勘違い英雄の冒険譚 ~自称優秀な俺、語学留学の飛行機で異世界転移!?~

理瑠

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1章 ニヴェア編

第5話 禁断の書庫と戦士の憂い

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 異世界の城を自由に歩き回れるという事実に、俺の胸の高鳴りは最高潮に達していた。こんな荘厳かつ神秘的な建造物、現代日本のどこを探しても見つかるものではないからな!

「では、城内を案内いたします。くれぐれも私から離れず、迷子にならないようにしてくださいね。イシュタル様は、私としっかり手を繋いでいましょうねー」

 アリュールが、まるで幼子に言い聞かせるようにそう促す。俺は一瞬眉をひそめたが、イシュタルが「はーい!」と嬉しそうにアリュールの手に自分の小さな手を重ねるのを見て、まあ、大人の余裕で聞き流してやることにした。(ふん、俺のことを子供扱いするのも大概にしてもらいたいものだがな。このユウ様は、もう19にもなるのだ。重要なのは魂の格よ!)

 王の謁見の間を出て、先ほど通ってきた道とは違う方角へ曲がると、そこには太い大理石の柱が並ぶ壮麗な回廊が続いていた。壁には、ニヴェア建国の歴史を描いたであろう巨大なタペストリーが掛けられ、所々には騎士の甲冑が飾られている。廊下の途中、すれ違った侍女たちが、俺たちの姿に気づくと、そっと壁際に寄り、頭を下げて通り過ぎていく。その際、ひそひそと囁き合う声が、俺の鋭敏な聴覚に届いた。

「……ラファル様は、また研究室に閉じこもって……」「国王陛下も、最近はご心労が絶えないご様子だし……」「あちらが、アリュール様がお連れになった新しいお客様……何かを変えてくださると良いのだけれど……」

(ふむ、聞こえてくるぞ、民の声が!ラファル王子とやらは、俺という英雄の来訪に備え、歓迎の儀式の準備に余念がないと見える。そして国王は、俺という最終兵器をどう戦略に組み込むべきか、その責任の重さに心を悩ませているのだろう!良いことだ、大いに悩むがいい!そして、あの侍女たちの最後の言葉……そうだ、この俺が、この国の全てを良い方向へと変えるのだ!)

 アリュールに導かれ、まず初めに案内されたのは、巨大な扉の奥に広がる、天井まで届く書架にびっしりと本が収められた部屋……つまりは図書室だな。一歩足を踏み入れると、ひんやりとした空気と共に、古い紙とインクの独特な匂いが鼻をついた。陽の光も届きにくいのか、室内は薄暗く、静寂に包まれている。まさに禁断の知識が眠るにふさわしい雰囲気ではないか!

「おお!見ろ、この膨大な書物の数々を!これぞまさしく、異世界の叡智の宝庫!禁断の魔導書や、失われた古代文明の秘術が眠っているに違いない!アリュールよ、この国の歴史書はどれだ?いずれこの国を救う英雄として、まずはこの世界の成り立ちから把握してやらねばな!」

「え、ええ。こちらですけど……」

 アリュールに案内された棚から、一際古めかしい革張りの本を手に取り、厳かに開いてみた。その時だった。本のページの間から、一枚の折り畳まれた、黄色く変色した羊皮紙がハラリと床に滑り落ちた。

「わっ!宝の地図!?」

 イシュタルが、目を輝かせてそれを拾い上げる。アリュールも「まあ……」と驚きの声を上げた。

 俺がその羊皮紙を受け取り広げてみると、そこには、ニヴェア城の古い見取り図のようなものと、いくつかの場所に謎の紋様、そして俺には読めないニヴェアの文字で何事かが書き連ねられていた。

「(間違いない!この複雑怪奇な紋様……これは、この城に隠された伝説の武器のありかを示す『宝の地図』か、あるいは、古代文明の遺産へと続く『賢者の石板』の写しだ!)」

 俺が興奮に打ち震えていると、アリュールが怪訝そうな顔でそれを覗き込んできた。

「これは……軍の古い配置図のようですが……なぜこんなところに?この紋様も、古いザルガンディアの印に似ているような……少し、不気味ですわ」

(ふん、アリュールにはまだこの地図の真の価値が分からんようだな。ザルガンディアの印だと?おそらく、伝説の武器を狙う魔王軍の手に渡らぬよう、巧妙なカモフラージュを施しているのだろう。なるほど、芸が細かい!)

 俺は、ひとまずこの「宝の地図」を、後でじっくり解読すべく、自分の学生鞄へと恭しくしまい込んだ。

 次に案内されたのは、剣戟の音と熱気が満ちる、広大な訓練場だった。

 屈強な男たちが、上半身裸で汗を光らせながら木剣を打ち合ったり、重そうな斧を軽々と振り回したりと、真剣な眼差しで訓練に励んでいる。

「ここは訓練場で、ニヴェアの兵士や騎士の方々が、ザルガンディアとの戦いに備えて日々鍛錬を積んでいる場所です!私も時間がある時は、ここで槍の稽古をしているんですよ」

 アリュールが、自分のことのように少し胸を張って説明する。彼女が兵士たちに軽く手を振ると、屈強な男たちが皆、嬉しそうに会釈を返した。人望もあるようだ。

「ふむ、なかなか見所のある技を繰り出す者もいるが……まだまだ甘いな。動きに無駄が多く、殺気も足りん。俺が編み出した至高の剣術『無名神影流(むみょうしんえいりゅう)』の足元にも及ばんな」

 俺がいつものように上から目線で評価していると、アリュールがふと、その真剣な訓練風景から目を逸らし、遠くを見つめて呟いた。

「……それでも、ザルガンディアは強いのです。二年前の『赤い谷』での戦いでは……私たちは、多くの仲間を失いましたから……」

 彼女の声には、普段の明るさからは想像もできないほどの、深い悲しみの色が滲んでいた。その横顔に一瞬だけ浮かんだ憂いの表情に、俺は思わず言葉を失う。

(ほう、過去の敗戦を悔いているのか。だが案ずるな、アリュールよ。この俺という最強の切り札が来たからには、もうお前たちに悲しい思いはさせん!お前のその憂い顔も悪くはないが、やはり笑顔の方が一番だ!)

 俺は、そんなキザなセリフを心の中で呟きながら、彼女の肩を軽く叩いてやった。アリュールは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに「……ええ、そうですね。ユウさんが来てくださったのですから!」と、無理に作ったような、しかしどこか吹っ切れたような笑顔を見せた。

 その後も、食堂や中庭を案内されたが、先程のアリュールの表情が気になってか、俺の妄想も少しばかり鳴りを潜めていた。気づけば、ずいぶんと城の奥まで進んできたようだ。やがて、1つの簡素だが清潔そうな扉の前でアリュールが立ち止まった。

「ここが、ラファル様の研究室兼お部屋ですよ」

 アリュールが、静かにそう告げた。

(ここが、ラファ-ルとやらの部屋か……!侍女たちの噂によれば、何やら部屋に閉じこもっているという、気難しい王子らしいな。よし、どんな奴か、この俺様が直々に面接してやろうではないか!)

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