勘違い英雄の冒険譚 ~自称優秀な俺、語学留学の飛行機で異世界転移!?~

理瑠

文字の大きさ
6 / 8
1章 ニヴェア編

第6話 大魔導士ラファル

しおりを挟む
 アリュールがラファルの研究室の、樫材で作られた重厚な扉を軽くノックする。
 
「ラファル様、アリュールです。イシュタル様と、お客様のユウさんをお連れしました。お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
 
 少しの間を置いて、中からくぐもった、それでいて透き通るような若い男の声が聞こえた。
 
「……アリュールさんか。ああ、どうぞ、お入りください。少々散らかっていますが」
 
「では、お邪魔しますね。ユウさん、ラファル様の研究室は貴重な薬品やデリケートな器具が多いですから、むやみに触れたりしないようにお願いしますね」
 
 アリュールが俺にそっと囁き、静かに扉を開けて部屋の中へ入っていく。
 
 部屋に一歩足を踏み入れると、むせ返るような薬草の良い香りと、何かを燻したような独特の香ばしい匂い、そして微かに金属が錆びたような刺激臭が混じり合い、俺の鼻腔をくすぐった。
 (ふむ、この複雑な香り…錬金術師の工房か、あるいは秘薬を調合する魔法使いの隠れ家といったところか!)
 
 壁一面には天井まで届く巨大な本棚が備え付けられ、そこには分厚い革表紙の専門書らしきものがぎっしりと隙間なく並んでいる。
 (あれらは全て魔導書か!?一冊読むごとに新たな魔法を習得できるという、伝説のグリモワールかもしれんな!)
 
 部屋の中央には大きな作業台があり、その上には様々な形や大きさのフラスコや乳鉢、精密そうな天秤、そして用途不明の奇妙なガラス器具などが整然と、しかしどこか芸術的に配置されている。
 (あの天秤は魂の重さを量るものか?あのフラスコの中ではホムンクルスでも培養しているのか!?)
 
 そして部屋の奥、大きな窓から差し込む午後の柔らかな光を浴びて、一人の青年が革張りの椅子に深く腰掛け、何かの文献を熱心に読み耽っていた。俺が最後で予想していた胡散臭い呪術師とは異なり、どこか神経質そうで、年の割に落ち着いた雰囲気を漂わせる、線の細い少年と言ってもいい青年――彼こそがラファルか。

「ラファルお兄様ー!」
 
 イシュタルが、俺のそんな観察などお構いなしに、真っ先に部屋の奥へと駆け込み、青年の膝に飛び乗るようにして抱きついた。
 ラファルと呼ばれた青年は、読んでいた本から顔を上げると、妹のその勢いに少しよろけながらも、優しい笑みを浮かべてその小さな頭を撫でた。
 
「やあ、イシュタル。少し遅かったじゃないか。父上も心配されていたぞ」
(なっ……!『お兄様』だと!?こ、こいつ、ラファルはイシュタル皇女のただの兄だったというのか!俺が警戒し、万が一の際にはその実力を見極めてやろうと身構えていたイシュタル皇女の婚約者云々という話は、全くの杞憂だったわけだ……。ふん、拍子抜けもいいところだ!だが、国王の息子……つまり王子であることには変わりない。しかし、このひ弱そうな優男が王子ねぇ……。これでは国の将来が思いやられる。ならば、この俺様が兄として、いや、人生の偉大な先輩として、この若き王子を厳しくも温かく指導してやらねばなるまい!)
 
 俺が新たな使命感に燃えていると、アリュールが一歩進み出て、ラファルに俺のことを紹介した。
「ラファル様、こちら、日本という国から来られたユウさんです」
 
 ラファルはイシュタルを膝に乗せたまま、俺の方へ向き直り、少し緊張した面持ちで、しかし丁寧にお辞儀をした。
「初めまして、ユウさん。私がラファルです。父上やアリュールから伺いましたが、妹のイシュタルが、先ほどまであなたとご一緒だったとか……その、わんぱくな妹ですので、色々とご迷惑をおかけしませんでしたか?」
 
 それに対し俺は、腕を組み、ふんと鼻を鳴らして答えてやった。
「うむ、俺がユウだ。貴様がそのラファルか。イシュタルの兄にしては、随分と頼りない風体だな。まあ、俺ほどではないにしろ、もう少し覇気というものをだな……いや、そもそも、一国の王子たるものが、このようなカビ臭い薬草部屋に一日中閉じこもっていて、どうやって国を守るというのだ?ニヴェアの将来は大丈夫なのか?」
 
 俺は初対面の王子に対しても臆することなく、愛のあるダメ出しと国家レベルの懸念を表明してやった。
 ラファルは俺のあまりにも尊大で失礼な物言いに、普段は物静かで感情を表に出さない彼でも、さすがにその端正な顔には隠しきれない苛立ちがはっきりと見て取れた。こめかみがピクピクと引き攣っている。
 
 イシュタルが、そんな俺たちの間の不穏な空気を察したのか、
 「ラファルお兄様、ユウはね、面白いお話いっぱいしてくれるんだよ?だから、喧嘩はだめー!」
 と、二人の間に入ってとりなそうとする。
 
 しかし、ラファルは一度深く息を吸い込むと、先程までの苛立ちが嘘のように消え、薄氷のような冷ややかな笑みを浮かべていた。
(さすがは将来、この国を指導する立場になるかもしれぬ者としての器量か。それとも、愛する妹イシュタルの前だから、感情を押し殺しているのだろうか。大したものだ。)

 「ところで、王子よ。こんなガラクタばかり集めて何になるというのだ?王子ともあろう者が、もっとこう、国宝級の魔剣『エクスカリバー』とか、所有者に無限の魔力を与えるという伝説の『賢者の石』とか、そういったものはないのか?」
 
 俺はそう言いながら、作業台の上に無造作に置かれた、奇妙な色をした薬液の入ったフラスコや、鈍い光を放つ鉱石の欠片などに侮蔑の目を向けた。
 ラファルは、その俺の言葉にカチンときたのだろう、先程の冷ややかな笑みがさらに深まり、どこか挑戦的な光を瞳に宿した。
 
「……ユウさんとやらは、私の長年の研究成果を、ガラクタと断じるのですか。よろしいでしょう。そこまでおっしゃるなら、その“ガラクタ”がどのような“奇跡”を生み出すか、特別にこのラファル様がお見せしましょう。刮目してご覧あれ!」
 
 まさかこの王子、魔法でも使えるのか!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...