると、みるみるうちに顔を赤らめ、俯いてしまった。
「ご、ごめんなさい!ユウさんがお話されている時の……その、あまりにもお顔が悲しそうに見えてしまって……。私、差し出がましいことを……!本当にごめんなさい!」
そう言って、彼女は深く頭を下げて謝罪する。それを見ていた玉座の王が、今まで抑えていたのであろう笑いを堪えきれないといった様子で、しかし優しい声で言った。
「ほっほっほ。若いのう。アリュールよ、そなたも隅に置けんな。して、そのユウとやらが、ついにそなたの心を射止めたというわけか?いやはや、まさかあの堅物のアリュールに、そのような愛すべき者が出来るとは、私も感無量じゃ」
などと言って、なぜか一人で感動に浸っている。隣のイシュタルに至っては、
「わー!アリュールがユウにハグしてるー!ハグだよハグー!私もユウにハグしたいー!」
などと、俺たちのことを指差しながら無邪気に王に報告している始末だ。
「「いや、違いますよ!!」」
俺とアリュールの否定の声が、見事に謁見の間にハモった。
王は腹を抱えて笑った後、咳払いを1つして、再び威厳のある表情に戻った。
「はっはっは。いや失敬。本当に仲が良いことだ。……さて、優殿。アリュールの先程の説明と、イシュタルからもそなたについては色々と聞かせてもらった。その処遇については、我が国の重臣たちともよく話し合い、決めさせていただこう。なにやら不思議な『トケイ』なるものも持っているということだしな。できる限り、そなたにとって良いように手配できるよう心がけるつもりだ」
そう言ってくれた。ふむ、俺の価値を認めたか。なかなか話の分かる王ではないか。
「感謝するぞ、国王よ。その言葉、信じて待っているとしよう。良い手配を期待しているぞ」
俺がそう堂々と答えると、国王は周りの家臣たちが一瞬息をのんだのとは対照的に、少し驚いたような、それでいてどこか楽しそうな反応を見せた。
「はっはっは、これはこれは!イシュタルの言う通り、其方は実に面白い男だな!よろしい、話し合いが終わるまで、アリュール、そなたに優殿の城内の案内を命じる。退屈させぬよう、よしなに計らえ」
「はっ!かしこまりました、陛下!」
アリュールが再び恭しく頭を下げ、立ち上がった。すると、すかさずイシュタルが声を上げた。
「私もアリュールとユウに着いていきたい~!お城の中、ユウに教えてあげたいこといっぱいあるの!」
そう駄々をこねる。王は少し困ったような顔をしたが、すぐに破顔した。
「うーむ、仕方ないな。アリュール、イシュタルも共に連れて行ってやってくれ。そして、途中でラファルの部屋にでも寄って、イシュタルを預けてくれ。その際に、ラファルにも今日の事情を説明しておくように」
「かしこまりました!ではユウさん、イシュタル様、参りましょう」
アリュールが俺たちを促した。
異世界の城を見学できるだと?これはまたとない機会ではないか!隠された宝物庫や、伝説の武器でも見つかるかもしれん!そう思うと、先程までの疲労もどこへやら、新たな冒険への期待に胸が高鳴るのを感じ、俺も勇んで立ち上がった。
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